「パフォーマンス面で困ることはなかった」PS5&PS VR2の実力
2022年9月7日、PlayStation VR2(以下、PS VR2)のメディア体験会が開催された。体験会では、PS VR2版『バイオハザード ヴィレッジ』(以下、『ヴィレッジ』)と『Horizon Call of the Mountain』の試遊に加えて、PS VR2版『ヴィレッジ』開発者への合同インタビューも実施された。
本稿では、合同インタビューの内容をお届けする。本インタビューは、PS VR2版『ヴィレッジ』の試遊(東京ゲームショウ2022のカプコンブースで試遊出展されているものと同内容)を踏まえたうえで行われている。内容に触れている部分があるので、ネタバレが気になる方はご注意いただきたい。
神田 剛氏
カプコン
『バイオハザード ヴィレッジ』プロデューサー
高原 和啓氏
カプコン
PS VR2版『バイオハザード ヴィレッジ』ディレクター
PS VR2ならPS5のクオリティーがそのままフルに発揮できる
――VRというと、視覚的なインパクトという要素が大きいと思います。今回PS VR2版『ヴィレッジ』を開発するにあたって、視覚的な要素については、どのように意識されましたか?
神田まず今回、PS VR2の解像度があれば、『ヴィレッジ』自体のグラフィックのクオリティーで、ある程度インパクトは出せるかなと思っていました。そのうえで、本当にVR空間にプレイヤーが入って、イベントシーンや、敵と対峙する距離感を体感できる。そしてSenseコントローラーによって、プレイヤーの動作が、そのまま実際のアクションにつながるわけです。そういう意味でも、没入感、臨場感を、アクションで増幅させるという点は、意識して取り組んでいます。
――『ヴィレッジ』は、前作『バイオハザード7 レジデントイービル』(以下、『7』)に続いてアイソレーションビューを採用しているわけですが、『ヴィレッジ』も開発スタート時点からVR化を念頭において作られていたのでしょうか。
高原『7』のVRは、非常に好評をいただきましたし、我々としては、『ヴィレッジ』でも、というのは狙ってはいたところです。でも、実際に本格的に作ろうとなったのは、『ヴィレッジ』本編を発売した直後くらいですね。『ヴィレッジ』自体も、今回、ホラーのテーマパーク的なコンセプトで作りまして、そこに関しても、ユーザー様から非常に満足度が高いというフィードバックをいただけました。PS VR2版に関しては、そこから本格的に始動したという形になります。
――PS VR2になって、開発において変わったこと、新しくできるようになったことなどを教えてください。
高原PS VR2自体のハードウェアもそうですが、そもそもPS5上で動いているVRタイトルということで、たとえばVR化するにあたってアセットの品質を落とすようなこともなく、そのままPS5の品質の通りに、アセット、シェーダー、マテリアルなどをそのままフルに発揮して、いいグラフィックスと、立体音響を体験できる。それがいちばんの強みだったかなと思います。
――スペックまわりについて教えてください。「PS5の品質の通り」とのことですが、実際には、アセットは何%くらいをモディファイする必要があったのでしょうか?
高原何%と定量化するのは難しいのですが、解像度を、フルの4K、120fpsで、HDRでのレンダリングを実現するにあたって、もとのPS5版から大きくオミットした点は、ないといっても過言ではありません。一部、パフォーマンスの問題ではなく、グラフィックスの観点において、たとえば両目立体視で見るときに像がしっかり見えないなど、そういう問題が発生するものなどは取り除いていますが、それも取り除いても問題がないギリギリのところまでやったり、パラメーター調整でもとの絵を崩さないように、というようにして、もとの雰囲気を壊さないように制作しています。
――PS VR2対応ということは、RE ENGINEがVRに対応した、というふうに解釈していいですか?
高原RE ENGINE自体、『7』のころから、VRに関する研究開発をしたうえで、VRのモジュールと言いますか、機能は入っていました。『ヴィレッジ』のVRモードにおいても、基本的なシステムは踏襲しつつも、PS VRにも対応できるし、PS VR2にも対応できるし……ということですね。VRに限らず、汎用的な機能として、タイトル開発者が扱えるように組んではいます。――前作『7』に寄せられた意見を踏まえて、追加した部分や変えた部分などを教えてください。
神田前作に関しては、PSVRのフルスペックを活かしたものでしたが、解像度的な部分の問題、またそれによるVR酔いにつながる部分などは、PS VR2のテクノロジーも大いに貢献しているところで、今作で大幅に改善されていると思います。
あとはやはり、先ほどもお伝えした通り、アクションですね。体験の部分が格段に上がっているというのは、試遊していただいて感じていただけている部分だと思います。そこは自信を持ってお届けできます。
高原アクションについて補足しますと、『7』のVRモードでは、PS Moveなどによるモーションコントロールではなく、通常のゲームモードと同様に、DUALSHOCK4を使った操作で統一していました。今回『ヴィレッジ』は、通常のPS5版ではDualSenseで遊んでいただくものでしたが、PS VR2では、完全にPS VR2用Senseコントローラーに特化して、それ専用にデザインしておりますので、そこはとても大きな進化のポイントかなと思います。
――実物を見ても、お話をうかがった限りでも、PS5+PS VR2ならではという作品になっているようですが、やはりPS4+PS VR版の実現は、技術的に難しいでしょうか。
神田RE ENGINEをフルに使っての体験ですから、同等の体験というのは、保証できますとは言い難いところはありますが……我々としても、VRの作品を何作か開発していく中で、かなりの知見はたまっていますので、いいものをご提供することは可能だろうとは思いますが、同じ体験というのは、難しいかなと思います。
高原PS5上での、PSVR2に対応したタイトルという前提で、パフォーマンスのチューニングもそうですし、ゲームデザインそのものも、Senseコントローラーを前提に組んでいるところがありますので。たとえばPS4とPS VRでそれで活かせるかというと、また別のデザインになってしまうかなと思うんですね。パフォーマンスも、PS5を前提としていますので、同じ体験を再現しようとすると、ほかの何かが崩れてしまう。そこはどうしようもないのかなと思います。
――今回体験した限りでは、酔いも疲労も感じませんでした。PS VR2自体の装着感などの改善もあるとは思いますが、ソフト側ではどんな工夫をされていますか?
高原『7』のPS VRモードで得られた、VR酔いを軽減するためのアイデアは、すべて今回の『ヴィレッジ』VR版にも盛り込みつつ、さらにPS VR2の機能を活かしてています。
たとえば、試遊した方はおわかりかと思いますが、姉妹に引きずられるイベントシーンで、ヘッドセットがブルブルと震えますよね。あれは単純に機械的に震わせていたわけではなく、角を曲がるタイミングなどに合わせて、フレーム単位で調整しています。このくらいの強さで、このタイミングからこのタイミングまで震えさせる、というような感じですね。その振動と、それを感じる人間の感じかたと、映像の入りかたと、そういったことすべてを含めて、酔いにくいようにしてあります。
――VR版は、内容自体は通常の『ヴィレッジ』と同じとはいえ、かなり細かく手を加えられているように感じます。実際には、どんなふうに開発を進めていったのでしょうか。
神田『7』のときと比べますと、もとになる『ヴィレッジ』の解像度、アセットのクオリティーが高かったので、まずはいったんVRのカメラに載せ替えて、どれくらいのパフォーマンスを出せるのかを確認して。それをとっかかりにして、そこからチューニングしていきました。
高原正直に申しますと、PS5で動作することを前提に開発できましたので、パフォーマンス面ですごく困るというところはなくて、いかにもとの素材を殺さずにVR化していくかというところに注力できました。
そのおかげで、VRでプレイしたときの、ゲーム全体のレベルデザインや、演出――もともとカメラの動きも含めて作っていた演出を、いかにVRの映像で見ても壊れないようにするか、といった全体のバランスに注力できたのは大きかったです。そこはPS5とPS VR2だからこそできたことなのかなと思います。
――銃の操作方法など、ゲームのメカニクスを作り直している部分もありますよね。そういったゲーム設計の部分も、『ヴィレッジ』発売後に開発を始めたのですか?
高原そうですね。たとえば、いまはハンドガンが右足の前あたりについています。でも、最初からそこに決まっていたわけでもなく、また今後も、どこに何をどうすれば快適に遊べるだろう、というのは突き詰めていく必要があると思っています。なおかつ、それが全部合わさって、ちゃんと、「楽しいVRゲームだな」ではなく、「これはしっかり『バイオハザード』だ!」という感覚が得られるように、VR化の調整を続けています。
――PS5とPS VR2のパフォーマンスの高さについてお聞きしていると、開発のしやすさという面でも、先代PS VRよりやりやすいのかな、と想像しますが、そのあたりはいかがでしょうか?
高原開発は、間違いなくしやすくなっているかなと思います。……SIEさん主催の体験会だからそう言っているわけではないですよ(笑)。
今回体験された方は、“シースルービュー”も体験していただいたと思いますが、これは開発においてもすごく有用だと感じました。たとえば、ヘッドセットをかぶりながら、ちょっと何かメモをしたいなとか、ちょっとプログラムを修正したいな、というときに、シースルービューにしてちょっと作業する、ということができましたから。これだけで、とても開発効率が上がりました。着脱する必要がなくなりましたからね。
※シースルービュー:PS VR2のヘッドセットについているカメラからの映像を利用することで、ヘッドセットをかぶったままで周囲の様子を見ることができる機能。
――ユーザー的に便利だと感じましたが、開発者目線でも便利な機能なんですね。
高原シースルービューは解像度も高くて、距離感もすごく自然に見えますよね。あれがあるからこそ、このクオリティーでの開発ができているのかなと思います。
――では、とくに開発において苦労している点はありますか?
神田Senseコントローラによる銃アクションを、どのレベルまで現実に近づけるべきか、という点ですね。現実に近づけすぎると、シューティングのシミュレーターみたいになってしまって、サバイバルホラー感を損なってしまいますので。
高原通常のテレビゲームの開発ですと、ふつうにコントローラを握りながら検証をすることが多いと思います。ヘッドセットについてはシースルービューで解決できていますが、Senseコントローラでこれをやると、ちょっと腕が疲れるというのはあります(笑)。そういう苦労はありますが、「こうやったほうが快適だね」、「こうすると楽しいね」といったバランス調整は、苦労はしつつも楽しいところですね。
――現状の試遊版ですと、照準やレーザーサイト的なものもないようですが、これもおもしろくするための調整としてこうなっているわけですか?
神田そうですね。現状では、こういう調整にしてあります。照準の合わせやすさや、銃で狙う楽しさなど、どこまで実銃に寄せるか、ゲーム的にどこまで歩み寄るか、といった部分は、これから調整をかけていこうと思います。
――ハンドガンで、マガジンを落として、挿入して、スライドを引くというリロードアクションは、手間が多いのに、とてもおもしろく感じました。ほかの銃でも、こういった操作があるのでしょうか?
神田そう感じていただきたいと、願っていた通りのコメントです(笑)。そのバランス感、どう感じていただけるか。プレイヤーの邪魔にならないアクションになっているかというところは気を使っていたところなので、ホッとしています。バリエーションについては、これからいろいろと……というところですね。
高原そうですね。試遊版ではナイフとハンドガンのみでしたが、『ヴィレッジ』にはいろいろなタイプの銃がありましたよね。それぞれの銃の扱いかたにつきましては、ショットガン、ライフルなど、それぞれ、似ているけれどちょっと違う。銃をカチャカチャするのがお好きな方は多いと思いますので、その感覚を味わっていただけるように開発していきます。楽しみにしてください。
――本作は、どのような形式でリリースされるのでしょうか。DLCなのかそれとも単体で配信されるのでしょうか?
神田そこはまだ決まっていません。検討中です。
――今後配信されるDLCについても、VR化されるのでしょうか?
神田その予定はありません。今回は、『ヴィレッジ』のストーリー本編のVR対応ということで開発をがんばっています。
――東京ゲームショウ2022ではファンの方々が体験することになりますが、これから体験する方や、楽しみに待っている方に、注目してほしいポイントを教えてください。
神田今回体験していただく方には、アセットのクオリティーの高さを……何より、ドミト(※)ですね。PS VR2で体験していただくと、本当に、さらに迫力、妖艶さ……いろんな意味で「すごいな」と、再度実感していただけると思います(笑)。まずはそこを見ていただいて、そしてもちろん、ゲームプレイ体験、銃アクションも含めて、総合的な部分を楽しんでいただけたらなと思います。
※ドミト……ドミトレスク夫人。体験版の舞台となるドミトレスク城の城主。いろんな意味ですごい。
高原どこを見てほしいかということですと、全部見てほしいです(笑)。いや、これはネタで言っているのではなくて、どこを見たとしても、破綻のないように作っているという自信はありますし、テレビ越しで見る映像と違って、ちょっとした装飾や、イーサン自身の服の質感、ソファのシワなど、ちょっと見ただけでも「こんな模様だったのか」、「ここにこんな傷があったのか」など、とても精密に城の中や雪景色を作っていたのだということがわかっていただけると思います。観光気分でもいいかな、というくらい、世界を堪能してほしいですね。
神田ぜひ、恥ずかしがらずに、しゃがんだりしながらとことん見てほしいです(笑)。