2023年10月4日より、アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』が放送開始された。マイクロソフトのOS“Windows95”が発売される以前、おもにNECのパソコンPC-9801シリーズをプラットフォームに花開いた美少女ゲーム文化をフィーチャーしたこの作品には、1990年代に発売されていたパソコンやゲームソフトがあれこれ登場する。

 この記事は、家庭用ゲーム機に比べればややマニア度が高いこうした文化やガジェットを取り上げる連動企画。書き手は、パソコンゲームの歴史に詳しく、美少女ゲーム雑誌『メガストア』の元ライターでもあり、『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』にも設定考証として参画しているライター・翻訳家の森瀬繚(もりせ・りょう)氏。

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アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』(Amazon Prime Video)

画面仕様とパッケージの変化

 『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』も、そろそろ物語の折り返し地点を迎え、相変わらずPC-98にこだわり続ける六田守はさておき、1999年ともなると美少女ゲームのプラットフォームはすっかりWindows系OSへと移行していた(注:Windows 98 Second Edition日本語版の発売が1999年9月)。

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 とはいえ、グラフィックスボードの性能や実装可能なメモリ、当時のモニタの解像度などの制約があったので、まだまだ発展途上の段階ではあった。

 1999年時点で、美少女ゲームジャンルを含むほとんどのゲームソフトの画面仕様はVGAサイズ(640×480)に256色(8bitカラー)。Windows95以降のWindows系OSが稼動するPCは、CD-ROMドライブと大容量のHDDを搭載しているのが常であり、FDベースの時代に必要とされた画像圧縮が必ずしも必要となくなった(そのため、一部の新興メーカーを中心に、むき出しのBMPやJPG形式の画像を拡張子のみ変えただけ、さもなくばそのまま放り込んだシンプルな作品も存在した)。

 とはいえ、初期のWindows用美少女ゲームの多くがBGMをCD-DA(※)で流していたこともあり、640MBの容量をすべて画像データに使用できたわけではなく、Adobe Photoshopなどのグラフィックスツールで作成した65536色(16bitカラー)以上の色数の画像を、OPTPiX(ウェブテクノロジ社のゲーム開発向け画像編集ソフト)などのツールで256色に減色するのが常だった。

※編注:Compact Disc Digital Audioの略称で、一般的な音楽CDに収録されている音楽形式。

 Windows向け美少女ゲームの画面サイズがSVGAサイズ(800×600)、トゥルーカラー(1677万7216色、24ビットカラー)へと移行しはじめたのは作中時期から数年が経過した2002年ごろのことで、2000年ごろから市場に出回り始めたDVD-ROMドライブ搭載のパソコンがじゅうぶん普及するのを待った上でのことである。

 プラットフォーム過渡期における変化といえば、パッケージについても大きな変化があった。

 8ビットパソコンの全盛期からPC-98末期にいたる国産非AT互換機の時代を通して、パソコン用に発売されたゲームソフトのパッケージは、DVDトールケースをふた回りほど大きくしたような、大きくかぱっと開くブックタイプのプラスチックケースが主流だった。

 CD-ROMドライブを搭載するNEC PC-9821シリーズや富士通 FM TOWNSのゲームソフト向けに、フロッピーディスクのみならずCDケースを収納できるタイプも登場していたので、Windows3.1のころにはまだこうしたプラスチックケースがふつうに使われていた。

『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
1980年代中期からPCソフトの標準的なパッケージとなったブック型ケースの外身と中身。ソフトは光栄(当時)のFM-7版『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』(所蔵:RetroPC Foundation)
『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
1990年代に入るころから使用され始めた、従来のものよりも大きめかつ硬質になったブック型ケース。ソフトはC's ware『EVE burst error』で、多数のFDメディアもしくはCD-ROMの収納に適している。(所蔵:RetroPC Foundation)

 これがWindows95時代に入ると、旧来のプラスチックケースは、ごく一部の例外を除いてぱったりと姿を消してしまう。

 1995~96年ごろにWindows専用の美少女ゲームで使用されていたパッケージには、いわゆるキャラメル箱(サック箱ともいう)タイプの紙パッケージもあったが、そのほかにも以下の3種類のパッケージが使用されていた。

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CDジュエルケースタイプ

『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
PC-98からWindowsへの過渡期に散見された、CDジュエルケースタイプの美少女ゲーム。サンプルはLeafのWindows95版『痕』(所蔵:RetroPC Foundation)

 第1に、音楽CDなどに用いられているスタンダードなCDジュエルケース。

 マニュアルは中綴じのブックレット形式で収められていたため、ページ数に限界があった。

 家庭用ゲームの世界においては、PCエンジンのCD-ROM^2に始まり、セガサターンやプレイステーションなどでCDジュエルケースでのゲーム販売が普通に行われていたため、それほど違和感はなかった。美少女ゲームメーカーで言えば、PC-98時代にすでにCD-ROMドライブ対応ソフトをCDジュエルケースでリリースしていたアリスソフトやデザイアー、そして『To Heart』以前のLeafの作品などが挙げられる。

 このタイプには、従来のプラスチックパッケージに比べて制作費用が軽減され、在庫保管についても場所を取らないという利点があったが、欠点もあった。コンパクトなサイズが災いして個々のソフトの特徴をパッケージでアピールすることが難しく、ユーザにとっても店頭で目当てのソフトを探すのが面倒になった。また、家庭用ゲーム、PCゲームの双方で並行して進んだビッグゲーム化の中で、よりボリュームの大きい紙資料(ワールドガイダンスなど)が求められたため、CDサイズのオフセットマニュアル・ガイドブックといっしょに紙ケースに収納するソフトが増えてきたのである。

 結果、プラスチックケースのころとあまり変わらない制作費になり、変則的なサイズになると、ショップの棚での並べ方にもひと工夫が必要となり、扱いが面倒になった。長いことCDジュエルケースを採用していたアリスソフトも、1998年の『パステルちゃいむ』以降は現在主流の紙パッケージに移行し、今世紀に入るころにはこうしたむき出しのCDジュエルケースを採用しているメーカーはほとんどなくなった。

CDサイズの紙タイプ

 第2に、変則CDケースとも言うべきCDケース大の紙ケース。

 2箇所で折れ曲がり、CD-ROMメディアをはめ込むプラスチック部が真ん中、もしくは一番右に配置された。D.O.やzyx、フォスター、ScooPなどのメーカーで採用されたのがこのタイプで、マニュアルは薄いブックレットタイプ。インストール方法やユーザサポートなど、解説の一部がケースの内側に印刷されているのが特徴だった。

DVDよりも縦型な紙タイプ

 第3に、DVDトールケースを縦長に伸ばしたようなサイズの薄い紙パッケージ。

 ALTACIAやPlatnum Softなどのメーカーの一部作品や、後に同人ソフトにも採用されたこれは、Windows3.1やMacintosh向けに数多く発売されていたマルチメディアCD-ROMソフトが採用していたパッケージである。

 いまとなっては忘れ去られて久しいが、CD-ROMドライブとマルチメディア対応OSが登場したころ、そのものズバリ“CD-ROMソフト”と呼ばれる、媒体の呼称を冠した製品ジャンルが存在した。後にAdobeに買収されたMacromediaの『Director』などのマルチメディアオーサリングエンジンを用いて開発され、ゲームというわけではないのだが、簡単なコマンド選択や画面上のアイコンをクリックすることで進行するつくりになっていた。CD-ROMメディアの容量の大部分をムービファイルで使用する“インタラクティブムービー”と称するソフトが大量に販売されていた。

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 現在見られるような、ブックタイプの紙パッケージを採用した美少女ゲームは、1997年ごろに登場し、世紀をまたがるころには主流となっていた。

 そのルーツを遡ると、PC-98時代のelfの『下級生』、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』あたりから始まったもののようである。この紙パッケージについても標準フォーマットが存在するというわけでもなく、メーカーごと、タイトルごとに様々なパッケージが採用され、現在に至っている。

『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
『下級生』『痕』『EVEバーストエラー』などWindows時代の美少女ゲームのソトミとナカミ【『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』連動企画第7回】
パソコン用ゲームソフトの歴史を通して最多のFD枚数(17枚組)だと思しい、elfの『下級生』(1996年)。この時期、elfの98用ゲームには紙製のブック型ケースが採用された。(所蔵:RetroPC Foundation)

恋愛ゲームのスタイル

 『To Heart』(Leaf、1997年)、『ONE ~輝く季節へ~』(1998年5月)、そして『Kanon』(key、1999年)などのヒット作を通して、1999年当時の美少女ゲームの標準的な構成は、4人~6人程度のヒロインの好感度がフラグスタック、ないしはステータス値によって管理され、最終的にその中のひとりとエンディングを迎えるというものとなっていた。

 この“4人~6人程度”というのは、10年以上の月日をかけて蓄積されたノウハウによって到達した多すぎもなければ少なすぎもないいわば“黄金数”であり、最低限の数の属性キャラクター(幼なじみ、義妹、不良っぽい女の子、年上の女性、委員長、不思議少女、ツンデレお嬢様などなど)を取り揃えつつ、主人公(プレイヤーキャラクター)も含めた主要登場人物の人間関係を物語中でしっかり描くことのできるのに適した人数である。

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 これが10人を超えてしまうと人間関係は複雑どころの騒ぎではなくなり、一本道のコミック作品ならばいざ知らず、マルチエンディングタイプのゲーム上でその関係性をしっかり描くのはなかなか難しい。たとえば、2000年にヒットしたプレイステーション用ゲーム『高機動幻想ガンパレード・マーチ』のように、ある種の工学的AIを用いた処理方法も存在するが、どの道、そこにある“物語”についてはプレイヤーの想像力で補うほかはない。

 美少女ゲームの勃興期、単純にバラエティー豊かなヒロイン達を取り揃えることに主眼がおかれていた1990年代前半において、現在の美少女ゲームのスタイルを決定付けたとも言えるエルフの『同級生』(1992年)のヒロイン数は14人(コンシューマ版の追加ヒロインが3人)、KONAMIの『ときめきメモリアル』(1994年)のヒロインは13人だったが、これらの2作品における登場人物の関係性は多くの場合、主人公とヒロイン間の一対一のものであり、主人公を取り巻く社会的な人間関係についてはプレイヤーの脳内で補完するしかなく、プレイヤーに与えられた自由度と選択肢の反面、物語の“広がり”には乏しかった。

 『同級生』から『To Heart』(1996年)へと至る4年間は、言ってみれば“美少女ゲーム(恋愛シミュレーションゲーム)”というエンターテインメントをいかにパッケージングするかについての、試行錯誤の時代だった。

 ヒロインの人数が増減し、Hシーンの回数が増加し(いわゆる調教SLGは除外するとして、ひとりのヒロインに対して複数回そうしたイベントが用意された作品は、PC-98時代の終わり頃に出現している)、物語の表現技法が様々に工夫される中、“ひとりのヒロインとの関係をとことん描いてみよう”という作品も登場した。その両極にあるのがガイナックスの『プリンセス・メーカー』と、アリスソフトの『あゆみちゃん物語』である。前者は一般向け作品だが、“美少女を自分色に染める”という、言葉に出してみるとやや背徳感の漂う育成タイプのゲームは成人向け作品と親和性が高く、PILの『SEEK』、ハーベストの『sela』といった作品を通して、美少女ゲームジャンルに持ち込まれた。同じく“自分色に染める”という点では同じ方向性を目指しつつ、パラメータを排除し、シナリオ分岐とフラグ管理のみで美少女とうれしはずかしい日々を送る後者は、『あゆみちゃん』のようなエンドレス・ゲームでこそないものの、アーヴォリオの『sex』シリーズなどの後続作品を生んだ。

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 少なくとも20世紀中において、特定のヒロイン1名との甘い生活を描く美少女ゲームタイトルは、その多くがゲームスタイルにおいて『プリンセス・メーカー』と『あゆみちゃん物語』を踏襲しているのだが、多人数を用意しておけばその中にひとりぐらいは好みのヒロインが存在するだろうという複数ヒロイン作品の持つ利点を排除した結果、肝心要のヒロインがユーザの好みに合致していないと購買欲が刺激されないという、ある種の敷居の高さが生まれてしまったことは否めない。

 いかに人間は中身だと綺麗言を並べたてようと、おっぱい星人とナイチチ愛好家のあいだに横たわる闇は深く、そして暗いのである。

 ならば、肝心要のヒロインをプレイヤーのお好みでエディットしてしまえばいいじゃない? という、誰もが考えそうでいて、実現はなかなか難しいアイディアを最初に実行に移したのが、1993年に発売された『カスタムメイト』である。発売元は当時人気絶頂にあったカクテル・ソフトで、第一作ではあらかじめ用意されたプレロールドキャラクター9人について年齢層、バストとヒップのサイズを選択することができるという程度のものだった。翌1994年の『カスタムメイト2』になると、“教育実習生と生徒”、“患者と看護婦”といったイメクラめいたシナリオシチュエーションや、ヒロインの性格、髪型、体型など選択の幅が一気に広がり、徐々に“ヒロインエディット”と呼ぶことができる域に近づいた。この1・2作目では、“お好みのヒロインをカスタマイズ”するというアイデアの実現にとどまった実験作で、ストーリーラインは単にヒロインとHするだけという、1990年代前半期の平均的な美少女ゲームと特別変わるものではなかった。しかし、1995年12月発売の『カスタムメイト3』では、前述した“特定のヒロイン1名との甘い生活”スタイルのゲームにヒロインエディットを持ち込んだもので、結婚相談所“カスタムメイト”で紹介されたヒロインと、1年間の結婚生活を楽しむという野心作となっていた。

 外見や性格、性体験などの選択肢はさらに幅が広がり、性格付けによってプレイヤーキャラクターとの接しかたも変化するなど、システム的にも大きく進歩した。のみならず、淫乱度というパラメータが導入され、数値によってH時に選択可能なアクションが増減するなど、育成ゲームの要素も持つことになった。

 こうしたヒロインエディット路線は、1999年に1作目が発売されたKissの『カスタム隷奴』シリーズなどに受け継がれている。

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筆者注:本稿では、『X指定FILES』(『メガストア』連載記事)第49回、第57回のテキストを部分的に再編集して使用しております。

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