KADOKAWAより2022年10月25日に発売された、アクションRPG『ダークソウル』を題材とした小説『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』。本書は発売後、『ダークソウル』ファンやゲームファンを中心に話題沸騰し、早くも重版が決定した。

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 そこで今回はそのヒットを記念し、翻訳者であるグループSNEの安田均氏にコメントを寄稿いただいた。本書の刊行経緯などが詳しく語られているので、すでに小説を読んだ方も、未読も方も、ぜひ一読してほしい。

安田均(やすだひとし)

小説家、翻訳家、ゲームクリエイター、ゲームデザイナー・作家集団・グループSNE代表。多くの翻訳作品やゲーム書籍のほか、評論・エッセイも手がける。『ロードス島戦記』を世に送り出すなどTRPGやファンタジー小説界、及び多くのクリエイターに多大な影響を与える。

『小説ダークソウル』を翻訳担当の安田均氏が語る。ゲーム小説としてもファンタジー小説としても抜きん出た傑作
Dark Souls™&
©Bandai Namco Entertainment Inc. / ©FromSoftware, Inc

『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』の刊行にあたって

文:安田均

『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』が日米同時発売された。

 企画が持ち上がったのは5年以上前のことだったので、こうして本を手に取れるのはとても感慨深い。当時、KADOKAWAからぼくに相談があった。世界的にファンの多い『ダークソウル』の小説をやりたい。安田さん、世界同時発売したいので、海外でよい書き手を知りませんか? と。

 ぼくが代表を務めるグループSNEは、2017年に『ダークソウル』のテーブルトークRPGをデザインしている。原作の大ファンであるメンバーたちが重厚な世界観を再現しようとあれこれ手を尽くし、苦労の末に『ダークソウルTRPG』を生み出した。

 そうした縁もあっての相談だったのだが、ぼくが小説の書き手を考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのがマイケル・A・スタックポールだった。SFファンであれば、映画『スター・ウォーズ』のノベライズでご存じかもしれない。日本でも『スター・ウォーズ クライトスの罠』(電撃文庫)や『スター・ウォーズ 暗黒の潮流』(ソニー・マガジン文庫)など多数翻訳され、既存の背景世界を活かした物語の書き手として、すでに実績をあげている。

 しかし推薦したのは、彼がファンタジーにも非常に造詣が深いからだ。

 マイクとぼくとの出会いは1980年代、TRPG『トンネルズ&トロールズ(T&T)』だった。彼はゲームデザイナーとして『T&T』の普及に務め、『恐怖の街』『ガルの地下水道』といった名ソロ・アドベンチャーを執筆した(これらは現在、グループSNE発行の『T&Tアドベンチャー・シリーズ』で入手可能)。

 アメリカで毎年真夏に開催される一大ゲームイベントのGen Conで何度か顔を合わせるうち、ぼくは思い切って彼に持ちかけた。『T&T』の小説アンソロジーをやってくれないか? と。彼の返事はYes! そして『T&T』制作会社のフライング・バッファローの面々を誘い、7つの物語を執筆してくれた。

 日本では当時、社会思想社が『T&T』を展開しており、1991年中には翻訳版が出るはずだった。が、諸般の事情で出版をあきらめざるを得ず、アンソロジーは本国アメリカでのみ発売されたのだった。

 マイクには申し訳ないことをしたと思っていたが、この本は四半世紀を経て2017年、書苑新社から出版することができた。『ミッション・インプポッシブル』というのがそのタイトルだが、もちろんマイクもとても喜んでくれた。

 また以前、フロム・ソフトウェアの宮崎英高さんとたまたま別の機会にお話する機会があり、RPGの大ファンである宮崎さんは『T&T』ももちろんご存じで、「『T&T』の武器の中では棍棒がいちばん費用対効果がいいですよね」と話しておられた。それもあって、ここは『T&T』のスタックポールがぴったりだと思ったのだった。

 ダークソウル小説の企画を相談され、ぼくはマイクに直接連絡をとった。彼もこの作品の影響力の大きさを理解しており、当時は未プレイだったため、自分では務まらないのではないか、と躊躇した。しかし説得の甲斐あって、彼はゲームを実際にプレイした上でやりたいと返事をしてくれた。

 とはいえ、これだけの大作である。実際に彼が書き上げるまでに2年以上を要し、それから翻訳。今回は新進気鋭の羽田紗久椰さんに協力してもらった。数ヵ月かけて日本語にし、期待以上のすばらしいファンタジー小説であると実感。しかしまだ終わらない。ゲームの発売元であるバンダイナムコエンターテインメントの監修が必要とのこと。普通のファンタジーなら存在しておかしくない生態系や常識が、ダークソウル世界では通じない。設定に問題があるところを指摘してもらい、それをマイクに伝えて修正してもらって……とするうち、さらに月日が経過していった。時には早朝にKADOKAWAに出かけて、いろいろ会議も行った。

 ようやく5年が経って、あれこれ直した結果、原作の雰囲気を取り込んで、新たなダークファンタジーの傑作と思える作品に昇華できたと思う。

 多くの人たちの尽力があって、こうしてようやく出版にこぎつけられた。ゲーム小説としてもファンタジー小説としても抜きん出たこの傑作を、ぜひお楽しみいただきたい。

『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』作品情報

  • 書名:小説ダークソウル 弁明の仮面劇 DARK SOULS the novel :Masque of Vindication
  • 著:マイケル・A・スタックポール
  • 訳:安田均・羽田紗久椰
  • 仕様:四六判・ソフトカバー 328P
  • 定価:1800円[税抜]
『小説ダークソウル』を翻訳担当の安田均氏が語る。ゲーム小説としてもファンタジー小説としても抜きん出た傑作
Dark Souls™&
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ストーリー

 死んでいたはずの男が地下の墓所で目を醒ます。男は名前を含め記憶のほとんどを失っていた。埋葬者たちは男の復活を予期し、墓場に閉じ込めようと目論むも、墓荒らしの侵入で封印が解かれたようだ。暗闇の中、転がっていた墓荒らしの死体が動き出す。男は無意識に左手から銀色の光を放ち、墓荒らしを葬り去る。すると男の中で何かが呼び覚まされた――そうだ、おれは魔術の達人だったはずだ!

 目の前に広がるのは夜の砂漠。天の星は男の死後はるかな時間が経過していることを示す。男は外壁に刻まれた文字「フェーラノス」を自分の名前と決め、嵐の予感が漂う砂丘へ一歩を踏み出した。

 死を繰り返す魔術師の過酷な旅が始まる――。

著者プロフィール

マイケル・A スタックポール

 アメリカ合衆国、アリゾナ州在住。小説家、ゲームデザイナー、グラフィックノベル作家、脚本家、ポッドキャスター、コンピュータゲームデザイナー、編集者。

 代表作である、ニューヨークタイムズのベストセラー小説『I, Jedi』、『Rogue Squadron』のスター・ウォーズ作品のほか、Gears of War, Conan, BattleTech, World of Warcraft Pathfinder, Dark Conspiracyなど、多くのSFやゲーム関連作品を執筆。火星の軌道の外側に自身の名を冠した小惑星(165612)を所有している。余暇にはゲーム、料理、ダンスを楽しむ。

 日本での出版作品に『スター・ウォーズ 暗黒の潮流 上下巻』『スター・ウォーズ アイソアへの侵攻 上下巻』『恐怖の街』などがある。

『小説ダークソウル 弁明の仮面劇』(Amazon.co.jp)