アメリカのサンフランシスコで開催中のゲーム開発者向けイベント“ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス”。連日行われる講演の中には、プロモーションや近年重要視されているコミュニティマネージメント関連のものもある。

 そんな中で面白かったのが、ゲームのプロモーションのためのTikTok活用講座だ。動画系ソーシャルネットワークのTikTokを扱った講演は過去にも例があり、『Among Us』での事例紹介などが行われている。

1回のバズで業界のメジャーイベントに匹敵する効果

 発表を行ったのは、Future Friends Gamesのグレース・カーティス氏。同社はインディーゲームを中心に外部PRとパブリッシング支援を提供する会社で、『Vampire Survivors』などの人気ゲームのPRなどにも関わっている。

 さてその運用実績は、『Exo One』や『Omno』といった渋めのインディーゲームで数百万の再生数や“いいね”を得ているというデータを提示。しかも広告費などはかけていないという。

 利用者の人にはご存知だと思うが念のため説明しておくと、これはTikTokの仕様がキーとなっている。TikTokにはフォローしているアカウントを表示するタイムライン以外に“For You”と呼ばれるアルゴリズム表示のタイムラインがあり、うまくサイクルに乗ると飛躍的にバズれるのだ。

ゲームPRのためのTikTok講座
アカウントの運用実績。実はこの講演の少し前にTikTokのCEOが米議会の公聴会に出席し、中国政府への利用者のデータの流出疑惑について証言するというなかなかタイムリーすぎるタイミングではあったのだが、内容は純粋にプロモの話です。

 でも「それ、売り上げに繋がるの?」とお思いの人もいるだろう。具体的にゲームそのものに繋がる情報はBio(プロフィール)欄のリンクのみで、映像自体にもコメントにも詳しい情報は入っていなかったりする(質疑応答ではたどり着いてくれる比率が悪いことは認めていた)。じゃあバズっても意味なくない?

 そこで出てくるのが、インディーマーケティングの重要な指標であるSteamでのウィッシュリスト数。TikTokで動画がバズった時には、業界のそれなりに大きいイベント(GamescomやSteam Next Fes、新作発表配信のFuture Games Showなど)に匹敵するかそれ以上のウィッシュリストの伸びを見せていることが示された。

ゲームPRのためのTikTok講座
ゲームPRのためのTikTok講座
インディーゲーム開発者のKela van der Deijl氏による『Mail Time』での数字。GamescomとFGS(Future Games Show)が重なる時期なんてかなり強いはずなのだが、TikTokの1発のバズでそれに匹敵している。

あえて低予算な親しみやすさの美

 ところで、『Exo One』ではYouTubeに公開したのと同じきっちり編集したトレイラーもアップしてみたそうなのだが、それよりもTikTok用に作った短く労力もかけていない動画一個一個のほうが再生数が多かったそう。今ではむしろ狙い所として低予算に作ることを推すぐらいだ。

 カーティス氏は自身の実体験もふまえて、TikTokのメインターゲットであるZ世代の広告への不信感をその理由として挙げる。いわく「90年代後半から2000年代にかけて、私たちの世代は目を開くたびにお金のかかった広告に晒され続けてきましたから、広告に敏感に反応します。よくできていすぎる、いかにもお金がかかっているようなものを見ると、脳がこれ広告だわって拒否るんです」

 スタジオに入ってバリバリのセットで撮るよりも、ドレッサーの前でカメラに向かって話す、OBS(PC用のキャプチャーソフト)で綺麗にゲームプレイを録画するよりも、スマホのカメラでスクリーンを直撮りする。まぁOBSが絶対駄目というわけではないと思うが(実際、綺麗に撮っている映像も使われている)、肝心なのは何もない若者と同じツールを利用して親しみやすく“紛れ込む”ことだという。

ゲームPRのためのTikTok講座
渾身のMeme(ネットネタ)の承認に2週間かけてんじゃなくて、スマホで10分編集したやつでいいからガンガン回してけや、というド直球な指摘。

手法はいろいろ

 では実際どんなものを作ればいいのか? その後の解説や質疑応答で出てきた要素をざざっと紹介しよう。でも重要なのは自分で実際使って試行錯誤していくこと。まとめでは「完璧なものをひとつ作ろうとするよりも、ルーレットを何度も回すつもりぐらいの方がいい」と言われていた。

  • カットされていない一連のゲームプレイを見せる
    • 細かく編集する広告の手法よりも配信の手法に近い
  • キャプションを使って語っていく
  • サウンドは引き続き重要な要素
    • 既存の曲を使う場合、ある種のフォーマットにもなるし特定の雰囲気を与えてくれもする
  • トレンドを常に追う
    • 単に日常的に使って把握するのでもオーケー
  • ビジュアル的に説得力があること
    • ドーパミン工場のようなものなので、綺麗だったり新鮮だったりするものを見せられると強い
    • ただしヘンなものでも、ビジュアルに説得力があれば受けることもある
  • “自分が作っているゲーム”とか“私たちの新作”といった言葉で見ているものと発信者を結びつける
    • 普通の人にとってゲーム開発者は珍しいものなのでそこで興味を持ってくれる場合がある
  • 個人が継続して出ることで、見慣れた個性を与える
    • カリスマ性が必要とされるわけではない
  • 最後まで見てもらえる事が多いと伸びる可能性が高い
    • ならば完了しやすい短い方がいいというわけではない。目安は15秒から30秒ぐらいと考えているが、いい投稿なら30秒で伸びることもある
  • 画面構成も重要。上下で割るなど
  • 受けやすい内容のフォーマットを利用する
    • リスト的な内容。ゲーム中のイースターエッグ(仕込んだ小ネタ)や場所など
    • バグ映像などをあえて投稿するのもアリ。
    • 新機能に絞った紹介をする
    • Meme(ネットネタ)や比較ネタなどのジョーク
    • 質問に答えるなど
  • YouTube Shortやインスタグラムに再投稿するのもいい
ゲームPRのためのTikTok講座
スタッフがトレンドチェックの参考にしていたというアカウントのリスト。
ゲームPRのためのTikTok講座
綺麗だったり笑えたりする映像のフックに、キャプションを使って「“自分”がいま作っているゲーム」とか「“私たち”の新作」といった言い方で繋がりを演出していく。
ゲームPRのためのTikTok講座
同じ個人が継続して出ることで親しみやすさを増すのも手法のひとつ。左端は『Among Us』の開発InnerslothのVictoria Tran氏。
ゲームPRのためのTikTok講座
画面構造もテクのひとつ。
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右の映像は「Vampire SurvivorsのXbox版いつ出るの?」という質問に対して答える形になっているもの。25分で作ったにも関わらず、Xbox公式YouTubeアカウントに投稿されたトレイラーと同じぐらいの再生数があったという。