グラビティゲームアライズ(以下、GGA)は、新規IP(知的財産)の開発に精力的なゲームメーカー。2024年に『東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿』と『神箱-Mythology of Cube-』の発売を控えており、どちらもグローバル展開を計画している。

 精力的に活動するチャレンジ精神の原動力を探るために、GGAで取締役を務める五嶋裕士氏と朴賢駿氏にインタビューを実施。GGA設立の経緯や今後の展開などを伺った。

  • 聞き手:林克彦(ファミ通グループ代表)

五嶋裕士(ごとうひろし)

グラビティゲームアライズ取締役

朴賢駿(パク ヒョンジュン)

グラビティゲームアライズ取締役

新規IPを生み出す会社を日本に設立

――まずは、おふたりがGGAでどんな立場なのかをお聞かせください。

五嶋GGA取締役の五嶋と申します。私は会社全体の運営を担当しています。

朴と申します。私はグラビティの日本事業を担当しておりまして、GGAでは五嶋と同じく取締役になります。

――朴さんは海外事業も担当されているのですか?

そうですね。

五嶋同じ取締役でも役割分担がありまして、朴がグラビティやほかのグループ子会社との連携を担当しています。

――GGAの設立の経緯や、グラビティグループ全体の中での役割を教えてください。

最初にグラビティグループについて説明させていただきますと、韓国に本社があり、日本のほかに北米、台湾、タイ、インドネシア、シンガポール、香港に支社を置いています。これら複数の支社を通じて、『ラグナロクオンライン』のIPをグローバル展開していくのが基本的な事業戦略になりますが、2019年7月に設立したGGAの役割としては、新規IPの開発、運用、展開の事業を中心に行っています。

五嶋グラビティが長期的な戦略を立てるにあたって、新しいIPを育てなければならないと考えていました。新たに設立するGGAは次代のグラビティを担うIPを育てる会社に特化させる。この目標を実現するために3つの事業分野を軸に運営を行ってきました。

――GGAの3つの事業分野の強みや特徴などについて、それぞれご紹介をお願いします。

五嶋3つの事業分野はゲームリパブリッシング事業、ゲーム開発事業、コンシューマー・インディゲーム事業になります。ひとつ目のゲームパブリッシング事業では、グラビティの強みであるグローバルネットワークを活かし、『テラクラシック』などの国内外で展開されている良質で優れたゲームをソーシングし、日本市場で展開してきました。グラビティのオンライン事業で培った運営ノウハウを活かすためにも、MMORPGといったユーザーコミュニケーションが生まれるような作品をパブリッシングしていきたいですね。

グラビティはMMORPGの運営、開発の能力がとくに秀でていますので、日本でもMMORPGを成功させるのは目標のひとつになります。五嶋が話した通り、日本で『テラクラシック』の運営を行ってきましたが、これからもMMORPGにチャレンジしていきます。

――新作の発表が楽しみですね。ゲーム開発事業の強みも教えてください。

五嶋ふたつ目のゲーム開発事業も、グラビティで培ったゲーム開発のノウハウを強みにオンラインゲームやモバイルゲーム、カジュアルゲームの開発を推進しています。弊社はこれまでに『貞子M 未解決事件探偵事務所』や、NBA公式オンラインシミュレーションゲーム『NBA RISE TO STARDOM』などを手掛けてきました。さらにスポーツ分野を強化するために、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)と組んで、JLPGA初のモバイルゲームである『女子プロゴルフ ヒロインコレクション』も開発中です。

――NBAや女子プロゴルフなどスポーツゲームに力を入れていると感じましたが、何か理由があるのでしょうか?

スポーツゲームに注力しようと思ったわけではありません。IPを探す中でNBAやJLPGAとタッグを組んでゲームを開発することになりました。

五嶋新規IPを立ち上げて長年愛されるものにしていくためには、ファンが必要になります。スポーツにはもともとファンが多いので、ゲーム化したときに一定のユーザーが見込めることもあり、スポーツのIPを選んでいます。

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NBA公式オンラインシミュレーションゲームアプリ『NBA RISE TO STARDOM』。現役スター選手から歴代のレジェンド選手まで、新旧のNBA選手が450名以上実名で登場する。
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“集める・育てる・応援する”をコアメッセージとした、“女子プロゴルフがもっと好きになる”JLPGA公式初の応援ゲームアプリ『女子プロゴルフ ヒロインコレクション』。

――なるほど。

五嶋そして3つ目のコンシューマー・インディゲーム事業では、世界中のおもしろいコンシューマー・インディゲームを発掘して広めていくプロジェクト“START with GRAVITY”を推進していますし、今回続報を発表する『東京サイコデミック』や『神箱』も手掛けています。

――グラビティのノウハウを活かして多彩なジャンルのゲームを展開されているのですね。

五嶋今後GGAが、ゲーム会社としてますます成長していくためにも、多様なジャンルの魅力的なゲームの開発とソーシングに積極的に取り組んでいます。

GGAらしさが感じられる2本の新作コンソールゲーム

――新規IPの『東京サイコデミック』と『神箱』は、メインクリエイターが同じにもかかわらず、ジャンルや世界観が大きく異なるのが印象的でした。それぞれどのような経緯でプロジェクトがスタートしたのですか?

五嶋『東京サイコデミック』は、エグゼクティブプロデューサーの神崎(喜多氏)が自社でIPになるゲームを作りたい、昨今は謎解きブームで神崎自身もいままでにない謎解きゲームを生み出したい、という話から進んだプロジェクトになります。

 当初は3Dのアセットを使って探したり、謎を解いたりするゲーム性をイメージしていましたが、今井(秋芳)氏が本作の監督・脚本を担当することになり、監視カメラを使った捜査や事件を整理する“エビデンスボード”などが誕生しました。これら独自のシステムはもちろん、未知のウィルスによる新型感染症が猛威を振るい、多くの犠牲者が出たパンデミック後の東京を舞台にストーリーが展開していきます。

『東京サイコデミック』はグローバル展開を行う予定ですが、韓国では作品と同じく未解決事件を扱ったテレビ番組やドラマが人気です。『東京サイコデミック』も好評を得るのではないかと期待しています。

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プレイヤーが探偵として、紅葉巴杏や専門的な知識やスキルを持った仲間と協力して未解決事件に挑む『東京サイコデミック』。実写映像を使ったリアルな科学捜査を体験できる。

五嶋グローバル展開できるのも世界各国に支社を置いているグラビティの大きな強みだと思います。ローカライズにも慣れていますし、地域ごとにベストなプロモーション戦略を考えたうえでマーケティングが行えますから。東京が舞台の『東京サイコデミック』も、企画段階からグローバルビジネスをベースとして考えていて、2024年5月30日に日本先行でリリースの予定です。

――東京ではない場所が舞台の“〇〇サイコデミック”も開発できそうですね。

五嶋もちろんできると思います。舞台が東京から変わるかどうかはわかりませんが、私たちとしても可能であれば続編は作りたいと考えていますので。

――アドベンチャーゲームが増えている中で今井氏がシナリオを手掛ける新作をGGAがリリースするのは非常に楽しみです。謎解きも独創的で凝っているなと感じました。

五嶋そうですね、同ジャンルの作品が増えるなかで、新システムや世界観などゲームとしての独創性がより大切だと思っています。『東京サイコデミック』はGGAが手掛けるコンシューマー向け新規IPの第1弾タイトルだからこそ、「GGAらしさが感じられるゲーム」をユーザーに実感してほしい。そういった想いもありまして、開発を進めてきました。

――実写と2Dを組み合わせるのも挑戦的ですよね。このアイデアが生まれた経緯は?

五嶋今井氏が神崎やアシスタントプロデューサーの石井(政仁氏)とアイデアを出し合う中で生まれました。開発メンバーで新しいゲームシステムやこれまでにない謎解きゲームを考え抜いた結果、実写と2Dを組み合わせる演出がベストだという結論にいたったようです。

――『東京サイコデミック』はとくにどういった方たちに遊んでもらいたいですか?

五嶋アドベンチャーゲームが好きな方はもちろん、多くのゲームファンの方たちにもぜひ遊んでもらいたいですね。家庭用ゲーム機向けソフトはパッケージ版も用意していて、初回特典としてオリジナルサウンドトラックCDを同梱する予定です。

以前、グラビティで『グランディア HDコレクション』のアジア地域でのマーケティングを担当したのですが、このタイトルはパッケージ版とダウンロード版の売上の比率が9:1で、圧倒的にパッケージ版のほうが売れました。

 近年はダウンロード版が勢いを増していますが、パッケージ版を展開することも大事なんだなと痛感しましたね。

――『神箱』のプロジェクトがスタートした経緯も教えてください。

五嶋『神箱』は、グラビティを代表するIPに育てていきたいという考えから立ち上がったプロジェクトです。そこで、最初に世界観や地域、歴史などの情報をまとめた100ページのコンセプト資料、私たちはワールドガイドと呼んでいるのですが、この資料を作るところから始めました。

 ワールドガイドが約3年前に完成し、そこから開発がスタートしたのですが、『神箱』はGGAがリリースするコンソール向けRPGの第1弾となります。これまでの市場にない体験が楽しめるRPGゲームを作りたくてパズル、クラフト、バトル、そしてマッピングの要素を取り入れました。

――『神箱』は要素が満載で、いい意味で簡潔に説明するのがちょっと難しいですよね。

五嶋私たちは“ワールドクラフトRPG”と名付けています。要素が多いですし、『東京サイコデミック』と同時開発だったので、開発チームは苦労が多かったと思いますが、彼らががんばってくれたことで多くの要素がうまくまとまっていますし、世界観も丁寧に作り込まれていると自負しています。

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『神箱』はクラフト、パズル、バトルの3つのジャンルが組み合わされたワールドクラフトRPG。プレ
イヤーは主人公の“修復者”として世界を修復する旅を楽しめる。

――『神箱』の今後の展開も楽しみです。今後のチャレンジや展開など何か考えているものはありますか?

五嶋そうですね。どういった形になるかはわかりませんが、『神箱』は新規IPとして育てていきたいので、同じ開発メンバーで今後の展開も考えていきたいです。

 今回リリースする『神箱』は、この1本でストーリーがちゃんと完結するようにしていますが、描かれるのは作成したワールドガイドの広大な世界の、長い歴史の中のほんの一部分にしかすぎません。開発スタッフの中にも描きたいエリアや歴史があると思うので、今後の作品で発表できたらうれしいです。JRPGや、やり込み要素が好きな方は楽しんでいただけると自負しています。

ゲーム会社であり続けるためにイベントには積極的に参加

――GGAは、国内外のさまざまなゲームイベントに積極的に出展されています。狙いや手応えについてお聞かせください。

五嶋グラビティはこれまで世界で開催される数多くのゲームイベントに出展してきました。GGAもゲームイベントに積極的に出展しているのは、私たちはゲーム会社であり、今後もゲーム会社であり続けるという意思表示の意味合いが強いですね。やはりゲームイベントには、多くのゲームユーザーが集まりやすいので、そこで認められるようなゲームを開発、ソーシングをしていく。世界中のゲームユーザーや開発会社との出会いも大切にしながら、新たなゲームを生み出したいと考えています。

それに2年以上にわたってゲームを運営する中で、オフラインのイベントでユーザーと直接触れ合う機会を設けないとダメだよね、長く愛されるIPに育たないよねというのがわかっています。新規IPのタイトルも積極的にオフラインのイベントに出展していこうというのが会社の方針になります。

――GGAは昨年末に行われた“コミックマーケット 103”に初出展されましたが、これはオフラインイベントでの情報発信や交流を大切にしようとする考えからなのでしょうか?

五嶋はい。会社の方針として、いいゲームを作り続ければ、おのずと結果は出ると信じて開発を続けてきました。今後もこの方針は変えずに、新しいゲーム開発にどんどんチャレンジして、より多くの方に弊社のタイトルを届けていきたいです。

グラビティグループには、こんなにおもしろいゲームがあるんだよとアピールしていきたいですね。これから新しいタイトルをどんどんリリースしていきますので、応援していただけるとうれしいです。

――さまざまなタイトルのグローバル展開を進める中で、GGAは日本市場をどのように考えているのか教えてください。

五嶋日本は市場としてだけではなく、モノ作りの観点から見ても非常に重要だと考えています。日本生まれの高品質なゲームを海外で展開することによってビジネスチャンスが生まれると思いますし、それが日本に拠点を置くGGAの重要なミッションなので。それに今回は今井氏といっしょにゲームを開発していますが、今後も日本のゲームクリエイターとおもしろい作品をどんどん出していきたいですね。

――GGAの今後の展開がますます楽しみです。

五嶋グラビティの業績が順調に成長していますし、新規事業に対して積極的に投資を進めています。まずは『東京サイコデミック』や『神箱』の新規IPを成長させながら、ほかのタイトルも1本1本丁寧に開発を進めていきますのでご期待ください。

私は昔の日本のアーケードゲームが好きなので、レトロゲームIPのリメイクや移植にも注力していきたいです。日本だけではなく、韓国にも私のようなレトロゲームのファンが多いので、喜んでくれる方は多いのではないでしょうか。

――確かに喜ぶファンは多いでしょうね。好きなことにチャレンジできるのもステキだなと思います。

五嶋好きなことにチャレンジさせてくれるのもグラビティのいいところですね。事業を成功させるカギは、スタッフの熱意も重要だと思います。会社もそれをわかってくれているので、これをやりたいと積極的にアピールする人間にちゃんとチャンスを与えてくれます。私はゴルフ好きということもあって、じつはJLPGAのプロジェクトにも携わっているんですよ。

――それは役得ですね(笑)。会社が新規IPを生み出そうと積極的ですし、やる気のある人間にちゃんと役割や仕事を与えてくれる。だからこそ着実に進めてきたことが実を結んで、2024年に『東京サイコデミック』や『神箱』がリリースされるということがよくわかりました。

五嶋GGAとしては、「いいゲームを作り続ければおのずと結果が出る」という方針のもとで、これまでゲーム開発を進めてきました。まずは『東京サイコデミック』と『神箱』を皆さんのもとにお届けできますが、今後も変わらぬ方針でゲームの開発や運営を続けていきたいと考えていますので、応援していただけるとうれしいです。

グラビティは2000年の設立以降、ゲーム事業をグローバル展開してきましたし、20年以上愛されている『ラグナロク』というIPを生み出すことができました。今後も長年親しまれる新規IPをどんどん生み出して、日本の皆さんに愛されるようにがんばっていきたいと思います。

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