“世界で作られるインディーゲームが海を渡るときの架け橋になりたい”との思いから、2013年に設立された架け橋ゲームズ。ゲームのリリースをサポートする“パブリッシングサポート”という独自の立ち位置を持つ同社は、海外で制作されたインディーゲームの日本語化などをおもな事業として展開。近年は、パッケージ版のパブリッシング代行業務にも取り組んでいる。そんな架け橋ゲームズが10周年を迎えたことを記念して、ザック・ハントリ氏を始めとするスタッフの皆さんにインタビューを実施。架け橋ゲームズが歩んだ10年を振り返ってもらった。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

ザック・ハントリ氏

ビジネスマネージャー
(文中はザック)

渡辺裕美氏(写真中央)

プロジェクトマネージャー
(文中は渡辺)

桑原頼子氏(写真左)

ローカライゼーションマネージャー
(文中は桑原)

LayerQ氏(写真右)

マーケティングテキストマネージャー

※北海道・札幌に移住しているザック・ハントリ氏はオンラインでの参加

チームワークが支えた10年間

――架け橋ゲームズが設立10周年ということでおめでとうございます! まずは、10周年を迎えての率直な感想を聞かせてください。

ザック架け橋ゲームズは、2013年にパートナーの矢澤竜太さんと設立したのですが、そのときはそこまで明確なビジネスプランを持たずにスタートさせたので、こうやって10周年を記念するインタビューをファミ通さんからご提案してもらって、この場に座っていることが信じられないです(笑)。

 設立当初は、まわりの人たちから「そんなのムリだよ」とか「すごく無謀なことをしている」、「スマートで賢いビジネスの始めかたではない」ということを言われたのですが、実際にがむしゃらに仕事をしてきて、いまこの状況をみてみると、自分たちがやってきたことは間違ったことではなかったということを実感します。これまで10年間にわたって、300以上のタイトルをサポートさせていただいたのですが、そんなにたくさんのタイトルに携わることができるというのは、予想だにしていなかったですし、何かしらを達成できたことについて、自分でもすごく驚いています。

渡辺私は、矢澤さんと入れ違いになる感じで、2016年に架け橋ゲームズに入社したのですが、本当にあっという間の日々でした。とにかくいろいろなことがあり過ぎて……。新しいチャレンジに日々取り組んできたので、同じことをやっていない10年間だったということは言えるのではないかと思います。

桑原私はメインスタッフになって5年くらい経つのですが、毎日本当に必死で仕事をしてきた感じです。気がついたらこんなにタイトルを担当させていただいていて……。目まぐるしく過ぎていく日々の中で、ビジネスを10年続けるというのは、やはりすごく難しいことだと思います。とくに私たちがおもに関わっているインディーゲームは独特な分野なので、そこを生き抜いてこられたのは、パブリッシャーや開発者の方々、翻訳者さんやファンの方々の温かさに救われてきたのではないか、というのは強く感じます。

――ああ、インディーゲームの関係者が、架け橋ゲームズを好きになっているというのはあるかもしれないですね。

桑原そうだといいですね(笑)。ちなみに架け橋ゲームズの名前は日本よりも海外のほうが有名みたいです。口コミで架け橋ゲームズのことが広まっていて、「日本語化したいのならば、架け橋ゲームズに頼んだほうがいい」と言われているそうです。ミーム的に(笑)。私たちが日本で実感しているよりも、架け橋ゲームズの存在感はあるのかもしれないです。裕美さんの言葉をお借りすると、解像度みたいなのがすごくくっきりしている気がします。10年経って、徐々にくっきりしていったのかなと。

LayerQ僕は頼子さんとほぼ同期で、在籍5年になるのですが、架け橋ゲームズじゃなかったら経験できなかったことを、いろいろさせていただいたなと思います。僕自身は架け橋ゲームズが関わるタイトルのストアテキストを担当していて、海外のインディーゲームをプレイしながら、試行錯誤しつつ文章にしているのですが、それによって架け橋ゲームズの10年間の半分くらいを支えられたのは、すごくうれしいです。で、いろいろふり返ると、ときにしんどかった時期もあるのですが、それを乗り越えられたのは、いまの4人のメンバーがいればこそという感覚がけっこうあります。このメンバーじゃなかったら続いていなかったかもしれません。

桑原とてもよくわかります!

LayerQザックさんや頼子さん、裕美さんじゃなかったらカバーできていなかったというところが多々あって、それぞれがいいふうに組み合わさって、ずっと続いているなと思います。それができたメンバーだということが、胸を張って言えることのひとつです。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
2019年のBitSummitの会場にて。Nintendo Switchのサポートタイトルが100本を達成したタイミングで撮影したもの。皆さんうれしそう。

――改めての質問となりますが、どのような目的を持って架け橋ゲームズを設立したのですか?

ザックゲーム業界に大きなインパクトを与えたかったというのはあります。で、最初は日本のタイトルを海外に持っていくことをやりたいねという話をしていたのですが、いつしか海外のゲームを日本に紹介するほうにシフトしていきましたね。

――インディーゲームも認知されてきて、欧米の多様なゲームを日本に紹介するニーズが高まってきたのですか?

ザック当時は、日本でのインディーゲームに対する認知度があまり高くなくて、ニーズがあるということにはあまり気づいていなかったです。とはいえ海外にはけっこう尖ったタイトルが出始めていて、おもしろそうなタイトルをSteamのストアページで見つけては、問い合わせサイトから「このゲーム、とてもクールだね。もし日本語化したいんだったら教えて?」みたいな感じで気軽に連絡をしてみたら、じつはけっこうな数のパブリッシャーさんやデベロッパーさんが、日本で自分たちのタイトルをリリースしたいけれど、どこから始めたらいいかわからない状態だということに気付かされたんです。言語の壁もありますし、登録の仕方などもまったくわからない。それで、こういったニーズがあるのかもしれないということに気づき始めました。

――まさに“架け橋”ですね。海外タイトルを日本に紹介するとなって、徐々に手応えが感じられ始めたと思うのですが、きっかけになったタイトルはありますか?

ザックいま思いつく限りでも2タイトルあります。ひとつ目がD-Pad Studioの『Owlboy』です。理由は、僕たちがいちばん最初にコンタクトした開発者さんなんです。その5年後に実際にお手伝いすることになって、すごくうれしかったのを覚えています。

 ふたつ目が『Salt and Sanctuary(ソルト アンド サンクチュアリ)』ですね。『Salt and Sanctuary』に関わっていた最初のころは、このゲームが日本で成功を収めるなんてぜんぜん想像していなかったのですが、リリースされたらけっこう大きなインパクトがあって、たくさんのユーザーの方に楽しんでいただけたので、日本でインディーゲームが認知され、大きな成功を収めることができたひとつの例として、すごく衝撃を受けました。

 この仕事をする意味というか、「間違ったことはしていなかったんだ。これからもしかしたらこれ以上の成功を収めるときがくるかもしれない」とか、今後につなげられる確信を得られた瞬間でした。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Owlboy』(D-Pad Studio)
海外ではSteam版が2016年にリリースされた、探索型2Dアクション。ザック氏が初めてコンタクトを取ったのがD-Pad Studioで、「5年後に実際にお手伝いすることになって、すごくうれしかった」とのこと。
Nintendo Switch、プレステーション4、Xbox One、PCで発売。
【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Salt and Sanctuary(ソルト アンド サンクチュアリ)』(Ska Studios)
Steam版が2016年に配信されたアクションRPG。日本でも大ヒットとなり、「日本でインディーゲームが認知され、大きな成功を収めることができたひとつの例として、すごく衝撃を受けました」(ザック氏)と手応えを感じた一本。
Nintendo Switch、プレステーション4、プレステーション Vita、Xbox One、PCで発売。

とにかく、ローカライゼーションのクオリティーを下げない

――では、海外タイトルを日本に紹介するにあたって、心掛けていたことを教えてください。

ザック10年間架け橋ゲームズで仕事をしてきて変えなかったことで、そしてこれからも絶対に変えないでいたいと思っていることは、ローカライゼーションのクオリティーを下げないということです。クオリティーの高いローカライズをして、この世に生み出していく。これに尽きます。

――クオリティーを保つためにはどのような努力をしているのですか?

ザックパブリッシャーやデベロッパーに、ローカライズの大切さをしっかりと説明することでしょうか。多くのパブリッシャーやデベロッパーは、「ここは絶対に修正してほしい」といった日本人が気になる部分に対する修正要望に対して、そこまで大事なことだと思っていただけないんですね。

 たとえば、簡単な例で言うと、ゲームをプレイしていて漢字に中国語フォントが使われていると、すごく気になったりしますよね。でも、海外の方にとっては、「漢字はなんとなく読めればいいのでは?」と思いがちなんです。あとは日本語版で特有に発生しているバグとかを修正するのが遅くなってしまうことがあります。それはなぜかと言うと、やはり母国語を優先しがちだからです。とくに開発の人数がすごく少なかったりすると、「いまはそんなことにかまっていられない」ということで、優先度が低くなってしまうことがあるんです。ですので、日本で支持されるためには、「これは絶対にマストなんだ」ということを交渉し続けて、説得し続けることが大切なことになります。時には他言語よりも優先して直してもらうことさえあります。

――相手の意識を変えることが大切ということですね。

ザックこれは架け橋ゲームズあるあるなのですが、「架け橋ゲームズの評判を聞いたので、いっしょにお仕事をしたい」といった話がよく来ます。皆さん架け橋ゲームズに任せておけば、自動的にいいものが仕上がってくると思っているんですよ。ですが、私たちはめちゃくちゃ口うるさいんです(笑)。ですので、いいものを提供するということは、お互いにそれだけの苦労と努力が必要なのだということを、必ず最初に説明して、それでも私たちとお仕事をしたいと思ってくれるのかというのを明確にしたうえでお仕事をしています。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

――いずれにせよ、架け橋ゲームズを10年間続けてこられた理由は、ローカライズのクオリティーを保ってきたからだと言えそうですね。

ザッククオリティーに注力してきたというのもそうなのですが、さっきLayerQさんからもありました通り、私たちそれぞれがその仕事に対してすごく情熱と責任を持って仕事をしてきたというのがいちばんの理由だと思います。それは自分のためとかお金のためとかではなくて、その向こう側にあるお客さんの気持ちをつねに考えて仕事をしてきたので、そんな私たちの情熱がお客さんやクライアントさんに伝わって、結果的に彼らが期待する、想像以上のレベルのサービスを提供できたということだと思います。

桑原私たちが手探りでやっていたところもあったと思うのですが、それをクライアントさんや翻訳者さん、ファンの方が温かく見守ってくださった、そんなインディーゲーム界隈ならではのふんわかとした感じも大きいのではないかと思っています。

渡辺仲間意識とかがあって、インディーゲーム関係者はすごく距離が近いんですよね。

桑原イベントなどでも、開発者がそこにいますからね。そういう肌で伝わる温かさみたいなものがあるのかなと。

渡辺インディーゲームに関して言うと、けっこういろいろ状況が重なっていまの10年があると思っています。Nintendo Switchの普及などがあって、インディーゲームが手に取りやすい状況になってきましたよね。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

LayerQゲームエンジンが発達して、開発に対する敷居が下がったのも大きいですよね。クリエイターさんが自分なりの世界を表現しやすくなった。母数が多くなったので、それだけいいものも出やすくなるというところも、要因としてはあるのではないかと思います。

――そんな時代の要請が、架け橋ゲームズの10年の歩みと合致していたのかもしれないですね。

LayerQインパクトのあるタイトルが増えてくる中で、日本語対応をする価値というのは、けっこう高まってきているような気もします。日本語対応していこうという姿勢を見せているパブリッシャーさんやデベロッパーさんも増えていると感じています。そんな流れの一端を架け橋ゲームズが担えたのではないかという自負はあります。

――そんな皆さんがとくに大事にしていることはどのようなことですか?

桑原私は翻訳者さんのスケジュールの確保をすごく大事にしています。あとは、翻訳者さんに対して、クライアントさんが言っていることの背景にあることだったり、預かっているメッセージを端折らずに伝えるようにするということはすごく大事だなと思っているんです。

 たとえば、クライアントさんからの「2週間後ぐらいにファイルが届きそうです。また動きがあったらお知らせしますね」みたいなパターンのお知らせのときって、動きがあったときに連絡することもできるし、「こんなことを言われましたので、2週間後に何か動きがあるかもしれません」みたいなことを伝えるか、2択がありますよね。私は、必ず後者を取るようにしています。

 というのも、架け橋ゲームズが信頼してお願いしている方って、基本皆さん超絶忙しい翻訳者さんばかりで、本当に無理を言ってお願いするということが多いんです。いい翻訳をしてもらうには、たっぷりの納期と働きやすい環境が欠かせないので、少しでも状況を明確にしてあげたいんです。

 翻訳する前にゲーム機をお渡しして、ファミリアライズの時間をとっていただくとか、何か緊急でお願いしなければいけないときも、ただお願いするのではなくて、「これこれこういった理由でこちらは交渉したのですが、ここまでしか期間がもらえなくて、これでお願いできますか? でも、無理はしていただきたくないので、もし難しければまた交渉しますので、お知らせください」みたいな感じで、私たちが伝えることが絶対だと思われないようにしています。

 クライアントさんに対しては、翻訳者さん側できちんと調整の猶予が持てるような形で進めていただけるような環境がほしいということは、ザックから言ってもらって、私からは翻訳者さんに対して、状況をしっかりと伝えるようにしています。見えていないことを見えるようにすることで、けっこうコミュニケーションが透明化することがあるので。そこは気をつけています。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

LayerQ僕は読みやすさですね。これが大きなタイトルだったり、シリーズものだったりすると、「前のゲームがあって、このゲームはこうだよね」といった言葉が使えるのですが、インディーゲームは見た目も尖っていたりして、一見すると何のゲームかわからないことが多いですよね。

渡辺たしかに(笑)。

LayerQですので、すぐにそれが伝わるような言葉を使ったり、プレスリリースも、メディアさんにそのまま載せてもらったらひとつ記事になります、みたいな体裁を保つようにしたりといったこともわりと意識はしています。

――ちなみに、「この紹介文はことさら受けがよかった」みたいなタイトルは?

LayerQ(笑)。それが、あまり受けが伝わってこないというのはあります。ですので、誰にも何も言われていないなら、いい状態であると思うようにしています。

桑原ふーん 。

LayerQUIとかUXのライティングとかに考えかたが似ていると思うのですが、読んだときに違和感がない、だから誰も何も言っていない、と思うようにしています。この文章がヘンだとか、おかしなことを書いているとなると、たぶん誰かが指摘すると思うのですが、いまのところほどんとそういうことが起きていないので、ある程度違和感なくゲームの情報を伝えられているものが書けているのではないかと。

桑原ちなみに、LayerQの文章を読んでいると、「今回ノリノリで書いていて、めっちゃおもしろい」というときと、「なんか、これたいへんそうだな」というもがきが見えるときがあります(笑)。素敵な物語を読んでいるみたいに、スルーッと読めるときと、「苦手なのかな、これ?」みたいなときと(笑)。

――つい、そういうのが出てしまうんですね。

LayerQまあ、あるのかもしれません……。個人的にはあまり差が出ないように努力しているつもりなのですが……。

渡辺ふんわりありますね(笑)。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

10年間で思い出深いタイトルは……

――では、この10年を振り返って、とくに印象的な出来事はありますか?

ザック振り返ってみて、これが架け橋ゲームズのターニングポイントになったなと思うのは、『Enter the Gungeon (エンター・ザ・ガンジョン)』のリリースですね。それが結果的に、いま頻繁にお付き合いしているDevolver Digitalとの仕事につながりました。

 そもそも『Enter the Gungeon』は、2015年のPAX Eastで、開発スタジオであるDodge Rollの方と知り合って友だちになったんですね。それでいろいろとお話していくうちに、「日本語ローカライズをするなら架け橋ゲームズに」と言っていただいて、パブリッシャーであるDevolver Digitalに「架け橋ゲームズじゃないと、日本語化したくない」と直談判してくれたんです。そこからDevolver Digitalさんとのお仕事が始まりました。

渡辺私にとっても、『Enter the Gungeon』は思い出深いですね。というのも、『Enter the Gungeon』は、架け橋ゲームズで最初にパッケージ版をリリースしたタイトルでもあるんですよ。

 2017年にダウンロード版を配信してしばらく経ってから、流通の方から声をかけていただいてリリースすることにしたのですが、架け橋ゲームズにとって転機となった『Enter the Gungeon』を選んでいただけたというところにも、何かしら奇跡的なつながりを感じで、とても印象深いです。ただ、「やれば出せるでしょう」くらいの気持ちで取り組んでみたら、とにかく全部がたいへんすぎて(苦笑)。寝る間も惜しまず髪を振り乱して、家事育児を夫にほぼ丸投げ状態で支えてもらいながら、 みたいな感じでいろいろな経験をさせていただきました。

――そんなにたいへんだったのですか?

渡辺とにかく言えるのは、ひとりでやる仕事ではないということですね。まわりの日本のインディーゲームの開発者さんからも驚かれました。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Enter the Gungeon (エンター・ザ・ガンジョン)』(Devolver Digital)
2016年に配信開始。ローグライクと弾幕シューティングの魅力が融合したDodge Roll開発の一作。架け橋ゲームズの初パッケージタイトルともなった(Nintendo Switch)。
Nintendo Switch、プレステーション4、Xbox One、PCで発売。

――そんなに(笑)。桑原さんはいかがですか?

桑原私、1年に1本くらいはこっそりゲームの翻訳もしているのですが(笑)、『39 Days to Mars』もそのうちの1本でした。開発を手掛けるのはイギリスの方で、BitSummitに出展するために数年前に来日されたんです。会場でお会いしてお話したのですが、すごく真面目な方で、おひとりでゲームを作られているとのことでした。

 で、ゲームをプレイしたお客さんが「開発をしていないときは何をしているのですか?」という質問をされて、私がそれを通訳したんです。私は何気ない質問だなと思ったのですが、そのときに彼は「5年間このゲームの開発をしてきて、それしかやってこなかったから、何もない」って答えたんです。それがすごく強く印象に残っていて……。「あ、世の中に5年間自分のゲームを開発するためだけにすべての時間と労力と情熱を注いでいる人がいるんだ」と。その方のために私は自分の時間を使って翻訳をして、そのゲームをプレイして楽しんでくれている人がいる……ということで、初めて点と点がつながって線になったみたいな瞬間があったんです。

――気づきがあったのですね。

桑原で、『39 Days to Mars』は、BitSummitのアワードでベストデザイン賞を受賞したのですが、すごくうれしくて、前列で号泣してしまったんです。私が受賞したみたいな感じで。「頼子はなぜ泣いているの?」みたいな感じでした(笑)。彼がもらったトロフィーをすごくうれしそうに見ていたのが印象的で、それが私にとってインディーゲーム業界に携わる自分の意味、みたいなものをこの目で見ることができた瞬間でした。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『39 Days to Mars』(Its Anecdotal)
Steam版が2018年にリリース。天文学者が宇宙に生命体がいることを発表したことを受けて、ふたりの探検家が火星を目指すパズルアドベンチャーゲーム。ユニークな手描き風のアートスタイルも特徴のひとつ。
Nintendo Switch、プレステーション4、Xbox One、PCで発売。

――クリエイターとユーザーの“架け橋”を担うご自身の役割ということでもありますね。

LayerQいい話ですね。僕がいちばん印象に残っているのは、架け橋ゲームズに入社したときでしょうか。そのころ僕は、前に勤めていたゲーム会社を、つぎのことは何も決まっていないままで辞めて、イベントでザックさんに会ったんですね。ザックさんとは少し面識はあったのですが、前に半分冗談で「架け橋ゲームズに来たら?」と言ってもらったのを思い出して、「あれ、どうですか?」と聞いてみたら、「来たら?」と誘ってくれたんです。「じゃあ、行きます」と即答して、僕がどんなものを生み出すのかといったテストなどもせずに、ある意味信じてもらって入れさせてもらったんです。その信頼に応えたいという気持ちはずっとあって、がんばってきたとは思います。そこからクビにはなっていないので、少しは期待に応えられているのかなと(笑)。

――(笑)。

ザック入社してもらう前に、LayerQさんのYouTubeの配信チャンネルを見て、とにかくインディーゲームに対する情熱がとてつもないと思ったんですね。かつ、ゲームの紹介のしかたがすごくわかりやすくて、そのゲームを知らない人に対してもわかりやすく説明しているところにすごく感動しました。これなら、LayerQさんが架け橋ゲームズに入ったときに、ナチュラルにフィットするのではないかと感じたんです。

渡辺そういえば私も、ザックと矢澤さんが架け橋ゲームズを立ち上げたときから、「架け橋ゲームズに入りたい」とずっと言い続けていて、まさか入れるとは思っていなかったんですよ。ザックと会うたびに冗談でずっと、「私3人目の架け橋ゲームズのスタッフだから」と言い続けていたのが、まさにいまここにいるんです。

――なぜ入りたいと思ったのですか?

渡辺私はもともと前の会社で、海外のゲームを日本に持ってくる仕事をしていたのですが、「ローカライズをするならカルチャライズも全部しないといけない。だから、欧米の作ったゲームを絵も含めて全部日本向けに変える」という、どちらかというと、開発者が手塩にかけて育てたゲームを“殺す”ことをしていたんです。かつて大手のゲームパブリッシャーが行っていたやりかたしか知らなかったんですね。

 でも、ザックと矢澤さんがやっていたのは、ゲームをそのまま活かして、開発者が訴えたいことを、きちんと日本語に訳して提供するということでした。それが本当に目から鱗だったんです。これはこういうふうにシフトチェンジしたほうがいいというのを前の会社の社長にずっと言い続けていたところで、その会社が潰れてしまいまして……。

 そのあと、私は別の企業で、まったく異なる仕事をしていたのですが、矢澤さんが抜けられるタイミングで声をかけていただいて、「本当に3人目になったわ!」みたいな感じでした(笑)。

――まさに縁ですね。

LayerQ印象的なタイトルということで言うと、僕は『Katana ZERO』ですね。『Katana ZERO』は、架け橋ゲームズが関わったタイトルで、ファミ通さんのクロスレビューで初めてプラチナ殿堂を獲ったんですよ。大手のメジャーなタイトルではなくて、あまり知名度のないインディーゲームが、プラチナ殿堂入りしたということにすごく感動しました。僕はストアテキストを書いたり、プレスリリースを作ったりしていて、僕がゲームを作ったわけではないのですが、日本に持ってくるお手伝いをしたという意味合いもあって「すごい!!」と思いました。その後も、プラチナ殿堂入りタイトルがいくつか出てくるのですが、初めてのプラチナ殿堂入りだったので、いちばん心に残っているタイトルではあります。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Katana ZERO』(Devolver Digital)
2019年に配信された時間を操作することが可能なスタイリッシュ斬撃アクション。週刊ファミ通のクロスレビューで、架け橋ゲームズとして初めてプラチナ殿堂入りしたタイトルということで、「すごく感動した」とLayerQ氏。
Nintendo Switch、Xbox Series X|S、Xbox One、PCで発売。

桑原私は『Half-Life: Alyx』かもしれないです。『Half-Life: Alyx』を架け橋ゲームズが扱うことがまずびっくりだなと思いました。ザックが、すごく『Half-Life』のファンだったらしくて、「自分が『Half-Life』の関連タイトルに携われるなんて夢のようだ」と言っていましたね。

 翻訳者さんといっしょにシアトルのValve本社に行ったときは、ちょうどコロナが広まりだしたときで、そんな時期にシアトルに飛んで、Valve本社で世界中の翻訳担当の方たちと、当時未発表だった『Half-Life: Alyx』をプレイして、日々バグリポートをして……というのは、自分がこのゲーム業界でそういう体験ができるとは思ってなかったので、すごくメモラブルな記憶ですね。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Half-Life: Alyx』(Valve)
2020年配信のPC用VRシューティング。ザック氏が『Half-Life』のファンで、関連作に携わることができたのが夢のようだったとのこと。桑原氏もValve本社で発売前の本作をプレイし、直接開発チームと話したのが印象的とか。

――渡辺さんはいかがですか? さきほど『Enter the Gungeon』のパッケージ版が印象深いとおっしゃっていましたが、思い出深いタイトルなどはありますか?

渡辺1本ありますね。『Fall Guys』が、いちばん転機になったと言えば転機になったタイトルかもしれません。それまで私たちは、PRとかはやってきたのですが、マーケティングというものはあまりやってこなかったんですよ。

 私たちから何かを仕掛けるというのがなかったところに、『Fall Guys』があれだけ爆発的に出てきて、皆さんの注目度が高くなったところで、発売元のDevolver Digital自体も大きくマーケティングをやりたいということになったんですね。『Fall Guys』がきっかけで、いろいろな会社さんとつながることができて、それがパッケージ版事業にも結びつきました。私の、「ビジネスデベロップメントを日本でやりたい」という心の中に置いていた思いが、『Fall Guys』でパッと出てきて、ようやくビジネスデベロップメントを始めることができたんです。

――仕事の広がりができたということですね。すばらしいですね。

渡辺はい。

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」
『Fall Guys』(Epic Games)
2020年に配信された最大40人によるオンライン対戦アクション。本作でマーケティングを大々的に展開。渡辺氏にとって念願だったビジネスデベロップメントを手掛けることができた、転機となったタイトルとのこと(リリース時はDevolver Digitalが販売を担当。2021年に販売元はEpic Gamesに移管されている)。
Nintendo Switch、プレステーション5、プレステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PCで発売。

エキサイティングな計画をBitSummit Let's Go!!でお披露目する予定

――では、架け橋ゲームズで今後取り組んでみたいことを教えてください。

ザックいま架け橋ゲームズはたくさんの新しいスタッフを迎え入れていまして、会社として規模が大きくなっているところです。ちょっとエキサイティングな計画もいろいろとありまして、そのうちのひとつを7月14日~16日に開催される、今年のBitSummitでお披露目する予定です。

――エキサイティングな計画ですか?

桑原エキサイティングというといろいろな響きがありますが(笑)、言ってみれば新しい動きですね。

渡辺私たちとしても大きなチャレンジですね。いままでやってきたことの集大成に、さらにプラスするみたいなことを予定しています。

 あとは、これは以前ファミ通さんのインタビューでもお伝えしたのですが、最終的にはカナダに支社を建てることですね!

桑原まだ、持っていたんかーい!(笑)。

渡辺まだまだ、カナダ移住の夢は持っているよ!

桑原その段で言うと、私は海外のゲームイベントに行ってみたいですね。いままで一度も行ったことがないんですよ。

――それは意外ですね。

桑原BitSummitにしても東京ゲームショウにしても、私イベント大好きなので、機会があれば行ってみたいです。

LayerQ僕は、これまで5年間架け橋ゲームズで経験してきた、ゲームに対するライティングの部分、僕なりの書きかたといったものを、誰かに伝えていくことを少しずつしたいなとは思っています。別にまだ死ぬ予定はないのですが(笑)。

桑原いちばん若いのにしっかりしている(笑)。

LayerQたぶん、架け橋ゲームズじゃなかったら経験できなかったことばかりを、このチームのメンバーはそれぞれしていると思うんです。だからこそ、架け橋ゲームズで得られたナレッジだったり、やりかただったりを、業界に興味がある人に伝えていくことで、ゲームの説明文をより洗練させていきたいです。ゲームを探すときに、「なるほど、このゲームはこういうゲームなんだな」ということがスッと入ってくるような文章が増えていくような一助というか、貢献ができるようなこともやっていきたいなとは思っています。

――最後に、これからさらなる10年に向けての、架け橋ゲームズの抱負をお願いします。

LayerQSNSなどで、「このゲームを架け橋ゲームズにローカライズしてほしい」という発言を見るとすごくうれしいです。実際のところ、たとえ架け橋ゲームズという名前を知らなくても、僕たちの関わったタイトルを「おもしろかった」と言っていただけることに、日々感謝しています。これからも、ファンの方にさらに信頼していただけるようなチームになれるよう、がんばっていきたいです。

桑原私にとっては、BitSummitや東京ゲームショウなどでの、インディーゲームを好きな方との交流の時間がすごく癒やしになっています。「僕は英語がしゃべれないので、架け橋ゲームズさんが日本語化してくれてすごくうれしいです」とか、お客様のひと言ひと言にすごく救われるんです。翻訳を褒めていただけたりすると、翻訳者さんに伝えるようにしているのですが、とても喜んでいただけるんです。そういう“幸せループ”を、お客様発信でいただけるとすごくうれしいので、イベントにお越しいただいた際は、声をかけていただけるとものすごくうれしいです。

――(笑)。

渡辺ファンの方ということで言うと、LayerQの番組がきっかけで、ゲーム業界で働くことを決めたという方とイベントでお話をして、インディーゲームってすごい影響力を持っているんだなあとびっくりしました。

桑原誰かの人生を変えているのね。

渡辺そう。架け橋ゲームズが関わっている作品が誰かの人生を変えていることもあるんだなと、身が引き締まる思いでした。これからも皆さんに愛される架け橋ゲームズでいられるよう、日々精進します。

ザックまずは、この10年間私たちを見守って支えてきてくれたことに本当に感謝しています。私たちはすごく小さいチームで、小さい会社がビジネスをしていくというのはすごくたいへんなことなので、ファンの皆さんや支えてくださる方がいなかったら、たぶんここに存在していないと思います。これからも良質なゲームを楽しんでいただけるように、全力を尽くしてサポートしていこうと思っていますので、よろしくお願いします!

架け橋ゲームズ共同設立者・矢澤竜太氏に聞く

【架け橋ゲームズ10周年記念インタビュー】日本と海外のインディーゲームをつないで10年。「とにかくクオリティーの高いローカライズにこだわり続けてきた」

 ゲームシーンの架け橋になろう! とザックと僕が動き始めたあの日から10年。僕の記憶の中では、自分たちのスキルセットを活かしてゲームに貢献したいというナイーブな側面もある起業でした。

 当時から基本的にリモートワークでしたが、対面して話す日には毎回コーヒーをたっぷり落として飲み切るまで話し続けました。あの日々の感情と光景はいまでも時折思い出します。あるいは、コーヒー豆の香りが架け橋黎明期の記憶を呼び起こすのかもしれません。

 ゲームの多様性はこの10年でずいぶん豊かになったように思います。海外インディーゲームを素敵な日本語にローカライズする会社も増えました。私は体調を崩して途中で離れてしまいましたが、ザックとふたりで始めた取り組みが10年を経てこんな大きな流れを生み出す一助となったことは、僕個人としては望外の喜びというやつです。

 ザック&みんな、おめでとうございます。つぎは20周年を祝えることを願っています。続けることがいちばん大事だから。

架け橋ゲームズ10年の軌跡

  • 2013年4月 ザック・ハントリ氏と矢澤竜太氏のふたりにより創業
  • 2013年9月 初サポートタイトル『Amodyne』をPC、スマートフォン向けにリリース
  • 2016年 Devolver Digitalとの取引開始
  • 2016年4月『Enter the Gungeon (エンター・ザ・ガンジョン)』をPS4向けにリリース
  • 2016年9月15日〜18日 東京ゲームショウ2016に、国内パブリッシングをサポートする4タイトルを出展。以降東京ゲームショウの常連に
  • 2017年2月『Overcooked - オーバークック スペシャルエディション』をNintendo Switch向けにリリース
  • 2017年5月20日〜21日 A 5th of Bitsummitに、国内パブリッシングをサポートするタイトルを多数出展。以降BitSummitの常連に
  • 2018年6月『Hollow Knight』をNintendo Switch、 PS4、Xbox One、PC向けにリリース
  • 2019年5月『The Escapists: Complete Edition』を配信し、Nintendo Switchのサポートタイトル100本を達成
  • 2020年4月 初パッケージ作としてNintendo Switch版『Enter the Gungeon (エンター・ザ・ガンジョン)』を発売
  • 2022年11月『The Knight Witch 』をNintendo Switch向けにリリースし、サポートタイトルが300本