中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

  1. ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com>
  2. 企画・連載>
  3. 中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編>
  4. 【ブログ】BANDAI NAMCO Entertainment(Shanghai)が満を持して日本へ展開する『暗界神使』のプロデューサー徹底インタビュー

【ブログ】BANDAI NAMCO Entertainment(Shanghai)が満を持して日本へ展開する『暗界神使』のプロデューサー徹底インタビュー

2021-10-22 10:00:00

 これまで筆者は、中国ゲーム市場の形成期から現在まで、長きにわたり同市場への進出、撤退を繰り返す日本企業を幾度となく見てきた。その中でも、2015年に上海で拠点を構えてから、現地で事業を動かすコアメンバーを早々に採用し、中国国内パートナーとともにコンテンツ展開を進めることで大きく前進したのがBANDAI NAMCO Entertainment (SHANGHAI) CO., LTD.(以下、BNESH)である。従来は、日本の著名IPを原作としたゲームアプリを現地パートナーと共同開発して展開することで成功を手にしてきたが、昨年12月、BNESHは新たなフェーズへと突入した。同社自ら生み出したオリジナルIPの3DCGアニメシリーズを中国国内の各動画配信サービスへと展開したのだ。

暗界神使』と題された同作は、2018年にオンライン小説として公開されると同時にコンセプトブースをChina Joyに出展。同年末にはラジオドラマも展開するなど矢継ぎ早に展開し、2020年12月25日に、満を持して3DCGアニメシリーズとして配信を開始したのだ。つまり、BNESHとしては初のオリジナルIPによるメディアミックスプロジェクトであると言える。そんな同作が、2021年10月1日(金)から日本国内の各配信サービスから一斉に配信がはじまった。

アニメ「暗界神使」PV



 ここで、本作を簡単に説明しよう。『暗界神使』は火紅森林氏のオンライン小説を原作とした現代都市を舞台に繰り広げられるミステリー・アドベンチャーだ。

 主人公キョウコウは行方不明になった友人を探すため、異様な雰囲気に包まれた別荘に辿り着くが、そこで、神秘的な少女に命を奪われそうになった。さらにキョウコウはこの少女が「復活の死者」という事実を知る。 「生き返った死者」、「謎の秘密組織」、「都市に潜む魑魅魍魎」…事件の裏には、巨大な陰謀が渦巻いており、キョウコウはその渦中に取り込まれていく……、というもの。

CAP00TITLECAP001

▲BNESHによるオリジナルIPがついに日本上陸!



 全編フル3DCGというのは中国動画配信サービスにおいて多くの中国国内ファンから支持されている中国アニメのトレンドを踏襲しているが、これら中国国内における3DCGアニメの多くが武侠(政治的文脈を除いた時代モノ)や仙人世界(仙侠ジャンルと言われる)といった中国独自のファンタジー世界を直接描写する作品がほとんどであるのに対し、本作は「無国籍感」を感じさせるのが特徴。そのような意味からも『暗界神使』がなぜこのタイミングで日本展開が行われたのか、そもそも本作品がどのように生まれ、アニメ化されていったのかが気になりBNESHにアプローチしたところ、なんと、『暗界神使』の原作者でプロデューサーも兼ねる桂玉琳氏へのメールインタビューが実現したのだ。そこでここからは同プロデューサーからの回答をお届けする。

原作からプロデュースまでをこなす社員が企画した『暗界神使』のメディアミックス

CAP002

▲メールインタビューに応じていただいた桂プロデューサー


Q:まず、ご自身の作品が国内、そして海外へと展開されることが決まったときの心境は?

桂玉琳(火紅森林)プロデューサー(以下、桂):「自分の子供がやっとデビューできた!」という心境です。嬉しいですが、緊張感もあります。皆さんに『暗界神使』を好きになってほしいです。

Q:作家という立場でありながら3DCGアニメシリーズのプロデューサーにも選ばれたときの心境はいかがだったでしょうか?

桂:実は、BNESH社内で私は作家という立場ではなく、IP創出プロデューサーという職務を担当しており、そちらが私の本職です。入社する前、趣味として自分のオリジナル小説を創作・出版していました。そういったIP創出経験があったことから、今回はBNESHのオリジナルIPプロジェクトを担当することとなり、結果的に『暗界神使』の原作及びプロデューサーを担当することになったのです。
 趣味を仕事と結びつけることができるのは、とても貴重な経験で、会社がそこまで私を信頼してくださることに感謝しています。また、原作とプロデューサーを兼務することで、アニメによるコンテンツ展開を正確に把握できることから、監修する際の効率も高くなりました。

Q:ストーリーが他の中国国内で展開されている3DCGアニメシリーズと比較してもかなり無国籍な感じですが、これはあらかじめ世界展開を意識してのことでしょうか?

桂:暗界神使』は主に中国市場向けのオリジナルIPですが、企画の初期段階の際、確かに日本を含めワールドワイドで展開した場合についても考慮しました。現代を舞台したことや、主人公や主要キャラクターが発動する異能力の設定を中国固有のものにしなかったことで、中国だけではなく、世界中の視聴者に受け入れられやすくなったと感じています。更に、そういう設定にすることで、今後、ゲーム化などをはじめとした、CMD(キャラクターマーチャンダイジング)の展開も進めやすくなるように意識しました。同時に、中国アニメで多数存在する武侠や仙境ジャンルとの同質化を回避するという目的もありました。

Q:本作でアニメ化を担当したCostline Animation Studioはどのように選定したのでしょうか?

桂:中国国内にある複数のアニメ制作会社と交渉し、現場視察も行いました。技術力、作品実績、得意なジャンル、制作パイプライン、対応スピード等、複数の要素から総合的に評価しました。Costline Animation Studioは総合評価が高く、現代を舞台としたオリジナルアニメ制作経験もあったことから、彼らに依頼することにしました。選定するのに、約8ヵ月がかかりました。正式に本編を制作する前に、PVの制作を委託し、制作能力を最終確認したからです。

Q:Costline Animation Studioのどの点を最も評価しましたか?

桂:キャラクターモデリングや、アニメーション表現の技術的な能力の高さだけでなく、原作小説に基づいたアニメ脚本の改編能力も重要です。Costline Animation Studioは脚本を含めプリプロ能力が優秀です。その点を最も評価しました。

中国神話の伝説的存在を現代ミステリーを舞台に大胆に翻案して実現した「無国籍」感

Q:キャラクターデザインや世界観など小説から2Dキャラクター、そして3Dへとビジュアルしていく中で驚いたり、感銘を受けたりしたことなどはありますか?

CAP003

▲桂プロデューサー自ら構想した2Dデザインによる幽冥使者ハンムキュウ(左)とシャヒツアン(右)ならびに3DCG化されたキービジュアル(中央)



桂:幽冥使者「ハンムキュウ」と「シャヒツアン」のビジュアルデザインが想像以上に素晴らしくなりうれしかったです。もともと中国神話に登場する古代の鬼神がモデルです。原作の中では、二人の容貌と服装的特徴を神話に基づき簡単に書きましたが、アニメ化された際の実際のビジュアルが想像以上に格好良かったのです。現代のストーリー設定に合わせるため、古代鬼神的なモチーフを維持しつつ、現代化な要素をデザインに取り入れたので非常に独特な雰囲気になっています。

Q:自分の頭の中にあるビジョンを伝えるうえでどのような苦労や困難がありましたか?

桂:私はもともと美術が得意なので、苦労することはあまりありませんでした。デザイナーに発注する前に、私が先にキャラクターやシーン等におけるデザイン上の要点を整理したうえで、説明資料を作成し、デザイナーと共有します。初版のデザインサンプルを頂いた後、そこでもさらに修正意見を出します。自分自身が参考例を描く場合もあります。

Q:暗界神使』の制作時にはサンライズからも協力を得たと伺っていますが、どのような形で協力してくれたのでしょうか?

桂:サンライズには『暗界神使』日本語版におけるアフレコ収録で協力してもらいました。サンライズのプロデューサーには音響会社との交渉だけではなく、アフレコ収録での監修のために、毎回収録現場にも行っていただきました。また、中国アニメとして、用語や固有名詞等、日本のユーザーには聞き慣れない言葉が使われる可能性がありました。幸い、サンライズや音響制作に携わっていただいたマジックカプセルのおかげで、日本のユーザーにもなじみのある言葉使いに台本を修正でき、ストーリーの内容も分かりやすくなりました。本当に感謝します!

Q:著名な声優が数多く出演していますが、どのように選定したのでしょうか?

桂:原作を創作する際に、私の頭の中で各キャラクターの声も想像していました。これに加え、キャラクターの性格や声の感じなども検討し、それにあった声優の候補リストを作成したうえで、サンライズに提供しました。音響会社との交渉もサンライズを通しておこない、最終的には音響監督の意向を参考にして配役を決定していきました。今回『暗界神使』日本語版のアフレコにご参加いただいた声優さんに、心から感謝します。

Q:暗界神使』を今後、どう展開していきたいですか?

桂:暗界神使』の小説原作は全7部ありますが、今回のアニメ化は第2部までの内容です。原作者としては、やはり、『暗界神使』アニメをシーズン2、シーズン3と続けて制作していきたいです。もっと魅力的なキャラクターを視聴者の皆さんの前に登場させたいです。また、今後、ゲーム化や商品化等CMD展開を通じて、「暗界神使」のIPとしての影響力をもっと拡大出来ればと思います。

Q:ありがとうございました!



 いよいよオリジナルIPを引っ提げて、日本への「凱旋」を果たしたBNESH。今後は同社による日本展開の一手、一手にも注目する必要がありそうだ。

暗界神使』は毎週金曜日12時に最新話が配信される。各配信サービスは以下に示した公式ホームページから確認が可能だ。