2023年3月3日、スクウェア・エニックスは代表取締役と連結子会社代表取締役の異動を発表。2023年6月より、代表取締役は松田洋祐氏から桐生隆司氏へ異動する。
異動の理由は“エンタテインメント産業を取り巻く事業環境が急速に変化する中、日々進化する技術革新を取り入れ、当社グループのクリエイティビティを最大限に発揮して、世界中の皆さまに、さらなる優れたエンタテインメントをお届けすることを目指して、経営体制の一新を図るものです。”とのことだ。
桐生氏は2020年にスクウェア・エニックス・ホールディングスに入社。同社グループ経営推進部長や最高戦略責任者などを経て、2022年7月からスクウェア・エニックス・ホールディングスの執行役員グループ財務戦略室担当に就いていた。
本稿では、3日に開催された記者会見の質疑応答の内容を中心にお届けする。
松田社長は退任後に役職へ就かずスクウェア・エニックスを去ることに
記者会見の冒頭、松田社長は「足掛け10年になりますが、社員のがんばりのおかげで非常に成長することができました。この度、つぎの成長に向けてどのように会社を変えていかなければいけないかを考えた末、新しい体制に変えるべきだという結論に至りまして、桐生にバトンタッチをするということを決意した次第です」と退任理由についてコメントした。
退任後は経営陣の一員として残るということはせずスクウェア・エニックスを退社し、同社のイチファンとして新しい体制での取り組みを外から見守っていくという。社長就任から10年、スクウェアとエニックスが合併してから20年。今後、新社屋へ移転する計画もある。いろいろな意味での大きな節目ということもあり、会社を大きく変えるためには会社のトップが変わらなければいけないという想いのもと、自ら身を引くことを決心したそうだ。
新社長である桐生氏について松田社長は、「やり遂げる意志が素晴らしいものがあります」と評価。変化の激しい時代において、最後までやり遂げる意志と情熱的な気持ちを持つことが、社長としての重要な資質であると語った。
幼少期から、スクウェア・エニックスが生み出してきたコンテンツに心を惹かれ、憧れの気持ちと尊敬の念を抱いていたという桐生新社長。
憧れを提供する側となった桐生氏は「いまこの時代に求められているのは変化、その変化の先にある進化です。それらをスクウェア・エニックスにもたらすことが、社長としての最初の使命だと考えています。一貫性と柔軟性をもってアプローチしていきたいです」と決意表明を行った。
質疑応答
記者会見の後半では、取材に訪れた各社からの質問に答える質疑応答が行われた。他媒体からの質問も含めて記載する。
新体制となっても、開発中&今後計画しているタイトルへの影響はない
――最近のゲーム販売の不振、スマホタイトルの早期サービス終了などが退任の要因になったのでしょうか。またこれらに対して今後どう対応していくのか教えてください。
松田直接の関係はありません。ゲーム開発の中で、いろいろなご批判を受けているのはもちろん承知していますが、そういったものも含めて今後大きく変わっていくためには、この10年という大きな節目のタイミングでバトンタッチするのがいいだろうとかなり前から考えていました。
これからも皆様方のご意見も踏まえ、新体制で新しい体験、おもしろい体験を実現してくれると信じていますので、ぜひ期待してもらいたいと思います。
――今回の退任で、『ファイナルファンタジー』(以下、“FF”)や『ドラゴンクエスト』(以下、“DQ”)といった主要ゲームタイトルの販売計画などに変更や影響はありますか。
松田いま開発中のタイトルや今後計画しているタイトルへの大きな影響や体制の変更は、基本的にはありません。
いま開発しているタイトルもそれぞれ非常に充実しており、次年度以降の飛躍に向けての準備が整ったということですので、それを見届けてから辞めるのではなく、準備のタイミングで新体制に引き継ぎました。
――松田さんはWeb3.0事業に積極的でした。桐生さんも同じ戦略を継続するのでしょうか。
桐生結論からお答えしますと、松田社長が進められている戦略については、基本的に踏襲をすることを考えております。理由としてはふたつあります。
まず1点目は、私自身が松田社長のもとで最高戦略責任者という立場で共に戦略を推進している、サポートをさせていただいている立場ですので、ここに関してはきちんと最後までやり遂げたいと思っております。
ふたつ目の理由といたしましては、Web3.0は我々をつぎの成長につなげていく可能性がある事業だと客観的に思っております。
そうした2点、外部環境と我々のこれまでの内部の推進体制から、今後もWeb3.0事業については進めていきたいと考えております。
――ゲーム市場について、どういったところに課題があるとお考えでしょうか。
桐生ゲーム市場全体というところで少しマクロな視点でお話をさせていただきます。
かつてであれば、いったんテレビの前に座ればずっとゲームをしている、専用のデバイスの中でゲームを遊ぶ、といった話があったと思います。現在はスマートデバイスないしタブレットがどんどん高性能化していき、デジタルエンタテインメントコンテンツの可処分時間(※)の奪い合いになっていく中で、ゲームのシェアをどうやって増やしていくか。そしてそれをどうやって我々のコンテンツで始めていただくのか、というところが大きな課題だと思っています。
もう少し狭いミクロな視点で見ますと、デバイスの高度化等に伴って開発費が上がってきているという傾向があります。その一方で、なかなかそれを価格に転換していくのが難しいというところがありますので、そのビジネスモデルをいかにして改革・改善していくかが、もうひとつの課題です。
――その課題に対してどういうアプローチをしていこうと考えてらっしゃいますか。
桐生マクロのほうに関しては、どんなお客様がどのようなものを求めていらっしゃるのか、我々のコンテンツをどのようにお届けするのが最適なのか、お客様視点を持って、いま一度きちんと原点に立ち戻って真摯に向き合いたいと思っております。
開発費等に関しては少し長い時間軸になるかもしれませんが、いま松田社長が進められている対策のひとつに内製開発体制の強化があります。これによって、例えば開発の仕組みの練度を上げていくことで効率化を図り、収益性を高めることができると考えております。
強みである“おもしろさ”という普遍性を10年後も保持し続ける
――桐生さんの前職と現職を含めた経歴とご自身の強みについて教えてください。
桐生前職の電通時代は主にプランナー、ストラテジストとして、クライアントの方々に対してマーケティングを中心としたサービスを提供しておりました。電通が一部グローバル企業を買収した後は、経営企画等の立場で経営の推進のほか、管理会計の仕事にも携わってまいりました。
当社に入社した後は松田社長が推進される戦略をサポートし、実行に移すということをしておりました。電通からスクウェア・エニックスに入社した理由はふたつあります。
ひとつは、スクウェア・エニックスという会社に対して私が持っていた憧れです。いつか自分が何らかの形で、お客様に憧れを与える立場になりたいと思っていました。
ふたつ目の理由は、スクウェア・エニックスが持つ可能性です。コミュニケーションやインタラクションが求められる時代において、本質的で普遍的なコンテンツの力を持っており、それを自社で開発できる。そういった会社はこの世界でも稀有だと思います。
――桐生さんは幼少期にスクウェア・エニックスのタイトルに憧れがあったとのことですが、具体的にどのようなタイトルを遊んでいたのでしょうか。
桐生昔話みたいな世界になってしまって恐縮なのですが、初期の“DQ”と“FF”に関しては、ナンバリングはすべて発売日に購入していました。それ以外にも、ファミコンのタイトルに関しては他社様のタイトルになりますが、ほぼほぼ遊ばせていただいております。
旧スクウェアで言うと少しマニアックなタイトルになってしまうのですが、『トバル No.1(ナンバーワン)』はアクションゲームの名作だと思っています。斬新かつ挑戦をしていくようなゲームで、「スクウェアがこんなゲームを作れるんだ」と非常に印象に残っています。
――松田さんは代表取締役社長を10年間務めました。桐生さんは10年後、スクウェア・エニックスをどのような会社にしたいとお考えですか。
桐生一言で申し上げますと、世界中のお客様に対して最良のコンテンツを提供し、そのコンテンツによって人々に幸せをお届けできるような、お客様とスクウェア・エニックスとのあいだで常に絆が存在している会社にしたいと思っております。
昨今はSNS等をはじめとして、いままで以上に人間同士のインタラクティブなコミュニケーションの重要性が高まっています。そうした中で、我々が提供しているゲームやマンガ、アミューズメントなどすべてのコンテンツがアナログとデジタルを問わず、人と人とのつながりを生み出すきっかけ、ポテンシャルを持っていると思います。
10年後はテクノロジーもデバイスも変わり、もしかしたら言語という壁もなくなっているかもしれません。その中でも、変わらない“おもしろさという普遍性”の部分の強みを、我々はこれから先10年後も必ず保持していなければなりません。それをきちんと形にしてお客様にお配りし、お客様を幸せにすることが10年後のスクウェア・エニックスのあるべき姿です。
――代表取締役社長として、これから変えていきたいこと、のばしていきたいことを教えてください。
桐生変化には2種類ある思っておりまして、ひとつは結果として「変わったな」と皆さんに思っていただけること。これが私がやりたいと思っていることに近いです。
例えば、スクウェア・エニックス グループが資産として持っているアミューズメントや出版などのさまざまな事業が、まだまだお客様に伝わりきっていないと考えています。こうしたグループの中でのさまざまな資産を活用したおもしろさを、お客様によりお届けできる体制づくりに挑戦したいです。これから先の時代を見据えて獲得しなければならないものもあるでしょうし、逆にもう少し磨き上げなければならないといったものに関しては場合によってはちょっと足を休め、自分たちの姿を見直すことも必要になるかもしれません。
そのあたりに関しては松田社長といっしょにやってきましたが、その上で時代の変化なども見据えながら柔軟に対応していきたいと思っております。
まだまだ未公表の新しいタイトルも。今後も新しいIPを創出
――松田さんにお聞きします。この10年でやり遂げたこと、やり残したことを教えてください。
松田そうですね。この10年間、本当にいろいろなことがありました。どれというよりも、お客様にゲームを遊んでいただけるという高揚感は、何事にも代えがたいものがありますし、コンテンツの会社の醍醐味だと思います。
社員をはじめ一丸となってゲームを開発し、世に届けることができてお客様に評価していただいた。厳しいお言葉をいただくこともありますが、それもまた我々がこのビジネスをやる上でのひとつの醍醐味です。
コロナ禍はこれまで経験がないような事態だったのですが、その中で働き方も含めて価値観がかなり変わったと思います。そういったものもあって、新しい世代にバトンタッチをしようと考えました。この10年間はいろいろな意味で激動の時代でした。これから新しい体制になって、そこで花開いてくれればいいかなと思っています。
――一部のアナリストのあいだで「スクウェア・エニックスは“FF”と“DQ”以外のタイトルで稼げない会社になってしまっている」といった指摘があります。スクウェア・エニックスがかつての栄光を取り戻すための新しい計画がありましたら教えてください。
松田そのようにおっしゃられているのはあまり解せないものもあるのですが、我々は新しいものにも挑戦しています。当然、その中でいろいろなご批判を受けることもあるのですが、新しいものへの投資を惜しむつもりはないですし、積極的にやっていかなければなりません。
『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』や『OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)』といった新しいフランチャイズもできていますし、まだまだ公表していないものもたくさんあります。たしかに、いくつかのタイトルでひっかかり等ありますけれども、そういったものを糧にして、これから新しいタイトルが出てくると思いますので、そこはご期待いただきたいです。
また、既存事業をしっかりと盤石にした上で、さらに新しい事業へ投資することがビジネスの王道です。既存事業だけでいいと判断された日に成長は終わると思います。どこに投資をすべきなのかということに関しては、Web3.0も含めて社内でもしっかり議論しています。ようやく、それが少しずつ形になってきていますので、来年度の中期事業戦略に織り込まれるだろうと私は期待しています。新社長に約束させるみたいになってしまいますが(笑)、必ずそうなると思いますので、ぜひ期待していただければと思います。
桐生いま推進している中期事業戦略に関しては、来年最終年度になりますけれども、まずここはしっかりやり切ります。その上で、先ほど10年先の当社をどうしていきたいかというご質問をいただきましたが、この1年でも、もしかしたらデバイスや通信環境などで大きな変化が起こるかもしれませんので、そういったものを織り込みながら柔軟に対応していきたいと思っております。
ただ、今後も変わらず取り組み続けなければならないのは、新しいIP(知的財産)の創出です。“FF”と“DQ”のかつての栄光というお話がありましたけれども、例えばつい数ヵ月前、『ニーア』のファンフェスティバルに足を運びました。過去の栄光と言われるところを想定されているようなファンの方とは違う層の方が数多くいらっしゃいまして、そういう方の熱量を身をもって感じてきました。
当社が持っている素晴らしいコンテンツやアセットを、より幅広く、より多くの方にお伝えしていくことを新社長として積極的にやっていければと思っています。ぜひ一度『ニーア』を遊んでみてください。よろしくお願いします。
松田もうひとつ言わせていただくと、当社はマンガもあります。マンガは非常にファン層が若いです。どうしてもゲームの場合、コンシューマゲームを中心に見られると思いますが、いろいろな事業を見ていただきたいとアナリストの方にお伝えください。
『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の購入はこちら (Amazon.co.jp)
『OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)』の購入はこちら (Amazon.co.jp)