オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)で、最新アップデートとなるパッチ6.45がまもなく公開される。パッチ6.45では、青魔道士のアップデートや、ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンの第2弾となる“六根山(ろっこんせん)”など、多数のコンテンツが実装予定だ。

『FF14』ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョン開発者インタビュー。これまでの開発ノウハウが通用しなかった、まったく新しい4人用コンテンツの制作秘話

 今回は、パッチ6.25で実装されたヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンの第1弾“シラディハ水道”を手掛けた3名の開発者へのインタビューを実施。謎解き要素やルート分岐で物語の設定が楽しめたヴァリアントダンジョン、そして高難度の4人用コンテンツというこれまでにない挑戦をしたアナザーダンジョンの開発秘話をうかがった。

横澤剛志(よこざわつよし)

アシスタントディレクター。バトルのパラメータやダメージ計算式といった『FFXIV』の根幹とも言える部分の設計を始め、あらゆるバトルコンテンツの基礎部分を担当している。“シラディハ水道”ではヴァリアントダンジョン、アナザーダンジョンのベースの企画を作った。

石川仁寿(いしかわまさとし)

バトルコンテンツデザイナー。これまで、次元の狭間オメガ:シグマ編1やアルファ編2、希望の園エデン:共鳴編2、万魔殿パンデモニウム:天獄編4などを手掛ける。“シラディハ水道”ではヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンのメイン企画、ボスのシルキーを担当。

中川大輔(なかがわだいすけ)

バトルコンテンツデザイナー。次元の狭間オメガ:シグマ編4やアルファ編4、希望の園エデン:覚醒編4、絶アレキサンダー討滅戦、絶オメガ検証戦など多数のコンテンツを手掛けてきた。“シラディハ水道”ではボスのゼレズ・ガーを担当。

設計思想がまったく異なるふたつのコンテンツが合体!

――今回は、ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンの第1弾となる“シラディハ水道”の開発担当を代表して横澤さん、石川さん、中川さんの3名にお集まりいただきました。まずは、それぞれの担当パートをお聞かせください。

横澤ヴァリアントダンジョン“シラディハ水道”は、メイン企画は石川が担当していて、コンテンツの趣旨や必要要件をまとめた素案を作ったのが自分になります。

――『FFXIV』で新しいバトルコンテンツを作るとき、まずは横澤さんが基礎を作るイメージですが。

横澤ふだんの流れとしてはそうなのですが、“シラディハ水道”では「こういう要素を盛り込んでほしい」と石川に企画を依頼した形です。

――メイン企画は石川さんが担当されたと。

石川横澤からもらった必要要件をもとに、自分がコンテンツの詳細を詰めていきました。探索記の企画であったり、ルートの分岐ごとにどういう演出をさせるのかであったり、あとは報酬まわりなど、ほぼ全体の監修ですね。それに加えて、ボスのシルキーも担当しています。

――中川さんはどのあたりを担当されたのでしょうか?

中川私はボスのゼレズ・ガーのコンテンツデザインを担当しました。

――企画の全体像は横澤さんと石川さんで意見交換をして詰めていったのでしょうか?

横澤意見交換というよりは、必要事項を提示して石川に考えてもらいました。このコンテンツに関しては、石川のがんばりが大きいですね。

――そもそも、ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンの企画はどういった経緯でスタートしたのでしょうか?

横澤いまからちょうど2年くらい前の2021年7月に、「拡張パッケージに合わせて作る新しいバトルコンテンツをどうするか」という話がありました。そのタイミングで自分から吉田(吉田直樹氏。『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクター)にヴァリアントダンジョンのベースとなる企画を提案したのが発端です。

――当初はヴァリアントダンジョン単体の企画だったのですね。

横澤これまで、パッチ4.xシリーズで“禁断の地 エウレカ”、パッチ5.xシリーズで“南方ボズヤ戦線”、“ザトゥノル高原”と、多人数で遊ぶフィールド型のコンテンツにチャレンジしてきました。ですので、つぎは“少人数”をキーワードに新しいことをやりたいなというところから企画がスタートしました。

――横澤さんがコンテンツの必要要件を提示したとのことですが、その段階での企画の粒度はどのくらいだったのでしょうか?

横澤“少人数で遊べること”をコンセプトとして出したので、ライトパーティの4人はもちろん、ひとりでもふたりでも遊び心地や難易度が大きく変わらないようにしたいという点をまず固めました。そこから遊びとしての幅を出すために、“身内で気楽に遊べる”という部分にフィーチャーして、“話し合いをしながら進められる”、“何度でも遊べる”といった要素を取り入れたいなと。そのためにどういったものが必要かと考えて、“ルートが分岐する”要素があったらおもしろそうということで、段階的に必要要件としての素案をまとめていきました。

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――1~4人の人数可変式の少人数向けコンテンツ、ルート分岐の要素があるという部分までは、すでに素案の時点で存在していたのですね。そこから、アナザーダンジョンの要素はどういう過程で盛り込まれていったのでしょうか?

横澤アナザーダンジョンは後から追加した感じです。以前から「4人用の高難易度コンテンツがほしい」という声はいただいていて、それをヴァリアントダンジョンのリソースとうまく組み合わせれば実現できるのではないかということで企画を進めていきました。企画としては後付けの形ですが、開発は並行して進めていく形にはなりますね。

――ひとつのダンジョンでふたつのアイデアを実現したわけですから、かなり合理的な企画だったのですね。まさに一石二鳥のような。

中川合理的に見えるかもしれませんが、実際の作業は本当にたいへんでした……(苦笑)。

石川ヴァリアントダンジョンとアナザーダンジョンは設計思想自体がぜんぜん違うので、すごく苦労することになりました。

横澤ステージやモンスターなどのリソース面では確かに合理的ですが、まったく体験が異なる遊びがふたつ入るわけです。コンテンツデザイナーの作業量は2倍とは言いませんが、けっきょく1.8倍くらいにはなってしまったのではないかと思います。

石川最初は「やめよう」と言っていましたからね(笑)。

横澤長年いただいていた要望なので、なんとかチーム一丸となって作り上げました。

――ヴァリアントダンジョンとアナザーダンジョンは並行して企画を進めていったとのことですが、別々に担当者を立てたのでしょうか?

横澤同じメンバーがどちらも担当していました。ヴァリアントダンジョンをベースに、アナザーダンジョンの企画を詰めていった流れですね。高難易度レイドのノーマルと零式の関係に比較的似たような感じで、担当がどちらも考えるという体制でした。

――皆さんの顔ぶれを見るとベテランの方々が担当されているなと感じたのですが、意図的なものだったのでしょうか?

横澤新しいコンテンツの第1弾となるので、そこは狙って決めました。メインの企画を担当するのは石川しかいないなと。

中川ある程度の経験がある者がやらないと、何が起こるかわからないという状態でした。企画としてのリスクもあったので、経験のある僕たちが担当したという形ですね。

――なるほど。そういう意図があっての人選だったのですね。話は戻りますが、ヴァリアントダンジョンのルート分岐のアイデアは横澤さんの素案の時点ですでにあって、実際の分岐の条件といった具体的な内容を考えていったのが石川さんということですか?

横澤そうですね。

石川最初に提示されていたのは、人数可変、難易度可変でルート分岐がある、というものでした。じつはそれ以外に、 “マルチシナリオ”という案もあったのです。ですが、コンテンツのプレイ時間と、そのあいだに見せられるテキスト量を考えたときに、ボリューム的に無理だろうなと。その代わりになるものとして、“探索記”を提案した形です。

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重要なエッセンスとなっていた謎解き要素

――ヴァリアントダンジョン“シラディハ水道”には、ルート分岐に関する謎解きのヒントが道中や探索記などに散りばめられています。一部の解法はけっこう複雑で、ネットでの広がりを想定しているのかなと思うくらいの難易度に感じたのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

石川謎解きに関しては、自分の好みで難易度設定をしていきました。自分はリアル脱出ゲームなどの謎解き系のゲームもよく遊ぶので、それを参考にして「これくらいの難易度ならおおよその人が楽しんでもらえるだろう」と調整しました。もちろん、ネットでの広がりをまったく考えなかったわけではありませんが、ネットで意見交換をしながら進めるというよりは、独力でも楽しめるものにしたいという狙いがありました。

 第1弾の“シラディハ水道”では、公開されるまでここまでの隠し要素があるとは思われていなかったと思います。いくつもルートがあって、そこから最後の隠しルートを発見する。そういった楽しみかたをするなら「これくらいの難易度が妥当かな」というのが自分の中にあったので、第1弾ではそれを基準に難易度を設定させていただきました。

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――つぎの第2弾は“シラディハ水道”での経験を踏まえたうえで挑むことになりますが、仕掛けや難易度に変化は加えているのでしょうか?

横澤基本的な作りは変えていないです。プレイヤーの方々が身構えているからといっていろいろとやってしまうと、難しすぎるものになってしまう可能性もあるので、そこは考慮しすぎないようにしています。

中川第2弾以降は、自力で攻略するまで情報を遮断して挑むといった楽しみかたもできると思うので、プレイヤーに委ねられている部分もあるかなと思います。

石川まさに“身内で楽しむコンテンツ”ですので、そういう楽しみかたもしやすいかなと。

――“シラディハ水道”では、隠しボスの存在にびっくりしました。まさか特定のエモートを順番に使うことが条件になっていたとは(笑)。

石川じつは、隠しボスだけは事前にミニマップでわからないように、特別に対応してもらっているんです。ほとんどの場所はミニマップを見れば「この先も行けそうだな」ということがわかるのですが、あの部屋だけはそう見えないようになっています。

――ちなみに、第1弾の舞台を“シラディハ水道”にした理由などはあるのでしょうか?

石川最初は、タタルにスポットを当てたコンテンツにしたいと考えていました。ですが、彼女はサブクエストの“大繁盛商店”で忙しいとのことでした。その話を吉田としたときに、「ナナモ様はどうかな」とアドバイスをもらって、ナナモ様を掘り下げることにしました。ナナモ様に関連するエピソードでどれを使うとなったときに、シナリオ班や世界設定班と相談しながら、“シラディハ水道”に決まったという流れですね。

――登場人物ありきだったのですね。

石川そうですね。先にナナモ様があった感じです。

――ひとりの登場人物にスポットを当て、その人物にまつわるロアを掘り下げていくということ自体も構想段階から決まっていたのですか?

石川それは後からですね。ルートを分岐させるとしても、誰かがセリフを話さないとコンテンツを作りづらいので、特定のキャラクターをピックアップして登場させようと考えました。

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中川結果的に、それが実装ですごくたいへんになっているよね……。道中の担当者もナナモ様の演技づけをがんばってくれて。すごく苦労して作られたものなので、ぜひ注目していただけたらなと。

――作ったルート分岐の解かれかたや反響は想定通りでしたか?

石川最後の隠しボスが発見されるまでは想定よりも早かったですね。ネットで情報が拡散されるのが思ったよりも早くて、きっと多くの方は遊ぶ前から隠し要素があると知ってしまったのではないかなと。もっと難しくしてもよかったかなという気持ちと、第1弾としてはあれより難しくするのは無理があるなという両方の気持ちがありましたね。

――解かれる順番なども考えながら謎解き部分を作っていったのですか?

石川どういう順番で謎が解かれていくかは想定して作りました。天秤のルートの謎が最初にわかる想定で、その先の隠し部屋にメモがあって、そのメモを見ると別のルートでどの袋を調べればいい、というのがわかるので、ある程度の道筋は立てていましたね。

――なるほど。話を少し変えまして、ヴァリアントダンジョンでは専用アクションの“ヴァリアントアクション”が使えます。こちらのコンセプトは横澤さんが考案したものですか?

横澤人数や難易度が可変のコンテンツを成立させるためには、専用アクションが必要になるだろうと考えていました。その必要要件を伝えて、アクションの具体的な性能を考えたのは石川ですね。

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――ヴァリアントアクションは思い切った性能をしているように感じました。

石川人数可変というコンセプトに加えて、自由なロールの編成で遊べるようにするには、ロール間の能力差をできる限り削らないといけません。そこで最低限、必要なものはこれだろうと挙げていって、いまの形になったという感じですね。

――実際、DPSがタンク役を担えるなど、パーティ編成は本当に自由ですものね。

石川そうですね。ただ、タンクとヒーラーが使える“ヴァリアント・スピリットダート”だけは少し特殊な位置付けにしています。と言うのも、タンクとヒーラーはそれぞれできることがDPSよりも多いんです。タンクであれば防御バフを使って耐久力を高めたり、敵視を稼いで敵の注意を引きつけたりできますし、ヒーラーであれば回復に加えて、蘇生もできますよね。

 攻撃面のパフォーマンスを完全に同じ数値に揃えてしまうと、「タンクやヒーラーで行ったほうが楽」となってしまいます。それを避けるために、タンクとヒーラーの火力を下げさせていただいて、ヴァリアント・スピリットダートでそれを補うような設計にしたのです。

――ヴァリアント・スピリットダートが継続ダメージになっているのは、そういう理由があるのですね。

横澤こうした専用アクションは“禁断の地 エウレカ”でも実装していて、“こういうアクションがあればほかのロールの役割が果たせる”というノウハウがありました。ただし、今回はそれに加えて、どのロールでもパラメータを同じに揃えたのです。ヒーラーやDPSもタンク並みのHPや防御力があるので、そこは一歩踏み込んだ調整になったかなと思います。

――人数や難易度可変のルールは、コンテンツ作りにも影響はあったのでしょうか?

中川ソロとパーティでなるべく有利不利がつかないようにという要求はありましたね。

石川そこに対応するために、たとえば単純なダメージシェアや、人数によって難易度が変わってしまう散開ギミックは使わないようにしています。といっても、第2弾の“六根山”ではわかりませんが……(笑)。

中川ふだんのコンテンツ作りと気をつけるポイントがぜんぜん違ってたいへんでした。いつもと違うノウハウが必要になったのも、コンテンツをデザインするうえで難しくなったポイントですね。

――言われてみれば、高難易度レイドとはけっこう毛色の異なるギミックが目立ちました。

中川ふだんよく見るような攻撃パターンも、じつは“シラディハ水道”にはあまり出てこないんです。

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アナザーダンジョンは零式4層の水準で作った

――アナザーダンジョンはヴァリアントダンジョンの高難易度バージョンという位置づけですが、開発する際に重視したポイントをお聞かせください。

中川そもそも、「4人用で高難易度コンテンツって本当に作れるの?」というところからスタートして、かなりチャレンジしないといけないなという印象でした。

石川“異聞シラディハ水道”には異聞ノーマルと異聞零式のふたつの難度があります。しかし、開発当初は4人向けの高難易度コンテンツといってもどのくらいの難度が求められているのかがはっきりわからなくて、異聞零式だけ用意する想定でした。ただ、これを作っても皆さんが遊んでくださるのかという不安がありまして……。そこで、プレイヤーの皆さんに挑戦してもらいやすい難度として、異聞ノーマルが生まれたという経緯があります。

――最初は異聞零式だけの予定だったのですね。

石川そうですね。異聞ノーマルに関して開発中に重要視したのは、“みんなが遊んでくれそうな難易度に調整する”ところです。異聞零式に関してはチャレンジ的な側面が強いので、2回クリアーすれば報酬も取り切れるようにしました。

――異聞零式の報酬として用意されていたのは、調度品のシラディン・バナーとアクセサリのシルキーイヤリングのふたつでした。

石川そこはこれまでのディープダンジョンに倣っています。強い武器などではありませんが、クリアーした記念になるようなものを用意しました。

――ちなみに、横澤さんからはアナザーダンジョンを作るうえでのアドバイスなどはされたのでしょうか?

横澤彼らはコンテンツ作りのプロですから、そこはお任せです。彼らなら“4人だからこそできるギミック”もきっと考えてくれるだろうという信頼があったので。

石川4人用の高難易度コンテンツは“異聞シラディハ水道(零式)”が初で、みんな手探りな状態でしたね。4人用コンテンツでは、タンクとヒーラーがひとりずつなので、タンクのスイッチギミックなどは入れられません。その代わりにボスを誘導するギミックを多めに取り入れるなど、各々で重要視したポイントが違うと思います。もちろん、ピュアヒーラーとバリアヒーラーのどちらでもクリアーできるようにするなど、共通して気をつけたポイントもあります。

中川私はいつものコンテンツ作りと変わらず、“全ロールで同じ負荷にする”という点を意識しました。ただ、本当に不安でした。とくに企画しているときは、8人パーティで通用するノウハウが4人パーティだと通用しないだろうというのがなんとなく見えていて、いざ実装してみたら想定していたよりも簡単になる可能性があるなという気持ちがあったのです。結果的にちょうどいい難易度に落ち着いたと思いますが、あれでもけっこう難しくするつもりで作ったんです。

石川いや、ゼレズ・ガーは実際に難しかったよね。

横澤なんか、あまり難しくならなかったみたいな言いかただけど(笑)。

中川いやいや(笑)。それならよかったです。

石川4人だからこそできるギミックとして、チャレンジしているポイントもあったよね。たとえば、順番に4本の線を切るギミックとか。

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――縦と横の線を順番に切りながら放射状のAoE(範囲攻撃)を避けて、さらには立体魔法陣からステージの3分の2を覆う攻撃がくり出される……印象深いギミックです。

中川あれは4人用コンテンツならではのギミックとして考えたものですね。

石川いわゆる優先度ギミック(※)は、8人でやるとたいへんですが、4人だとまだ対応しやすいかなと。それを中川が提案してくれたので、いくつか優先度ギミックを取り入れたりしています。2ボスの“シラディハ・グラディアトル”は後から作られたボスですが、塔を踏むギミックがそうですね。

※複数のパーティメンバーでギミックをこなす場合、ギミック対応がバッティングしないようにあらかじめ優先順位をメンバー間で決めておくこと。

――アナザーダンジョンの難易度設計をするうえで、 “零式〇層相当”といった指針はあったのでしょうか?

石川ギミックの難易度で言うと、いったん零式4層相当で作ってほしいという話は担当全員にしました。そこから調整して、1ボスから段階的に難易度が上がっていくようにしましたが、3ボスのゼレズ・ガーは零式4層相当の難易度の想定ですね。

中川「これは本当に零式4層の難易度なのか?」と自問自答しながら企画していました。とにかく不安でしたね……。

石川ダメージについては、異聞ノーマルは零式2層相当、異聞零式は4層相当の値をつけています。

――アナザーダンジョンでは通常の蘇生手段を排する代わりに、全員がヴァリアント・レイズを使用できるようになっています。こちらの経緯をお聞かせください。

石川これはズバリ言ってしまうのですが、DPSロールである赤魔道士と召喚士が蘇生アクションを使えることへの対策です。

横澤4人用コンテンツでは、8人用コンテンツよりもジョブバランスの比重が大きくなります。それを平たくする目的ですね。

――DPSロールが蘇生を行えるのはかなり大きいアドバンテージですよね。

横澤そうですね。4人のうち、蘇生を行えるのがひとりとふたりとではぜんぜん違いますから。

石川これは早い段階でいまの形にしようと決めていました。高難易度というお題が出ている時点で、避けては通れないことだったかなと。

――回数を制限したのは高難易度だからですか?

横澤回数を制限しないと、ギミックを無視して、ひたすら蘇生を回していく攻略法が生まれる可能性もありました。ですから、使用回数は1回だよねと話し合って決めました。

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異聞零式のザコ敵が異様に強いワケ

――異聞ノーマルと異聞零式で、ボスのギミック自体はまったく同じになっています。零式のほうにさらに技を追加するといった選択肢もあったと思うのですが、いかがでしょうか?

石川開発当初は、ひとつくらいは零式固有のギミックを追加しようという話もあがっていました。ただ、それはたいへんなので、最終的には同じになりました。

――それは開発コスト的な側面ですか? それとも、零式の難易度が高くなりすぎるからですか?

石川両方ですね。

中川ボスのギミックは同じですが、通してプレイしてみると零式のほうに十分すぎるほどの緊張感があったんです。ですから、そこまで盛る必要はないだろうと。

横澤やっとの思いで3ボスまで到達して、そこで見たことがない技が出てきて全滅したら、シンプルに嫌な気持ちになるだろうなと。それを避けるためでもありますね。

中川そもそも3ボスまで到達するのに時間がかかり、蘇生もできず全滅、そしてスタート地点に戻されるとなると……。それこそ“絶”のような難易度になってしまいます。

石川逆に、ボスのギミックが同じなおかげで、異聞ノーマルで練習してから異聞零式に挑もう、というような遊ばれかたになったのが、自分としてはうれしかったですね。早期に異聞零式のクリアーを目指そうとしている方々のライブ配信も見ていたのですが、その人たちも異聞ノーマルで練度を上げていたのが印象的でした。

――異聞零式は道中のモンスターが強くなっていたのも印象的でした。

石川道中のバトルは、新しいことにチャレンジするのであれば、ひさびさに実装してみようということで入れました。ただ、“大迷宮バハムート”にあったようなものだと、いまのプレイヤーでは物足りなさを感じるだろうなと。やるからには、しっかりとした歯応えが必要ということで、いまの形になっています。高難易度コンテンツに道中のバトルを入れることはひさびさなので、試金石のようなところもあります。

――にしても、ちょっと強すぎではないですか?(笑)

石川最初はもう少し攻撃力が低かったのですが、ヒーラーでテストプレイをしていたスタッフが「まだいける」と(苦笑)。実際、手こずるくらいのものでないと、「道中なんてなくてもいい」ということになってしまいます。

――確かにそうですね。異聞零式は道中でのバトルも含めて、時間切れの要素、そして蘇生が禁止と、なかなか踏み込んだ難易度設定だったと思います。これは狙い通りなのでしょうか?

石川踏み込んだ調整にしているのは、高難易度の4人用コンテンツが欲しいという方たちが求めているものを確認するため、という意味もありました。この難易度が求められていないのであれば、今回で終わりくらいの気持ちで調整を進めていった感じです。開発当初は異聞零式だけの予定だったという話は先ほどさせていただきましたが、最終的には異聞ノーマルと異聞零式のふたつの難易度を用意したので、異聞零式は振り切ろうということで、いまの調整になっています。

開発の効率化と妄想力で生まれたボス?

――石川さんが1ボスのシルキー、中川さんが3ボスのゼレズ・ガーを担当されたとのことで、ボスの話もうかがっていきます。まずシルキーですが、このボスはどのようにして生まれたのでしょうか?

石川これは開発の事情を赤裸々に話してしまうのですが、報酬にも流用できるリソースを作らなくてはいけなくて、“マウントになったらうれしいボス”という発想から誕生したのがシルキーです。そこから、シルキーがマウントになったときに、尻尾を振り上げるモーションがあるとかわいいなと、動きを作っていきました。

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――そんな裏話があったとは(笑)。

石川マウントのモーションをそのままバトルにも活用しようと、尻尾を振ることで“ポンポン”を発生させたり、身体で地面を拭くようなギミックが生まれました。地面を拭くということで、廊下の雑巾がけから着想を得て、地面を滑るような突進ギミックを作ったりと、やたら動き回るボスになっています。

――シルキーは綿毛(ポンポン)のギミックも印象的でした。

石川綿毛のギミックは、道中の分岐から思いついたギミックです。ハムスターが背中で床を拭いているからほこりが必要になり、その後に綿毛を思いつき、分岐のネタを考える延長線上でギミックにも取り入れたという流れですね。

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――かわいいビジュアルなのにアクロバティックな動きをしたりして、愛らしいボスですよね。ギミックは凶悪でしたけど(笑)。

石川アナザーダンジョンでは凶悪かもしれませんが、ヴァリアントダンジョンではやさしい敵ですよ(笑)。

――では続いて、中川さんが担当されたゼレズ・ガーについてお聞きしていきます。このボスはどのようなテーマで作られたのでしょうか?

中川企画を始める際にもらった設定には、“ソーン朝時代にウルダハとともにゾンビー退治を行ったアマルジャの勇士のひとり。ゾンビーパウダーを浴びたことによりゾンビー化している”と書かれていました。

――体に無数の矢が刺さっているのが、ゾンビー化したことを表していますよね。

中川そうですね。ギミックにつながる大きい特徴は“ゾンビーである”ということだけでしたし、零式4層相当の難易度が求められていたので、企画として難易度が高そうだなという印象でした。こういうケースの場合は、脳内設定と妄想力をフル回転させて、このボスができること、やってきそうなことを固めていくのです。

――まずは脳内で動かしてみるわけですね。

中川ゼレズ・ガーに関しては、結果的にはゾンビーであるということはギミックの選択肢として捨てています。なぜかというと、ゾンビーであることを前面に押し出しても『FFXIV』に合わない企画になりそうだなと思ったからです。それに加えて、ゼレズ・ガーだけが持っている特殊な能力があるはずなので、それをちゃんと探してあげないとダメだなと。

――そこからどう妄想を膨らませていったのでしょうか?

中川ゼレズ・ガーは、ウルダハでゾンビー退治を行ったということは、従軍しているわけです。その従軍メンバーに選ばれたからには、何かしらの理由があるはずなので、それはいったいなんだろう? と考えていきました。

 ゾンビー退治の従軍ですから、能力を振るう相手はゾンビーになります。ゾンビーは規律を持っていないだろうから、神出鬼没に現れて従軍メンバーを襲ってくる。それに対処できる能力が、ゼレズ・ガーに合っているのではないかと考えていきました。

――そんな感じで組み立てていくんですね。

中川そこからさらに、ゾンビーたちの襲撃を感知して自動的に攻撃するような技が使えれば、ゾンビーたちに有効なはずと考えていきました。ゼレズ・ガーがいることで、その部隊が比較的安全に従軍することができた。これが企画書に書いてあった私の脳内設定です。脳内設定なので公式なものではないのですが、この流れでゼレズ・ガーを結界術士にしようと決めていった感じです。

――おもしろいですね。ゼレズ・ガーがどういうことをしてきそうか、この設定でだいぶ方向性が見えてきます。

中川結界術士は結界を張って戦う能力を持っています。基本的には守りに役立つ能力ですが、ボス戦ではオフェンシブに使用してきます。戦場でも襲われたときにオフェンシブに能力を使うシーンもあったはずだろうな……と、ここも妄想しながらギミックを詰めていきました。

 呪具から線が出るギミックなどは、まさにそういうイメージで作っています。強制的にワープさせるギミックもあったかと思いますが、あれも戦場で感知したゾンビーたちを遠くに転送させて身を守るとか、そういうイメージで作っています。基本的にどの技もそういう意図を持たせて作っているのですが、話すとキリがないのでここではこれくらいにしておきます(笑)。

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――ものすごくピンポイントなお話ですが、3回目の呪具設置の解かれかたは中川さんの想定通りでしたか?

中川3回目の呪具設置は、「このボスは、これがやりたくて作ったようなもの」と周囲に話していたくらい、メインに据えていたギミックでした。もっとフィジカル(※)に解くギミックでしたが、想定よりも簡単に解かれていましたね。といっても、プライベートでは私もあのやりかたで解いています……(笑)。やはりプレイヤーの皆さんは頭がいいなと。

※ゲームにおいては、その場その場での反応の速さや操作の正確性などを指す。

横澤僕らが言うのはおかしいんだけれど、プレイヤー視点だとあの解法はありがたかったよね(笑)。

――全体的に見ても、零式4層相当の難易度というのはうなずける気がします。

中川8人用コンテンツのノウハウが通用しないとお話ししましたが、足りなくなりそうな難度のぶんを補填する必要があると感じていました。ですので今回は、フィジカルさと零式ならではの決めごとをミックスすると難度が出せるのではないか、という考えかたでギミックを作っています。最近の『FFXIV』はフィジカルに頼る敵が増えているので、そこにもインスパイアされていますね。“極ゾディアーク討滅戦”などはまさにそうでした。

――ほかの担当者が作ったコンテンツに影響を受けることもあるのですね。

中川もちろんありますよ。刺激になります。

――ところで、ボスのギミックと道中の謎解き要素はそれぞれ関連させる前提で作っていったのでしょうか?

石川それぞれのルートのボスは各担当者に考えてもらったので、その人次第なところはありましたね。

中川道中で起きた結果がボスバトルに影響するのは、ふだんのコンテンツでは考える必要がないことなんです。ですから、作っていて本当に新感覚でした。自分の場合は、選択肢によってどうしてこういうことが起こったという設定を、インゲームで伝わるように反映できなかったのが心残りですね。

石川中川はギミックから先に考えていった感じですね。たとえば、ヴァリアントダンジョンで岩が落ちてくるギミックがあったと思いますが、そこをどうやって通るかという分岐からギミックが生まれていたりします。ですから、人によって作りかたが違いますね。

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第2弾“六根山”は景観も楽しんでほしい

――まもなく公開となる第2弾の“六根山”についてもお聞きします。“シラディハ水道”ではナナモ様にスポットを当てた物語でしたが、“六根山”でも特定のNPCを起点に物語が展開していくのですか?

横澤基本的に同じような作りになっています。すでにハンコックが登場することが発表されていますが、第1弾のようにそこから掘り下げていくという作りではないかもしれません。現状言えるのはここまでです(笑)。

――プロデューサーレターLIVEで紹介されたところを見る限り、東方の昔話が入り込んでいる感じかと想像しているのですが。

横澤そうですね。 “シラディハ水道”は遺跡ということで閉鎖的な空間の画が多かったのですが、“六根山”は東方の山で、開けた景色が広がっています。その景色の美しさも重視しているので、そこも楽しみにしていただければなと思います。

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――すでに異聞ノーマル、異聞零式も実装されることが明かされていますが、難易度バランスは第1弾と同じような感じなのでしょうか?

横澤そうですね。基本的には第1弾を踏襲しています。ただ、ギミックそのものはかなり毛色が違うものになっているので、ぜひご期待いただけたらなと(笑)。

石川テストプレイの段階では、「『FFXIV』の中でこれがいちばん苦手」という声が聞こえてくるくらいでした(笑)。

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――ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンの第1弾が公開されて、いろいろなフィードバックがあったと思います。それらを受けて調整をした部分などがありましたらお聞かせください。

横澤基本の構成は変えていないので、同じような感覚で楽しんでいただけると思います。遊びやすさに関するアップデートは、パーティメンバーがセットしているヴァリアントアクションがステータス欄で確認できたり、異聞零式での時間切れまでの残り時間がコンテンツ情報のところに表示されたりといった機能が追加されています。

――ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンは広いプレイヤー層で楽しまれたコンテンツだと思いますが、寄せられたフィードバックの声も違ったりしましたか?

石川ぜんぜん違いましたね。ヴァリアントダンジョンのフィードバックはポジティブなものが多かった印象ですね。第1弾で目新しさもあったことに加えて、世界設定やライトに遊ぶ層のターゲットがうまく噛み合ったのだと思います。実際、ヴァリアントダンジョンに多くのリソースを割いたので、喜んでいただけたようでなによりです。

 アナザーダンジョンは、8人用の高難易度レイドダンジョンをプレイしていただいている方々のフィードバックと似たようなところがありました。すべての人のニーズを満たすのはなかなか難しいと言いますか。

横澤高難易度の4人用コンテンツを求めていた方が満足されたかどうかは、正直わからないのです。でも、僕たちとしても実際に遊んでみてすごくいいものができたという手応えがありますし、4人用のギミックの体験が新しくておもしろかったと感じてもらえたらうれしいですね。

――プロデューサーレターLIVEでは第3弾も開発中とコメントしていましたよね。

横澤鋭意開発中です。第1弾、第2弾に負けないぐらいのボリュームになると思います。

――ヴァリアントダンジョン/アナザーダンジョンは7.0以降も続けていくのでしょうか?

横澤皆さんからのお声次第にはなりますね。まずは間もなく公開される第2弾をプレイしていただき、ぜひ感想やフィードバックをいただければと思います。

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