2023年2月10日に1周年を迎えたスマートフォン&PC(Steam)向けRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)。“最上の切なさ”をテーマとして掲げ、泣けるストーリーと個性的なキャラクターで多くのユーザーを魅了している。そんな本作では、1周年を記念してアニメ『Angel Beats!』とのコラボを、2023年3月10日まで開催。多くの人が涙した名作とのコラボは、Key作品ファンを中心に大きな話題となった。

『ヘブバン』麻枝 准氏インタビュー。苦手なクロスオーバー作品に挑戦した『Angel Beats!』コラボ。その裏には『ヘブバン』に懸ける熱い想いが秘められていた!
『ヘブバン』麻枝 准氏インタビュー。苦手なクロスオーバー作品に挑戦した『Angel Beats!』コラボ。その裏には『ヘブバン』に懸ける熱い想いが秘められていた!

 本稿では、『Angel Beats!』の原作・脚本を務め、『ヘブバン』の原案・メインシナリオを担当する麻枝 准氏に1周年記念インタビューを実施。はたして麻枝氏の心の内にあるものとは? 『ヘブバン』とともに歩んだ1年や予想外のコラボについて詳しくお聞きしたのでチェックしてほしい。

 なお、本記事は週刊ファミ通2023年3月2日号(No.1785/2023年2月16日発売)に掲載した『ヘブバン』1周年記念特集内のインタビューに加筆・修正を行ったもの。特集では本作の魅力を改めて紐解くとともにとともに、これまでの軌跡をたどる年表や総回答者数約3500人の読者アンケートの結果も掲載。そちらもお見逃しなく!

※インタビューは12月下旬に実施しました。

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麻枝 准氏(まえだ じゅん)

『Kanon』や『CLANNAD』といった泣きゲーで人気を不動のものにしたKey所属のクリエイター。作詞や作曲も手掛ける。文中では麻枝。

ユーザーのフィードバックは作品の質の向上にもつながる

――まもなく『ヘブバン』がサービス開始から1周年を迎えます。いまの率直な感想をお聞かせください。

麻枝サービスが終わることなく無事1周年を迎えられて喜ばしく思うとともに、メインストーリーの更新が遅く、お待たせしてしまっていることに対して申し訳なく思っています。

――『ヘブバン』の制作に1年間携わり、変化した部分はありますか?

麻枝買い切りのPCゲームを作っていたころは、誰からの感想もないまま何年間も黙々と作り、発売後にようやくユーザーから反応がいただけるという状況でした。作品がよいものだったかという答え合わせにいたるまでに膨大な時間を要していたんです。それと違って『ヘブバン』は数ヵ月でユーザーの皆さまの感想を聞くことができ、すぐさま答え合わせとフィードバックが可能で、作品の質の向上につながっています。また、ユーザーの皆さまからの感想によってモチベーションが湧きますし、いまの時代に合った制作環境に変化しました。

自由に描いたストーリーとチームの力で化けた音楽

――この1年間で制作したストーリーの中で印象に残っているものを教えてください。

麻枝やはりメインストーリーです。とくに第四章前編はWright Flyer Studiosさんがすごいものを作ってくれて……。後編もやりたい放題書かせていただき、とてつもない工数をかけて丁寧に作っていただいています。

――ストーリーの制作を通してさらに愛着が湧いたキャラクターはいますか?

麻枝白河ユイナです。ゆーげんさんからいただいたデザイン画を見てすぐに好きになり、その思いはさらに強くなっています。自分が暴走してストーリー中で動かしすぎるので、Wright Flyer Studiosさんに度々止められるほどです(笑)。

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白河ユイナ

――白河はユーザーからの人気も高いですよね。音楽についてもお聞かせください。麻枝さんは本作の楽曲の作詞・作曲も担当されています。制作やレコーディングで印象に残っているエピソードは?

麻枝自分のデモの時点である程度その曲の手応えはあるものなのですが、『White Spell』と『きみの横顔』、『Goodbye Innocence』は、とくに手応えもなかったのに、レコーディングで大化けしました。そういう想定もしていなかった化けかたをした曲が多く、それはアレンジャーさんや演奏者さん、ボーカルさんの力の成せる技で、『ヘブバン』の音楽チームは強力な布陣だと痛感しています。自分が書く曲がやなぎなぎさん、XAIさん、鈴木このみさんに歌ってもらえるこの状況はなんて贅沢なんだろうと、喜びを日々噛みしめてもいますね。

――そんな魔法みたいな出来事が起きていたのですね! これまでに手掛けた楽曲の中で麻枝さんのイチオシの楽曲何でしょう?

麻枝なぎさんとのコラボ楽曲では『White Spell』、“She is Legend”では『Goodbye Innocence』です。そのため、両曲ともこれまでに発売されたCDアルバムの締めに置いています。

――ストーリーで楽曲と物語がいちばんマッチしていると感じた部分はどこでしょうか? 流れる楽曲と併せて教えてください。

麻枝メインストーリー第二章のクライマックスで、『White Spell』が流れてきてそのままボス戦が始まるところです。まだサービス開始前の監修時、イントロが流れてくるところで鳥肌が立ったのをいまでも覚えています。

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――“異時層”で聞くたびに毎回感動しています。やなぎなぎさんとの楽曲制作で思い出に残っていることはありますか?

麻枝ボーカルディレクションで「もっと切なく!」、「泣くように!」、「泣き叫ぶように!」としか自分が言わなくなり、語彙力を失っていったことが思い出です(笑)。

――“She is Legend”のXAIさん、鈴木このみさんとの思い出はいかがでしょう?

麻枝ツインボーカルなので、ふたりの関係性が大事だと思っていたのですが、レコーディングを重ねるにつれ仲よくなっていくのが伝わってきて……。自分は独身ですが、娘ほど歳が離れているので、親の気分になって毎回微笑ましく見ていました。そんな温かい1年でしたね。

――やなぎなぎさんと制作する楽曲と“She isLegend”の楽曲では、どのように違うのでしょうか?

麻枝“She is Legend”はツインボーカルなので、明確にメロディの音数を多くするようにしています。スクリーマー(叫ぶ人)もいるので、自分の中ではかつてなくヘヴィでうるさい音楽性です。歌詞も書きたいことを自由に連ねています。そんなバンドサウンドの“She is Legend”の楽曲に対して、なぎさんとの楽曲はEDMが主軸。音楽のジャンルで差別化を図っています。こちらは『ヘブバン』の世界観を表す曲ばかりなため、歌詞も慎重に設定から持ってきていますね。

――音楽性だけでなく、歌詞についても違いがあったのですね。3月19日には、ライブイベント“HEAVEN BURNS RED LIVE 2022”が開催されます。麻枝さんの目標のひとつであったライブ開催が現実のものとなりますが、いまのお気持ちをお聞かせください。

麻枝楽しみでしかないです! 老後まで観られるようにデータを頂こうと思っています。

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苦手なクロスオーバー作品でも“最上の、切なさを”

――コラボが発表された『Angel Beats!』についてお聞かせください。麻枝さんにとって『Angel Beats!』はどのような作品ですか?

麻枝ひと言で言うのであれば、初めて自分の土俵ではない場所で戦った作品です。

――『Angel Beats!』コラボ開催の経緯を教えてください。

麻枝「もっと多くの方々に『ヘブバン』を楽しんでもらいたい」というWright Flyer Studiosさんの熱い気持ちに応えようと思い筆をとりました。自分はクロスオーバー作品を苦手としており、自社の『かぎなど』(※)にも一切タッチしていません。「構造上これはコラボになっているのだろうか?」という不安もあります。

※『かぎなど』……『Kanon』、『AIR』、『CLANNAD』、『リトルバスターズ!』、『Rewrite』、『Angel Beats!』、『planetarian ~ちいさなほしのゆめ~』の7作品からキャラクターが出演するKey初のクロスオーバーワールドアニメ。

――熱い気持ちに動かされたのですね。『ヘブバン』と『Angel Beats!』、ふたつの世界を組み合わせたストーリーの制作は苦労しましたか?

麻枝実際には、前半は『ヘブバン』、後半は『Angel Beats!』と完全に分かれた構造になっているので、そういう意味では制作が楽でした。それがいいか悪いかは別の話ですが……。

――入江みゆきにスポットを当てたストーリーが展開されるとのことですが、なぜ入江に焦点を当てたのでしょうか?

麻枝「最上の、切なさを。」とうたっている限りは、コラボでも切ないお話でないといけない縛りがあります。自分の中でいちばん切ないお話が書けそうなキャラクターが誰かと考えたとき、入江が浮かんできました。

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入江みゆき

――最上に切ないコラボストーリー、読むのが楽しみです! 『Angel Beats!』に登場するバンド“Girls Dead Monster”の楽曲を“She is Legend”がカバーするとうかがっています。『Crow Song』のカバーを収録するにあたり、どのようなディレクションをされましたか?

麻枝自分よりも、歌うふたりが『Crow Song』を聞き込んでレコーディングに挑んでくれたので、自分からは何も言うことはありませんでした。ふたりで「ああだったよね?」と解釈の共有をしている様子をリモート越しに聞き、「よしよし」と見守っていました。

――『Angel Beats!』コラボをきっかけに『ヘブバン』を始める方も多いかと思います。そんな方々のためにも『ヘブバン』の魅力をお聞かせください。

麻枝日常では馬鹿騒ぎして、クライマックスではBGMや挿入歌を駆使して力業で切なくする、という作風はまったく同じなので、『Angel Beats!』が好きな方にはぜひ始めてもらいたいです。

――逆にコラボをきっかけに『Angel Beats!』に興味を持つ方も多いかと思います。『Angel Beats!』の魅力もお聞かせください。

麻枝豪華クリエイターが一堂に集まり、自分が作りたいものを実際に形にしてくれた。そんな夢みたいな作品です。

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もっとたくさんの人に『ヘブバン』を届けたい

――メインストーリー第四章後編の進捗はいかがでしょうか?

麻枝監修が回って来ては監修してすぐ返す、という段階です。Wright Flyer Studiosさんの物作りのこだわりとして、一度すべての成果物を実機に落とし込んでプレイしてから、さらに足りないところを加筆修正していく点があり、そういう作業も並行して行っています。いつも妥協しない姿勢でいてくれるので、今回もいいものになるはず。4月28日までお待ちください!

――着々と進んでいるようで安心しました(笑)。音楽関連で目標やこれから行いたいことがあればお聞かせください。

麻枝いつか“She is Legend”のライブツアーを開催したいです。おふたりもやる気満々ですし、ひと月に1曲は増えていくので、セットリストにも困りません。もし実現したらこちらも老後の楽しみとして動画が欲しいです(笑)。

――“She is Legend”の活躍には今後も目が離せませんね。最後にゲーム本編での目標やこれから行いたいことをお聞かせください。

麻枝自分にまた活躍の場を与えてもらうなど、ほとんどのことは叶えてもらいました。残す思いは「もっとたくさんの人に『ヘブバン』というゲームがあることを知ってもらいたい」ぐらいです。「え、あの『ヘブバン』の?」と思ってもらえるようなクリエイターになれればいつ人生が終わってもいいですね。

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柿沼洋平氏と下田翔大氏の対談インタビューも公開中

 プロデューサーを務める柿沼氏と開発統括を担う下田氏に、1周年を記念してインタビューを実施。こちらもファミ通.comにて公開しているのでお見逃しなく!

『ヘブバン』の主題歌・劇中歌がダウンロード販売中

 『ヘブバン』の主題歌・劇中歌はダウンロード販売されている。麻枝氏が作詞・作曲を手掛ける美しい楽曲の数々は要チェックだ。インタビューで挙がった『White Spell』と『Goodbye Innocence』の2曲に加え、“She is Legend”がカバーした『Crow Song』も配信されている。