Quantic Dreamの歴史を紐解く

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 2013年3月19日(現地時間)にフランス・パリで開催されたQuantic Dreamのメディア向けスタジオツアーの合間に、Quantic Dreamの創設者であるDavid Cage氏にスタジオがこれまでにたどってきた歴史やこれからの展望、そして同氏のゲーム作りに掛ける情熱など、多岐に渡る話をうかがった。ここでは、インタビューの内容をお届けしよう。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【EXTRA】_01
Quantic Dream CEO兼 創設者
David Cage氏

――まずはQuantic Dreamを創設したときの話を聞かせてください。

David Cage(以下、David)氏 私がQuantic Dreamを創設したのは、いまから16年前の1997年のことです。当時の私はミュージシャンとして活動していたので、始めのうちはテレビやCMのレコーディングや、ビデオゲームの作曲などの仕事を請け負っていました。そのうちゲーム業界に顔見知りができて、ゲームのシナリオを書くことを始めたのです。そのときの作品が、『Omikron: The Nomad Soul』でした。

――Davidさんはそれまでにストーリーライティングの経験はあったのですか?

David いえ、まったく。子どものころからストーリーを書いてはいましたが、商業作品では初めての経験です。ですので、『Omikron: The Nomad Soul』の仕事を引き受けたときは、周囲の人間に「これほど壮大なシナリオをゲーム化するのはムリだ」と言われたこともあります。

――Quantic Dreamのデビュー作である『Omikron: The Nomad Soul』とは、どんなゲームだったのでしょうか?

David 我々がEidosと契約し、ドリームキャストとPCで1999年にリリースしたSci-fi(サイファイ)アクション・アドベンチャーです。すごく意欲的な内容で、クリスタルでできたドームの中にある街の話で、輪廻転生と言いますか、プレイヤーが死んでもその死体に触れた別のキャラクターの身体に乗り移って話が進んでいきます。このゲームでは、歌手のデヴィッド・ボウイに楽曲を提供してくれて、ゲームの中でもヴァーチャルアクターとして登場してもらいました。

キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【EXTRA】_02
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キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【EXTRA】_04

――なるほど。このゲームでDavidさんが携わったのは、ストーリーライティングのみですか?

David いえ、当時の私は、脚本家であり、ディレクターであり、プロデューサーであり、アートデザイナーであり、会社の経営者でもあったので、ゲーム開発のすべてを請け負う立場でしたね。

――それはすごいですね。この『Omikron: The Nomad Soul』が成功を収め、2006年に発売された『ファーレンハイト』につながったのでしょうか?

David 『Omikron: The Nomad Soul』は残念ながら大きな成果は上げられませんでしたが、幸いなことにメディアやユーザーのレビューは上々でした。それを受けて2作目の『ファーレンハイト』では、よりキャラクターの感情に焦点を当てた作品を作ることにしました。

――『ファーレンハイト』は、複数の主人公を交互に捜査するタイプのアクション・アドベンチャーで、何者かに意識を操られて殺人を犯してしまった主人公と、それを追跡する刑事側の視点が綴られました。この作品のポイントについてを教えてください。

David この作品で特筆すべきは、何と言ってもプレイヤーが殺人鬼と警察を同時に操作するというゲームシステムです。プレイヤーはある場面では警察から逃れ、またある場面では犯人を追い詰めることになります。周囲の人間から「矛盾が生じるのではないか?」という指摘を受けたこともありますが、私はそうは思いませんでした。ゲームのプレイヤーは、自分に与えられた立場・役割の中でキャラクターと感情をリンクし、最善を尽くそうとするだろうと。事実、そうやって楽しんでくれたユーザーがたくさんいたと後で聞き、報われた気がしました。このときプレイする文脈によって、ユーザーが感じることが大きく変化することがわかりました。

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――『ファーレンハイト』は、どんなテーマで描かれたのですか?

David 当時の私は何事にも無我夢中で、それまでの2作品で何を表現したかったのか、正直に言うとよく覚えていません(笑)。どんなテーマを描いているのか、自分でもあまり確信が持てなかった状態です。ただ、そういう経験を経たからこそ、3作目の『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』では“何か”を変えようと、一念発起しました。

――それで、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』以降、Davidさんの個人的な体験をもとに作品のコンセプトを作るようになったのですね?

David ええ。『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』のシナリオを執筆しているときは、私にとってキャリアの分岐点だったと思います。私の体験をもとに、父親と息子との奇妙な関係を描き、4人の主人公の視点から、“愛とは何か”ということを表現しました。開発体制そのものを見直して、人の感情に訴えかけるようなゲームを作ろうと決意したのです。

――Davidさんが『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』を作るきっかけとなったソニー・コンピュータエンタテインメントとの出会いについて教えてもらえますか?

David 私にとってプレイステーションは最初から特別な存在でした。Quantic Dreamを創設する前、私がまだミュージシャンだったころに、E3(アメリカで開催される世界最大のゲーム見本市)のソニー・コンピュータエンタテインメントのブースで『闘神伝』を見て、3D技術の進歩に感銘を受けました。そして、「いつかこの場所に自分のタイトルを出展してやる」と心に誓ったのです。『ファーレンハイト』は自分にとって課題が残る作品ではありましたが、リリース後にいろいろなパブリッシャーから次回作に関する問い合わせをよくもらいました。そんな折、ソニー・コンピュータエンタテインメントからも連絡があり、そのとき自分たちが開発を進めていた技術を5分程度のデモ映像にして、ソニー・コンピュータエンタテインメントの担当者に披露したのです。それがきっかけで、当時のソニー・コンピュータエンタテインメントのワールドワイド・スタジオのトップだったPhil Harrisonさんと久夛良木健さんが興味を持ってくれたと聞きました。そのとき『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』は、まだ企画段階で、台本も何もひとつない状態でしたが、おふたりは「ある時期までにデモ映像を作ってくれれば、契約しましょう」と約束してくれて。もちろん我々は期日通りにデモ映像を仕上げました。そこからQuantic Dreamとソニー・コンピュータエンタテインメントとの共同開発がスタートしたのです。

――ソニー・コンピュータエンタテインメントとの共同作業は、どのようなものでしたか?

David ソニー・コンピュータエンタテインメントは、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』で我々が表現しようとしていることを厚くサポートしてくれました。ゲームの冒頭で子どもの誘拐シーンが登場しますが、これは内容的にかなりリスクを伴うものです。私たちはソニー・コンピュータエンタテインメントとたくさんの協議を重ねた上で、台本もテーマも変えることなく開発を進めることを決定しました。ただし、ゲーム中で際どい表現をするときは、ショッキングに見せるのではなく、ちゃんとしたテイストを持った形で見せていこうという決まりごとを設けて。たとえば、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』では、主人公のひとりであるイーサンが、誘拐犯人の指示で自分の指を切り落とすシーンが登場します。このシーンを作っているときは、我々もソニー・コンピュータエンタテインメントのスタッフも、ユーザーの皆さんがどんな反応をするかが心配で、とてもナーバスになっていました。ゲーム中では指から血が出るところも見せないし、イーサンの表情と言葉だけで恐怖を伝える形にしましたが、やはり四肢欠損という表現だったこともあり、皆さんがショッキングな受け取りかたをしないかどうか、不安な面もありました。しかし、ゲームをリリース後にファンの皆さんと話をしていると、皆ポジティブな意味であのシーンの話をしようとするのです。それを聞いて、過激な表現でも、自分たちが必要だと信じ、そして配慮のある見せかたをすれば、必ず理解されるものだということがわかりましたね。

――四肢欠損シーンとなると、ソニー・コンピュータエンタテインメントとしても大きなチャレンジだったのでしょうね。

David 彼らは我々の意見に対して耳を貸してくれて、理解し、信用してくれました。もちろん最初に指を切り落とすシーンのことについて説明したときは、あちらも面食らっていたいましたが(笑)。ただ、これは話題集めのグロテスクな要素ではなく、プレイヤーの感情に訴えかけるために必要なのだと、丁寧に何度も説明することで、ソニー・コンピュータエンタテインメントのスタッフの信用を得ることができたのです。このエピソードは、どこのパブリッシャーがすごいという話ではなく、我々がいつも行っている戦いについての話です。自分たちが信じているものを伝えるためには、戦って勝ち得なければいけないと思っています。

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――なるほど。激しいディスカッションの光景が浮かびました。ところで、Quantic Dreamの作品にはDavidさんの思想が色濃く反映されていますが、ほかのスタジオとは制作過程が違うのでしょうか?

David 当然、スタジオごとに制作のプロセスは違います。Quantic Dreamの場合は、まず私のアイデアが起点になっています。朝起きておもしろい考えが浮かんだら、まずはチームで共有します。そして、私の情熱がチームに認められたら、それを練り込み、最新のテクノロジーによって夢のようなマジックを実現するのです。私たちにとって大事なのは、情熱を広く共有することだと考えています。

――Quantic Dreamはフランスの会社ですよね。フランスならではの特色はありますか?

David きっとあるとは思いますが、それが何かはわかりません。と言うのも、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』では“愛”、『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』では“死”といったように、私は人種や信条、国や文化に関係ない普遍的なテーマを選んでいるからです。ゲームというものは、すべての人に語りかけ、誰でも楽しめるものですから。

――『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』がヒットして、多くの人が深いストーリーを求めていることがわかりました。最近は、キャラクターの内面にフォーカスしたゲームが少しずつ増えてきています。これについて、どのように思いますか?

David その流れを自分たちが作り出したという風には感じていません。やはり、ゲーム業界がちょっと年を取ってきたというか、成熟してきた感じがします。年齢を重ねると、若いころとは興味の対象が変わってきますよね。そんな時代のターニングポイントに立ち会えたことを、うれしく感じています。

――ゲーム業界の成長に関して、欧米と日本ではどのような違いがあるとお考えですか?

David 私は昔から日本のゲームが大好きで、ずっとプレイしています。個人的な印象では、日本のゲームはクリエイティビティーが高くて、突き抜けている気がしますね。じつは、欧米のゲームは同じようなことばかりをくり返していて、変化をためらう傾向があります。きっと、日本のクリエイターのほうが意欲的なチャレンジを試みているのでしょう。なかでも私は、『ICO』や『ワンダと巨像』を作った上田文人と さんを尊敬しています。ゲームというものは、銃や剣を振り回さないでも、詩的で感情に訴える表現ができることを示した人だと思います。これらのゲームは、日本だから生まれたのではないでしょうか。日本のゲームは、物語を伝えるのに長けていると思います。だからこそ、『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』が日本で受け入れられたと聞き、とても感激しましたね。

――先ほど“チャレンジ”という言葉が出ましたが、Quantic Dreamも変化を恐れない気概を持っていると思います。成功を収めた『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』の続編を作らないのは、なぜでしょうか?

David 『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』という枠組みの中で、私が言いたいことは語り尽くしたから、つぎのモチーフである『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』に移ったまでの話です。私にとって重要なのは、何本売れるかよりも、私たちの情熱や新しいアイデアを実現することだったりするので。

――いまや、世界中の人がその情熱に注目しているわけですね。ところで、Quantic Dreamは技術力にも定評がありますが、ゲーム制作におけるテクノロジーについて、どのように考えていますか?

David たとえば、映画ではモノクロの時代から名作はありましたが、カラーになり、ハイデフ化したことで、表現力が大きく上がったと思います。だから、技術というものは絶対に必要ではありませんが、あると便利なものという認識を持っています。私は、現在のゲーム業界は、技術的にもターニングポイントを迎えていると感じていて、Quantic Dreamでも得意とする3D表現を磨くべく、新しいゲームエンジンや、パフォーマンスキャプチャーのスタジオを作ったり、“KARA”といった技術デモのようなクリエイティブなプロジェクトに取り組んでいます。ただし、テクノロジーはあくまでもツールであって、それをゴールとして考えてはいけません。自社のテクノロジーを見せつけるために新技術の開発に力を注ぐ、そういう姿勢ではいけないと思います。

――DavidさんとQuantic Dreamは、現在『BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー・ソウル)』を開発中ですが、さらなる新作の構想はありますか?

David もちろんです。詳細はお教えできませんが(笑)、16年間ゲームを作ってきて、毎回つぎの作品で新しい次元に到達したいと考えています。それだけの情熱を持っているので。

――2月20日にニューヨークで開催されたプレイステーション4の発表会で、Davidさんはプレイステーション4のデモを行っていました。新しいハードにどんな未来を感じましたか?

David プレイステーション4は、ハードのスペックが劇的に引き上がるので、プレイヤーにとって、より“意味”のあるゲームを作りやすくなる、と思いましたね。

――Davidさんが考える“意味”とは?

David 私にとって意味があるのは、“何かを変えること”です。ゲームをプレイした人の感情を動かし、その気持ちが個人の考えかたや視点にまで影響したら、光栄ですね。

――最後の質問です。あなたは多くの才能を持った方だと思います。たとえば、音楽だったり映画だったり、小説だったりと、いろいろな分野で人の心を揺り動かすことができると思いますが、ゲームにこだわって表現活動を続けているのはなぜですか?

David 私は“切り拓くこと”に興味があります。音楽にしても映画にしても小説にしても、それらはすでに“起こっている”ことです。でも、ゲームは、これから何かが起きる分野であって、私はそのパイオニアのひとりになりたいと思っています。もしも18世紀に自分が生まれたら作曲家になっていただろうし、19世紀だったら小説家、20世紀だったら映画監督だったでしょう。でも、いまは21世紀なので、ゲームクリエイターとしてやっていきたい、そう思っています。いつの日か、アートの域に達するゲームを作りたい。それは私にとって、とてもやりがいのある冒険なのです。

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キーパーソンへインタビュー『BEYOND: Two Souls』Quantic Dreamスタジオツアーリポート【EXTRA】_15

BEYOND: Two Souls(ビヨンド:ツー ソウル)
メーカー ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア
対応機種 PS3プレイステーション3
発売日 2013年発売予定
価格 価格未定
ジャンル アドベンチャー / ドラマ
備考 開発:Quantic Dream