久々の新作プロレスゲームに“リリース日まで待てない”!?

 日本マイクロソフトから2012年9月21日に配信されたXbox LIVE アーケードの『Fire Pro Wrestling』。名前を聞いてピンと来た人も多いだろうが、伝説のプロレスゲーム『ファイヤープロレスリング』(ちなみに、シリーズ1作目は1989年にPCエンジンで発売)、通称『ファイプロ』の名をいただく新作タイトルだ。いまの僕の心境をひとことで表現するなら「時は来た!(意訳:やっとリリースされたかぁ~!)」ってところ。というのも、本作(の映像)が初披露されたのは2010年の東京ゲームショウで、リリース予定は2011年とされていたからだ。

そこに”プロレス愛”はあったのか? Xbox LIVE アーケード『Fire Pro Wrestling』プレイインプレッション_01
そこに”プロレス愛”はあったのか? Xbox LIVE アーケード『Fire Pro Wrestling』プレイインプレッション_02
▲ゲームのノリがひとめでわかるオープニングムービー。このノーテンキな熱さ、空気は嫌いじゃない。

 いきなり余談で恐縮だが、1990年代には年に10数タイトルもリリースされていたプロレスゲームだが、ここ数年はユークス開発の『WWE Smackdown vs. Raw』シリーズが年に1本発売されるくらいで、プロレスゲームマニアの僕としては、かなり寂しい思いをしていた。そうでなくとも2000年代の(現実の)プロレス業界ときたら、K-1や総合格闘技に人気を奪われ、めっきり冷え込んだ状態だった。そんな時代の後に、久しぶりの新作プロレスゲームがリリースされる、しかも開発を担当するのは本家『ファイプロ』のスパイク・チュンソフト。そりゃもう、リリースの案内をヤキモキ・ハラハラしながら待っていたら、ざっくり2年が過ぎていましたよ。
 と、やっとのことで配信となった本作。アバターを使ったプロレスゲームという点から漂ってくるカジュアルさに一抹の不安はあったが、なにしろ貴重な新作プロレスゲーム。ひととおり触ってみたので感想を書いていきます。

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▲自由に着せ替えできるアバター同士が、リング上で熱戦をくり広げる本作。気になるその完成度は?

カジュアルにアクション&育成が楽しめるプロレスアクション

 ゲームのコンセプトは単純明快で、“アバターを使ったプロレス対戦アクション”。Xbox LIVE用に設定したアバター(自分の分身)をレスラーとして操作し、CPUやオンライン上で相手プレイヤーと戦うというものだ。
 基本操作もまたわかりやすく、左スティックはレスラーの移動、ボタンで強弱の打撃や投げ、溜め攻撃を行う。L・Rトリガーは、それぞれダッシュとガード。プレイ開始時にチュートリアルが用意されているので、すんなりと覚えられる。
 レスラーの状態は、体力、ソウル、スタミナのゲージで把握できる。体力は文字通りレスラーの残り体力で、ソウルは後述するフィニッシャーを出すために必要な盛り上げ度。スタミナは各種アクションをすることで減少し、なくなるとレスラーの能力が一定時間低下する疲れ状態となってしまう。

 プロレスアクションらしさのひとつである“投げ”のシステムは、Bボタンで出せるつかみ(またはLB+Bボタンの強つかみ)が成功すると、つかみ攻防が発生する。つかみ攻防状態では、お互いにA、B、X、Yの4ボタンからひとつを選んで入力。つかまれたレスラーが、つかんだレスラーの選んだボタンを当てることができなければ、つかんだレスラーの選んだ技やハンマースローが発生する仕組み。つかまれた側にも1/4の確率で反撃のチャンスが用意されているというワケだ。

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▲画像は試合中の様子。左下にあるのが、プレイヤーの状態を示すゲージだ。打撃や投げはもちろん、コーナー上からの攻撃や場外乱闘など多彩なアクションが楽しめる。
▲相手をつかんでから技の種類を選択。タイミング入力ではないものの、ボタンの押し分けで技が変化するのは、本家『ファイプロ』の遺伝子を感じる。

 試合の決着を左右するフィニッシャー(必殺技)は、技やアピールを成功させることでソウルゲージを最大まで溜めることで発動可能となる。方向キーの上を押すことで、プレイヤーは全身が炎につつまれた“フィニッシャーモード”に以降し、この状態で相手をつかむとフィニッシャーがきまり、相手に大ダメージを与えられる。ただし、発動中に攻撃を食らってしまうと、モードが解除されてしまうので注意が必要だ。

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▲ソウルゲージがフルの状態で方向キーの上を押すと、フィニッシャーアピール発動! 体から炎が上がり、一定時間フィニッシャーモードとなる。
▲一撃必殺級な威力のフィニッシャー。決まればド派手なカメラワークの演出付きで技が炸裂し、大ダメージを奪える。フィニッシャー技も複数用意され、入手したものからひとつを自由に設定可能だ

 レスラーの個性を演出するのが、ロッカールームでの設定。モード名の通りに、アバターを好きなコスチューム(本作中でのみ使えるもの)で着飾ることや、技や能力などの設定が行える。また、Xbox LIVE用に提供されているアバターアイテムも使えるので、お気に入りのゲームキャラクターやブランドウェア姿で、対戦を楽しむこともできる。

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▲衣装やマスク、アクセサリーといったコスチュームは300以上、アンロック可能な技も300種類以上と豊富に用意されている。

 基本設定が済んだら、いよいよ相手レスラーたちとの実戦となる。対戦モードは、キャンペーン、エキシビション、マルチプレイヤーが用意されている。エキシビションを除く対戦モードでは、試合をすることで経験値とファイトマネーが得られる。経験値はレスラーの能力を向上させるため、ファイトマネーはコスチュームの購入に必要となるため、相手レスラーと対戦→自分のアバターの育成をくり返すのが、本作の基本的な流れだ。
 いざプレイしてみての第一印象は、カジュアルかつ素直なキャラクターアクションに仕上がっている、といったところ。ボタンを連打しているだけでもそれなりに闘え、たとえ実際のプロレスをよく知らない人でもすんなり入り込めるくらいに敷居は低いと思うし、シリアスに勝ち負けを競う対戦ツールとしても機能する懐の深さも持ち合わせているように感じた。対戦アクションとしては、素性のいいものだと思う。技やコスチュームの集めごたえはけっこうあり、シングルプレイとしての満足度もある。

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そこに”プロレス愛”はあったのか? Xbox LIVE アーケード『Fire Pro Wrestling』プレイインプレッション_11
そこに”プロレス愛”はあったのか? Xbox LIVE アーケード『Fire Pro Wrestling』プレイインプレッション_12
▲つぎつぎと登場するCPUキャラを勝ち抜いていくキャンペーンモード。カジュアル、チャンピオン、アンダーグラウンドの3ジャンルが用意されている。
▲エキシビションモードでは、リングや試合時間を好きに設定して、1~4人までのローカル対戦が楽しめる。CPUキャラを加えてのプレイも可能。
▲オンライン対戦が楽しめるマルチプレイヤーモード。シングルマッチ以外にも、4人までのタッグやバトルロイヤルなどの試合形式も選べる。

気になるプロレス感。そこに“LOVE”はあったのか?

 さて、ある意味、ここからが本題。プロレスファン、そして本家『ファイプロ』のファンの視点から『Fire Pro Wrestling』を分析してみたい。
 本家『ファイプロ』と大きく異なる点はふたつ。ひとつはゲームシステム、もうひとつは“現実のプロレスとの接点”がバッサリ切られている点だ。前者のシステムについては、そもそも3Dモデルのアバターを使うという時点で、2D表示のレスラーが闘う『ファイプロ』とシステムが異なるのはやむを得ないだろう。むしろ、すべてが腰を落としたタイミング勝負で決まる本家より、打撃の駆け引きなどがちゃんとしていて、かつオンラインでも楽しめるぶん、対戦ツールとしては優秀かもしれない。
 だが、後者に関しては絶対的な違いが存在する。ぶっちゃけていうと本家『ファイプロ』は、実在の選手に名前や技がよく似た“そっくりさんレスラー”が多数登場するのがいちばんの魅力。対して『Fire Pro Wrestling』は、プレイヤー自分の分身であるアバターをプロレスラーに見立てて闘わせるというもの。そこに、絶対に埋めることのできない溝が横たわっているのだ。
 本家をプレイしすぎた僕は、『ファイプロ』を「クラッシャー旗本と氷川光秀、もしシングルで闘わば……」というファンの妄想を視覚化するためのツールだと思っている。極論だが、操作をCPUにまかせて観戦モードの結果を見ているだけで楽しめてしまうのだ。そういった観点からすると思想や背景のない(持ちようのない)アバター同士が闘うだけでは”格闘ロマン”を感じられず、あいにくとプロレスのルールで闘うアクションゲームとしか受け止められない。現実のプロレスと地続きでないことが不安(不満ではなく)なのだ。

 話がいささか変態じみてみたので、気持ちをリセットして『Fire Pro Wresling』独自のプロレスっぽさに目を向けてみたい。まず、キャンペーンモードに裏庭やジム、アリーナといったステージが存在するのは、アメリカのレスラーの日常を想像させてくれてちょっと好きだ。「バックヤードレスリング小僧がジムで練習を積んでプロデビュー、メジャーにのし上がってチャンピオンになってやるぜ!」といった具合に、自分だけの成り上がりストーリーを妄想しながら『Fire Pro Wrestling』の世界をロールプレイする楽しみかたが味わえる……かもしれない(※妄想力には個人差があります)。

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▲カジュアルに遊べる反面、現実のプロレスと関わるサムシングは超薄口となってしまっているのは残念。リング外の出来事までも含めてがプロレスなのですよおお(よだれ)。
▲300種類以上用意されている技の中には、プロレスマニアがニヤリとするようなものも。相手の技をラーニングするシステムでは、なぜか新日の永田さん(イケメン)を思い出す。

 また、現実のプロレスの接点がないと書いたが、裏ワザ的に接点を持たせることもできる。本作はアバターアイテムが使えるのだが、豊富なアイテムの中には『WWE Smackdown vs. Raw 2011』からの提供もある。それらを購入すれば、アンダーテイカーやランディ・オートンら、WWEスーパースターと同じ姿にはなれるので、あとは技のセレクトをそれっぽくすれば、WWE日本公演の観客席に出現するコスプレファンくらいのなりきり感は味わえそうだ。

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▲ひとり用のキャンペーンモードではさまざまなリングやレスラーが登場。ロード時にはCPUキャラのプロフィールが表示されるので、プロレス的な物語に妄想を巡らせるならココで。
▲『WWE Smackdown vs. Raw 2011』のアバターアイテムにはレスラーコスチュームが用意されている。ほかのプロレスっぽいアイテムは各自調査!

本作は『ファイプロ』にあらず。されど『Fire Pro Wrestling』なのです!

 くり返し言うが、カジュアルな対戦アクションとしての本作は及第点以上だと思う。対戦プレイに不満があるかと聞かれたら「とくにありません」と答えるくらい、ていねいな仕上がりを見せている。
 でも、目の前に『ファイプロ』の名前がちらつくたびに、グレート・ムタならぬGREAT MUTA(名前だけ借りた別人)のような「コレジャナイ!」というせつなさが襲ってくるのも事実。昔、北斗晶は神取忍との対戦後に「オマエのプロレスには心がない!」とマイクで言い放ったが、それに近い気分だ。

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▲『ファイプロ』と聞いて思い浮かべるのとは違った風景だが、これもまたプロレスゲーム。プレイヤーがプロレスLOVEを持って楽しんでほしい!

 野暮を承知でネット界隈の声を拾ってみると、着飾るのが好きなアバター愛好家には認識されず、『ファイプロ』愛好者からはそっぽを向かれているようで、どっちのファンにとっても残念な状況にあるようだ。いっそタイトルが「アバタープロレス」とかだったら……なんて後出しジャンケンを承知で思ってしまう。
 だがしかし、こうは考えられないだろうか。本家『ファイプロ・リターンズ』が発売されたのが2005年と、もう7年も(家庭用向けの)新作はリリースされていない。人気シリーズと呼ばれたタイトルがどんどん忘れ去られていく中、形はどうであれ看板を掲げてくれるのは、『ファイプロ』ファンにとってはありがたい話ではないのかと。
 根強いファンが新しいファンを迎え入れられなくては、そのジャンルは停滞して淀んでいってしまう。奇しくも現実のプロレス業界では、新日本プロレスを中心に、新しいプロレスファンの熱が高まっていて、一度離れたマニアの関心も戻ってきている。
 本作をきっかけにプロレスゲームに少しでも注目が集まってくれれば、また何かが動き出すかもしれない。そう思うと、僕の大好きなレスラーの言葉を借りてこう締めざるを得ないのだ。

――破壊なくして創造なし!

■著者紹介 馬波レイ
プロレス愛とゲーム愛を長年こじらせてしまった、ヒマでモテないフリーライター。家庭用ゲーム機向けに発売された、家庭用プロレスゲームのほぼすべてを所有するコレクターでもあり、過去の著作には「プロレススーパーゲーム列伝」(大地将氏と共著)がある。


Fire Pro Wrestling
メーカー 日本マイクロソフト
対応機種 X360Xbox 360
発売日 2012年9月21日よりXbox LIVE マーケットプレースにて配信
価格 800マイクロソフトポイント
ジャンル アクション
備考 開発元:スパイク・チュンソフト