中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】トランスメディア・ストーリーテリング (TMS)の仕組みを理解するうえでも不可欠な「キャラクター経済圏」という考え方

2020-08-24 16:00:00

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▲ブシロード取締役 中山淳雄氏


 筆者が2015年、北米に6か月程滞在し、そこで、ディズニー版「スター・ウォーズ」シリーズや、「マーベル・シネマティック・ユニバース」などに熱狂する米国ファンの洗練を受けて以降、継続的に追ってきた概念に、欧米で独自の方向性で発展したメディアミックス戦略、トランスメディア・ストーリーテリング(以下、TMS)がある。だが、主に日本や中国で実践されてきた、世界観の整合性にあまりこだわらないメディアミックス的な考え方(拡散型)と、ハリウッドや欧州諸国における映像業界を中心に、2000年代後半から現在まで展開されてきた、世界観の整合性を維持し、物語と世界観の深みを追求することで、熱心なファンがよりハマっていくというTMS的な考え方(収斂型)の中間的な距離に存在する概念として筆者が注目したのが数週間程前、TwitterのTLをにぎやかしていた「キャラクター経済圏」という視点である。これは、物語展開の如何ではなく、ひとつの知的財産(以下、IP)が生み出す経済価値を中心として捉えた視点で、もともとWikipediaに掲載されている「List of the highest-grossing Media Franchise」をベースに、IPの発表年の古い年代から新しい年代を縦軸に、IPの生涯価値をIPの継続年で割り出した際の平均年間市場価値の規模を横軸に示したものである(世界キャラクター経済圏マップ)。これを示したのはブシロード執行役員で早稲田大学ビジネススクール非常勤講師も務める中山淳雄氏。もともと、2019年11月に発行された「オタク経済圏創世記: GAFAの次は2.5次元コミュニティが世界の主役になる件」(以下、「オタク創世記」)の第4章にて示されたものだ。

「ポケモン」を皮切りに日本製IPがズラリと並ぶ「世界キャラクター経済圏マップ」

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▲世界キャラクター経済圏マップ

 Twitterでとりわけ話題となったのが日本製IPの国際的競争力である。まず目に入るのが「ポケモン」であるが、1970年代からも、「アンパンマン」、「ハローキティ」、その後も「ドラゴンボール」、「スーパーマリオ」、「新世紀エヴァンゲリオン」、「ONE PIECE」、「NARUTO -ナルト-」、「プリキュア」という形で年代を通して中堅クラスの「キャラクター経済圏」がボコボコと存在しているところで注目度が一気に高まったのだ。だが、「オタク創世記」における中山氏の考察はさらに深いものとなっている。同氏が着目したのが「キャラクターが生み出される」プラットフォームが年代別に変化しているという点。中山氏は、米国映画産業(ハリウッド)という例外を除き、玩具、雑貨からは1970年代前後のみ、マンガも1990年代~2000年代以降、主だったキャラクターが出現していないと指摘しつつ、欧州諸国において2000年代後半から2010年代初頭に台頭したキャラクターはオンラインゲームやゲームアプリをプラットフォームとして生まれてきたキャラクターだと示した。さらに、現段階において本マップにおける主要キャラクターが米国か日本製のもので占められている理由の背景に、テレビが主要プラットフォームだった時代に米国ではハリウッドと、日本ではマンガ雑誌とテレビとで強固な連携関係が他国と比較して構築されていたことが背景にあると分析した。

次世代、覇権を握るキャラクターはどのプラットフォームから生まれるのか?

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▲「オタク経済圏創世記: GAFAの次は2.5次元コミュニティが世界の主役になる件」


 筆者がここでやはり気になるのが、一般的なメディアミックス型(拡散型)とTMS型(収斂型)の切り分けからこのマップを見たらどうなのだろうという視点だ。キャラクター単体というより、ストーリーテリングが訴求力となっている作品群で年間平均市場価値の大きいものは「マーベル・シネマティック・ユニバース」、「スター・ウォーズ」、「ハリー・ポッター」だが、そのいずれもTMS型である。とりわけ、「マーベル・シネマティック・ユニバース」に登場していたヒーロー群はもともとマーベルの花形キャラクターである「スパイダーマン」や「X-MEN」シリーズや、DCコミックスの「スーパーマン」や「バットマン」シリーズと比較し、一般層には認知されてこなかったヒーローで構成されている点が特筆に値する。これは、作品を鑑賞していた観客がストーリーに没入した結果、作品やそれらが示すヒーロー像にハマっていったと見てとれるからだ。近い将来、このキャラクター経済圏に「Fate」シリーズが入ってくるであろうと見ているが、日本製で且つ2000年代に生まれた「Fate」もその特徴の本質はTMS型であり、ハリウッドへ展開された劇場用作品が現段階では生まれていないものの、そのスケールの大きさ、ストーリーテリングや世界観へのユーザーの没入度などどれをとっても欧米におけるTMS型の特性を合わせ持つ。

 また、キャラクター経済圏の中に、ポケモンやハローキティのようなキャラクターとしての優位性とTMS的没入感を生み出せるような新たなIPが生まれるかという点も気になる。さらに、オンラインゲーム、スマホの次に来る世界的に競争力のある新たなキャラクターを生み出しうるプラットフォームとは何かという点も。

 このように「キャラクター経済圏と日本製IPの可能性」について語ることがこれまで以上に重要になることもあり、今度、本概念を提唱した、ブシロード執行役員の中山淳雄氏を2020年9月11日(金)18時に京都国際マンガアニメフェアのプレイベントにお招きすることとした。

 現在の状況もあり、本イベントはZOOMを用いたオンラインセミナーとなるので、是非、参加いただき、ブシロード取締役である中山氏を交えて「日本製コンテンツのこれからの勝負の仕方」について情報交換をしてはいかがだろうか?