コロプラ×野島一成氏×崎元仁氏が贈る珠玉のJRPG

最果てのバベル

シナリオ・野島一成氏インタビュー「変わりゆく時代の中で 昔ながらの“語りかた”と向き合う」

本作の物語はどのようにして生まれたのか、どんな思いが込められているのか。

公開日時:2019-06-13 12:00:00

 シナリオを担当する野島一茂氏は、以前コメントにて(こちら)、本作について「“果てしなく広がる物語”に挑戦」、「かつてないほど深く設定を詰めています」、「好きなことをやればいいという気持ち」、「相変わらずのモチーフで勝負」と語った。

 本作の物語はどのようにして生まれたのか、どんな思いが込められているのか。コンセプトや登場人物、そして“新たな挑戦”について、野島氏と配信元のコロプラに聞く。

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■野島一成氏
シナリオライター。ステラヴィスタ代表。代表作に『ファイナルファンタジーⅦ』、『ドラゴンズドグマ オンライン』など。(文中は野島)

泣ける物語を

――最果てのバベルのシナリオを手掛けることとなった経緯はどういったものでしたでしょうか?

野島 けっこう遡るのですが……仕事場を札幌に作りまして、東京と札幌を行き来しているんですね。そんな中で、いくつかオファーをいただいていまして、その中の企画のひとつが『最果てのバベル』でした。今回のお仕事は初めて関わる方たちばかりでしたので、これまでやってきたことの延長とはいえ、新しい何かが生まれるのではないかという期待がありました。同じことを長くやってきていますが、その殻を破れるのではないのかな、と。“札幌”と“初めての人たち”というのが、今回のオファーを受けたきっかけというかキーワードになっていますね。

――運命的な出会いですね。野島さん自身も“新しい何か”を期待する『最果てのバベル』のコンセプトをお聞かせください。

野島 “JRPG”という部分ですかね。企画をいただいた際に、「しっかりとしたエンディングのある“王道のJPRG”を作りたい」とのお話がありました。僕自身は意識して作ったことはないので“王道”がわからないのですが(笑)。JRPGは昨今押され気味かなと感じています。僕が思うに、たとえば旅を伴うゲームを作るとしたときに、“極端に人(登場人物)に寄せたゲーム”というのがJRPGではないかなと。逆に“世界に寄せたゲーム”はオープンワールド型でナラティブなものになっていくと考えます。

――プレイヤーごとに体験が異なるナラティブなものではなく、主人公や登場人物の物語を読み進めていくゲームということですね。

野島 そうですね。主人公は“飛翔”という、知っている場所なら瞬時に飛んで移動できる特殊な能力を持っていることに気づかされ、この能力は何なのか、何のためにあるのかを探りながら旅をしていきます。

コロプラ いわゆるJRPGと昨今のスマホ向けRPGでは、大きく乖離している部分があると感じていました。そんな中で、スマホ向けでも本格的なJRPGを作ろうと、本作の企画を立ち上げました。野島さんには、これまでのスマホ向けRPGにはあまりなかったであろう、プレイヤーの心の琴線に触れる「泣ける物語を」とお願いしました。

野島 スマホゲームを遊ぶ方は、そういうものは求めていないのではないかなという思いもあり、コロプラさんには「これでいいんですよね」と、何度も確認を取りました(笑)。コロプラさんにとっても、大きなチャレンジなのではないかと思います。

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自由な世界とは

――タイトル名称にもある“バベル”の設定は、どのように生まれたのでしょうか?

野島 僕が関わっていた別のゲームで、何もないところから始まる物語を手掛けていましたので、それとはまったく違うものにしたい思いが、まずありました。そして、コロプラさんからは「やりたいことをやっていい」と言われていましたので(笑)、僕の好きな“塔”を題材にしました。真ん中に高いものがある世界が好きなんですよね。

――塔と言えばバベルだ、と。

野島 最初は“バベル”という名前をそのまま使うか悩みました。(旧約聖書にある)バベルの塔の“神の怒りを買って言葉をバラバラにされ、そこから世界が始まる”というお話が好きで、そのイメージを借りています。これまではそういうことをしてこなかったのですが、今回は好きなものを詰め込もうと(笑)。

――本作は野島さんの好物で構成させているのですね。

野島 僕の好物をふんだんに入れつつ、遊んでくれる皆さんを置いてきぼりにしないよう、試行錯誤していますね。基本的には、メカ的要素も含んだファンタジー世界になっていて……「いつものやつです」と言うと語弊があるかな?(笑)

コロプラ 野島さんと言えば“出会いと別れ”の物語と思うファンの方もいると思います。スマホ向けタイトルである以上、“別れ”をどうするかは、随分と話し合いました。せっかく獲得したキャラクターを別れさせることはできませんし……。

野島 “禁じ手”が使えない制約はあります。それでもいろいろと考えてやってみました。うまくいっていると信じたいですが……悩みどころですね。『ドラゴンズドグマ オンライン』でも同じ悩みを抱えていまして、(オンラインゲームやスマホゲームなど)世の中はどんどん変わっているなと感じました(笑)。

――仕様上の制約やジレンマは多いかと思いますが、野島さんはその中でうまく工夫されている印象があります。

野島 まあ、ワガママな人たちと仕事していると得意になる部分はあります(笑)。ジレンマのようなものはもちろんあるのですが、あまりネガティブには捉えていません。逆にオンラインゲームやスマホゲームは人気があるかぎり続くので、今回はできなかったけどつぎの機会には……という思いもあります。

――物語の主人公、ライについてお聞かせください。彼はどんな少年でしょうか?

野島 最初はバベルに閉じ込められているのですが、外へ飛び出していく。そんな境遇なんですが、彼には友だちもいて性格は明るい。本音はあまり語らないけど、外の世界を知って、徐々に思ったことを出せるようになる……そういう話にできればなと思っています。実際には外の世界は、それまで思っていた自由な世界とは違うことに気づき、葛藤を抱えたり、いろいろなことを考えるようになります。

――“自由”がひとつのキーワードになっているのですね。

野島 以前にどこかでお話したかもしれませんが、昔は大きな権力に立ち向かう青年の物語というもの世に多かったのですが、いまは体制側にいてそれを守るような物語が多い気がしています。人が好むストーリーは変わってきたのかな、と。最果てのバベル』では、自分が大きな世界の一員であり、それに幸せを感じているが、果たして「これでいいのか?」というところも伝えたいですね。

――物語は群像劇というよりは、ライの視点を中心に描かれるのですか?

野島 そうですね。ほかのキャラクターについては、本編から派生したサブシナリオ的なところで活躍が描かれるような構成になっています。

――ヒロインのマイリージャも、変わった子ですね(笑)。

野島 彼女もバベルに閉じ込められているのですが、自分をそうした者たちに敵対心を持っていて、絶対に屈しない強い心を持っています。そのせいで本当の自分を忘れかけています。ライと出会って、どう変わっていくのか、注目してほしいです。みなさんの思い入れあるキャラクターのひとりになればいいなと思います。

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――ほかのキャラクターも非常に魅力的です。

野島 僕のシナリオは放っておかれると、ついつい地味な人たちの地味な物語になりがちで(笑)。気づいたら、おじさんだらけになっていた、みたいな。ですので、ほかの方の意見を聞いたりして、ポッケのような女の子を登場させたりとバランスを取ることもあります。イタクは、僕がいままで書いてこなかったようなキャラクターですね。若いわりに社会に対する関心が深く、悪は正されるべきと考えているような。でもそううまくはいかずに矛盾を抱えている、という。

――そして、野島さんの好きなおじさん、トノトが渋く脇を固めています。

野島 そうですね(笑)。トノトはとにかく渋くてかっこよく。人気が出るといいなと思っています。

――ライの記憶に関する部分でも語られますが、この世界の“精霊”とはどのような存在ですか?

野島 精霊は世界にとって重要なものという位置づけですが、僕の中では“虫の知らせ”の“虫”や、“気のせい”の“気”の感覚に近いですね。それをもう少し発展させて、魔法の素になるような、空気の中に“在る”ものとして描いています。目には見えないけど存在はみんな知っていて、気にしながら生きている、そんな世界ですね。

――人々は精霊を畏れているのでしょうか?

野島 いろいろな人がいます。ライのいるバベルでは、精霊をよいものとは思っていません。ある地域では、精霊とともに暮らしています人もいて。火の精霊が多くいる場所では火山が活発だったりと、世界を構成するものとしても作用しています。

――バベルと呼ばれる建物は世界にいくつかあるようですが……?

野島 ライのいるバベルは“バベル03”で、ほかにもいくつか存在しており、それが物語ではかなり重要になってきます。

――「エンディングがある物語」とおっしゃられていましたが、その後のエピソードも用意されるのでしょうか?

コロプラ なにかしらの形で提供したいと思っています。海外ドラマのシーズンのようなイメージです。

野島 つねに考えているのは、基本的に主人公は特別な人で、その特別さは世界の成り立ちと密接に関わっていて、それが解決することで世界は平和になるというのが、いままでのスタイルだったように思います。しかし今回は、多少続きがあると思えるような作りにしています。

コロプラ スマホ向けのRPGは通常、(ストーリーを)終わらせることはありません。エンディングを用意する本作は、私たちにとっても新しい挑戦です。

――野島さんは、エンディングある物語のほうが作りやすいでしょうか?

野島 最初にオファーをいただいたときに、僕は「主人公が成長して世界が救われて終わる話しか作れませんよ」とお話させていただきました。主人公と舞台を用意して、新しい話が延々と続くようなものは苦手で……主人公が故郷に帰って「おかえりなさい」で終わる物語を作っていましたので。

――それで、本作ではエンディング(区切り)を設けていると。

野島 そうですね。続きがある想定ですが、それはそれでいい部分もあります。物語の中ですべてを語らなくてもいいですし、余地を作れますから。ただ、ひとつの物語の中に、すべての答えを求められる方もいらっしゃると思いますので、難しいところではあります。これも新しい挑戦です。

――読み手に想像の余地を残しているのですね。

野島 残してはいるのですが、世界設定自体はわりとガチガチに固めています。というのも、今回は自分ひとりではなく、シナリオを担当するスタッフが複数いますので、そのスタッフと共有するために、設定まわりを詰めておく必要がありました。あまり最初に固めすぎると、後で融通が利かなくなって自分の首を絞めることになりそうですが(笑)。

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JRPGとしての一種の押し付けがましさ

――設定を固めるのと実際にゲーム内で描くのはまた別の話ですよね。後々、すべてが回収されるのが楽しみです。複数人で作業されているとのことで、いままでとの違いは感じますか?

野島 20代の若い方が多いので、戸惑っています(笑)。僕よりもライの年齢に近いので、ライの心情やリアクションを描いていて、彼らがどう思っているか不安になることはありますね。みんな納得してくれていると思いますが(笑)。

――若いスタッフの方たちと相互に影響し合っている部分はありますか?

野島 物語だけでなく、音楽やイラストなど、多くの部分で影響し合っていますね。そういう意味では、昔の作りかたに近いと思います。いまは一度仕様として通ると変えられないことが多いですが、制作を進めつつも、みんなでよりよいものにしようと随所でその都度、変更を加えたりしています。若いスタッフが多いせいか、僕の意見は通りやすいので慎重にはなりますけど(笑)。

――彼らからしたら“大先生”ですから(笑)。

野島 いやいや(笑)。そういえば、若い方たちがとてもキャラクター愛が強いのに驚きました。たとえば、敵キャラクターについて僕が最低限のセリフ量に留めたところ、それを広げてくれてもっと背景を感じられるようなものにしてくれたり。あまり深めると倒しづらい敵になっちゃうかなと思いつつも、僕もそれに乗っかって、おもしろいものに仕上がっています。彼らに刺激を受けながら作っています。

――デュラン鋼国のキャラクターも個性的ですよね。

野島 鋼国はおっさんだらけでもいいかなと思っていたのですが、バリエーションが生まれて(笑)。将軍を担当するシナリオスタッフがついていまして、設定やお話がおもしろいなと感じています。

――シナリオの仕上がりが楽しみです。

野島 本格的なJRPGとして楽しんでいただけると思います。ナラティブなゲームは、自分が遊びながら頭の中で補完する部分が多いと思います。試行錯誤があってそういうゲームが生まれ、現在では高い評価を得るものになっているのかなと。僕も大好きでいろんなナラティブ型のゲームをプレイしました。でも、今回僕が作っている、いわゆるJRPG的なゲームでは、押しつけがましさといいますか、提示したものをどう思ってもらえるかというところに、ストーリーとプレイヤーとの関係があると考えています。極端な話、ゲームでなくてもそういう体験は得られます。

――映画や小説、マンガのように。

野島 そうです。ただゲームの場合ですと、たとえば「助かった」というセリフひとつ取っても、強敵を倒すなどのプレイ上の苦労があったうえで、それが活きてきます。そういうところが好きで、その文化を無くしたくないなと。ゲームが好きで、そういった文化が好きな人はまだまだ大勢いると思いますので、いっしょに文化を継承していきたいです。

――野島さん自身は、あくまでストーリーの土壌で勝負していきたいと。

野島 そうしていけるといいなと思います。今回の『最果てのバベル』では、これまで僕が携わってきた物語に共通しているような要素を、ギュッと詰め込んでいます。詰め込みながらも、それぞれの要素の扱いかたや解釈を少しずつ変えたりもしていますので、楽しみにしていただければ。また、新しい挑戦もしているので、ぜひともそれに付き合ってもらえるとうれしいです。

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『最果てのバベル』ファミ通特設サイト

タイトル:最果てのバベル
対応OS:iOS、Android™
ジャンル:RPG
価格:アイテム課⾦制

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