中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】ゲームを活用した地域活性化を整理する(その2)

2021-04-21 17:00:00

 これまで、アニメや映像作品のロケ地を巡る、聖地巡礼や、群馬の「ぐんまちゃん」、滋賀県彦根市の「ひこにゃん」や熊本の「くまモン」などのご当地キャラクター、秋田の「超神ネイガー」や沖縄の「琉神マブヤー」など、コンテンツと地域を結び付けた地域活性化策がここ数年、様々な形で展開されてきたが、いよいよ「ゲーム」も本格的にこの流れに入りつつある。今回はその中から、ゲームと聖地巡礼をテーマに様々な取り組みを俯瞰してみた。

ゲームと聖地巡礼

 前回はご当地ゲームを中心に確認してきたが、ゲームを活用した地域活性化で早期から存在するものも、やはり聖地巡礼だろう。前回提示した例では、類型Cにあたる部分だ。

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▲聖地巡礼はコンテンツと地域活性化における類型では主に類型C的な取り組みとなる



 つまり外部で開発されたIPで地域にゆかりのあるものを地方自治体や大学、商店街などがIPホルダーと連携して観光誘致などのために活用するという例だ。

 ただゲームを振り返ると、アニメや映画などで言われているようなロケ地を対象にしているのに加え、登場キャラクターやゆかりの地、関連する歴史的事象、そしてサーバー名と関係するものまで拡大される。なお、ファン主導という視点で見ると、おそらく、新聞、雑誌といった、メディアがこういったコンテンツと関連した「聖地巡礼」に注目する以前から一部のファンによって行われていたと考えられる。例えば、コーエーテクモゲームスが長きに渡って展開してきた、歴史モノがまず思い浮かぶが、恐らくファン主導で「信長の野望」シリーズや「太閤立志伝」シリーズにゆかりのある場所を訪れていた可能性がある。また、1999年にリリースされた『シェンムー 一章 横須賀』については、当時のファン動向に関する報道はないものの、2017年に横須賀市観光企画課が「同作の聖地巡礼ガイドマップ」を制作していることから(※1)、ひそかにファン主導で同地を訪れていたという可能性は否定できない。

 その後も2000年の『高機動幻想ガンパレードマーチ』(※2)の熊本県、2002年にリリースされた『ひぐらしのなく頃に』の岐阜県大野郡白川村白川郷(※22)や2007年に東方シリーズの第10作目としてリリースされた『東方風神録』とゆかりのある諏訪大社などもブログで探訪記が示されたり、聖地巡礼の対象になっていることが報道されたりしてきた。これらはファン主導での巡礼現象だったと言える。

「歴女」ブームで脚光を浴びたゲームと聖地巡礼

 だが、「戦国無双」シリーズ (2004)や「戦国BASARA」(以下、「BASARA」)シリーズ(2005)のリリースと、それに伴う「歴女」の先駆けともいえるこれら戦国アクションゲームの女性ファンや、コスプレイヤーが台頭することで、企業側との連携で相乗効果を図ろうと企画を進める地方の団体が表れ始めた。例えば、2007年には京都府、立命館大学映像学部、東映太秦映画村などとの産学官連携で進められたクロスメディアイベント、太秦戦国祭りがある。2007年9月に開催された「上洛決戦2.0」には、カプコン、コーエー(当時)の双方がブース出展をしたり(※3)、関係者を講演会のために派遣するなどして協力をした。戦国時代、名だたる武将が目指したのが「京」であることから、「上洛」をコンセプトとすることで、歴史ファンを一堂に集める(上洛をしていただく)という視点から聖地化を試みたのが同イベントであると言える(※4)。

 実際、2014年以降、同イベントは「太秦上洛まつり」に名称変更をしている。以降、2008年には、「BASARA」に登場する片倉小十郎ゆかりの地、宮城県白石市の小十郎バスや「鬼小十郎」でのブース出展を皮切りに(※5)、宮城県知事選選挙ポスターへの協力など各地域での協力を進めていく(※6)。「戦国無双」シリーズも、2010年に新潟県で開催された戦国EXPOでのタイアップを皮切りに(※7)国内各地で連携を進めた。また、この他にも「遥かなる時空の中で」10周年を記念して、同作品のゆかりの地、京都において、「ネオロマンス・フェスタ ~遙か十年祭~」を開催している(※8)。一方、2008年にリリースされた「薄桜鬼」シリーズも、2015年及び2018年に京都の嵐電(京福電気鉄道)と東映太秦映画村が協力した形でスタンプラリーやコラボカフェによる連携をおこなった(※9)。

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▲2007年から開催されてきた太秦戦国祭り(現上洛まつり、写真は2018年のポスタービジュアル)

ゲームのリリースと同時期にイベントもおこなわれるように

 一方、ニンテンドーDS用ソフト『ラブプラス+』では、2010年7月10日~8月31日まで、熱海において “熱海 ラブプラス+現象キャンペーン”がおこなわれ、そこで熱海各地で設置されたARマーカーを用いてiPhoneアプリ『ラブプラスiM』、『ラブプラスiR』、『ラブプラスiN』で愛着のあるキャラクターと一緒に記念撮影が出来るキャンペーンや、スタンプラリー、ゆかりの地、ホテル大野屋での宿泊などがおこなわれた(※10)。

 また2013年にサービスインした『艦隊これくしょん』についても、まず非公式ながら、横須賀市記念館三笠内で2014年7月、特別展 三笠秘蔵 連合艦隊「艦隊コレクション」が開催された(※11)。これは非公式だが、『艦これ』ファンが参加していた様子が個人ブログなどから確認されている。また、こういった関連イベントに訪れている状況を想定してか、さらに2016年、横須賀市主催により、東京スカイツリーにて、鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴フェスin東京が行われた(※12)。そしてついに2017年、IPホルダー側が主催となって鎮守府 瑞雲祭り in 富士急ハイランド泊地が6月17日から7月30日おこなわれ、期間中は声優による特別ステージや、「総合カレー祭り」などとあわせ、原寸大「瑞雲」特別展示がおこなわれている(※13)。以降、こういった公式イベントが舞鶴市や(※14)、佐世保市など(※15)地元からの協力のもと継続的におこなわれている。

 2014年には佐賀県が「ロマンシング サガ」シリーズとタイアップ。文字通りのダジャレに基づくタイアップながら、25万4000人が1億6490回をプレイするなどの効果を発揮し(※16)、このタイアップは現在も続いている。

 また、2015年にリリースされた『刀剣乱舞-ONLINE-』(以下、『刀剣乱舞』)も、同年8月には宮城県大崎市の中鉢美術館に於いて、同年10月からは香川県丸亀市の丸亀市立資料館で同作に登場する日本刀が展示され(※17)、以降、同類の特別展示が国内各地で行われていった。また、ファンは『刀剣乱舞』で登場している刀剣に興味があるため、常設展、特別展問わず多くのファンが訪れていった。

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▲『Ghost of Tsushima』はコロナ禍が明けてからの対馬観光への起爆剤となるか?



 2020年に盛り上がったのは『Ghost of Tsushima』だろう。全世界で650万本を売り上げ、さらにハリウッド映画化が決まり話題となっている。同作の舞台となっている対馬の和多都美神社神社が台風の影響で倒壊したため、そのクラウドファンディングを応募したところ、想定額の5倍にあたる2710万円ほどの寄付がおこなわれたのだ(※18)。このような流れの中で、「ながさき旅ネット」では、『ゴースト・オブ・ツシマ』×対馬市公式サイト“Ghost of “REAL” Tsushima”が先日開設されたばかりだ(※19)。対馬観光物産協会の西氏によれば、開設初日にはサーバーがダウンしたほどの反響だったという(※20)。一方、来客という点は新型コロナ禍の影響があるにもかかわらず、国内留学中の欧米出身の外国人の方々を見かけるようになったという。

 また、ファン主導型による聖地巡礼の舞台だった場所の地元でも意識に変化が訪れているところもある。例えば、「ひぐらしのなく頃に」シリーズにおける舞台のモデルとなった岐阜県大野郡白川村白川郷では(※22)、2019年からは劇中で行われている「綿流し」がファン主催で開催され、例年20名程が訪れている。「今後はこのような動向にも対応していきたい」と観光振興課の橋脇氏は言う(※20)。

 これら、著名作品とのコラボのメリットはなんといっても集客だろう。地元は、地の利や、歴史的特異性を発揮することで、IPホルダーにとっても唯一無二のイベント体験を提供する可能性があり、それはファンにとって、ひいてはIPホルダーにとっても意義のある活動となりうる。このようなWin-Winの体制を築き上げることが出来れば、持続的な地域活性化が視野となってくるだろう。

 ただ、すべての地域が、人気IPと関連出来る地の利を持っているわけではない。そのような状況でも連携出来る可能性を示したのが位置情報ゲームの台頭である。そこで、最終回は位置情報ゲームでおこなわれた地方での施策について紹介していく。


※1 「『シェンムー』聖地巡礼ガイドマップを横須賀市が配布! 12月3日から」『ファミ通』 (2017/12/01)

※2 熊本ガンパレードマーチ探訪(2001年11月23日にアーカイブされたブログが記録されている)

※3 太秦戦国祭り上洛決戦2.0「歴史創作コンテンツショーケース」

※4 この点の経緯は福田一史、中村彰憲、細井浩一(2009)「産学公連携による地域映像産業振興事業と内発的発展における外来要因の役割─「太秦戦国祭り」を事例とする参与観察的研究─」『立命館映像学』v 2: pp 85-101 (共著) が詳しい

※5 「宮城県白石市の市バスに「戦国BASARA」の「きゃっするくん小十郎バス」が登場」IT Media (2008/03/21)

※6 「宮城県知事選挙のイメージキャラに『戦国BASARA』の伊達政宗が起用」『ファミ通』(2009/10/07)

※7 新潟戦国EXPOとのタイアップ『gamecity』(コーエーテクモゲームス公式サイト)(2010/04)

※8 「ネオロマンス・フェスタ ~遙か十年祭~」」in 京『gamecity』 (2010/02/06)

※9 「薄桜鬼~京の都めぐり~」『京福電車公式ホームページ』(2015/09)

※10 「『ラブプラス+』、“熱海 ラブプラス+現象キャンペーン”の詳細が判明!」『ファミ通』 (2010/07/07)

※11 「特別展 三笠秘蔵 連合艦隊「艦隊コレクション」『ここはヨコスカ』 (2014/07/14)

※12 「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴フェスin東京」『ここはヨコスカ』(2016/11/11)

※13 「艦隊これくしょん -艦これ-」×富士急ハイランド 「艦これ」鎮守府 瑞雲祭りin富士急ハイランド泊地 開催」富士急行プレスリリース (2017/05/20)

※14 「艦これイベントに全国から8000人」Maipress-マイプレス-(2017/07/28)

※15 「「艦これ佐世保鎮守府巡り」開催ご協力へのお礼」『佐世保市公式ホームページ』(2018/09/07)

※16 「ロマ佐賀第1弾コラボ「制圧行くばい!Romancing佐賀県」を25万4千人が合計1億6492万回以上プレイ!」『佐賀県プレスリリース』(2020/05/28)

※17 「当財団と提携関係にある中鉢美術館に於いて人気ゲーム「刀剣乱舞」に登場する作者の日本刀を展示することになりました。」『一般社団法人刀剣博物技術研究財団』(2015/07/26)

※18 「対馬・和多都美神社 台風で鳥居倒壊 全国から2700万円寄付 元寇モチーフのゲーム 「Ghost of Tsushima」効果」『Yahoo News (長崎新聞からの掲載)』 (2021/01/18)

※19 「『ゴースト・オブ・ツシマ』×対馬市公式サイト“Ghost of “REAL” Tsushima”が開設。境井仁を演じたダイスケ・ツジ氏のインタビューも順次公開」『ファミ通』 (2021/03/05)

※20 2021年4月2日の電話インタビューにもとづく

※21 2021年4月2日における電話インタビューに基づく

※22 県名表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。