『ミリシタ』夏川椎菜さん（望月杏奈役）インタビュー。「オフのときの杏奈の間をずっと大事にしています」

　2023年6月29日に6周年を迎えた、スマートフォン向けアプリ『アイドルマスター ミリオンライブ！ シアターデイズ』（以下、『ミリシタ』）。それを記念して、望月杏奈役の夏川椎菜さんにインタビューを実施。杏奈を演じるうえで変えたところ、変えていないところなど、10年間の思い出をたっぷりと語っていただいた。

――『ミリオンライブ！』は今年で10周年、『ミリシタ』は6周年を迎えました。改めていまのお気持ちをお聞かせください。

夏川『ミリシタ』がスタートしたのがついこのあいだのような感覚ですね。 本当にあっという間に10年経ったんだなと。私たちミリオンスターズのライブ活動が始まったころには、 765プロの先輩たちは10周年を迎えられていました。偉大な皆さんに少しでも追いつきたいと活動していた私たちが、ついに同じ10年目を迎えることができて、「とうとうここまで来たんだ」と、とても感慨深いです。

――杏奈とも10年の付き合いとなりますが、オーディション当時のことは覚えていますか？

夏川10年前、16ちゃいですね（笑）。 当時はまだ高校生だったので、 学校帰りにマネージャーさんと会場に向かった記憶があります。オーディションでとくに印象的だったのは、 スタッフさんがとてもフランクに接してくださったことです。

　というのも、当時受けていたオーディションは形式的と言いますか、必要最低限のことをやったら終わりという感じのものがほとんどだったんです。そんな中、『ミリオンライブ！』のオーディションでは、スタッフさんとお話しする時間などもあって。その際に親身になって声を掛けてくださったことで、気負わずにオーディションに臨むことができました。

――オーディションでは、 杏奈だけを受けられたのですか？

夏川杏奈のほかに、（七尾）百合子も受けました。第一希望が杏奈でしたね。オーディション前にはふたりの資料を拝見したのですが、杏奈の資料には、オンとオフのふたつの姿があることが書かれていて、セリフも2種類ありました。

　私としては、杏奈の役だと大人しいお芝居と、元気いっぱいなお芝居の両方を演じられるので、杏奈に選ばれたらうれしいなという気持ちでした。

――手応えはいかがでしたか？

夏川当日は歌の審査もあったのですが、オーディションで歌うこと自体が初めてだったので、 歌の審査では少し緊張しました。ただスタッフさんの気配りで、オーディション全体を通してリラックスして臨めたのと、審査の中でお芝居のアドバイスもたくさんいただけたので、後悔せずやり切った達成感とオーディションで成長できたことへの充足感を感じながら帰宅した記憶があります。

――そうしたオーディションを経て、 約10年間杏奈を演じられています。演じていく中で新しい一面が見えたりもしたと思いますが、演じる際に変えた部分はありますか？

夏川初めて杏奈を演じたときの年齢が16歳ぐらいのころで、そのときはいまに比べると声も子どもっぽくて、大人になり切れていないぐらいのちょうど境目ぐらいのときでしたが、ある時期に私の声が大人になったタイミングがありまして。声変わりではないけれど、初めのころの収録時の声が出なかったんです。

　そのときが、ちょうど『ミリシタ』の収録もスタートした時期でした。自分では同じように出しているつもりだけど、あとで聴いたらちょっと違うかもとなって。それまではありのままでと言いますか、まだ声を作って演じるということがテクニック的にできていなかったので、わりと地声に近い感じで演じていたのですが、『ミリシタ』の収録が始まるあたりから「望月杏奈の声は声帯のここを使う」みたいなことをかなり意識してやるようになりましたね。

　それは長く演じているからこその変化というか、高校生のころから演じていた役を大人になってもより長く演じられるようにということで自分が意識したところかなと思います。

――では逆にあえて変えず、ずっと大事にしていることはありますか？

夏川杏奈のオフのときのお芝居ですね。 私の中で、 オフのときの杏奈の間というのがありまして。 たとえば「○○です」というようなセリフでは、「○○、です」と最後の“ですます”はしっかり間を空けることを意識しています。

　これは初期のころに当時のスタッフさんと決めたのですが、 この間をずっと大切にしているからこそ、 オフのときの杏奈のお芝居をブレずに演じ続けられているのかなと思います。

　ただ、『ミリシタ』ではフルボイスで物語が展開されるので、 プロデューサーさんがお話を聞きやすいよう、間の長さなどは随時調整して収録しています。

――ここからは、『ミリシタ』のアイドルや楽曲のことなどについてもお聞きできればと思います。まずは、ご自身が歌唱されている楽曲の中で、とくにお気に入りのものを教えてください。

夏川カプリコーンの『NO CURRY NO LIFE』です。ラテン系な楽曲なのですが、杏奈に割り当てられる楽曲は正統派アイドルのような明るいものが多かった中で、初めてきた個性的な路線の楽曲だったので印象深いです。

――変わり種な楽曲ですよね。

夏川そうなんです。かわいくて元気なだけじゃない、オンの杏奈の勢いだけじゃ乗り越えられない楽曲がきて。いわゆる電波ソングというか、“ザ・アニソン”な楽曲ですよね。『アイマス』の中でもそういった楽曲は数多くあって人気を集めているので、歌ってみたいという憧れはありました。ただ、杏奈だと難しいだろうなと思っていたところに『NO CURRY NO LIFE』だったので、「やった！」と喜んだことを覚えています。

　しかもこの曲はセクシー路線みたいな面もあるじゃないですか。ギャグなんだけれど、それを真面目にセクシーにやっているところがおもしろい楽曲なので、これは杏奈の新しい扉が開かれるんじゃないかなと。杏奈もこういう曲できるよというのを見せられた楽曲だと思いますね。

――初めて挑戦するジャンルだったと思いますが、レコーディングはいかがでしたか？

夏川当時の音楽ディレクターさんとノリノリでやりましたね。確か、私がレコーディングしたのは一番目か二番目で、仮歌の時点で入っていなかったアドリブ的な吐息などを入れたらどうかと提案して、採用していただいたり、とにかくノリノリで収録した記憶があります。

――好きなアイドルや楽曲についても伺えればと思います。

夏川ユニットになりますが、閃光☆HANABI団がすごく好きで。『咲くは浮世の君花火』の曲のテイストも好きだし、ライブでやったときの盛り上がりや、振り付けも個人的にすごく好きで、踊りたくなります。

――お祭り感がありますよね。

夏川「そっかそっか、私は日本人なんだ」みたいな。日本人の血に流れるお祭りソウルみたいなものが勝手に湧き上がってくる感じがあります。この曲は、いつか杏奈で歌ってみたいなと思う楽曲のひとつなんですよね。9thライブでこの曲が“ChoruSp@rkle!!Mix”としてリアレンジされてライブで披露されたのですが、すごく羨ましかったです。イントロのブリブリ加減がすごくて、めちゃくちゃかっこいいアレンジになっていて。参加しているみんなを見つつ、裏で「キィー！」となりながら、「この曲、いつかやりたい」と思いました。

夏川あとは、ライブで『エターナルハーモニー』を歌わせてもらう機会が多いんですよ。ですので、自然と聴く回数も多くなっていくのですが、メンバーの声がみんな個性的なのに、あんまりぶつかっていないと言いますか、ユニゾンになったときにすごく綺麗に響いているのが心地よくて。また、Bメロでひとりひとり歌い紡いでいくところもすごく好きです。ただ、なぜかライブで私はそこの歌い分けから外されていることが多くて。この間の10thライブでも歌わなかったのでいつか歌ってみたいですね。

――『ミリシタ』のコミュでお気に入りのものはありますか？

夏川『ENTER→PLEASURE』の曲が追加されたときの杏奈のメインコミュです。物語としては、杏奈がオンの状態のまま戻れなくなってしまうというもので、私も台本を読んでいて、「え？」となりましたし、これまでオフの状態に戻れなくなったことはなかったので、「これどうなっちゃうの？」と思いました。

　お話の中では、プロデューサーさんも周りのアイドルたちも、杏奈がオフに戻れなくなったことでめちゃくちゃ慌ててくれて、どうにかオフに戻そうとするみたいな流れなんです。杏奈を疲れさせようと遊園地に遊びに行ったり、ゲームをしたりするのですが、その中で、ちょっとだけプロデューサーさんに対して不安に思った杏奈が、「プロデューサーさんは、オフの杏奈のほうが好きなの？」と聞く場面があるんです。それですごく泣いちゃいそうになるんですよね。

　そんなことを思う感情の流れはすごく理解できますし、オンの杏奈がネガティブなことをプロデューサーさんに言うのが珍しいことで。オンでありながらオフで思うような感情が表れているところが、演じていて泣きそうになりました。そのときは、ほぼ杏奈の母親のような目線で、「あぁ……杏奈、大丈夫だよ」と感じていました。

　最終的には、杏奈の疑問に対してプロデューサーさんが、オンが好き、オフが好きということではなくて、ほかのアイドルや自分が杏奈を元に戻れるようにしているのは、杏奈がいつでもどんなときでも、好きな自分でいられるようになってほしいからだよ。ずっとオンでいることが正解だとは思わないから、オフの杏奈もオンの杏奈も、どっちも本物の杏奈なんだから、それをうまく切り替えられる状態こそが杏奈なんだよ、とお話が纏まって。「こんなん、泣いちゃうでしょ」と。すごく素敵なお話でしたね。

　最後は、「私にとっては両方大事だからね」というセリフで締めくくられるんですけど、杏奈の思いを改めて聞けたコミュだったなと思ったのですごくよかったですし、このコミュがあってからの『ENTER→PLEASURE』というのがエモいなと思いました。

　また、その後に出したソロ曲『スポットライト・ミラーランド』がいちばん最近の杏奈のソロ曲なのですが、その中に登場する「ホントも嘘も裏返しの反対」という歌詞にも繋がってくるので、杏奈のコアとなるコミュだなと思いました。

――杏奈の気持ちがダイレクトに伝わる、とてもグッとくるコミュでしたね。そんな杏奈は、『ミリシタ』6周年のキービジュアルのセンターを飾っています。そんな6周年を記念した楽曲『グッドサイン』の印象を聞かせてください。

夏川最近の『ミリオンライブ！』の周年楽曲や全員曲は、『ショコラブル＊イブ』や『夢にかけるRainbow』のように、かっこいい路線の楽曲が多かったので、久しぶりにど真ん中の、わちゃわちゃ系の明るい楽曲がきて、すごくうれしかったですね。

　『ミリシタ』の6周年は、『ミリオンライブ！』にとってはかなり重要な年になると言いますか、アニメも始まりますし、『ミリオンライブ！』自体が10周年だったりして、より多くのプロデューサーさんの目に触れる機会があるのかなと思っています。そこに引っ提げるであろう周年曲がこれだけ明るくて希望に溢れている歌だとすごくうれしいなと思いましたね。

　ただ、めちゃくちゃ難しかった（笑）。年々周年曲はレベルが上がっていくなと思っていたのですが、ここまで来たかと思いましたね。すごく難しかったですが、サビのメロディーの流れも美しくて、歌っていてほがらかな気分になりますし、笑顔のアイドルたちが自然に浮かぶような歌になっていて。『ミリオンライブ！』のいろいろな希望が見える年にこの曲が歌えるのは素敵だなと思いました。

――注目してほしいポイントはありますか？

夏川冒頭の「この小さな手のひらを　空に透かしてみれば」のところですかね。ここもめちゃくちゃ細かい音符でかなり移動もするので難しいのですが、この最初の2行で歌っていることがこの曲のすべてというか、ここからさらに飛躍していく『ミリオンライブ！』のための楽曲だなと思います。レコーディングもすごくがんばりながら歌ったので、ここはいっぱい聴いてほしいです。ちなみに、『グッドサイン』も確か私は最初に収録していたと思います。

――昨年の周年曲である『夢にかけるRainbow』も、夏川さんが最初のほうだったと聞きました。

夏川ここ3、4年ぐらいは“全員曲最初説”みたいなものがありまして、最初だからこそ何にもないまっさらな状態なので、私がみんなの基準になるんですよね。だからこそ、曲中の感情の流れみたいなものもスタッフさんといっしょに作っていくのですが、まさに最初のこの2行に関してはスタッフさんも大事にしていたところで、けっこう話し合いました。そういう意味でも、この2行に6周年の『ミリシタ』、10周年の『ミリオンライブ！』が詰まっていると思います。

――『ミリオンライブ！』の10周年曲『Crossing!』についてもお聞きできればと思います。

夏川『Crossing!』も初めのほうに収録した記憶がありますが、レコーディング時にタイトルが『Crossing!』で、クロス=X=10という意味があり、いままで『ミリオンライブ！』が歩んできた道がクロスしていって、そこからさらに続いていく、という思いが込められているとお聞きしました。

　『アイマス』は、765プロオールスターズの皆さんから始まって、後に続いていくアイドルたちが登場していますよね。『ミリオンライブ！』も（女性アイドルのブランドとしては）ずっと末っ子ポジションだったのが『シャニマス』（『アイドルマスター シャイニーカラーズ』）も出てきましたし、どんどん『アイマス』の中においては中核を担うコンテンツになってきているということを表した曲だなと思って、すごくうれしかったです。ただ、この曲も難しかったですね。

――確かに難しそうな印象があります。

夏川ただ、最初の歌詞が「Thank you！」から始まるところがめちゃくちゃエモいですし、ライブのダンスも、いままでの周年楽曲の振り付けがちょっとずつ取り入れられていて、そこも10年やってきたからこそできることかなと。すごく難しかったし、たいへんでしたが、10年の重みだと思って歌いました。

――出演されたライブの中で、とくに印象に残っているものはありますか。

夏川『アイマス』関係のライブとして初めて参加した、765プロの皆さんの8thライブツアー（※）です。福岡公演に、もちょ（箱崎星梨花役の麻倉ももさん）とゲスト出演させていただいたのですが、 当時の私はライブの経験があまりなく、会場も広くて、 そして生バンドということもあり、 とても戸惑っていたことを覚えています。

夏川本番中だけでなく、 リハーサルの段階から泣いていたりしていたのですが、 そんなときにミンゴスさん（如月千早役の今井麻美さん）から、ライブにあたっての実践的なアドバイスや励ましのお言葉をたくさんいただけて。そのおかげで、 当日は無事パフォー マンスを行うことができました。 そのときのミンゴスさんのお言葉の数々は、 いまでも私の支えになっていますし、 ステージに立つときにずっと大事に意識しています。

――先日には『ミリオンライブ！』の10周年ツアーも開幕しました。

夏川声出しも解禁されましたね！　プロデューサーさんたちのブランクを感じさせない声援や「アイマス最高！」コール、それに「アイマスですよ、アイマス！」の掛け声……。いつもの『アイマス』のライブが返ってきたことを肌で感じられて、胸が熱くなりました。

――夏川さんとしては、『VIVID イマジネーション』をソロで歌われていました。かなり久々の披露だったと思いますが、改めていかがでしたか？

夏川『VIVID イマジネーション』は3rdツアーぶりだったのかな。本当に久しぶりに歌わせていただきました。当時歌ったときは、難しい楽曲だなと感じていた記憶がありますね。ダンスも、それまでの杏奈が参加していた楽曲から一気にレベルが上がったような印象でしたし、楽曲もかわいいだけではなく、オンの杏奈なんだけれど、オフの部分も混ぜながら歌うみたいなところがかなり新しい曲だったので、戸惑いながら歌っていました。

　そんな3rdライブから7年ほど経って、夏川もいろいろと学ぶことがあったので、久しぶりに歌った『VIVID イマジネーション』もうまく乗りこなせるようになっていました。より杏奈としての表現、自分がやりたいことを形にできるようになったんだなということを感じましたね。

　ほかにも当日は、『ミリシタ』のダンスバージョンの振りも存在するので、ちょっとだけ振り付けを足してみたり、せっかく久しぶりに歌うからには進化を見せられたらいいなと思って、いろいろやりました。すごく楽しかったです。

――そんな『ミリオンライブ！』の今後としては、いよいよアニメの先行上映と放送開始が近づいています。いまの率直な心境などお聞かせいただければと思います。

夏川長かったですね。発表からも長かったですし、コンテンツが立ち上がった時期からアニメ化を考えていたとお聞きしていたので、ずっと楽しみにしていました。ようやく来たかという感覚ですね。

　アニメになると、『ミリオンライブ！』を知らなかった人たちがダイレクトに触れてくれる機会になると思うので、一気にプロデューサーさんが増えてくれるんじゃないかなという期待もあります。そういう意味では、『ミリシタ』が6周年、『ミリオンライブ！』が10周年迎えたいまの時期にピッタリのタイミングだったなと思います。それと、新しいプロデューサーさんたちがどんな風に『ミリオンライブ！』の世界を楽しんでくれるのかはすごく楽しみですね。

――プロデューサーの皆さんにとっても待望のアニメ化だと思います。

夏川本当にそうですよね。私、この間映画館に行ったときに『ミリオンライブ！』のチラシが置いてあったんですよ。それを見て「私のキャラが映画館にいる！」と感激して。やっぱり『ミリオンライブ！』はずっとシアターを大事にしてきたコンテンツだと思うので、最初にアニメを世に出す場所がいわゆるシアターで、本当に『ミリオンライブ！』らしくて、私もすごく期待しています。

――今後の活動の中でやってみたいことはありますか？

夏川『ミリシタ』内で（双海）亜美、真美や杏奈も所属しているゲーム部があるんですよ。けっこう頻繁に登場しているので、ゲーム部のメンバーでゲームをしてみたいですね。

――それでは最後にプロデューサーさんへメッセージをお願いします。

夏川いつもたくさんの応援、ありがとうございます。私たちは今後も走り抜けていきますので、 全力でプロデュースしていただけたらうれしいです。これからも応援ください！