ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がPS5(プレイステーション5)を発売したのが、2020年11月12日のこと。以降、SIEがPS5と対応ソフトの発売と並行して挑んでいたのが、開発スタジオを充実させることだ。

 SIEは『ラスト・オブ・アス』や『アンチャーテッド』などで知られるノーティードッグ、『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズで知られるSIEサンタモニカスタジオを始め、『Marvel's スパイダーマン』のインソムニアック、『Horizon』シリーズのゲリラゲームズなど、もともと多くのスタジオを抱え、SIEワールドワイド・スタジオと称していた。それが、2020年2月にPlayStation Studiosとしてブランドを刷新。その3ヵ月前となる2019年11月にゲリラゲームズの共同設立者であるハーマン・ハルスト氏を、SIEワールドワイド・スタジオの統括責任者として招聘し、ファーストパーティの開発力を強化していった。

 それから約2年半。ハーマン・ハルスト氏は、さらに開発スタジオの買収や提携を進め、バンジー(Bungie)やブルーポイントゲームス(Bluepoint Games)など、7つの開発スタジオを買収。VRタイトルやモバイルタイトルのノウハウを持つ開発スタジオも含んだ、合計19のスタジオがPlayStation Studiosの一員として名を連ねている。

 また、SIEとしては『Marvel's スパイダーマン』や『ゴッド・オブ・ウォー』などの看板タイトルのPCへの移植も積極的に展開。PSプラットフォームを持っていないユーザーにもSIEタイトルに触れてもらう機会を増やそうとしている。

 これらの戦略はすべてハーマン氏がPlayStation Studiosの統括責任者になってからのもの。ハーマン氏は非常に精力的に活動してきたわけだが、PCへの移植以外では、ゲーム業界向けの動きが多く、ゲームユーザーにとってはハーマン氏の戦略がどんな成果を生み出しているかが直接的には見えづらいのも事実だろう。

 そこで、今回、ファミ通.comではハーマン・ハルスト氏へのインタビューを通じて、スタジオの買収とPC、モバイルへのタイトル供給を推し進めるハーマン氏は、どんな未来を思い描いているのかをうかがった。そして、日本のゲームファンとしては気になるポイントであろう、SIE JAPANスタジオ再編で日本発のIPは今後どうなっていくのかについても触れた。

ハーマン・ハルスト氏

PlayStation Studios 統括責任者。

SIEにおけるPlayStation Studiosの統括責任者に就任し、ファーストパーティーにおける“プレイステーション”プラットフォーム向けゲーム開発戦略の策定・推進を担当。SIEに入社前は、Guerrilla(ゲリラ)の共同創立者およびマネージングディレクターとして、クリエイティブかつ経営的な視点からゲリラが開発するゲームの事業戦略を推進。

米国Ubisoftで学生時代にインターンとして初めてゲーム業界での経験を積み、Philips Electronicにおいて戦略マーケティング分野でのキャリアをスタート。その後、Andersen Consultingでマーケティングコンサルタントとしての経験を経て、ゲーム業界へ復帰。2001年にゲリラのマネージングディレクターに就任し、2011年からは欧州地域におけるSIE PlayStation Studios (旧ワールドワイド・スタジオ)のバイスプレジデントも務めている。アムステルダム大学で哲学を専攻し、テクノロジーマネジメントで修士号を取得。

PC、モバイルへの展開で増やすPSプラットフォームへの関心

――本日はよろしくお願いします。まずはハーマンさんがPlayStation Studios(以下、PSスタジオ)の統括責任者に就任されてから、これまでを振り返った感想をうかがいたいと思います。コロナ禍などもあった中で、就任以降はいかがでしたか?

ハーマンホライゾン』シリーズの開発をしていたゲリラゲームズからPSスタジオにやってきて、2ヵ月ほどでコロナ禍が始まったと記憶しています。そこから一気にリモートワーク化が進み、開発者たちの家に必要な機材を揃え、それぞれの家でインターネットの速度や安定性に問題はないか、などの心配をしながら準備を進めていました。私自身、新しいスタジオで新しい責任を持ち始めたタイミングだったので、それと同時にコロナ禍での体制に移行していくことは、非常に難しかったです。

――その中でも、PSスタジオは新たなスタジオの買収、人気タイトルの発売などの動きもありました。

ハーマンそうですね。すばらしいソフトを出して新たなコンソールであるPS5をしっかりと支えていく、コアとなるこの活動に加えて、新たなユーザーにゲームを楽しんでいただくために、PS以外のプラットフォームにも展開していく、という新しい戦略も立ててきました。

 ストーリー重視のシングルプレイヤーモードを重視したゲームとともに、PCやモバイルでの展開を始め、さらにライブサービスゲームもスタートするなど、パンデミックの中で新しいことに多く挑戦してきました。本当にいろいろなことがあった2年でしたね。

――従来のプラットフォーマーの考えかたとしては、専用タイトルが遊べることがハードの普及につながると考えていたと思います。一方、昨今のSIEはとくにPCへの移植を積極的に進めています。これは、プラットフォームの普及よりも、まずはIPの普及を優先すべき、という戦略なのでしょうか。

ハーマン・ハルスト氏が語るPlayStation Studiosの未来。PS5専用タイトルの増加とPCへの移植戦略や、JAPANスタジオ再編による日本IPの今後についても訊く
Steam内のPlayStation Studiosのページ。2022年10月28日には『リビッツ! ビッグ・アドベンチャー』が発売される。

ハーマンプレイステーション(以下、PS)というプラットフォームが引き続き我々のタイトルをプレイするのに最も適した遊び場である、ということは改めて強調しておきたいと思います。我々はハードウェアに近い場所で仕事していて、開発中のタイトルもまずはPSで試してフィードバックを出しているので、我々のゲーム開発とPSは切っても切れない、密接な関係にあります。

 一方でPCへの移植も進めているわけですが、こちらは既存タイトルを移植することで、新たなユーザーを獲得することを目的としています。モバイルについても、モバイルに適したタイトルはそちらで展開し、コンソールとモバイルでのクロスプレイを実現するということも、重要な取り組みであると考えています。モバイルファーストのIPについては、積極的にモバイルでローンチしていきたいですね。

――PCやモバイルでPSスタジオのゲームに触れた人たちが、将来的にPSプラットフォームに興味を示してくれることに期待している、ということでしょうか。

ハーマンそうですね。複合的な考えがある戦略にはなりますが、いまPSのプラットフォームやゲームにアクセスできない方々に、我々への興味を持っていただく、それがプラットフォームや我々のIPに対する関心につながっていけば、と考えています。

――モバイルファーストのIPはモバイルでローンチしていく、といったお話もありましたが、こちらは既存IPの新作を出していくということでしょうか。

ハーマンモバイルについては、基本的に既存IPの作品を出そうと思っています。コンソール用のタイトルに調整を加えて、モバイルでリリースするということですね。コンシューマとモバイル、両者でのクロスプレイも考えていますし、先日PSスタジオに加わったSavage Game Studios(サベージ・ゲーム・スタジオ)ではAAA級のライブサービスアクションゲームの開発も進めています。

スタジオ買収で生み出されるPSスタジオの連携

――昨今、SIEは数々のスタジオを買収しており、各スタジオが連携することでシナジー効果が生まれるというお話をうかがいました。そういったシナジー効果はユーザーからは直接的には見えづらいものです。具体的にはどのような効果があったのでしょうか?

ハーマンPSスタジオでは、協力する文化を醸成することに努めています。協力といってもいろいろな形があって、たとえばアイデアを共有するのもそうですし、パンデミックをどのように乗り越えていくか、と話し合うのもひとつの形だと思います。

 もちろん技術を共有することもあって、たとえばゲリラゲームズのデシマエンジン(『ホライゾン ゼロ ドーン』や『デス・ストランディング』などに使用されているゲームエンジン)を使っているスタジオはいくつかあります。我々は自分たちの技術を高めていくことも重視していて、その考えもスタジオ間で共有しています。

――アイデアや技術、理念などさまざまな面で共有を行っているわけですね。

ハーマンそれ以外にも、人の観点でも協力し合っています。少しデリケートな話ではありますが、開発者の健康をしっかりと担保することも重要です。各スタジオに異なる文化があり、それぞれのアプローチがありますが、それは逆に言えばともに学び、技術や知識を共有する機会が多いということでもあります。

 お互いにフィードバックを送り合ったり、ゲームに関して協力し合うこともありますね。具体的な例として、来年リリースする予定のPSVR2のタイトルでは、ゲリラゲームズとイギリスで新たに買収したファイアースプライトが協力しています。本当に、スタジオ間ではさまざまな協力をしていますね。

――国や文化の異なる開発スタジオを連携させるにあたり、苦労も多いのではないでしょうか。

ハーマンそうですね。まず現実的な課題として、時差の問題があります。日本、ヨーロッパ、スカンジナビア、イギリス、オランダと世界中に開発者がいますし、アメリカの西海岸やテキサス、カナダなどにも開発者はいますからね。フォーラムを開催する際にも、どこかでは早朝、どこかでは深夜になってしまうので、大きな問題です。

 ただ、我々は高いクオリティーを目指すというビジョンを共有しているので、そういう意味で、私の仕事はそれほど難しいことではないと思っています。クリエイティブのビジョンを実行する、というのはまさにPSスタジオが目指していることですので、優れた開発者がそのビジョンを滞りなく実現できることを重視しています。

今後はPS5専用タイトルを増やしていく

――PS5では11月に『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』が発売され、以降のタイトルでは『Marvel's スパイダーマン2』や『Marvel's ウルヴァリン』、PSVR2なども発表されていますが、まだ具体的な情報が出ていないものが多い状況です。今後の新作に関するお話を聞かせていただけますか?

ハーマン・ハルスト氏が語るPlayStation Studiosの未来。PS5専用タイトルの増加とPCへの移植戦略や、JAPANスタジオ再編による日本IPの今後についても訊く
ハーマン・ハルスト氏が語るPlayStation Studiosの未来。PS5専用タイトルの増加とPCへの移植戦略や、JAPANスタジオ再編による日本IPの今後についても訊く
『Marvel's スパイダーマン2』

ハーマンいま挙げていただいたタイトルのほかにも、ノーティドッグが『ラスト オブ アス』のマルチプレイ用の新作を開発しており、PSVR2向けに『ホライゾン コール オブ ザ マウンテン』が出ることも、すでに発表している通りです。さまざまなゲームが異なる開発段階にあり、その詳細については残念ながらここでお話しできることはないのですが、最新の情報はSNSなどでも発信しているので、そちらをフォローしていただければと思います。

――これまでPS5ではPS4とのマルチプラットフォームタイトルが多く、PS4しか持っていない人も遊べるのがうれしい一方で、PS5の性能をフルに活用したタイトルを見てみたい、という声も多いかと思います。今後も引き続きマルチプラットフォームを続けていくのか、専用タイトルを増やしていくのか、そのあたりはいかがでしょうか。

ハーマンどのプラットフォーム向けにリリースしていくかは、各タイトルで個別に決めています。PS4のユーザーは1億1400万人もいますので、そのユーザーを大事にする意味でマルチプラットフォーム展開をしてきたのは事実です。

 一方で、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』や『リターナル』など、PS5の機能を最大限お楽しみいただけるタイトルも登場しています。先ほど挙がった『Marvel's スパイダーマン2』などのタイトルを含め、今後はこういったPS5ならではのタイトルがどんどん増えていくことにも期待していただければ、と思います。

――『ゴースト オブ ツシマ』の映画や『ラスト オブ アス』のドラマシリーズなど、映像作品にも注力する動きが出ていますが、ストーリーテリング以外の部分でゲーム開発のノウハウが映像制作に活用される、あるいは映像作品を作ることでゲーム開発に活きる部分はありますか?

ハーマン映像作品のストーリー構成の手法は、ゲームのそれとよく似ています。また、エフェクトやツール、技術面でもかなり似通った部分があるので、ゲーム開発のノウハウが映像制作の参考になることもあります。映像作品の撮影は時間も場所も限られているので、包括的な準備をする必要があるのですが、ゲームのシネマティックスにもそれは言えるので、お互いに学べることがあると思います。

 ドラマ『ラスト オブ アス』では、ゲームでクリエイティブディレクターとシナリオライターを務めたニール・ドラックマンがディレクションを行っているのですが、彼はVFX(ヴィジュアルエフェクト)を簡潔にまとめたものを撮影現場で活用していた、という話も聞いています。

日本発のIPの続編、新作の可能性は

――SIEは今後ライブサービス型の体験を提供していく、というお話もありましたが、こちらは継続的にアップデートを行っていくタイトル、という定義でよろしいでしょうか。

ハーマンライブサービス型のゲームに共通するのは、リリース後にアップデートがあり、そこからさまざまなメリットが生まれるということですね。プレイヤーがゲームに関わる方法やプレイヤーへの報酬に変化があったり、アップデートによって追加要素が増えていったり、というのが共通して言えることだと思います。

 それと、多くのプレイヤーがコミュニティに参加し、それが拡大していくのもライブサービス型ゲームが持つ要素です。同じオンラインの世界を共有し、非常にアクティブなコミュニティが生まれ、それによってプレイヤーとしてよりいい体験ができる、ということですね。

 『デスティニー』などはそのいい例かと思います。チームでプレイすることで、より楽しいゲーム体験が生まれますよね。お互いがつながることで、プレイにストーリーや友情が生まれてくる、というのはまさに『デスティニー』で実現できていることかと思います。

――コアとしているシングルプレイヤー向きの、ストーリー重視の作品とはまた異なる魅力があるわけですね。

ハーマンライブサービス型のゲームはシングルプレイヤー向けのタイトルと比べてプレイヤーの体験も異なりますし、開発スタジオにとっても新たな挑戦になると思います。これまではひとつのキャラクターについて考えていればよかったのが、マルチプレイヤーで、さまざまなプレイスタイルがあることを想定して開発を行う必要が出てきますからね。

――最後に、日本向けの質問をさせてください。2021年4月にSIE JAPANスタジオが再編され、SIEを去ったクリエイターも多くいました。またここ最近は、これまでSIEから出ていた日本独自のIPは続編や新作がなくなり、かろうじて『グランツーリスモ7』が出ているという状況です。これまでJAPANスタジオなどが手掛けてきた日本のIPについて、どのように感じていますか? また、PSスタジオがその続編を手掛ける未来があるのでしょうか?

ハーマン日本のゲーム、日本の市場がSIEにとってたいへん重要であること、これはいまでも変わりません。PSの成功は、日本やアジアで先人たちが作り上げてきた作品と深く結びついている、これは間違いありません。非常に象徴的で人気のあるタイトルもこの地域から生まれてきたので、今後もその流れを維持したいと我々は考えています。

 『グランツーリスモ』シリーズのポリフォニー・デジタル、『ASTRO's PLAYROOM』などを作り上げたTeam ASOBI、それ以外のパートナーのスタジオも含め、これからもPSスタジオとして日本でゲームを出し続けていきます。『グランツーリスモ7』はPS5の力を皆さんにお見せするという意味ですばらしいタイトルになりましたし、このIPを今後も拡大していきたいと思います。

――願いが叶うなら、PSスタジオの作る『サルゲッチュ』など日本生まれのIPの新作を遊んでみたいです。

ハーマンそういったことが起こると、すばらしいですね。じつはこのインタビューの後、ようやく日本に行く機会があるんです。日本のクリエイターやすばらしいスタッフと会えることを、非常に楽しみにしています。『エルデンリング』や『ファイナルファンタジーXVI』(FF16)、Team NINJAの『Rise of the Ronin』など、近年でもすばらしい作品がたくさんありますからね。Team ASOBIのメンバーとも以前会う機会があり、彼らも絶好調でした。こういったチームといっしょに仕事ができることを、本当にうれしく思っています。

ハーマン・ハルスト氏が語るPlayStation Studiosの未来。PS5専用タイトルの増加とPCへの移植戦略や、JAPANスタジオ再編による日本IPの今後についても訊く
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『Rise of the Ronin』

[2022年10月5日1時12分修正]
記事内の一部誤植を修正いたしました。