おれは繁殖行動をする。
いまこの瞬間、東京ゲームショウ史上もっともセクシー(本来の意味で)な決意表明が行われた。TGS2023のインディーゲームコーナーで『Adapt』を遊んだときのことである。
海外パブリッシャーのSlug Discoが展開する『Adapt』は、大自然の掟シミュレーターみたいなゲームだ。オリジナルの動物を作って大地に降り立ち、目的はとにかく生きること。
食料を見つけて食べる。敵対する相手を倒す(自分が肉食動物だったら相手を食えるのかな)。捕食者から逃げる。いい感じの場所に巣を作って居つく。そういうことをしていくゲームらしい。
神じゃなくてよかった。
ゲームを起動したらMMORPGのキャラメイクみたいな画面が開いた。好きなパーツを胴体にくっつけ、ドラッグ&ドロップで腕や脚が生える場所を決める。
“手は2本まで”みたいなルールはなく、また腕を肩のあたりにつける必要もない。頭の横に生やしてもいい。千手観音みたいにしてもいい。いわゆるコスト制を採用しており、全パーツの合計値が規定ポイントをオーバーしなければ大丈夫。
馬や孔雀、猫科の動物のような“自然の造形美”を目指して励んでいたところ、困ったことが起きた。どうやってもキモくなってしまうのだ。
脚の位置や胴体の長さを変えると自動的に体の傾きが変わり、歩きやすい姿勢になる。おそらく生物の骨格構造を計算に入れていて、よくできているポイントだと思うのだが、だからこそ気持ち悪さがより際立つ。
どうやら僕には生物をデザインする能力がないらしい。唯一理解できたことと言えば、“2足歩行で脚を長くするとたいていキモくなる”くらいである。
そう言えば絵を描くのが苦手である。昔、僕が描いた絵を見た友だちから「お前には世界がそう見えているのか」と戦慄されたのを覚えている。
もし僕が創造主だったらすべての生物がキモくなっていたところだ。神じゃなくてよかった。
手のつもりでつけたパーツは足だったようで、虫みたいにかさかさ動き出した。これはこれで愛嬌がある。そう思わないとやってられない。世の中に実在するおかしな動物が誕生したとき、神様もこんな気持ちだったのかな。
キャラメイクを終えて地上に降りたので、まずは適当に動き回る。そしてうまそうな果実を食べてお腹を壊す。この生物は植物食なので、果実食をしてはいけないようなのだ。大自然はいつも容赦がない。
恋の季節
フィールドを歩いていると外見の似た生物を見かける。同種のお仲間だ。この『Adapt』の目的は生存と進化。進化と言えば繁殖行動である。生物は命をつなぐことで強くなっていく。
子孫を残せと本能が騒ぎ出す。かわいい子にインタラクトして“求愛”を選択。僕にこんなイタリア人みたいな一面があったなんて。ゲームはいつも新しい自分に出会わせてくれる。さりげなく近づいて「どうしたんだい子猫ちゃん」と言ってやろう。
だが、その目論見は泡と消えた。逃げられてしまうのだ。
求愛しても誘っても相手にされない。何が悪いのかな。やっぱりキモすぎるのかな。
「押してもだめなら引いてみろ」という金言がある。なるほどそういうことかと後ろに下がったがだめだった。向こうは最初から全力で逃げるので、シンプルに距離が離れるスピードが2倍になっただけである。
いつだって男女の駆け引きは難しい。
まだチュートリアルや細かい操作説明はないので、どう求愛するべきかわからなかったのも原因のひとつだと思う。そう自分に言い聞かせる。
ところで、現場でゲーム内容を教えてくれたのは翻訳を担当された方。その人はうまく説明できないことを恐縮していた。というのも、少し前まで基本的なシステムを把握していたが、数日前に急にアップデートされてよくわからなくなったそうなのだ。
どうして大事な展示会の直前に仕様を変えてしまうのか。これぞクリエイター。わけがわからなくて最高である。
「PRのことはよくわからない。おれはとにかくゲームを作りたい」という原始的な衝動を感じる。世界を作る神様もクリエイターも、けっこうこういうものなんじゃないかな。
『Adapt』Steamストアページ