2020年12月10日にCD Projekt RED(以下、CDPR)より発売された、オープンワールドアクションRPG『サイバーパンク2077』。それを原作とし、TRIGGERが制作を務めたアニメ作品『サイバーパンク エッジランナーズ』が、2022年9月13日より動画配信サイトのNetflixにて独占配信中だ。

 『サイバーパンク エッジランナーズ』は全10話とアニメシリーズとしては若干短めながらも、配信開始から瞬く間に全世界で大ヒット。『サイバーパンク2077』のほうでもアニメに関連したアップデートを実施したこともあり、配信開始直後から『サイバーパンク2077』のプレイヤー数が大幅に増加した。

 今回、ファミ通.comでは『サイバーパンク エッジランナーズ』のプロデューサーを務めたCDPRの本間覚氏と、同作の監督であるTRIGGERの今石洋之氏にインタビュー。制作がスタートした経緯などの制作秘話から、物語の内容についてなど、詳しいお話をお聞きした。

 なお、内容では物語の核心に迫るネタバレを多く含んでいるので、未視聴の人はご注意を。一応、前半はあまりネタバレがないので読めるかもしれない。だが、筆者としては「いいから、いますぐNetflixに行って『サイバーパンク エッジランナーズ』を観てから読んでくれ!!」という気持ちだ。約2万文字のロングインタビューなので、まずはぜひアニメを見て、その余韻が終わったころにじっくりと読み進めてほしい。

※核心的な場面カットも今回ご用意いただいた。文字だけでなく、画像もネタバレにご注意を。

【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る

本間 覚 氏(ほんまさとる)

CD PROJEKT RED ジャパン・カントリー・マネージャー。『サイバーパンク エッジランナーズ』のプロデューサーのひとり。『サイバーパンク2077』の日本向け展開も担当。

今石洋之 氏(いまいしひろゆき)

TRIGGER所属のアニメーター・アニメ監督。『サイバーパンク エッジランナーズ』では監督を担当。代表作は『天元突破グレンラガン』、『キルラキル』、『プロメア』など。

“いいアニメを作る”というピュアな願い

――まずは『サイバーパンク エッジランナーズ』の制作が決まった経緯を教えてください。

本間発端は、元CDPRのラファウ・ヤキさんです。当時はCDPR本社で事業開発部門のディレクターをしていて、私も彼の部下として働いていました。アニメの企画が始まったのは、ラファウさんが2017年の夏ごろに「アニメを制作したい」と言い始めたのがきっかけです。

 彼はすごく日本の文化が大好きで、ワルシャワ大学の日本語文献学部を卒業しており、以前は日本のマンガなどをポーランドで販売する仕事もしていました。昨年CDPRで制作したマンガ『ウィッチャー ローニン』の原作も彼によるものです。

――そこからどのような流れでアニメを作ることになったのでしょうか。

本間アニメにしたいと言い始めた2017年に、ラファウさんを中心にさっそく本社のライター陣が暫定的なプロットを練り、社内の経営陣に対して企画のプレゼンを行ってGOサインが降りました。そして2018年の春ごろ、実際に制作会社を決めるために「『サイバーパンク2077』というゲーム作品を開発しているのですが、これを原作としたアニメ制作をしませんか?」と各社を行脚したんです。4~5社当たった中に、今回制作していただくことになったTRIGGERさんも含まれていました。

――制作会社をTRIGGERに決めた理由は?

本間TRIGGERさんの反応がいちばん熱かった、というのが率直な理由です。また、CDPRとしては“ほかにない作品を作りたい”という気持ちがありました。「TRIGGERさんがサイバーパンクな世界観のアニメを作るという新しさが、視聴者の方々にもサプライズになるだろう」と判断しました。

――今石監督は、今回のプロジェクトの話を聞いてどう思われましたか?

今石僕はふだん、ほとんどゲームを遊んでいないこともあり、正直『サイバーパンク2077』という作品のことは知りませんでした。ただ、TRIGGERの中にもCDPRファンのスタッフがいて、彼に強く推薦されて。僕自身も『ウィッチャー』シリーズを遊んだりして、その作り込みのこだわりに驚いていました。

 そして何より、いまの時代にサイバーパンクな世界観の作品を作るのがおもしろそうだと感じました。僕自身、世代的にサイバーパンクブームを高校生~大学生あたりで通過しているんですよね。そういう思い入れもあるので、やれるんじゃないかと考えたわけです。

 それと、原作モノをやってみたくなったというのもあります。これまで、オリジナル作品はありがたいことにたくさん作ってきましたが、オリジナルアニメは自由にやれるのがいい反面、自由すぎる部分の弊害も感じていて。「いい意味での制約がほしい」と思っていたので、原作モノを作りたいなと。

――今石監督は、ゲームのオープニングなどは手掛けられたことがありますが、ゲーム原作のシリーズアニメは初体験ですよね。ゲーム原作のアニメを作ってみていかがでしたか?

今石原作モノといっても、たとえば実写映画やマンガのアニメ化は、映像としての編集の“答え”が一回出ちゃっていますから、それをアニメ化するのはかなりハードルが高いんですよ。ですがゲームは個々のプレイヤーが操作して体験した記憶があるだけで、編集はされていない。映像に対する自由度が少しだけあるんです。そこもやりやすそう、おもしろくできそうだと感じていました。

 ただ、たいへんだったこともありました。2018年にプロジェクトがスタートしたころはゲームがまだまだ完成していませんでしたから、僕らもこのゲームの本当のおもしろさや魅力がどこなのかを想像するしかない中で、実際にお客さんがこのゲームのどこが好きになってどこに拒否感を覚えるのかをイメージしながら作るというのは、これまでにない特殊なケースでした。そこがとくに苦労したポイントかもしれません。

【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る
【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る

――今回のアニメを視聴させていただきましたが、監督を始めスタッフさんがかなり自由にやられていたようにも見えました。ただ、おそらく監修の中でいろいろなやり取りがあったと思います。しかも日本のアニメ制作会社のTRIGGERと、ポーランドのゲーム会社のCDPRは分野も国もまったく違いますから、やり取りはさぞ苦労なさったのでは?

本間いやぁもう、我々は今石監督たちにご迷惑をお掛けする側でしたね(笑)。

今石いえいえ(笑)。“ご迷惑”は、こちらのほうがもっとお掛けしたような(笑)。

本間2社の立ち位置の違いはやはり大きかったと思います。CDPRは『サイバーパンク2077』の権利元ですから、たとえば外部の会社さんに「こういうPR映像を作ってください」と言えば、それがそのまま形になって返ってくるということがほとんどです。それはそういう仕事なので、当然のことだと思います。

 ただ今回は、CDPRではほぼ初めてに近いケースとして、制作進行の大部分をTRIGGERさんという外部の会社に預ける形になりました。いままでのCDPRは、自分たちの信念に沿って自分たちでモノを作り、自分たちで売ってきましたから、外部の会社が主軸になってモノを作るというのは非常に珍しいケースなんです。

 外部の会社の制作物をそのまま受け入れるという土壌が、CDPRにはあまりありませんでした。だから今回、TRIGGERさんにアニメを作っていただくと決まった後も、ガチガチの資料を用意したりして。我々はアニメのプロではないものの、やはりこだわりが強いので、「こういうアニメがいい」と脚本のアイデアをお渡ししたりですとか、1話はアニマティックス(絵コンテ映像のようなもの)を制作し、声もスタッフたちで入れて、約20分の映像も用意しましたね。

 これらは「いいアニメを作りたい」という気持ちが先走りすぎてしまった結果から産まれたものですが、こういった作りかたや考えかたは、TRIGGERさんのペースとは大きく違いました。そこのすり合わせには、かなり時間が掛かったなという印象があります。

今石そうですね。細かい話では言語の壁などの問題もありましたが、それよりもゲームとアニメでは作りかた、楽しみかた、お客さんがどう接するのかなどがまったく違う、ということのほうが大きかったです。

 CDPRさんから初期にいただいた脚本は、確かにゲームとして遊ぶのだとしたら、すごく楽しそうでした。ですがそれを、自分たちが映像化したときにおもしろくなるかというと、「これはゲームとして遊びたかったな」と思うようなアニメになってしまうだろうと。そこでCDPRさんとご相談しつつ、内容を変えていくことになりました。

 CDPRさんは原作者ですので、原作を守ることは当然大事ですが、それと同じくらい“おもしろい作品”を作りたいという熱意をお持ちでした。ですので、こちらも言いたいことは本音でバンバン言っていましたね。

本間制作の後半はとくにそうでしたね(笑)。本音をストレートに言うんだなぁ、と思っていました。でも、そのほうが結果としてやりやすかったです。

今石最初は恐る恐るなんですが、「ああ、この人たちは言えばわかってくれるんだ!」と思うようになったんですよね。僕たちも、アニメにするならば最高のアニメーション作品にしようと思っているわけですから「ここまでやらないと納得できない。僕らが納得しないものはお客さんも納得しないだろう」とくり返し言っていました。それを本国の方々がわかっていただけたのかは、僕にもわかりませんが……。

本間おそらく、わかってくれたと思います(笑)。

今石よかったです(笑)。ゲームを遊んでいく中で、内容に対するクオリティーの追求ですとか、そういったところにCDPRさんへのシンパシーをすごく感じていたんですよ。だから回りくどく言葉を濁して言うのではなく、正直に言ったほうが伝わるんだろうなと。そこのやり取りについては、ストレスがなかったです。

本間CDPRとしてはどうしても譲れない部分もあるので、そういうところについてはお願いしました。たとえば全体的にノワール(犯罪映画)調にして、悲しい結末を迎えるようなエンディングにすることもそのひとつです。今回のアニメもそうなっていましたよね。

 ただ、細かいところについては今石監督とミーティングを重ねる中で、いろいろな調整をしました。今石監督が熱い言葉で説得してくださったんです。制作の途中からは体制も変わって、とにかくラファウさんがオーケーと言えば社内で通るようになったので、自分や同僚のエルダーも、ラファウさんを説得するという一点に集中することで、進行も比較的スムーズになりました。いま視聴者の皆さんが気に入っているポイントも、TRIGGERさんのアイデアから生まれたシーンがたくさんありますよ。

――初期にCDPRが持ち込んだ脚本やシーンは、現状のものにどれくらい残っているんでしょうか?

本間たとえば1話の流れは、ほぼほぼCDPR側の構想です。“デイビッドが事故に巻き込まれ母を亡くし、サイバーウェアをインストールし……”というような流れですね。ただ、アニメの脚本にそれを落とし込む作業はTRIGGERさんでやっていただきました。それ以外でもメインにまつわるストーリーなど、CDPR側の提案がベースとなっている展開はいくつもあります。

 後半になればなるほど、脚本の宇佐義大さん、大塚雅彦さんのアイデアが強くなっていったように思います。とくに9~10話のストーリーは、ほぼほぼTRIGGERさんで作っていただいたようなものです。ゲームに登場するアダム・スマッシャーをアニメに呼びたいと提案したのはTRIGGERさんですし(笑)。

【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る

――そこはTRIGGERさんのこだわりだったんですね(笑)。公開からしばらく経ちましたが、本作はSNSなどでの評価が高いように思います。反応をご覧になっていかがですか?

今石インターネットの反応くらいしか現在は見る術がありませんが、かなり好意的に受け取ってもらえているようで、ありがたいです。ゲーム原作のアニメということで、なるべくゲームのファンが失望しないように気を付けていましたので、ゲームファンから評価されていたのがとくにうれしかったです。

――確かに「こんなの『サイバーパンク2077』じゃない!」というような声は見られませんでした。TRIGGERとしての愛を込められたからこその結果のように思います。

本間今石監督は『サイバーパンク2077』をしっかりプレイされていましたからね。

今石評価していただけた要因としては、世界観の齟齬がないということが大きいと思います。それは先ほど本間さんが言ったように、物語前半のベースに、CDPRさんのほうで作っていただいた物語の骨格を使用していますし、細かい設定部分のアイデアもいただいています。そこが共同制作だったおかげで、世界観の齟齬がないんです。

――本間さんは完成したアニメをご覧になっていかがでしたか?

本間手前味噌になってしまうのですが、本当に最高のアニメでした(笑)。ですがぶっちゃけて言うと、ここまで世間の評価を得られるという想像はできていませんでした。

 私自身は、ラストの9~10話を見るといまでもポロポロと泣いてしまうほどに、作品にのめり込みました。ですが我々はアニメの素人ですから、世に出ている何万とあるアニメ作品の中で、どれだけ受け入れられるのか、まったく予想が付かなくて。ゲームでしたら多少なりとも経験や知見があるので、どういう評価が得られるのかなどといった、ある程度の予想はできるのですが。

 じつはゲームのファンの方が観るからこそ、粗探しのような観かたをされるんじゃないかとビクビクしていたんです。たとえば、第1話でアニマルズが大きな銃を撃つシーンがありますが、弾丸の発射レートが原作に比べて早すぎるんですよ(笑)。

――ヘビーマシンガンの“MK.31 HMG”ですよね。言われてみれば……(笑)。

本間ですが、それも杞憂でした。「ここが違う!」、「ここは本来こうだろう!」といった観かたではなく、そういう細かいことは無視して『サイバーパンク2077』のアニメ作品として楽しんでいただけているんだなと。中には「ゲームを超えた!」と言ってくださる方もいます。ゲームのほうを作っている我々としては、嬉しいような悲しいようなという気持ちですが(苦笑)。

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――今石監督は、Netflixのスタイルである全話一挙公開方式で制作するのも初めてですよね。いままでの感覚とは違うところもあったのでしょうか。

今石従来のテレビアニメは、第1話の視聴者の反応を見ながら数話先のアニメを作るのが普通でした。視聴者からの反応でストーリーを変えることはありませんが、「こういうところが喜ばれるんだな」という情報をスタッフたちで共有しつつ、評価自体をモチベーションにしてアニメ制作を続けていきました。そういった評価を積み重ねて作っていくのが、テレビアニメの醍醐味です。

 ただ、今回は反応を一切見られないまま制作が終わりました。完成したのが2022年の4月ですから、完成の約半年後にようやく反応が見えてきたというのがすごく不思議な感覚で。

――視聴者の反応が、ある意味答え合わせになっていると。

今石ええ。自分なりに意図があって「こう見えたらいい」と思って作っているけど、お客さんに見ていただかないと実際にどう受け止められたのか、答えがわかりません。自分としてはハードなものを作っているつもりが、ソフトに捉えられるかもしれませんしね。

 今回の『サイバーパンク エッジランナーズ』の背景美術などは特殊な作りかたで、ゲーム世界の再現性を高めるためにゲーム画面のスクリーンショットをもとに作っています。それはネガティブに捉えようと思えば「ゲームの絵をトレースしただけじゃん!」と言われかねません。ですがそこも「ゲームを再現してくれている!」とポジティブに捉えていただけました。

――背景はアニメオリジナルで作ることもできたと思いますが、なぜゲームの素材を使おうと思ったのですか?

今石ゲームファンに楽しんでもらおうと舵を切ったときに、背景原図はゲームのスクリーンショットを使わないと、絶対にうまくいかないと思ったんです。ナイトシティの背景原図をもし手描きにするとしたら、いまのような映像は絶対に作り出せません。

 というのも、今回の舞台は架空の未来都市なので、もしビルを描くとなったらビルひとつひとつをデザインしないといけません。ビルの窓枠の形から色に至るまですべてです。美術設定で数枚描いた程度では収まらず、全部の町並みの全カットで使えるものをデザインする必要があります。普通のアニメでは、高い質を維持するのが困難です。ですが『サイバーパンク エッジランナーズ』は、オープンワールドのゲームという原作があり、舞台となるナイトシティの3DCGがまるごと存在します。

 ナイトシティは、デザインの詰め込みがものすごいです。あんなに質の高いデザインで、建物から看板、道路も信号機も何もかもが作り込まれています。そんなのアニメではあり得ないことで。「なんでこんなことに金と労力と才能をつぎ込めるんだ!?」と、最初見たときに呆然としました(笑)。

 これを手描きのアニメで描けと言われたら、それは無理だと思います。ゲームで見る景色よりもレベルが下がるだけなんです。複数人で描きますから、信号機、道路、標識などなど、それらのデザインをすべて複数人の手描きで統一させるのは、現実的ではありません。ゲームファンから減点される要素しかないのであれば、ゲームの素材そのものをお出ししようと。それでも、いくつか新規で必要となるデザインはありましたが、なるべくオリジナルのものは出さないようにしました。

――背景がゲームで見たことのある景色ばかりだったので、個人的にはうれしかったです。

今石あと、それをやることによって、日本のアニメ文化で言う“聖地巡礼”ができるようになるんですよ。アニメの出来事があった場所にゲーム内で行ってみるという。

 それも、CDPRさんがナイトシティの開発中のデータを全部使わせてくれたからできたことです。ほかにもサウンドエフェクトや車の3Dデータも全部貸してくれて、ありがたかったですね。

 話を戻しますが、ゲームの背景を使っていたから視聴者が喜んでくれるとか、そういう反応が制作中には見られなかったわけです。自分たちの作品が何をしたのかはわかってはいますが、何を成したのかは、お客さんに見ていただいて初めてわかるんです。作品というものは、お客さんの声が届くことによって完成するんだな、と改めて実感しました。

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――制作時に視聴者からの声がない、というのはやはり不安でしょうか?

今石いえ、やれることは全部やったつもりなので、「不安のまま作り続けていた」というわけではありません。「物足りない!」というのが正しいかもしれませんね。ピースが欠けている状態とも言えるでしょうか。

――CDPRで視聴会のようなことは行ったのでしょうか?

本間もちろんやりました。ですが、アニメの場合は視聴会のフィードバックを落とし込むのが難しいんです。

 ゲーム制作の場合は、たとえばα版、β版といったマイルストーンがあって、制作過程の中でプレイできる環境があるわけですよね。その過程で「ここはこうしよう」と、スタッフみんなで意見を募ったりするわけです。ですがアニメは、絵になってアニメーションとして動き出すのは、最後の工程です。今回さらに、3Dではなく手描きの2Dアニメーションなのでリテイクも難しい。ゆえに、そのタイミングで根幹に関わるフィードバックを送っても、現実的にはどうにもできません。

 といったことを、TRIGGERさんからも最初に言われていたんです。脚本に関してはCDPRの上層部にも見てもらっていますし、絵コンテの終わりまでは「こういった演出は原作と齟齬が出るので変えましょう」などとガッツリ監修しています。ですが絵作りに関しては変えられないので、それはもうTRIGGERさんを信じてそのままいきますよと。そのため、視聴会以降に社内からフィードバックが届いても、基本的にはTRIGGERさんに届けませんでした。

――具体的にはどのようなポイントを監修されたのでしょうか?

本間もちろんプリプロの段階では、キャラクターのデザインや服装、演出に至るまで、“『サイバーパンク2077』っぽくない”点については、こちらも忌憚なく意見を共有させてもらいました。ただ本制作においては、「この看板は2077年の最新商品を宣伝するものだから、アニメの舞台となる年代にあるのはおかしい」とか、「壁に付いた弾痕が、使っている銃から発射される弾の数と一致しない」とかその程度です。

 また、音響については、ちゃんと指定した銃の音がついているか、ナイトシティで横断歩道を渡る際に流れる“Dont’t walk”という音源のインターバルが、ゲームと比べて早すぎないか、など細かな監修にも力を入れさせていただきました。

 それ以外については、TRIGGERさんの自由にやっていただくことが、プロデューサーとしての仕事のひとつでもありました。

今石さまざまな配慮をしていただけたことが本当にありがたいです。そういう作りかたに関するところも、日本は特殊なんだなと思いました。CDPRさんはかなり困惑されたと思います。この前まで脚本だけだったものが、半年くらいで急に全部できちゃっているんですから。

 あと、スタッフが動き出したら僕でも止められないんです。現場に渡す前はあれこれ考えられますが、決めてから変えたら、現場から僕が「何で変えるんだよ!」って怒られますから(苦笑)。大きな変更があると何年経っても作品が完成しませんし、スタッフも疲弊しますからね。

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デイビッドが迎えた悲惨な結末の意味

――ここからは、より深くアニメの内容に触れていきます。本作はエロやグロなどいまのテレビアニメでは放送されないであろう表現が満載で、驚きました。また、アニメーターの皆さんも、ふだん描けないものを描けて活き活きしていたのではないかと想像しますが、実際のところいかがでしたでしょうか。

今石アニメーターも、あるがままを描く能力がある人は、描きたいと思っているはずです。たとえば腕をもいだら骨が出るとか、銃を撃ったら内臓が飛び散るとかですね。

 ただ、グロテスクなものが好きという人はそんなにはいませんし、僕もグロが好きなわけではありません。ですが“規制だから隠そう”とか、そういったことで表現を曲げなければいけないのはすごく苦手です。このアニメはグロい描写もありますが、見ていてもそんなにグロいとは感じなかったのではないかと思います。

――ええ、衝撃度や爽快感がアップしている描写のひとつであって、ただグロいだけとは個人的には感じませんでした。

今石よかったです。そういう描写をしっかりしたというのは、気持ち悪さや不快感を伝えたいのではなくて、残酷なことや悲しいことが起こっている、という事実をそのまま隠さず置いておきたかったんです。

――そういったリアリティの追求と同時に、メチャクチャに飛び散る血しぶきなどのデフォルメ表現もある意味爽快でした。

今石そもそもキャラクターデザイン自体がデフォルメされているので、世界観や演出もそのスケールに合わせて誇張しています。

本間たとえばクルマの描写など、ちょっとした誇張がすばらしかったです。世界観からかけ離れてしまわないような絶妙なバランスのおかげで、ゲームファンにもアニメファンにも楽しめる作品になっていると感じました。

――続いて物語についてですが、全体的には、男女の恋愛や成長、またはサクセスストーリーを描いたシナリオとしてまとまっていると感じました。アニメとしてはある意味王道的に感じましたが、アニメにするからこそあえてそうしたのでしょうか?

今石主人公を学生にしようというのは、CDPRさんからのオーダーのひとつでしたね。

本間はい。ゲームの主人公は“V(ヴィー)”という、かなり特別な存在でした。それに対して、アニメではもっと日常的と言いますか、一般市民たちにフォーカスを当てたいというのはCDPRから強く要望していましたね。そのひとつの案が、主人公が学生であるということでした。

今石ゲームでは、サイバーパンクSF的なテーマを深く掘り下げています。ジョニー・シルヴァーハンドの存在や、人間の意識をテクノロジーに変換するコンストラクトなどですね。そういったものはサイバーパンクSFの、いちばんのテーマだと思います。

 ですので、アニメではあえてそこに触れないようにしました。ゲームとアニメのテーマが被ってしまいますし、ジョニー・シルヴァーハンドの以前にそういうエピソードが存在すると、歴史が食い違ってしまいますから。

 あと、CDPRさんからの要望の中には、“ナイトシティを敵に回したら絶対に勝てない”というものもありましたね。最初から主人公が負ける前提だったんです。

本間絶対条件でしたね。

今石主人公が絶対に負けることを条件にしてくることなんて、普通はないですよね。そこに僕は逆に惹かれていて(笑)。むしろ僕はそういうことをやって怒られることのほうが多かったですから。

本間そこは我々としては本当に譲りませんでした。「奇跡を起こしてはいけない」という。

今石実際に完成したゲームを遊んでみたら、どのエピソードもそんな感じのものばかりで。この人たちは本当にそういうのが好きなんだな、徹底しているな、と思いました(笑)。

 日本のアニメは比較的やさしい物語のほうが多いですからね。1970年代なら救いのない物語もあったんですが、最近はそういうのは求められていないというか、表現として作りにくくなっていますから。クライアントから「勝てない結末にしてくれ!」なんて言われることはまずないので、すごくやりがいがありました。

――ただ、『エッジランナーズ』のエンディングは悲しい結末ではありますが、ホロリと来る展開もあるというか、ただ悲しいだけではないですよね。

今石学生の若者が主人公ですから、うっかりやると本当に辛いだけの物語になるところでした。大人が悪いことをして因果応報の報いを受けるというのは、任侠モノなどで描かれるので納得できます。ですが普通に過ごしていた少年が、巻き込まれていった結果報いを受ける、なんて本当に救いがないというか……。

 それを感情移入させたうえで、どう物語として成立させるかが重要でした。ただ傍観者として見るのではなく、感情移入させることが前提なのは、日本のアニメの作りかたなのかなと思います。そういった考えを巡らせていった結果、サイバーパンクというジャンルには似つかわしくないかもしれませんが、自然と純愛めいた感じに落ち着きました。そういう条件が重なって、その結末にいったのかなと。

本間そこはTRIGGERさんの脚色が大きいところでしたね。

今石あと恋愛モノの色は、脚本の大塚さんの影響が強かったのかな、と思います。僕よりも大塚さんの趣味なのかなと。

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――確かにデイビッドの死は、傍から見ると意味がないですよね。ただ、本人としてはルーシーを救うこと、そして夢を叶えてあげたというところで、ある意味救いがあったのかなと。

今石そうですね。ほかの人から見れば無意味な死なんですが、本人にとっては納得がいく、意味のあった死という立ち位置にしました。とはいえ、やはり傍から見れば悲しい物語になったほうが、ナイトシティらしいです。

――ルーシーも最後は月に行きますが、けっきょくのところ月に行くのはもうどうでもよかったようにも感じました。“デイビッドと”月に行くことこそが、本来の夢だったような。

今石それはそうでしょうね。ルーシーは途中から月に行くことは目的ではなくなっていたんです。けれどもデイビッドは、月に行くという彼女の夢を叶えてあげることを目標にしてしまっていた。そこは、男女のちょっとしたすれ違いなんですよね。

本間エンディングもどうするか、かなりモメましたね。

今石ああ……。CDPRさんは僕らの想像を遥かに上回る、エグいラストを提案してきて……。

本間詳細は明かせないんですが、とりあえず、いまのラストはかなりマイルドになっています(笑)。

今石そこは少しアニメらしく終わらせてしまったのかな、とも思いますが。

――いまでもかなり悲しいラストなのに、それよりも悲惨だったということですか!?

本間まぁその……そうです(苦笑)。

今石そういうところが、CDPRさんはマジでヤベぇなと思ったところです(笑)。TRIGGERも尖ってたつもりだったんですが、ぜんぜんでした(笑)。

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サンデヴィスタンに見る、ゲームとアニメの表現の違い

――より細かい設定などもお聞きしたいです。デイビッドはサンデヴィスタンのサイバーウェアを使用しますが、数あるサイバーウェアの中からなぜサンデヴィスタンを選んだんでしょうか?

今石最初はケレズニコフでしたね。確かCDPRさんの要望で、ケレズニコフやサンデヴィスタンのような、加速できる装置を入れたいというのがありました。

――ゲームのサンデヴィスタンは、自分で使うと周囲がスローモーション、敵が使うと瞬間移動の効果を持ちます。それがアニメでは“時を止めての高速移動”というような表現になっていましたが、この表現にしたのはなぜでしょうか?

本間そこもかなり悩んでいた要素ですね。ゲームと同じ表現にするのか、それともアニメならではにするのか。

今石3Dの場合、モデルが作られているものですから、それをスローにしても手間は大して掛かりません。でも2Dアニメの場合、そのスローモーションで動く1枚1枚の絵を描く必要があります。しかも、ゆっくり映像が動く都合上、通常よりも超丁寧に描かなくてはいけません。たとえば通常なら3枚で描けるアクションも、スローならば40枚で描いて、しかも絵がしっかり見えるから、ちょっとしたデッサンの狂いとかも全部修正しないといけない。

 サンデヴィスタンを使うたびにその作業をやっていたとしたら、絶対に納品に間に合わないんですよ。だからいまの表現にしました。アニメのサンデヴィスタンは、スロー用の作画ではなく普通のアクションの動きの作画をしていて、それを止めて並べています。パッと見は画面の情報量が上がったように見えるハッタリで、場を持たせてスローのように見せているという。これは何十年も前からやっている、アニメ制作の古典的な手法のひとつですね。この表現は古臭さがあるかもしれませんが、1枚1枚細かく色を変えたりしてるのは、いまならではの表現かと思います。

 また、リアルにしすぎる怖さもありました。ゲームの表現に追いつこうとしても、絶対にゲーム画面よりもリアルにはできないんです。そこを目指した時点で、デフォルメされたアニメキャラクターのデザインの意味がなくなってしまいますから。デザインを抽象化しているので、映像表現も抽象化しないとスタイルが統一できないということもあって、ああいった表現になりました。

――スッと分身するかのように動いていくのが、見ていて気持ちがよかったです。

今石ありがとうございます。若い人から見たら「これ撮影ミスった?」、「デジタル上で絵を消し忘れたんじゃ?」とか思われるかも、と思っていたので(笑)。ちょっとクスっとしてもらいたい、というところもありました。

【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る
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――物語が進むとデイビッドはメインのパーツを受け継いでゴリマッチョ化し、さらには完全に両手両足がロボパーツとなり、まるで某デンドロビウムないし、某道頓堀ロボのような形状となりますよね。今石監督らしいなと思ったのですが、あのデイビッドはどのように生まれたのでしょうか。

今石最後にはオリジナルの兵器を出したいと、こちら側から要望を出したと思います。

本間CDPRとして重要だったのは、ロボットを操作するのではなく、デイビッドがロボットと一体化することでした。物語では最終的にデイビッドの腕と足が外れて、大型サイバースケルトンを装着しますが、最初はもっとロボットに乗っている風だったんです。

 あと、流線形のスラッとしたデザインがいい、とも要望していました。ただそれだとアダム・スマッシャーのシルエットと同じになってしまうなど、いろいろとTRIGGERさんから意見をいただいて、最後は「四肢を切断して接続する形ならいいですよ」ということになり、ああいったロボットみたいなものがデイビッドにくっついている形を、キャラクターデザインの吉成曜さんに詰めてもらいました。

今石最初は外骨格だということを主軸に考えていて、たとえば骨格だけのパワードスーツみたいなものを外から皮膚に直接縫い付けたら後戻りできない感じがしていいなと。ただそれが、ぜんぜん強そうに見えなくて。しかも、無意味に作画もたいへんだったんです。

 そこから、ゲームでミリテクが使っている二足歩行兵器や、ロイスの身体に付いていたようなパーツなどをもとにイメージを膨らませていきました。そうすれば世界観とズレないかなと思ったのですが、その一方で、普通のパワードスーツみたいになってしまうという問題も生まれて。どうしたものかと思ったときに、腕と脚を切除するというアイデアが出てきたんです。

 「ああそうか、身体拡張をしてるのだから、手足を切断してもいいんだ」と納得がいきました。自分はそういう、常識にない発想をするよう心掛けていたはずなのに、案外セーブをかけていたんだなと気付かされましたね(笑)。「そのほうがしっくりくる! 手足を描かないなら作画が楽になるし!」と思い、とあの設定になりました。

本間あれは“インストールするともう後戻りできない”、“エッジの向こう側に行く”という演出のためにもよかったところでした。『サイバーパンク2077』の世界では普通に足を交換したりしていますから、もしデイビッドが生きていたら足をまた生やせるとは思いますが、この物語においてはもう後戻りができない選択をしたんだな、という印象を強く残せたかと思います。

今石最後にアダム・スマッシャーと対決することは決まっていたので、改造後のデイビッドは一見、アダム・スマッシャーよりもゴツくてデカい見た目でものすごく強そうに見えるんですが、でも中身はハリボテというほうが悲しさがあるなぁと思ってそうしました。けっきょく上辺だけ強くなったフリをしてしまうのも、若者っぽくていいなと。

本間デザイン的には完全に“負けデザイン”なんですよね。

今石アダム・スマッシャーを最強の存在にしたかったので。負けるためのデザインになりましたね(笑)。

【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る
【ネタバレ注意】『サイバーパンク エッジランナーズ』インタビュー。TRIGGER今石監督に「CDPRは僕らよりもヤバい」と言わしめた! 制作秘話と物語の核心に迫る

――アニメのシーンの中ではハッキングも印象的でした。描写としては深層世界のようなところでキャラクターが動き回ったり、目の前にハッキングパネルが表示されるという感じで、ゲームのハッキングとはまったく違いましたね。やはりアニメだからこそ、そういった演出付けをしたのでしょうか。

今石そうです。ゲームだと主観ではいろいろな表示が見えるけれど、外から見ると目が光っているだけですからね。アニメ的にはある種古典的な表現にするしかないのかなと。あくまでそのキャラクターたちが見ているパネルであって、現実的にはほかの人物たちには見えていないものだと思っていただければ。

 ゲームではハッキングのとき、数字を選んでいくミニゲームがありますよね。あれがすごく好きで同じものをなんとかアニメにも出したかったので、ルーシーにやらせるようにしました。ルーシーがものすごいスピードでクリアーしていくのは、アニメ的な誇張表現ですが。

本間プレイヤーと同じ思考速度だったら、「えーっとここが11で……ここが42で……」ってカッコ悪いハッキングシーンになっちゃいますからね(笑)。

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――確かに(笑)。あとメインのサイバーサイコシスが進行していく最中、荒野のようなシーンがたびたび映っていました。幼少期などの思い出がフラッシュバックしているように見えましたが、どのような意図があったのでしょうか。

今石あれはナイトシティの郊外のどこかのイメージです。幼少のころのメインが回想のように映っているので、あれがメインの原風景なんだと思います。何かが起こるたびに、その記憶が混ざってしまうと。それも劇中ではほぼ言及していないところなので、見る人の解釈によるのかなとも思います。

本間舗装された道があったのに、途中でなくなるんですよね。デイビッドがどんどんサイバーサイコシスになっていく中で、彼の原風景であろうナイトシティの、十字路に立っているようなビジョンが見えていました。メインもデイビッドも、同じように道が出てきたのは意図的に演出したことなのかなと思いました。

今石じつは、僕は想定していなかったイメージです。あれは第6話で突然出てきて、あの回の絵コンテと作画を担当した若手の五十嵐海が、絵コンテの段階でそういう演出を入れてきました。それはおもしろいなと思って、今度は僕が最終回である第10話で、そのアイデアを再利用したという感じです。

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――キャラクターの話で言うと、レベッカのコミカルでキュートな感じにTRIGGERさんらしさを感じました。

本間レベッカはそもそも当初の脚本にいなかったキャラクターなんです。TRIGGERさんが作ったんですよ。

今石ええ、こちらからデザインも出しました。2Dアニメかつ、TRIGGERのアニメらしいキャラクターデザインの場合って、キャラクターの描き分けがすごく難しいんですよ。たとえばゲームでパナム、ジュディ、ローグの3人が並んでも、当然見分けが付くと思います。ですが、2Dアニメのデフォルメされた感じで描くと、とたんに全部同じように見えてしまうんです。ちょっとした年齢の差や、服の質感などが全部なくなってしまって、色分けでしか区別が付かなくなります。

 なので、アニメで僕たちは身長差や体格差を意図的に作っているんです。それをしっかりやらないと、視聴者が無意識にキャラクターを判別するという域に至らないんですよ。レベッカのような背の小さいキャラクターを出したのはそのためです。

 またレベッカのデザインについては、ひと目見るだけでルーシーが絶対的なヒロインである、ということがわかるようにもしています。そういうところまで考慮すると、自然にああいうキャラクターになったんですよね。ピラルみたいな手の長いキャラクターもいますし、メインのように異様に体のデカいのもいると。

本間アニメにおける描き分けのために必要だった、ということですよね。

今石「ああいうキャラクターがいるとスタッフのモチベーションにもなる」というのは大塚さんの発言だったかと思います。大塚さんは脚本上でもすごくレベッカを気に入っていて。

本間本来はもっともっとセリフがあったのに、だいぶ削られたと言っていましたね。

今石僕のほうでだいぶ削ってしまったかもしれません(笑)。

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――ちなみにピラルとレベッカは、死亡時に兄妹で同じく3カメ演出になりますが、あれは意図的に取り入れたことなんでしょうか?

今石そうですね。ピラルはもともと突然死ぬ展開だったんですが、レベッカも結果的に突然死ぬ形になってしまって。ちょっと目立たせないと、印象に残らずになんだかよくわからないシーンになってしまうので。だったら、兄貴と同じ演出にしましょうと。個人的にはけっこう気に入っているシーンです。

本間ピラルもレベッカも、どちらも突然死という、悲惨な兄妹でしたね。ピラルは自業自得なところもありますが。

――レベッカの死のせいで、ゲーム内のアダム・スマッシャーに、レベッカのショットガン“カーネイジ GUTS”をブチ込む人が続出していますが……。

本間めちゃくちゃいますよね(笑)。デイビッドのジャケットとレベッカのショットガンは、アニメの配信が始まる1週間前にはゲームに実装されていました。あのタイミングでは、ただのアニメのPRアイテムですよね。でも、アニメを見た人にとっては、なぜファルコがデイビッドのジャケットを持っていてVに渡したのかとか、なぜレベッカのショットガンがあそこに落ちているのかといったことは、めちゃくちゃ重い意味があるんです。

 それがすごく、ナラティブとしてのいいところだと思うんです。CDPRとしても、いちアイテムからストーリーの要素を感じ取ってほしいと思って取り入れた要素で。最初は単なるPRアイテムとして、そしてアニメを観終わってからそのアイテムの意味を知るという、1回で2度楽しめるような試みが、すごくよかったと思います。

――ゲーム側でのアニメ関連アップデートは、今石監督は知っていたのでしょうか?

今石ゲーム内のBDでアニメが少し見られるのは聞いていて「おお、そんなことをしてくれるんだ」とうれしかったです。ただレベッカのショットガンはけっこう後に知りまして。あのショットガンは僕もペイントにこだわって作ったので、そのまま登場してくれるのはうれしかったです。

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ゲームではアラサカタワーの近くに、レベッカのショットガンが落ちている。まだ手に入れてない人は、ぜひ探してみよう。

――たとえばBDを見たとき「デイビッド・マルティネスは学ばなかった」などのテキストがありますが、あれはCDPRさんが?

本間はい、そこはCDPR側が独断でやらせてもらいました。じつはアニメに関するアップデート計画も本来はなくて、クロスメディアで展開するというよりは、『サイバーパンク エッジランナーズ』というひとつのアニメ作品で楽しんでもらうことしか考えていなかったんです。もともとはラファウさんの「すばらしいアニメが作りたい」という願望だけの計画でしたから。

 いまとなっては、ビジネス的にもっと追加コンテンツを登場させたりすることも可能だったかもしれませんが、あくまでささやかなアップデートに留める形になりました。でも結果としては、よかったのかなと。やりすぎずに、それでいてデイビッドたちの余韻をしっかり楽しんでもらえるかと思います。

――アニメの効果により、『サイバーパンク2077』のプレイヤー数が急激に増加しているとお聞きしています。

本間本当にありがたいです。タイミングを合わせてゲームの広告を出したり、多少は狙っている部分もありましたが、本当にここまで盛り上がってくれるとは思ってなくて。

 『サイバーパンク2077』は、正直ゲームで1度しくじっていて、ファンの皆さんにご迷惑をおかけしました。そこから修正を重ねていまでは快適に遊べるようになっていますが、海外では「アニメがCDPRにセカンドチャンスを与えてくれた」なんて言われたりもしています。アニメを見たのちに、今度はVとジョニー・シルヴァーハンドの物語を楽しんでいただけるチャンスを、今回TRIGGERさんに与えていただいたことに感謝しています。

――サンデヴィスタンを使うプレイスタイルも流行していて、ゲームプレイにも影響を与えているのが興味深かったです。

本間おもしろいですよね。そのあたり、アニメとゲームの相乗効果があると思いました。アニメを見て現実世界でデイビッドたちの真似することはできませんが、ゲームならば可能なのもいいところです。

今石なかなか普通のゲーム原作をやったとしても、こういう広がりかたはしなさそうですね。

本間ゲームの場合はプレイできるキャラクターが決まっていたり、アクションが固定だったりしますからね。

今石「ゲームをやりたくなる」というのは、ゲーム原作のアニメでいちばんいい感想なのかもしれませんね。今回はそれは狙いつつも、単体のアニメ作品としてもしっかり楽しめるようにするものを目指していました。

 一方でアニメとして独立しすぎて、「このアニメはゲーム原作じゃなくてもよかったよね」と思われたらそれもつまらないです。さらに、あわよくばアニメから入った人に、ゲームのことが好きになってもらえたらいいなとも思います。今回、そういった作品が作れたのも、CDPRさんがいろいろと快くあらゆる資料と素材を共有してくださったおかげです。

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ちなみにフォトモードでは、アニメに関するステッカーなども用意されている。

――今石監督はゲームのエンディングも見たそうですが、遊んでみての感想はいかがでしたか?

今石あのレベルのものを作るのは、我々アニメ畑の人間からしてみると、狂気の沙汰だなと思いました。世界の何もかもをデザインしているわけですから。

 アニメで言うと、かつて僕らの先輩が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』ではそれに近いことをやっていて、コインやらスプーン、皿の形まで全部デザインしました。でも、『サイバーパンク2077』はオープンワールドかつ3Dですので、それを何百倍もの物量でやっていることになる。凄まじいですよ。

 ゲームとしてはどこでも自由に歩けて、いろいろとクエストを遊ぶのもいいんですけども、ただドライブしているだけでも楽しくて。そういう感覚がとても楽しかったです。街の外まであって、どこまで行けるか試してみたら「ここから先は行けません」って言われたりするのも、「ああゲームだな」って感じがして楽しい(笑)。

 メインストーリーはサイバーパンクらしいSF話ですが、僕は、どちらかというと街の人々の話とかが好きでしたね。たとえばVが葬式に行くエピソードのような、SFというより人情話みたいな。CDPRさんはサイバーパンクSFらしさをつねに出すだけではなくて、街やそこに暮らす人々を描きたいんだろうなと。

――『サイバーパンク エッジランナーズ』の物語はいったん終わりを迎えましたが、これだけ好評となると続編も考えたくなりませんか?

本間とてもいい評価をいただけたということもあり、私個人としては、今後も日本のスタジオといっしょに仕事をして、さらなるアニメ作品を作っていきたいという思いはあります。ただ、誤解なきように言っておきますと、『サイバーパンク エッジランナーズ』はもともとスタンドアロンな作品ですので、「いまじつは裏でシーズン2を制作中です」みたいなことはありません。今後アニメを作ることができるとしても、それがシーズン2なのか、まったく別の作品になるのかはわかりませんね。

――たとえばファラデーはすごい大物感があったのに、最終的には小物みたいな終わりかただったので、ファラデーのちゃんとしていたころの活躍が見てみたいです(笑)。

本間見た目も含めてトップのフィクサーみたいな感じでしたけど、とても小さい人でしたね。もしかしたら、見た目だけはがんばっていた人なんじゃないでしょうか(笑)。

 ナイトシティの中でフィクサーというのは、あくまで仲介役でしかないんですよね。コーポという圧倒的な存在がある中で、フィクサーはどうしても成功を収める物語にはなりにくいと思います。フィクサーが高みを目指すとロクなことにならないというのが『サイバーパンク エッジランナーズ』を通じてわかることじゃないでしょうか。

 一応のフォローとして、ファラデーは小物として描かれてはいますが、日本語版は井上和彦さん、英語版はジャンカルロ・エスポジートさんという著名な俳優さんが声を当てていますから、キャラクターとしては見た目も含めて、もちろん力を入れています。

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――ちなみに日本語版の声優陣のキャスティングというのは、TRIGGERさんが?

今石オーディションは本間さんなどとも検討しましたが、基本的にTRIGGERが決めたキャスティングをCDPRさんに見てもらった、という感じですね。僕は最近の作品ですと、同じ声優さんに仕事をお願いすることが多いです。でも今回はゲーム原作ということもあっていつもの雰囲気を変えたかったので、なるべくごいっしょしたことのない声優さんにお願いしました。あとキャスティングに関しては、アニメよりも洋画吹き替えのイメージが強い方にお願いしています。

――ああ確かに、稲田徹さんとか新谷真弓さんは今回はどこで出るのかな? とファンだからこそ思っていました(笑)。

今石ご期待されていたらすみません(笑)。

――いえ、ありがとうございます(笑)。リパードクの津田健次郎さんも、なかなかない役どころでよかったです。

本間僕も意外で驚きました。

今石よかったですねえ。津田さんはイイ声ですが、ちょっとクセがあるところがいい。ですから普通にイケメンを演じるのではなくて、リパードクみたいな変態っぽいキャラクターをやってもらうのがおもしろそうだなと思って。すごくバッチリでした。

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――では最後に、『サイバーパンク エッジランナーズ』を観てくださった方々に、メッセージをお願いします。

今石ゲームのファンはもちろん、ゲームを遊んでいない方にもわかるように作ったつもりです。サイバーパンク系の小説はものすごく説明不足なことが多くて、専門用語が多くてよくわからないけど、よくわからないまま読み進めるものだというイメージがあります。本作もサイバーパンクの系譜の作品ですから、設定の意味はわからなくても、主人公たちの感情の動きがわかってそのまま観られるように心がけていました。

 ゲームをやっていない人でも、きっと楽しんでもらえたかと思います。わからないところがあれば、ぜひゲームをやって知ってもらえるといいですね。全体が10話と短いですから、ぜひ何周も回して観てくれると、とてもうれしいです。

本間この作品の反応を見ていて「しまったな」と思った唯一のところは、『サイバーパンク2077』をやっていないと専門用語がわからないというところでした。それはもう今石監督が言ったように、作品の中で全部を説明するのは無理だったので、諦めている部分です。

 たとえばナイトシティがどんな街で、コーポがどんな勢力争いをしているかなどを全部説明しようとすると、説明ばかりになってストーリーが破綻してしまいます。そこは割り切って、セリフを流して聞けるような感じになっていますから、そこで興味を持った人が『サイバーパンク2077』を遊ぶことで、よりアニメへの理解度も深まると思います。遊んだことがない人は、ぜひ試してみてください。

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