極限の物語がPS5で再び開幕

 2022年9月2日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントより、プレイステーション5向けソフト『The Last of Us Part I』(ラスト・オブ・アス パート1/ラスアス)が発売される(※PC版は後日発売予定)。

 この作品は、2013年6月にプレイステーション3用ソフトとして発売された(翌2014年にはプレイステーション4でHDリマスター版もリリース)サバイバルアクション、『The Last of Us』をフルリメイクしたもの。

 そのオリジナル版を開発したNaughty Dog(ノーティードッグ)のPS5エンジンテクノロジーを駆使し、原作のビジュアルをより高度に再現しながら、プレイステーション5のDualSenseワイヤレスコントローラーの機能にも完全対応させるなど、大幅な進化を遂げている。

 本稿では、同作のプレイレビューを原作との比較なども交えてお届けする。なお、ネタバレにはできる限り配慮しているので、本作をまったくプレイしたことがない人も、ぜひご覧いただきたい。

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極限状態の終末世界で育まれる絆の物語

 改めて、本作の物語を簡単におさらいしておこう。物語の舞台は、近未来のアメリカ合衆国。感染すると自我を失いゾンビのように凶暴化してしまう、恐るべき謎の寄生菌のパンデミック(世界的な大流行)により、世界は荒廃の一途を辿っていた。感染を逃れた人々は“隔離地域”に身を寄せ、軍隊による統制下で細々と暮らしている。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 そんな中、20年前の大混乱で愛娘を失った(そのエピソードはオープニングで描かれる)主人公のジョエルは、裏の運び屋に身をやつして生計を立てていた。そしてとある事件をきっかけに、エリーという14歳の少女を運ぶことを依頼されるのだった……。

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 本作は、プレイヤーが作中世界に介入して冒険を行うゲームとしてだけでなく、ロードムービーを楽しむかのようなストーリー展開、演出が魅力の作品だ。とくに、最初は少し険悪な関係だったジョエルとエリーが、旅を通じて少しずつ心通わせていき、“相棒”と呼べる存在になっていく展開は、胸を熱くさせてくれる。残酷な表現で描かれるシーンも多く、さまざまな面から心を刺激されることには好みが分かれるかもしれないが、全体としては感動的なものになっていると思う。

 ゲーム序盤でのエリーとの出会いはなかなかヒドいものである。他人が信用できない世界で生きてきたことが大きいとは思うのだが、ジョエルたちのエリーに対する態度は“大人げない”という言葉がピッタリだ。まったく信用しておらず、文字通り“お荷物”としか扱っていない。

 それが、旅を経ていくつもの危機や悲しい出会いと別れをともに体験していくことで、本当に少しずつだが変わっていく。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 毎日が極限状態の終末世界だけあって、出てくる人物たちも“食えない”キャラクターばかり。一見苛烈なようでじつはいい人のテス、生きている人間を信用せず、感染者は人間と違って行動が予測できるぶん扱いやすいとのたまうビル、仲よし兄弟のヘンリーとサム、意外に頼れるジョエルの弟トミー、軍への犯行組織“ファイアフライ”のリーダーでつかみどころのないマーリーンなど、どいつもこいつもとにかくクセが強い。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 そしてそれらの人物の生き死にを描くシーンもけっこう多いので、敏感な人はあまり感情移入し過ぎずに淡々とプレイすることを心がけたほうがいいかもしれない……本作はそれくらい、容赦なく心を揺さぶってくる(オリジナル版も含めて完全未プレイの人は、誰が生き残るのか予想してみる、なんて悪趣味な楽しみかたをしてみるのも一興かも)。それでも終盤の展開は泣けるはず。

ステルス的要素が楽しめるバトル

 本作は、ゲームとしてジャンル分けをすると、“サバイバルホラー”の要素を含む3人称視点の“アクションアドベンチャー”だ。ストーリーは一本道で、クリアーまでの所要時間は、アクションが得意でガンガン進められる人なら12、3時間、慎重にプレイする人で20時間程度といったところだろうか。

 『クラッシュ・バンディクー』や『ジャック×ダクスター』、『アンチャーテッド』といったアクションの傑作シリーズを数多く手掛けてきたノーティードッグの作品らしく、アクション部分は複雑になりすぎない程度によく作り込まれている。また、“工作”によってアイテムを素材から作り出したり、道中に落ちている“サプリメント”を集めてジョエルの身体能力を強化するといった要素もある。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
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 バトルにはいわゆる“ステルスアクション”的な要素が盛り込まれていて、物音や気配を巡る駆け引きが大きく物を言うことになる。感染者たちは物音を敏感に察知するため、たとえばガラス瓶を投げてその割れた音を利用して自分と違う場所に誘導し、後ろから忍び寄って始末する……といった戦術も有効だ。

 ほかにも武器の耐久力や残弾数といったものにも配慮しなければならないなど、考えるべき要素は多い。そのためゲームとしては決して簡単ではなく、アクションがあまり得意ではない人は、ストレスを感じない程度に難易度を下げてプレイするといいだろう。難易度を下げると、こちらの操作ミスにもかなり寛容になってくれるのだ(笑)。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 また、作品世界の背景を反映してか、物資面がだいぶシビアに作られているため、アイテム工作のための素材集めや武器の残弾数の補充などには、ゲーム全体を通じて悩まされがち。戦いは避けられるものもあるが、シナリオ上いきなり大量の敵と戦わなければならないシーンも出てくる。そこでつい慌ててしまい、弾薬を大量消費してしまったり、失った体力を回復するために治療キットを使い切ってしまうことも。

 バトルシーンはけっこう多いので、ムダ遣いは禁物なのだが、乗り切るためにはやむを得ないときだってある。そのため、できるだけマップ上をくまなく探索して素材、弾丸集めを行う必要が出てくる。とくに治療キットやナイフは使う場面が多いので、つねにフルに用意しておきたいところだ。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
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 一方、この体力と物量に物を言わせた力押しが不可能であるゲームシステムは、“弾薬を使わない”など縛りプレイを好む人にはオススメである(一部、銃を必ず使わなければならない強制イベントはある)。

 基本的には、バトルは“難しすぎはしないが、決して簡単ではない”くらいのイメージでいるといい。

 そのほか、“ファイアフライのタグ”やコミック集めといった収集要素や、特別な会話やジョークなどが聞けるポイントが存在するなど、やり込み要素も充実しているので、何度も楽しめるようになっているのもうれしい。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
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リメイク版ならではの要素も!

 続いては、本作がオリジナル版、リマスター版から進化したところ、新たに追加された要素についてまとめてみよう。

 くり返すが、本作は“リマスター”ではなく“リメイク”である。ストーリーやマップの配置などは原作と同じになっているが、基本的には一から作り直されている。

 ビジュアル面での進化はこれまでにもいたるところで喧伝されているが、それだけ自信があるということでもある。実際、細かく見てみたら本当にスゴかった。

 今回とくに大きいのは、フレームレート60fpsへの対応だろう。“ダイナミック4K”という、解像度を調節してフレームレートを落とさずに描画するシステムが盛り込まれており、いかなるときでも60fpsの滑らかな動きが楽しめる。アクションゲームでは、30fpsと60fpsではほとんど別物と言っていいほどプレイの心地よさが変わるため、つねに60fpsのクオリティーが確保されているというのはとてもうれしい。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
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 もちろん、表現も大幅に進化している。たとえば、マップ上の破壊可能なオブジェクトの物理処理だ。人間の兵士とのバトルで、こちらが物陰に隠れているところを銃撃されたとする。すると、弾丸が当たった壁や柱は、その部分が削れたりえぐれたりする。壁や柱クラスは何発当たったところで倒れたりはしないのだが、それでも「もう少しで当たるところだった!」というスリルが味わえる。

 また、銃撃を受けてガラスが飛び散ったり、爆風で砂塵が舞う演出も迫力満点。それらの演出は原作でもあったのだが、本作では破片や粒子がより細かく描かれていることで、リアリティーが格段に増しているのだ。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと
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 細かいところでは、キャラクターごとの動きかたが変わっている。たとえば、同じ“走る”というアクションでも、ジョエルとエリー、テスではそれぞれ異なる動きになっているのだ。これはカメラの視点を変えないと気付きにくいところなのだが、発見したときに思わず「おおっ」と声が出るくらい驚いた。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 ちなみにAIも進化しているようで、操作している以外のキャラクターの動きが格段に改善された。これまでは、ジョエルが隠れているところに合流しようとテスやエリーが敵の目の前に飛び出すようなことがあったのだが(それでも見つからないからいいのだが)、本作ではきちんと見つからないように配慮したコース取り、動きをしてくれる。また、バトル時に声を出してサポートしてくれるのも、3Dサウンドを活用すれば敵味方の位置関係が把握しやすくなるので、より心強いものとなる。

 ほかにもフェイシャルモーションが大幅に進化しており、エリーなどはもはや別人である。そのおかげで、彼女の気の強さ、憎たらしさも増幅されており、以前の彼女でもよかったと思わなくもないが、とにかくリアルである。一方、ジョエルやトミーのイケメン度もさらに上がっていて、筆者は嫉妬心を新たにした。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 演出面でもうひとつ、インゲームからムービー、ムービーからインゲームへの移行もよりスムーズになった。そもそもインゲーム時のグラフィックがムービーとほぼ変わりないクオリティーになっているため、“操作できるムービー”も存在する(正確には、ムービーのようなインゲーム部分である)。

 ひとつ残念だったのは、高精細になった影響もあるのか、文字やアイコンなどがやや見づらくなっていること。とくにアイコンを見落としがちになるため、タグ収集などが少し難しくなってしまった印象がある。

 プレイステーション5、DualSenseワイヤレスコントローラー固有の機能にも対応している。とくにアダプティブトリガーについては、バトルシーンが多いので、その効果を感じることもたくさんあるだろう。じきに慣れてしまうが、逆にアダプティブトリガーなしのプレイに違和感を覚えるようになる。筆者は今回比較のためにオリジナル版をあらためてプレイしたのだが、どこか物足りないと思う自分に驚いた。

 ハプティックフィードバックは、動物に触ったりするときなど、こちらも随所に取り入れられている。なお、懐中電灯の点灯が悪くなったとき、コントローラーを振って接触を直し点きをよくするという昭和のテレビ的な要素は本作でも健在である。

 そのほか、死亡時のセーブデータ消去オプションやタイムアタックモードの搭載など、やり込み派の人には楽しめる要素も追加されている。筆者はそれほどバトルが得意でない人なので、セーブデータ消去オプションを試したときは、チャプターのいいところでやられてしまい、半泣きになった……。

 追加シナリオ『Left Behind -残されたもの-』も収録されている。エリーが主人公となり、彼女を使ってのアクションが存分に楽しめる。こちらは本編中のネタバレも大いに含んでいる(ゲーム中にもその警告がある)うえ、本編以上にステルスアクション要素が強く慣れが必要なため、本編クリアー後に遊ぶことをオススメする。

【プレイレビュー】『The Last of Us Part I』PS5でどう変わった? 世界的名作の“最新型”を遊んでわかったこと

 なお発売にあたって、本作をリメイクした意図や、リメイクによって実現したことなどを開発者に訊いたインタビュー記事も公開中。こちらも、合わせてご覧いただきたい。