2023年12月6日(水)、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がプレイステーション5(PS5)用機器“Access コントローラー”をとうとう発売した。

 DualSenseなどの従来のコントローラーは両手で握ることを前提に設計されていたが、本機は据え置きが基本。ユーザーの障がいに合わせてボタンの形状や位置などを自由にカスタマイズできるのが特徴だ。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 “ひとりでも多くの人にゲームを届けたい”という信念のもと、さまざまな身体障害に対応し、配慮の行き届いた斬新な形状により、2023年のグッドデザイン賞金賞を受賞した。大手企業が率先して障害者対応に取り組んだ意義は大きい。

 先行レビューの機会をいただいたので、実際の使用感をお伝えしよう。体験してもらったのは、車いすラグビー日本代表の長谷川勇基選手(文中では長谷川)。

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【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 小学生時代から水球に親しみ、15歳で全国大会に出場。17歳のころに事故により頸椎を損傷し、車いす生活となった。

 その後、リハビリの一環で始めた車いすラグビーの虜になり、日本代表へ。車いすラグビーではいちばん障害が重くローポインター(※)として活躍している。

※車いすラグビーでは障害の程度によって、各選手に3.5点〜0.5点の持ち点が設定されている。そして、原則として大会では合計点数8点以下になるように5人チームを構成しなければならない。これは、障害の軽い選手から重い選手まで平等に出場機会が与えられるようするためのものであり、長谷川選手は障害のランクがいちばん重いので0.5点を持っているローポインターと呼ばれる選手に分類される。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」
写真左は本稿の筆者・和久井香菜子。長谷川勇基選手(写真右)は車いすラグビー選手として2021年東京パラリンピックに初出場し、銅メダルを獲得している。

和久井長谷川さんのゲーム経験を教えてください。

長谷川妹がふたりいるので、昔は『桃太郎電鉄』などのパーティゲームを家族や友だちと遊んだり、あとは『ポケットモンスター』などのRPGや『メタルギアソリッド』シリーズなども好きでした。事故のあとはほとんどやっていなかったのですが、最近また少し遊んだりしています。

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腕の左右の稼働範囲はここまで。鎖骨より下の部分は動かすことができないので、コントローラーを構えて前傾姿勢を保つのが厳しい。

和久井そうなんですね。ではさっそくですが、まずはボックスを開けてもらえますか?

長谷川僕、ぜんぜん力ないですよ……。ん? 軽っ!

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箱を止めているテープは簡単に破れるようになっている。
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箱の手前側の側面が倒れるようになっており、そこを押さえながら開けることができる。
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【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」
箱の中の部品も取り出しやすいようになっている。

 開発側がこだわったデザインのひとつが、この片手でほとんど力を入れずに開けられる製品の梱包箱

 取っ手のリングに指を引っかけて軽く引っ張るだけでテープが破け、ボックスのフタが開くようになっている。

 長谷川さんは、梱包箱を開けるのにカッターで必死になって苦戦した覚えがあるとのこと。早く開けて中を見たくともそれができない。ひとりで開けることができないので誰かに手伝ってもらうまでお預け。そんな体験をした方もいるのではないか。

和久井中の部品はボックスの手前側面を倒して押さえるんですね。これもきっと当事者監修のもとで、設計したんだろうな。SIEの開発者が「箱にこだわった」と真っ先に語るわけです。

長谷川細かいボタンも自分で取り出せますね。

和久井ちょっと感動しています。マジでSIEは本気だ!

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 長谷川選手は最近Nintendo Swittchを購入して『あつまれ どうぶつの森』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』、『スーパーマリオRPG』、『ドラゴンクエストビルダーズ』、『モンスターハンターライズ』などを遊んでいるという。

 ふだんはコントローラーを膝の上に置き、両手とも握力が無く指が動かせないため、左の手のひらで左スティックを操作、右手全体でボタンを叩くように押してゲームをプレイしている。右スティックとボタンの同時押しはできない。瞬発的な操作が苦手なため、RPGなど自分のペースで操作ができるゲームが多い印象だ。

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 ちなみに、アクションゲームである『モンハン』は、ほかのプレイヤーに手伝ってもらいながら遊んでいる。ガードボタンが押せないので諦めて武器は太刀一択。飛び掛かるアクションなどもできず縛りプレイのようになっている。

 「ゲームを買う前に操作方法を調べます。公式サイトに載っていなければYouTubeなどの動画配信で確認します。操作が多いと買うのをためらっちゃいますね」という言葉が印象的だった。

『グランツーリスモ7』で意外な既視感

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 まずは『グランツーリスモ7』を遊んでもらった。
 
 必要な操作はハンドルとアクセル・ブレーキといった最低限の3つ。Access コントローラーは2台つなげて使うことを基本としているが、『グランツーリスモ7』の場合は左スティックとR2とL2を1台のコントローラーに割り当てるだけでプレイできる。

 今回は“ミュージックラリー”というモードで遊んでもらった。チェックポイント通過によって制限時間を増やしつつ、首都高速道路を音楽を聴きながら運転。1曲完走を目指すというルールだ。

和久井コントローラーはどこに置きますか?

長谷川足の上でお願いします。腹筋が使えないので、机の上に置くと、どんどん机と車いすが離れたり位置がずれたりするんです。

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長谷川これ写真じゃなくて全部CGですか? 絵がきれいすぎて、そっちの感動がすごいですね。

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和久井首都高、きれいですよね。本物みたい。

長谷川お台場の体育館に車で通っているので帰り道です。一昨日通ったなぁみたいな。

和久井想定外の感想!!

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車を運転しているときの様子。ふだんは自分で運転してラグビーの練習に向かうとのこと。

長谷川プレイは問題なくできますね。スティック(でのハンドル操作)はもちろん、アクセル・ブレーキも押せます。

和久井試しにDualSenseでもプレイしてもらっていいですか?

長谷川あ、固いですね! 指の感覚がないので、どこに当たっているか確認しないとダメなんですが、ずっと押しっぱなしだと疲れるんです。いつの間にか押し返す力に負けて離しちゃってますね。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」
Access コントローラーのほうがボタンを押しやすいようだ。

 結論から言うと、どちらのコントローラーでも時間内に完走はできた。ゴールできたという点では、どちらのコントローラーを使ってもプレイ可能と表現できる。

 しかし、DualSenseは形状やボタンの重さなどでプレイしづらい点があったようだ。一方、Access コントローラーは少ない力でも操作可能で、ユーザーが押しやすいようにボタン配置できる。そのため、よりストレスなくゲームを遊べていた。

意外な使い心地のよさが判明

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 つぎは『みんな大好き塊魂アンコール+王様プチメモリー』をプレイしてもらうことに。

 こちらは基本的には左右のスティックだけで遊べる作品だ。Access コントローラーは1台につきスティック1本という構造なので、2台同時に接続してプレイすることになる。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

長谷川世界観がすごい……。2台だとでかすぎるのかな、脚からはみ出ちゃうからなのか、動かしにくいですね。

和久井台に乗せたらどうかな……。お盆があったよ!

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でかした!
【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

長谷川お盆のおかげで安定したけれど、自分のように膝に2台置いているとプレイしている間にずれちゃうので、若干やりにくいです。

和久井DualSenseでプレイしてみましょうか。

長谷川あ、こっちのほうがプレイしやすいかも。

和久井長谷川さんの場合、2台使うためにコントローラーを固定するとか、何かやりやすい方法を考えたほうがよさそうですね。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」
DualSenseは右スティックを右手の指先で、左スティックを左手首で操作をしていた。

 障がいの内容は人それぞれ。開発者は「どのようなコントローラーを作るべきか」というのが、ひとつの大きな課題だったと説明していた。「このゲームにはこの設定」という正解も人それぞれで異なるのが、自身の特性に合わせて設定を変えられるAccess コントローラーの特徴だ。

 以前取材したAccess コントローラー体験会では、車いすに固定する器具を取り付けてプレイしている方もいた。また、今後はさまざまな形状の外部ツールなども今後発売されたりしていくとのことだ。

『メタルギアソリッド3』に15年ぶりの本格トライ!

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 最後にプレイしてもらったのは長谷川選手にとって思い入れがある『メタルギア ソリッド:マスターコレクション Vol.1』。

 昔よく遊んだゲームだが、事故後に久しぶりに触ったところ、5分で諦めたという。理由はコントローラーを握り込めないこと。指を2本以上使う動作は難しく、銃を構えながら打つ動作ができなかった

 その後もシリーズ作品の情報などは収集していたが、プレイは断念せざるを得なかった。ついに今回、15年ぶりに『メタルギアソリッド3』を本格的にプレイすることに。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

和久井必要なボタンを配置してみましたが、ボタンの場所とか改善案はあります?

長谷川つい、いつものクセで与えられた状況に慣れようとしちゃうんで、パッとは言えないですけど……。

和久井そうなんですよね、不便が当たり前と思っていると、なかなか改善案が思いつかないこともありますよね。じゃあボタンは山、谷と交互に配置して、一応全部のボタンを割り当てましょう。スティックを押すとL1。どうですか?

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」
Access コントローラーにはさまざまな形状のボタンが付属しており、簡単に交換できる。

長谷川撃つときにR1で一人称視点にして、□ボタンで撃つんですけど、これ一度に押すのが少し大変ですね。

和久井じゃあ、Access コントローラーの設定でひとつのボタンにR1と□を割り当てたらどうかな。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

長谷川(銃を)構えられましたっ! いままでは絶対無理だったのに……。でも、このままだとボタンを離すと同時に発砲してしまうので、あとは銃を構えるだけの動作ができれば完璧です。

和久井では、R1と□ボタン同時押しのほか、R1ボタンだけのボタンも別につけましょう。ボタンが組み合わせられたり、別の場所に個別に置けたりするのも考え抜かれて作られたって感じですね。

長谷川スティックを押し込むときに動いちゃうから、別のボタンを用意したほうがいいかな。

和久井実際に遊んでみてどうでしたか?

長谷川銃を撃てているということに、ただただ感動です!

和久井これから遊んでみたいと思いますか?

長谷川いままで遊べるとすら思っていなかったのですが、ボタン配置など最適化して『メタルギアソリッド』を遊んでみたいと思いました。

Access コントローラーが購入射程範囲に入った!

和久井久しぶりのプレイステーション、いかがでしたか?

長谷川プレイステーションは操作が難しいイメージがあったんですが、希望が見えました。PS5がほしいですね。使いこなせればオンライン対戦も行けるかも。

【Access コントローラー】指が不自由なパラリンピックメダリストが思い出の『MGS3』に挑戦。「銃を撃てることに、ただただ感動です!」

 今回のテストでは3つの異なるタイトルを遊んでもらったが、ゲームやスティックやボタンの配置によってはDualSenseのほうが便利なものもあった。

 長谷川選手は車いすラグビー選手としてはもっとも状態の悪いローポインターだが、ゲームプレイしてみると“意外と動ける”という印象。

 それもそのはず。車いすには完全に自力で漕ぐものから電動アシスト付き、さらには完全に電動のものまである。長谷川選手は自力で車いすを漕げるので、車いすゲームプレイヤーの中では動けるほうなのかもしれない。

 Access コントローラーのもっとも優れた点は、カスタマイズの自在さだろう。人やゲームの種類によってDualSenseとAccess コントローラーを組み合わせられる。今回のテストでも、もっと時間と設備があれば、ベストなコントローラーの位置や角度、ボタンの組み合わせ探したり、固定するなどのトライができただろう。

 なんなら私がDualSenseを使い、長谷川選手がAccessコントローラーを使って、“2人1役”でプレイも可能だ。「僕が移動で、君が銃撃」なんてことをやってみたい。

 実際にAccess コントローラーを試してみて、単体でも2台でも使え、外部機器やDualSenseと組み合わせられることがどれだけ便利か実感した。そして、ベストなセッティングは実際にプレイしないとわからないことも。しみじみ、よくできた仕様だと思う。

 和久井は夢を見てしまった。

 ケガを負う前は水球で全国大会に出場したという長谷川選手。

 車いすラグビーでもパラ選手として全国大会どころか世界で活躍中だ。

 つぎはeスポーツ選手として全国に行って、水球、パラ、eスポーツの三冠を達成してほしい

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