俺はガンアクションが好きだ。映画でいうと『リベリオン』や『ウォンテッド』、ゲームでいうと『マックス・ペイン』のような、ケレン味が効いた銃撃戦があると特に嬉しい。

 俺はローラースケートやスケートボードができるゲームも好きだ。セガの往年の名作『ジェットセットラジオ』にドハマりした経験の影響で、スケートやトリック、グラインドができるゲームにはめっぽう弱い。

 だから、『ローラードローム』が発表されたとき「このゲーム俺のために作られただろ……」とあさっての方向に確信したのも仕方がない話だ。

 TPS×ローラースケート。まるで、寿司と焼肉が手を組んだような最強コンビ。このゲームを作ったのが『オリオリワールド』のRoll7だと聞いて合点がいった。スケートというアクションにかけて、Roll7はいまもっとも実績あるゲームスタジオだ。

 ……時は2030年。新進気鋭のアスリートのカーラ・ハッサンが、過激で残虐な大人気スポーツ“ローラードローム”のチャンピオンを目指す。本作の本筋はシンプルだが、細部は謎めいている。ローラードロームの有力プレイヤーや、ローラードロームが社会に及ぼしている影響などについては、幕間の主観視点パートで新聞やラジオなどから情報を断片的に得るしかないのだ。

 ストーリーをまんべんなく理解するのは一筋縄ではいかないが、逆説的にいえば、『ローラードローム』はストーリーで引っ張るタイプのゲームではないということでもある。つまり、ゲームプレイそのものの楽しさで魅了してくれる作品ということだ。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
不穏な情報を見つけることも。

 しかし、あらかじめ断っておく。このゲームはクセが強い。核となるゲームジャンルはフィールド内の敵を全滅させるだけのいわゆるアリーナシューターだが、操作性から難易度曲線、さらにクリアー要件に至るまで独特な要素が目白押しだ。簡単操作でスタイリッシュなどという甘い幻想は捨て去らなければならない。

 断っておくと同時に誤解しないでほしいのだが、クセの強さは決してこのゲームの出来が悪いということを意味しない。むしろ真逆だ。クセの強さを乗り越えたとき、プレイヤーは『ローラードローム』にはアクションゲームの真髄が宿っているということに気付くはずだ。

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 ちなみに、本作はコントローラーとマウス・キーボード両方の操作に対応しているが、コントローラーの使用が推奨されている。当レビューにあたって俺は両方試してみたが、マウス・キーボードではトリック関係の操作が難しくて指が攣りそうになってしまった。このゲームはトリックしないと生き残ることすら難しいので、特段理由がない限りはコントローラーを使ったほうがいいだろう。

『ローラードローム』PS Storeサイト 『ローラードローム』Steamサイト

Skate ‘n’ Gun

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 『ローラードローム』は、その基本的な操作の時点でプレイヤーを戸惑わせるゲームだ。カーラはローラースケートを装着しているので、左スティックを一度前に倒すだけで何もしなくてもスイスイと滑り続ける。それも、かなり速く。後でも触れるが、止まるという行動は死に直結するため、基本的にありえない。さらに、一般的なアクションゲームであれば左右にスティックを倒せばそのまま左右に移動するところが、本作ではレースゲームのハンドル操作のように方向転換するようになっている。プレイ開始直後はゲームスピードの速さと小回りの利かなさに難儀するかもしれない。

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 つぎに、このゲームにはリロードボタンが存在しない。では、弾薬を補充するにはなにをすればいい?……そう、トリックだ。『ローラードローム』のフィールドにはおあつらえ向きの段差やクォーターパイプが至るところに配置されており、それを利用して高くジャンプできる。空中で□ボタンを押すと、アクロバティックなポーズでトリックをキメられる。△ボタンを押すことで、手すりや段差の縁を伝うグラインドや、壁に張り付いて滑るウォールライドも可能だ。ボタンとスティック操作の組み合わせ次第でさらに高度なトリックもでき、その巧みさによって一度に補充される弾薬が増えていく。本作において、トリックをキメることはただイカしているだけではなく、生存のための絶対条件でもあるのだ。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
リロードの仕様は作中の設定にも組み込まれている。

 また、ふつうのシューターでは左トリガーに照準の覗き込み(ADS)が設定されていることが多いが、『ローラードローム』は違う。左トリガーを押すと、一定の間だけ時間の流れを遅くなる”リフレックスタイム”が発動するようになっている。いつでもスローモーションで戦えると聞くと便利すぎるような気がするかもしれないが、とにかく動きの早いこのゲームでは、リフレックスタイムがないとまともに敵を狙うことすらままならない。しばらく遊んでいると、あるべくしてある機能のように思えてくるだろう。

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画面下のバーがリフレックスタイムの残り時間を示している。

 最後に、『ローラードローム』はただ敵を倒していればラスボスまでたどり着けるわけではない。少しややこしいのだが、各ステージには特定のトリックやスコアを達成するチャレンジが設定されており、それを一定数クリアーしないと予選から準々決勝へ、準々決勝から準決勝へとコマを進めることができないのだ。だから、チャレンジのクリアー数が足りないときはクリアー済のステージに戻ってトリックだけこなしたり、ハイスコアを目指さなくてはならなくなったりする。これは一見かったるいかもしれないが、自分の上達を実感するよい機会でもある。一度にすべてのチャレンジをクリアーする必要はないので、復習がてら簡単なものから順にこなしていくといい。

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 シューターの常識破りなこれらの要素を頭に叩き込み、手になじませなくてはならない。一応、チュートリアルで安全に練習できるとはいえ、実戦はまるで違う。とにかくひっきりなしに敵の攻撃が飛んでくる。狙撃にミサイル、ビーム、火炎放射までよりどりみどりの殺意マシマシだ。プレイ開始直後は弾幕を避けるのに精一杯で、トリックやコンボにまで気が回らない。パニックのあまり壁にぶつかったりして動くのを止めてしまうと……敵の暴力が降り注ぎ……一瞬でゲームオーバーだ。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
非常にわかりやすい敗北画面。

 滑り続け、跳び続け、撃ち続けられない者には死が待ち受ける。フランスのコミック作家、メビウスに影響を受けたオシャレなビジュアルとは裏腹に、このゲームは完全にハードコアだ

フェアプレイ精神に溢れたゲーム

 情け容赦なくプレイヤーの技量を試す一方で、『ローラードローム』はとてつもなくフェアでもある。フェアというのは理不尽ではないということであり、運否天賦でクリアーの可否が決まらないということであり、腕前次第でどんな状況でも切り抜けられるということだ。

 そりゃ当然だろう。作中においてローラードロームは(たとえ人命軽視甚だしくても)立派なスポーツであり、スポーツはフェアプレイが命なのだから。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
赤い線が見えたら回避の準備を。

 先程も述べたが、このゲームの敵の攻撃は苛烈で熾烈で激烈だ。だがそれと同時に、それらの攻撃はほとんどすべて無傷で対応できる。たとえば、ミサイルはこちらが素早く動き続けていればまず追いつかれないし、ひとたび撃たれれば必中かつ大ダメージの狙撃やビームについても、発射の前に照射されるレーザーを見てから回避ボタンを押すだけで当たらなくなる。

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 地雷やシールドバッシュのような範囲攻撃も厄介だが、ダメージの発生する部分は赤いラインで可視化されている。そこに近づかないようにするだけで安全だし、もしラインの内側に入っても攻撃が発生する前に回避可能だ。

 じつのところ、回避ボタンをただ連打しているだけで被ダメージをほぼゼロに抑えられるほど、本作の回避は優秀にできている。そのおかげで、敵の攻撃を避けた直後に別の攻撃が重なってどうしようもなく被弾する……というアクションゲームにありがちなストレスを感じさせない。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め

 相手の攻撃が当たる寸前には、この赤いラインやレーザーが白く変化する。それに合わせてジャストで回避することを本作では“パーフェクトドッジ”といい、さらにその直後に左トリガーを押すことで“スーパーリフレックス”が発動する。このあいだは通常のリフレックスタイムよりさらに時間の流れが遅くなるほか、即座に弾丸が1/4程補充され、敵に与えるダメージが大きく増加する。ふつうはリロードを挟まないと倒しきれない強敵も、スーパーリフレックス中に攻撃すれば楽勝というわけだ。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め

 理屈の上では『ローラードローム』に避けられない攻撃は存在しない。敵の攻撃の範囲もタイミングも、すべて可視化されているからだ。ここで、メビウス風のパキっとした色使いが活きてくる。フィールド上に回避を示すのと同じ白色はほとんど使われていないので、瞬時の判断を迷わせる視覚的ノイズをプレイヤーに与えないようになっているのだ。付け加えると、ミスしてダメージを受けたからといってすぐにコンボが途切れるわけではなく、コンボ数がリセットされるまでの時間が減っていくだけとなっている。すぐに別の敵を攻撃すれば、コンボ数の維持が可能だ。

 本作がフェアであるゆえんはここにある。画面から得られる情報の信頼性と、ミスしてもリカバリーできる安心感。それらが公平さを担保してくれるおかげで、爆発にあえて飛び込んでスーパーリフレックスするような大胆なプレイに挑戦しようという気にさせてくれる。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
非常にわかりやすい勝利画面。

 フェアプレイ精神に溢れたゲームであることを理解すると、『ローラードローム』はグッと楽しくなってくる。あとは、自分の操作と反応の精度を高めていくだけだ。このゲームはたしかにとっつきにくいかもしれないが、決して理不尽は押し付けない。もしどこかで負けてしまったなら、それはゲームを罵るところではなく、自分のプレイを見直すべき時だ。

 ちなみに、どうしても難しいときはオプションでアシストを設定することもできる。無敵モードや無限弾薬、ゲームスピードの鈍化など、調整できる範囲は幅広い。アシストされた状態ではオンラインのリーダーボードにスコアが載らなくなってしまうが、アクションゲームに不慣れなプレイヤーはここから慣らしていくのも手だ。

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最適解は美しさ

 NPCの性質を悪用したハメプレイや、攻撃が当たらない位置からのチクチクプレイ。ゲームを攻略していると、こうした最適解は時にプレイを醜くしてしまう。

 しかし、『ローラードローム』において、最適解は美しさだ。素早く動き、確実に回避し、勇敢に反撃することこそが勝利に繋がり、臆病で醜いプレイは確実に不利になる。そして、高スコアを目指すほどトリックは複雑化し、カーラの動きは洗練されて滑らかになっていく。極まった戦闘シーンは暴力的というより芸術的で、戦っているというより踊っているようだ。プレイの美しさを通じて自分の上達を実感できるのは本作のもっとも素晴らしい長所であり、ゲーマーにとって至上の喜びでもある。

『ローラードローム』プレイレビュー。操作に慣れたら超爽快。クセつよ系アクロバティックシューターに飛び込め
ようこそ、ローラードロームへ。

 美しく、フェアで、気持ちいい。『ローラードローム』には、アクションゲームの真髄が宿っている。クセは強いが最高に爽快なアクロバティックシューターの世界に飛び込んでみよう。

『ローラードローム』

  • プラットフォーム:プレイステーション5、プレイステーション4、PC(Steam)
  • 配信日:2022年8月16日配信
  • 発売元:PC版はPrivate Division PS版はTake-Two
  • 開発元:Roll7
  • ジャンル:アクション
  • 価格:各4180円[税込]
  • IARC:16歳以上対象
  • 備考:ダウンロード専売