ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのたむ爺がおすすめするタイトルは、『Stray』です。
【こういう人におすすめ】
- アドベンチャー好き
- 攻略情報を入れずに自力で進めるのが好きな人
- SF好き、近未来の起こりうる世界観が好きな人
たむ爺のおすすめゲーム
『Stray』
- プラットフォーム:プレイステーション5、プレイステーション4、PC
- 発売日:2022年7月19日配信
- 発売元:Annapurna Interactive
- 開発元:BlueTwelve Studio
- 価格:プレイステーション5版とプレイステーション4版は3520円[税込]、Steam版は3500円[税込]
- 備考:ダウンロード専売
高評価の嵐に包まれたアドベンチャーゲーム
「この作品は傑作である」。
猫つながりで夏目漱石風に語るとこうなってしまう。
本作は、猫を主人公にしたアドベンチャーゲーム。2020年に発表され、そのころから注目を集めながらも、露出が抑えられていたことなどもあって、ほとんどの人が発売直前まで知らない、もしくは潜在意識に追いやられていた作品だった。それが、リリースされるやいなや大絶賛のユーザーの声に包まれることとなった。わかりやすい指標が、Steamのユーザー評価。『Stray』発売から2週間経った時点で評価は6万を超え、97%以上が好評を示す圧倒的好評という数値を叩き出したのだ。この数値は極めて高く、2022年においてトップクラスのユーザーに評価された作品といっても過言ではないだろう。
先日行われた“The Game Awards 2022”においても、その年のもっともすぐれたタイトルに与えられる“GAME OF THE YEAR”にノミネート。残念ながら惜しくも受賞は逃したものの、見事“BEST INDIE”と“BEST DEBUT INDIE”の2冠に輝いたのだから、いかに高い評価を獲得したか、おわかりいただけるだろう。
そんな好感に満ち溢れている本作について、どんなところが評価されてプレイヤーを魅了したのかを中心に、にゃんだふる(ワンダフル。猫が主人公だけに……)なポイントをお伝えしていこう。
【注意事項】本稿では本作を最大限楽しんでもらえるよう極力ネタバレは避けつつも、必要不可欠なところでは最低限の量で触れることで、適切な情報としてまとめさせてもらう。ネタバレを記載するところは事前に記載するので、それを目安に読む・読まない箇所の判断を行ってもらいたい。
どんなゲーム? 猫が3Dの九龍城砦を探索して謎を解くゲーム。世界観とストーリーが秀逸
にゃんだふるポイントを語る前に、まずは本作がどんなゲームかを簡潔に語っていこう。それにぴったりなイメージイラストがこれ。『HK Project』(仮題)として2015年に公開された1枚である(→公開されたサイトはコチラ)。
巨大なマンションの前に佇む猫。そう、巨大な迷路のような場所を猫が探索していくのが『Stray』なのである。もちろん舞台はマンションだけではないが、このイラストが『Stray』を端的に表しており、“見たことのないような迷宮を探索していく”というのが、『Stray』ということになる。
そしてこの場所からは、台湾や上海をイメージした人も少なくはないはず。それもそのはずで、じつは開発は南フランスに拠点を置くデベロッパーでありながら、九龍城砦にインスパイアされたことを公言し、本作を生み出したのだ。九龍城砦のような、その地で生活しない者からすると未知・神秘な場所で、形状的にも立体的に複雑な地を冒険するゲームというわけである。しかも、人間でさえ迷うような場所を、小さな体の猫となって。
さらに本作のエッセンスを列記すると、荒廃した地、ロボット、近未来のSF的世界というのがキーワードとなる。
アドベンチャーゲームなのでシナリオの推測に役立つ要素は控えるが、このような世界で展開していくストーリー、とてもわくわくしませんか? なぜ猫? ロボットが出てくる? 人間は? 混沌とした印象を受けるけれど、悲観的な世界? などなど……。
そう、ひとつ目のにゃんだふるポイントは、この世界観とシナリオ、ストーリーになる。一見すると荒唐無稽な話や組み合わせにも思えてしまうかもしれないが、近未来的な世界でありながらもストーリーを進めていくと“現実的にこうなる未来もあり得る”と思わせるリアリティーを交えた内容で、純粋にその世界観に惹きつけられ、ストーリーが気になってたまらなくなるゲームなのである。
ストーリー、世界観がにゃんともにゃんだふるなわけである。
ちなみにこのイラストは、まだ発売に至るかわからないプロジェクトのスタート時に公開されたもの。開発チームBlueTwelve Studioの創設者Colas KoolaとVivien Mermet-Guyenetを中心に、Ubisoft Montpellierから独立したプロジェクトとした世に送り出された。公開が2015年で、タイトルの正式発表からも5年を遡るものでありながら、そのコンセプトや開発者の思いがぶれることなく、貫き通されて作り上げられたということも意味しており、ひとつ目のにゃんだふるポイントの裏付けとして補足させていただく。
猫愛がベース。何も情報を入れずに己の力で進め、ストーリーを味わってほしい作品
なぜ猫が主人公なのかは置いておくとして、猫が前面に出されている本作なので、猫がキーワードになって惹きつけられた人も多いはず。猫を飼っている筆者もそのひとり。とはいっても、単に猫を題材にしているから気に入ったということではない。そこに重みや意味を無意識的に感じ取ったからであり、画面から猫愛を感じたというのが素直なところだと思う。そしてその裏付けはすぐに確認でき、確証を得ることができた。
というのも、開発チームのほとんどの人が猫を飼っていて、スタジオにも2匹の猫がいるらしいのだ。もちろんそれは単なる土台でしかなく、ゲームとして大事なのはおもしろさとの関連付けであることは言うまでもないが、その点においても開発者は、猫を題材にしながらも猫シミュレーターを目指すわけではなく、世界になじませつつ、ゲームとしてのおもしろさを追求する言動、姿勢を見せている。“猫がかわいい、リアルな動き”というだけではなく、“ゲームを楽しむ要素を味わうためのいち要素としての猫”がある、というわけだ。
具体的にそのおもしろさとのリンクを見ていくと、オープンワールドにも近いその舞台がまず挙げられる。舞台となるマップでは、どこに何があるのかということはおろか、進むための道や行きかたから探すことになる。人間であれば道路、通路、階段などがその道標になり簡単に進める道が認識できるわけだが、操作するのは猫。通路は歩けても、ドアや窓を開けることもできなければ、広さも人間の数倍となるわけである。もちろんデメリットだけでなく、メリットとして狭い場所を進めたり、室外機やベランダの柵に乗って、上下に移動できたりする。
この、ごくふつうの建物であっても、進めない場所や進むためのステップ探しが必要となる点が、マンションやお店が立ち並ぶ人間だと当たり前な街が舞台であっても、あたかも迷宮にさ迷ったかのような感覚を生み出し、その地の探索と目的到達の達成感がすこぶる高いものとなっている。規模は異なるものの、筆者は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で味わった、“発見する楽しさ”に通じるものを感じた。探索においては、基本的にフラグが立つ場所を見つけて、つぎつぎとフラグを立てていくというオーソドックスなものだが、単なるお使いゲームのような単調さは一切感じず、未知の世界を切り開いていく発見や達成感が上回るわけである。
合わせて、ゲームではところどころ、謎解きやパズル的な要素、そしてアクション要素があり、その組み合わせや配分が絶妙。違ったネタを織り交ぜることで単調さを排除し、深みを持たせてくれている。これらの要素では、初代『ゼルダの伝説』で味わった進めない場所の手がかりを探してトリックを解き、先に進むといったお題を解く楽しさや、アクションをこなして強敵を倒すといった楽しさに通じるものがあった。
以上のような点から、解決法や攻略法をみずから見つけていくおもしろさが味わえるものになっており、このポイントは最大限その効果をもたらすため、ストーリー、攻略法、いずれにおいても何も情報を入れずに、己の力で進んでほしいアドベンチャーとなっている。このゲーム古来、もしくは本来あるべき姿である点が、ふたつ目のにゃんだふるポイントになる。
ストーリー、進めかたともに何があるかわからないワクワク感、先が気になってしまうほどの魅力に溢れている世界観、問題を出される、もしくはみずから見つけてその答えを見出す達成感、これらが本当に絶妙なのである。
猫は人類を救う
とにかく、あらゆる人に楽しんでもらいたい本作だが、最後にちょっとだけ筆者が残念だと思った点を……ここからはややネタバレを含むので注意。
【以下、ネタバレ注意】
本作では、ゲーム中に隠された過去の話を知ることができる要素として“メモリー”というものが登場する。この“メモリー”は、クリアーするだけなら取得は不要で、隠されたアイテムを発見する収集要素としても楽しむことができる。このメモリーは取得時に少しのテキストが流れるのだが、見つけづらい場所にあったり、ストーリーに絡めたものであったりすることもあって、全部収集したら何かしらあるものだと思っていたのだが、けっきょく何もなかったのだ。たとえ1枚絵であっても、何かしらご褒美的なものがあると、ストーリーを楽しんだプレイヤーに心地よい後味を提供できたのではないかと思われるのだが……。
とはいえ、それも本作のストーリーがよかったためのちょっとした不満点。ストーリーに引き込まれたために、「あれ、あそこは? 最後こうなっているよね? 過去にこんなこともあったのかな?」という想像が生まれるのである。
そして猫。主人公が猫だからこそのゲーム性であり、ストーリーであり、そして癒やしであった。加えて、猫だけでなく、マルチ言語を軸にしたインターナショナルな作りや細かな点でも、随所に開発陣のこだわりが見える点も、本作を良作と言わしめる要素であろう。
クリアーしたあと、さまざまな感想や想像に包まれながら、自然と「はー、いいゲームだった」と思わず言葉が漏れてしまった、そんなゲームが『Stray』です。ひとりでも多くの方に、このにゃんだふるなおもしろさが届きますように。