※ストーリー上のネタバレ等は避けているものの、クリアーまでの想定時間やエリア数などデータ的に重要な部分を聞いているので「プレイしてから知りたい!」という方は、2022年11月8日の発売後にお読みください。

 2022年10月17日からセガ・オブ・アメリカ主催で『ソニックフロンティア』メディアツアーが開催された。その中で、『ソニック』シリーズプロデューサーの飯塚隆氏へのインタビューを実施。

 シリーズ初めてのオープンワールド風フィールド(公式呼称は“オープンゾーン”)に生まれ変わった本作について、クリアーまでの想定プレイ時間やエリアの数を始め、気になること点を直撃した!

飯塚隆 氏((いいづか たかし))

『ソニック』シリーズプロデューサー。ふだんはアメリカ・カリフォルニア州に勤務。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(メガドライブ)のころからシリーズ開発に携わる。本メディアツアーでは国内・海外メディア数十社の取材を受ける。(文中は飯塚)

『ソニックフロンティア』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『ソニックフロンティア』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『ソニックフロンティア』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

エリアは全部で5つ、想定プレイ時間は約20~30時間

01_クロノス島

――今回の試遊では、東京ゲームショウ2022などで試遊できた第1の島“クロノス島”に加え、つぎに訪れる砂漠島“アレス島”、そして火山島“カオス島”をプレイできました。エリアはこれですべてでしょうか?

飯塚いえ、本作の主要エリア(島)は全部で5つになります。

――それぞれの島に掛かる時間とエンディングまではどのくらいの時間を想定されているでしょう。

飯塚本作は従来のステージクリアー型ではないオープンゾーンシステムでして、島内にいろいろなギミックも用意していますし、プレイヤーによってプレイ時間は大きく異なると思います。

 とはいえひとつの島あたりストーリーのみを追いかければおおよそ3時間。電脳空間のミニステージをやり込んだり、島内の敵を全部倒したり、謎解きをすべてクリアーしてマップを解放したりするとだいたいその倍くらいになるでしょうか。

――ということは単純に考えると、クリアーまでの時間は15~30時間ほど。

飯塚物語が進むにつれ島の面積が広がりますし、そこでさらにどれだけしゃぶり尽くすかで変わりますが、平均すると20時間~30時間くらいですかね。

――アクションゲームとしては平均的な時間というイメージですね。本作は対応ハードがPS5、PS4、Nintendo Switch、XSX|S、Xbox One、PC(Steam)と非常に多機種で展開されますが、実際のところ「このハードバージョンがおすすめ」というものはありますか?

飯塚もちろんどれもおすすめで、皆様のプレイ環境によって選んでいただければと思いますが、実際にPS5とSwitch版のどちらを買おうか悩んでいるほどで(笑)。そのくらい甲乙付けがたいと言うか、各バージョンどれも遜色ない体験ができると思います。

 PS5版はハイエンドでフレームレートも安定し、美しいビジュアルでの体験ができると思いますし、Switch版はいつでも手もとで遊べるという利便性がありますからね。Nintendo Switchのあのサイズのゲーム画面で見るとほかのタイトルに見劣りしないきれいなグラフィックに仕上がっています。そしてポータブルで飛行機の中でも遊べるのはやっぱりいいなと、出張に出ると思いますね(笑)。

多機種展開への信念

Preview 3

――フィールドの描写がマシンパワーに依存するオープンワールドタイプのゲームでこれだけ多機種展開を行うというのは、制作上困難な部分も出てくると思うのですが、そうしているというのは何かこだわりがあるのでしょうか。単純に考えると、対応機種をひとつ増やすとシンプルにそれだけ手間も増えますよね?

飯塚じつはこれは、ゲーム開発自体は日本のソニックチームが行っているのですが、アメリカのカリフォルニアスタジオにもヘッドクオーター(本部)機能がありまして、日米で連携しながらやっているんです。

 そのカリフォルニアスタジオで「『ソニック』をもう一度復活させる」というプロジェクトを立ち上げたときに、“ソニック エブリウェア(SONIC Everywhere)”というコンセプトを掲げたのですね。

――“ソニックをどこにでも”。

飯塚そう。どこにでもソニックがある。ターゲットも限定せず、ウォルマートでもどこに行ってもソニックがあると。ソニックのゲームはこの機種でしか遊べないというのはやめて、どの機種を持っていても遊べるようにしようとコンセプトに掲げて、この7年間ずっとやってきたんですよね。

 『ソニックフロンティア』もこの例に漏れず、あらゆるハードで遊べるようにしたということです。

――ああ、なるほど。『ソニックフロンティア』開発以前から、「ソニック全体として広く訴求させる」というコンセプトがあったわけですね。

飯塚ですから『ソニックオリジンズ』(2022年6月23日発売)も同様に現行機すべてで展開していますし、我々の手掛けるソニックタイトルはどの機種を持っていても遊べるというのは大前提としています。

――納得です。では本作のターゲット年齢というのは?

飯塚ハイティーン層になります。『ソニック』は毎年のように新作タイトルを出していて、その新作のたびにターゲット層を若干ずらしているんです。

 それはソニックブランドというのをトータルで幅広い年齢層に遊んでもらえるように、1本のタイトルで全年齢を狙うというよりは、どこかにターゲットを絞ってそこに向けた商品作りをするというやりかただからなんです。

 2022年6月発売の『ソニックオリジンズ』はもっとポップで明るくて、より若い年齢層にも遊んでもらえるものに対して、本作はよりシリアスでミステリアスで、もっと大人向きティーンエージャー以上のコアゲーマー向きと位置づけています。

――本作の“オープンワールド(的なフィールド)×ソニック”という組み合わせは実際に遊んでみるのがもっとも爽快感が伝わりやすいものだと思うのですが、今後体験版の配信などは予定されていますか?

飯塚TGS2022の後、店頭体験会も行っていますし、8月にドイツでgamescomがあって、9月に東京ゲームショウがありまして、本当にこれらのイベントで体験していただいた方からはすごく評判がいいのですね。

 なので、やはり体験できる機会を増やすことが『ソニックフロンティア』を広めるには最良だなと実感していますし、体験会はできるだけ実施したいと考えています。当初は体験版の配信も考えていなかったのですが、いまはどうしようかなと考えているところです。

――先日は全国エンタメまつり“ぜんため”にも試遊台を出したほか、3000万円のラッピングカーなども展示されたそうですね。

飯塚あのクルマは約3000万円とは言うものの、実際は3500万円くらいらしいです。

(※編注:資料記載の本体価格は3233万円。加えてラッピング費用等が掛かったものと思われる)

――すごい(笑)。『ソニックフロンティア』は現状、予約数などもいい反響が出ていると聞いていますが、日本やアメリカでのリアクションなどを教えてもらえますか。

飯塚おっしゃっていただいたように、触ってもらった方からの反応がすごくよくて。

 トレーラーや動画だけしか見てない方は「実際おもしろいの?」というクエスチョンマークが出ている状態だと思うんですけれども。実際にプレイしていただいた方がどんどん「このゲームはこうだよ」と Twitterなどで拡散してくれて、全世界中にだんだんと『ソニックフロンティア』がどんなゲームなのかが口コミで浸透していっているような状態です。

 ドイツのgamescomと東京ゲームショウでプレイしていただいた方の影響はすごく大きいなあと思う一方で、今年はアメリカではE3(※)がなかったので、それが広がっていないのですよね。

※Electronic Entertainment Expo。毎年6月ごろにアメリカ・ロサンゼルスで開かれる世界最大級のゲーム見本市。

――あああ。ということは今回のイベントは、もともと『ソニック』熱の高いアメリカのメディアの方々にとっても貴重なタイミングなのですね。

飯塚じつはそうなんですよ。

 アメリカ本土ではなくてハワイでのイベントというのは珍しいなと思いますが(笑)、これにも理由があって『ソニック』は北米ではずっと人気があるのですが、今回はとくに日本とアジアでも広めていきたいという意図がありまして、米本土と日本の中間地点になりました。

ソニックを作る専用“ヘッジホッグエンジン”

P7350287

――本作を触ってみて、移動がダルいとか戦闘アクションがもっさりしがちというような、オープンワールドゲームにありがちな欠点が一切なく、すべて払拭されているなと感じました。“『ソニック』をオープンフィールドで”というのがコンセプトのひとつだったと思いますが、“オープンワールドゲームを一段進化させる”というような裏テーマもあったのではないですか?

飯塚いえ、そんな大それたことは考えていません(笑)。

 いわゆる“オープンワールドゲーム”というのはジャンルとしてはRPGやアクションアドベンチャーが多いですよね。ですからあれらは、そのジャンルがまずあって「自由度を高くしよう」という発想で進化してきたものだと思います。

 一方本作は、根底にアクションゲームがあってその自由度を高めるためにオープンゾーンにしようと、アクションゲームが進化した形なんですね。だから移動がダルいとか動きが鈍いとか、目的の街の人に話すのがたいへんだなんていうようなことは、ジャンルの出発点的にありえないわけです。

 アクションゲームをベースとした“オープンゾーン”というゲームシステムというのは皆さん初めてだと思いますが、移動に関してもすべてが爽快に楽しめるようなものになっています。

――“オープンワールドゲームの進化系”ではなく“アクションゲームの進化系”として開発されたわけですね。その制作エンジンも、カスタマイズされた内製エンジンで制作されているとのことですが、どのようなものなのでしょう? セガの内製エンジンというと『龍が如く』シリーズに使われる“ドラゴンエンジン”が思い浮かびますが。

飯塚ドラゴンエンジンとは別物なのですが、我々の中では“ヘッジホッグエンジン”と呼んでいます(笑)。これはソニックチームで代々“秘伝の味噌”じゃないんですけど、年々アップデートを重ねて進化している開発エンジンなんですね。

 『ソニックジェネレーションズ』(2011年)や『ソニックフォース』(2017年)ももとを正せば同じエンジンで制作しています。

――へえー。

飯塚今回はオープンゾーンという広いエリアのデータを表現できるようなチューニングをしたエンジン。マルチプラットフォームの対応が比較的容易というメリットがあります。

 Nintendo SwitchからPSプラットフォームまでマルチ展開がしやすいエンジンなんです。これまでの歴代タイトルもマルチでやってきたのでそれを引き継いで。

――とはいえ、これまではステージクリアー型だったものをオープンワールド的なオープンゾーンを作るエンジンにするには、そうとうアレンジが必要なのでは? という気もするのですが。

飯塚そうですね、これまではリニアにまっすぐ進むゲームだったので、それに適した形でストリームで少しすぐ先の部分を先読みして途切れないようにというものだったのですが、今度はそれが一気にエリアになることでかなりテコ入れはされていますね。

――ひと口に“ゲーム開発”と言うとキャラクターデザインやフィールドの3D製作など、ゲームの表面から見える部分をイメージしがちですが、直接見えないエンジン開発というのはなかなか難しそうですね。

飯塚我々はやっぱり自分たちが実装したい要素があって、それはエンジン側にも対応してもらわないと作りたいものが作れないんですよ。ですので、エンジンチームというのをチームの中に持ってるんですね。エンジンをデザイナーの要望に応じて拡張できるチームメンバーを確保して、専用の“ヘッジホッグエンジン”をずっと継承してるって感じです。

――メーカーの中で各チームでそれぞれ特化した内製エンジンを持っているというのは、けっこう珍しい体制ですよね。

飯塚まあ効率的かというと、アンリアルエンジンなどの汎用エンジンを使った方が効率的だとは思うんですけども(笑)、やっぱりその我々の中で「こうやりたい」ということを実現できるっていうところは、やっぱりチームの中にエンジンチームを持っているからこそ、その作りたいゲームを作りやすいのかなと。

――刺身を切るときの柳刃包丁や、卵を焼くときの玉子焼き専用フライパンのような。

飯塚そうですそうです。

気持ちよさを生み出すのは、ソニックチームの歴史と感性

Preview 6

――『ソニック』シリーズでは以前から、ソニックがバネに乗るとボイーンと進んでまたバネがあって、途中に敵がいてこれをアタックで倒すとその下に加速床があって……と半自動でリズムよく進んでいくというような部分がありますよね。これは作るときにピタゴラスイッチを作る難しさみたいなものがあるのではないかなと思うのですが、オープンゾーンになった本作では難航した点はありませんでしたか。

飯塚いままでのシリーズ作品はいまおっしゃったように、ピタゴラスイッチのように仕掛けがつぎの仕掛けまで運んでくれるようなゲームデザインをしてたんですが、『ソニックフロンティア』のオープンゾーンでは、“コース”だったものが一気に“エリア”になったわけですね。

 これまではそこにルートがあったからその仕組みが作れたんですよ。プレイヤーは必ずここにアクセスするというものが、エリアになるとプレイヤーがいろいろな方向からそこにアクセスできるので、いわゆるルートが作れないシステムなんですね。

 そこがこれまでこういったシステムになかなか手を出せなかった理由のひとつでもありますし『ソニックフロンティア』を作る上で、いちばんチャレンジングな部分でした。

――2次元的だったものが3次元になるという。

飯塚そこで、その島の上にグラインドレールを使って、島の中にレール・ルートをどんどん増やして島が完成されていくという形を採用することで、3次元空間でも実現することができました。

――こういったアスレチックじみたギミックというのは、そもそもどのように作られるのでしょう? 先程のエンジンのように“秘伝のタレ”や“虎の巻”のようなものがあるのか、一子相伝で伝えられていくのか……。

飯塚それはもう感性なんですね。

――ほおお。

飯塚『ソニックフロンティア』ではディレクターの岸本(守央氏)がすべてのレベルデザイナーに対してその指導を行って、彼がそのレベルデザインをチェックしてという形で代々レベルデザイナーにその能力を教育して覚えさせるっていう形ですね。

 「ここのギミックはいい感じだな」とか「こうするとダメだな」とか共有して。

――それはまさに“ソニックチーム”のチームという強みが活きていますよね。この『ソニックフロンティア』の、あるいは『ソニック』シリーズの持つ根源的な気持ちよさ、身体的な爽快感というのはどのように作られているのでしょうか。

飯塚本当に初代の、1991年の『ソニック ザ ヘッジホッグ』から本作『ソニックフロンティア』までずっと引き継がれていることなんですけど、やはりテンポなんですよね。

 たとえて言うと、時速300キロ出せるクルマでただまっすぐな高速道路を走ってもまったくおもしろくないんですよ。スピード感を楽しませるためには適度にカーブがあったり上がったり下がったり、スピードを気持ちよく感じさせる、テンポのあるレベルデザインがないとそのスピードは活かされないんですね。

 そして、それは初代のドット絵のころの『ソニック』シリーズからずっと受け継がれてるもので、下り坂を走っていった先に壁があってすぐにドンッと止まってしまったら、その気持ちよさが一気にゼロになって逆に不快になってしまいます。

 そういうシチュエーションのときは必ずこうしましょうとか、こういうのは不快だからやめましょうとか、そういう感覚は脈々と受け継がれていて、ソニックチームの経験の蓄積は本作の開発でもしっかりと生かされているということですね。

P7350265