『Lorelei and the Laser Eyes』レビュー。一見関係のないバラバラな謎が、大いなる謎へプレイヤーをいざなう。メモ必須の傑作アドベンチャー

byミル☆吉村

『Lorelei and the Laser Eyes』レビュー。一見関係のないバラバラな謎が、大いなる謎へプレイヤーをいざなう。メモ必須の傑作アドベンチャー
 黒いサングラスをかけた寡黙な女、彼女をいちいち「シニョリーナ」と呼ぶエキセントリックな男、ところどころに飛び散った赤い塗料、そして鍵のかかったたくさんの扉たち。静かな森の中に立つホテルに役者は揃った。謎解きの時間だ。

 5月17日にNintendo SwitchおよびPCで発売予定の『Lorelei and the Laser Eyes』は、古めかしいホテルを舞台にした大変奇妙なパズルアドベンチャーゲームだ。今回レビュー版を入手したので、その内容をご紹介しよう。
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 本作を開発したSimogoは、世界的に評価の高いスウェーデンのインディーゲームスタジオ。リズムと連動したアクションゲーム『Sayonara Wild Hearts』をスマッシュヒットさせた同スタジオが新たに挑む、ミステリ仕立てのアドベンチャーゲームが本作となる。

 さて、海外で一部メディアやインディーゲーム関係者に先行公開されたプレビューでは、早くもゲーム・オブ・ザ・イヤー級ではとの声も上がっていた本作。意気込んでプレイしてみたら……数字当てクイズやるの? マジで? スタイリッシュな推理ゲームとかじゃないの? なんか算数なぞなぞみたいなのいっぱいあるんですけど?

 しかしこの『Lorelei and the Laser Eyes』、盛大な肩透かしかと思いきや、いつの間にかちゃんと時空と虚実が入り混じった超現実的なミステリへと発展していく、やっぱスゲェ作品だったのだ!

一見バラバラな謎の山が、次第にプレイヤーを導き始める

 さてゲームの作りは今どきのノンリニアな構成で、前説なども一切なし。主人公の素性や目的などが不明なまま、まずはゲームシステムに身を任せていくしかない。

 舞台となるホテルはさまざまな場所に鍵がかかっているので、パズルを解いて仕掛けを動かしたり、鍵を入手して探索可能な場所を徐々に広げていかないといけない。そして本作ではそこに数字や数学的処理がキーになった謎解きが出てくるという塩梅だ。
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主人公である彼女はどんな人物で、なぜここにいるのか? 何をしなければいけないのか? まずはホテルの中に入る方法を見つけよう。
 たまたま先週紹介した『Animal Well』にもそういう所があったが、あちらが「とりあえず行けるところでアクションパズルを解いてみる」ように、こちらは「とりあえず行けるところで解けそうな謎解きをやってみる」という感じだ。
 ここで面白いのが、物語と謎解きの関係。普通は推理アドベンチャーゲーム的に状況を分析させられたり、ストーリー上の出来事や謎と繋がるような問題を解くことによって理解が進む、といった作りになっていることが多いと思う。

 だけど本作ではそういった推理アドベンチャー的な作りを裏切り、明確な「問い」にあたるものすらないことがある。たとえば単にダイアル式の南京錠などがあって、画面上の仕掛けから、“そのへんのモノに書いてあっただけの数字”を入れるだけで先に進めたりする。正直「多分これが正解だと思うけど……でもなんで?」と唐突に感じたことは一度や二度ではない。
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提示された質問に対して答えるのではなく、手がかりになりうるものの中から「何が正解になるのか」を探さないといけない。
 でも、これでいいのだ。本作では問題そのものやそこで使われるロジックより、むしろ「なぜその答え(たとえば特定の数字)が出てくるのか」に大きな謎が隠されていたりもするのである。それぞれ単体で見るとあまり本題に繋がってこなさそうな、こうした「謎解き」そのものが次第にプレイヤーを導きはじめ、すべてが段々意味がある方向にまとまっていくのは圧巻だ。

 ネタバレに繋がることはできるだけ避けようと思うが、本作は物語と謎解きの関係が独特なだけで、両者は無関係ではない。これを読んでプレイする人の中にも戸惑う人がいると思うけど、まずは流れに身を任せて、各所に散らばった書類や本にでも目を通しながらホテルのあちらこちらを探ってみて、手近なものから解きはじめてみてほしい。
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入手した情報はすべて目を通しておくことをオススメする。っていうかなんか意味深に赤線が引かれてるが、後でどこかの謎に関連してくるのかな?
 ちなみに、中にはモロに算数なぞなぞのようなものもあるのだが、こちらはショートカットを開くためのもの。クリアーのために必須ではないのだが、そこで答えを導くための発想が本筋の謎を解くのに役立つこともあるので、進行に詰まった時などに気分転換がわりに取り掛かるのがオススメだ。

 なお本作、小学校でやる範囲以上の計算能力は求められないので安心して欲しい。重要なのはパズル的な発想力の方で計算自体は簡単だし、なんだったらゲーム内ゲーム機のアプリとして電卓まで用意されている。
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スウェーデン語だかなんだかの数字表記? ドリル系の問題は対応する番号のショートカットを開けるのに使う。

“写真記憶”と物理/デジタルのノートを駆使して謎を解け

 一方で重要なのはノートだ。物理的なものでもいいし、スマートフォンやタブレットのノートアプリでもいいだろう。記者はiPad MiniでノートアプリのNotabilityを使い、気になる画面を撮影して取り込んだり、関係がありそうな情報やパズルの仮説を書き出したりしていた。
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ノートマジ重要! 写真を取り込めるアプリだと結構便利。
 「なんだめんどくさいな」と思うかもしれないが、むしろ本作はプレイヤー各自が模索する部分以外についてはかなりスムーズにプレイできる親切設計となっている。

 たとえば、ゲーム中で出てきたメモや地図、紋様などのサブテキストについては、“写真記憶”と名付けられたデータベースですべてを確認可能。謎解きの手がかりになる資料はほぼ全部ここにまとまっているので、「なんかコレに関係ありそうなもの、どっかで見なかったっけ」という時に頻繁に写真記憶を呼び出すことになる。
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プレイ中にはローマ数字の知識が求められることもあるのだが、ちゃんとゲーム内書籍に解説が出てくるので、後で必要になった時に写真記憶からチェックできる。
 また、写真記憶などを見るためのメニュー画面へのアクセスもそうなのだが、移動以外のインタラクションをどのボタンを押しても実行できるのは、もともとiOSゲームを専門で手掛けていた開発としてのアクセシビリティへのこだわりを感じられる。

 パズルを解いたりキャラに話しかける時、物を拾ったり見る時は対象に近付いてハイライトさせてボタンのどれかをプッシュ。何もハイライトされていない時はメニューが起動、という設計で、ノートを手に取ったりしながらでも気楽にプレイしやすい。

 ゲームの設計という点では、ゲーム中に解答を間違えるとゲームオーバーになるシーンが何度か登場する中で、すぐに回答する自信がなければ答えを延期して情報を精査し直せるのも気に入った部分。何を問われているのかもわからないような謎に悩まされたりする分、正解に至る道のりはフェアでスムーズな作りにしているのを感じられる。
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過去にあったらしい何らかのシーンを見せられる場面。後でちゃんと見たか重箱の隅をつつくような質問をされるので、目についたものを片っ端からメモってから挑もう。不安なら質問を聞く前にもう一回戻れる。

重層的で美しい、ミステリアスな世界

 そしてアートスタイルやサウンドも本作の体験を形作る非常に重要な部分だ。前作『Sayonara Wild Hearts』で培ったものを活かしつつ、より複雑で渋くてカッコいい、本作のトーンに沿った表現になっていると思う。

 グラフィック面では『Killer 7』などを思わせる、陰影の強いローポリ気味の3Dを採用。全体をモノクロームな雰囲気にまとめつつ、そこに差し色で紫がかった赤を印象的に散りばめたり、グリッチ―なドット処理をテクスチャ―に混ぜたり、実写写真を重ねて動かすことで、動きが少ない中でも不穏な感じがビンビンに伝わってくる画作りをしている。
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さまざまな絵素材やエフェクトが重ねられた画作りがめちゃくちゃカッコイイ。
 またサウンドにも変わった仕組みが入っていて、ホテル内の各所にあるレコードプレイヤーを動かすことで曲を聞ける一方、実はレコードを止めていても環境音に近いバージョンの同じ曲が流れているのだという。このあたりの開発裏話については開発元Simogoのサイトで解説されているので(ただし英語のみ)、気になる人はそちらをチェックしてみるといいだろう。

 そして本作は演劇や映画からレトロなコンピューターゲームに至るまで、さまざまな時代のフィクション作品とその創作者たちがテーマとして扱われる。その中ではゲーム内ゲームをプレイする場面もあり、しかも妙に凝ったことをやっていて思わずニヤリとさせられる。
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PS1風のゲーム世界が出てくる場面も。
 というわけで本作、一般的な推理アドベンチャーとは異なる方法で大いなる謎にアプローチしていく、大変ユニークな傑作だ。架け橋ゲームズによる日本語ローカライズも質が高く、時代をまたいだ奇妙な物語を抑制の効いたテキストで確実に伝えてくれる。

 参考までに、クリアーまでにかかったのは26時間。もっともこれは謎に詰まってぼんやりと写真記憶の資料を眺めていた時間も込みなので、人によって大分違ってくるだろう。勘の鋭い人ならこれより遥かに短い時間でクリアーできるはずだ。でも自分なりに取り組んだ時間にちゃんと満足できる、そういう作品なのである。
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