バンダイナムコエンターテインメントは、『アイドルマスター』(以下、『アイマス』)を原作としたオリジナルコミック『765プロの台所』の連載企画を、『アイマス』公式Twitter(@imas_official)にて始動した。

 本作は、“電話猫”や“仕事猫”などで知られるイラストレーター兼マンガ家・くまみね先生のもと、“食”とアイドルをテーマとした物語が、ゆるいタッチで描かれる(現在、本連載に先駆けて、0話が公式Twitterにて公開中)。

 ファミ通.comでは、『765プロの台所』の連載企画の始動を記念して、くまみね先生にインタビュー。先生の『アイマス』遍歴や、本作への想いなどを伺った。

くまみね

福岡県在住のイラストレーター兼マンガ家。“電話猫”、“仕事猫”、“ムジーナ”などで知られる。

「765プロの台所」コミック特報PV【アイドルマスター】

“食”とアイドルを通じて、『アイマス』をより身近に感じられる作品を目指す

――『765プロの台所』に関わる以前から『アイマス』シリーズのプロデューサー(『アイマス』シリーズのファンのこと)ということですが、本作のお話をいただいたときの率直な気持ちをお聞かせください。

くまみね以前、バンダイナムコさん(バンダイナムコエンターテインメントのこと。以下、同じ)の『ネコ・トモ スマイルましまし』という作品でコラボイラストを手掛けさせていただきましたが、その際、バンダイナムコさんとのご縁ができたことで、「もし、『アイマス』のお仕事の依頼がきたら、どうしよう?」と考えたことがありました。そのときには、やはりプロデューサーとして作品を楽しんでいるので、クリエイターとして関わってしまうと、純粋に『アイマス』を楽しめなくなるのではと思っていました。

 ですが、今回お話をいただいたときに、世の中には私より絵やマンガが上手な人がたくさんいますが、その中でご依頼いただけたということは、私の作風が必要なのだろうと考え、覚悟を決めてお引き受けしました。

バンダイナムコ担当者 本作の企画が立ち上がった経緯としましては、食とアイドルの新しい物語がテーマの作品を制作したいと考えたのがきっかけです。

 サブタイトルである“765プロのアイドル達がおくる、ゆるくておいしい物語”を主軸に、日々の生活をがんばられている皆さんがホッと息抜きができる、そしてクスッと笑顔になってしまう、そんな心が温まる作品を目指しております。その中で、くまみね先生の画風が、本作の世界観にピッタリだと考え、ご相談させていただきました。

――『アイマス』では、そこまで“食”というイメージがなかったかと思いますが、テーマを聞いたときの印象はいかがでしたか?

くまみね食事というのは、人が生きるうえで欠かせないことであり、毎日生活を送る上で必ず行うことですので、そこにコンテンツとしてアイドルたちの物語を描いていくのはおもしろそうだなと思いました。また、魅力的なアイドルを食を通すことで身近に感じてもらえればと思います。

バンダイナムコ担当者 我々としましても、17周年を迎える中、これまでよりも一層『アイマス』がプロデューサーの皆さんの生活と結びついたものになればと考えております。そうした中で、毎日の食事の中にも『アイマス』というコンテンツを感じていただけたらと思い、“食”をテーマとして選びました。

 また、作品の中に登場する“食”を、プロデューサーさんたちにも参考にしていただけたりすることで、アイドルたちへの親近感もより感じられるような楽しいコンテンツになるかと思ったのも、“食”をテーマに選んだひとつでもあります。

『アイマス』を知ったのは、アイドルたちが歌っている動画の視聴がきっかけ

――本作には、そういった想いが込められているのですね。ここで改めて、くまみね先生が『アイマス』を知ったきっかけを教えていただけますか?

くまみね『アイマス』を知ったのは、友人に「『アイマス』のアイドルが歌っているおもしろい動画があるよ」と勧められたのがきっかけです。そのときに初めて聴いたのは、『エージェント夜を往く』でした。

 そこから、本作のいろいろな楽曲を聴き始めたのですが、ひとつの楽曲でも、歌唱するアイドルによって聞こえかたや印象が異なることに気づきました。そして、たくさんの楽曲を聴き入るようになり、気づいたらプロデューサーになっていました。

――楽曲を通じてプロデューサーになられたとのことですが、ゲームはプレイされていましたか?

くまみねはい。最初にプレイしたのは、Xbox 360版の『アイマス』です。私が見た動画では、歌っているアイドルのユニークな場面が切り取られていたので、ゲーム内のアイドルたちもユーモラスな子たちなのかなと思っていましたが、じつはみんなしっかりしている子たちばかりで、少しビックリしました。「(双海)亜美真美、真面目でいい子じゃん」と思いましたね(笑)。

 そのほか、『アイドルマスター ライブフォーユー!』、『アイドルマスターSP』、『アイドルマスター ディアリースターズ』、『アイドルマスター2』、『アイドルマスター ワンフォーオール』、『アイドルマスター プラチナスターズ』は購入していたのですが、仕事が忙しくなったり、個人的にお金がなくなったりしたので、手放してしまいました。ここ数年、やっと懐にも余裕ができたので買い戻したのですが、私の性格的に複雑なストーリーのゲームをすると、思考がそちらの世界に引っ張られてしまい、仕事に影響が出てしまうので、曲は聴いていますが、ゲームはあまり遊べていない状態です。

――アニメはご覧になられましたか?

くまみねアニメは映画を含め、リアルタイムで視聴していました。毎回、最終話なんじゃないかと思うくらいクオリティーがすごくて、圧倒されていたのを覚えています。とくに、アニメ第5話の夏休みに慰安旅行に行く回が印象的で好きです。アイドルみんなで盛り上がるシーンがありつつ、布団の中で前向きだけど寂しいシーンもあり、その対比が思い出深くて。でも、それ以外のエピソードも本当にどれもよかったですね。

――そのほか、プロデューサー活動の中で、印象的だったことはありますか?

くまみね昔、東京で会社員をしていたころ、取引き先に向かうクルマの中で、よく『アイマス』の楽曲を流して歌っていました。アイドルといっしょに歌って、極限までテンションを高めることで、苦手な取引先との打ち合わせも乗り切っていました。『アイマス』の楽曲がなかったら、耐えられなかったほどです。

――(笑)。そのときに聴いていた楽曲はなんだったんですか?

くまみねスタ→トスタ→』ですね。この曲、じつは峠を走るときも聴こうとしたのですが、テンションが上がりすぎてたいへんなことになりそうだったので、控えていました(笑)。

――それほど、くまみね先生にとって『スタ→トスタ→』は起爆剤のような楽曲なのですね。ほかに、お気に入りの楽曲はありますか?

くまみねいつ聴いてもおもしろいと思うのは、『YES♪』です。楽曲中に(天海)春香と(菊地)真が掛け合うところがあるのですが、春香が長台詞で語った後に、真が話半分な感じで「うだね。じゃあ、行(ゆ)こうか」と言う部分が、嫌味じゃなくて、本当に仲のよさを感じるので、曲の収録前後のストーリーが見えるというか……楽しい曲だと思います。

――なるほど(笑)。ちなみに、担当アイドルなどはいますか?

くまみね担当アイドルという考えがないです。765プロの高木順一朗社長に「ピーンときた!」と声を掛けられてプロデューサーをやっているので、事務所のためにアイドルとともに働いているという感覚です。

『アイマス』仕事猫などのくまみね先生が描くオリジナルコミック『765プロの台所』について直撃インタビュー。“食”がテーマの本作の想いやプロデューサー(ファン)遍歴などを聞く
発表時に公開されたくまみね先生のコメント。

アイドルたち全員の動いている姿をたくさん描写し、リアル感を演出

――ここからは、作品についてお伺いできればと思います。まずは、『765プロの台所』がどのような流れで制作されているのか、教えてください。

くまみね本作では、事前に伺っているアイドルたちのパーソナルな情報や作品内での出来事を組み合わせてシナリオを構成し、それをバンダイナムコさん経由で765プロさんにご確認いただいて、OKが出たら、それをもとにネームを作成し、再度確認いただき、マンガにしているという形です。

――なるほど。くまみね先生としては、バンダイナムコさんのバックに765プロの事務所の存在を感じながら本作に取り組まれているのですね。 基本的な構成はくまみね先生が考えられて、それをブラッシュアップしていくという感じですか?

くまみねそうですね。765プロさんとバンダイナムコさんに監修いただきながら制作しています。

――そうなんですね。では、『765プロの台所』を描く上で、大切にしている点や、こだわっているポイントはありますか?

くまみね本作は、765プロさんとバンダイナムコさんの意向によるものですので、私は自分の画風を活かしつつ、オーダーいただいたものを丁寧に描くことを大切にしています。

――公開されている0話を拝見したのですが、メインで話しているアイドル以外の子たちも、さまざまな表情や動きをしているのが印象的で、おもしろいなと感じました。

くまみねお話が流れているときに、話している子以外のほかの子たちが棒立ちなわけないので、なるべくほかの子たちも動きを付けるようにしています。文章やストーリーを追うほかに、絵としてもいろんな見所があるほうがマンガとしてもおもしろいかなと。

 また、再度マンガを読んだときに、最初は気づかなかったアイドルたちの表情にも気づき、楽しんでもらえるのではと考え、アイドルたちみんながたくさん動くようにしています。

――ほかのアイドルたちがどのような動きをしているかは、くまみね先生の頭の中で自然と湧き出てくるのですか?

くまみね何種類か出てきますね。メインで話している子だけが主人公ではありませんし、後ろにいて話していない子も出演している以上は、そこは疎かにしてはいけないと考えています。

コミック編集担当 背景にいて話していないキャラクターというのは、あまり目立たないんです。そこにいないものとして扱うことがほとんどですが、そこをあえて描写して、しかもそれがおもしろいというのは、かなり目新しいですし、現実感を感じられて、すばらしいなと感じました。

――いまのお話を聞いて、くまみね先生が『アイマス』のプロデューサーで、アイドルたちがどういった子なのかを深く感じ取られているので、それが本作にも表れているのかなと思いました。

くまみねありがとうございます。『765プロの台所』というタイトルなので、765プロのアイドルたちの姿をたくさん描いてあげたいと思っています。それと、ページ数が限られているので、短いぶん凝縮して描く必要があり、それに私が慣れているというのも理由としてあります。

バンダイナムコ担当者 0話は4ページしかありませんでしたが、4ページとは思えないぐらいの情報量で、驚きました。0話ではリカバリードリンクが題材で、みんながそのドリンクを飲んでいる中、(四条)貴音だけすでに飲み干して口を拭いているシーンがあるのですが、その1シーンで貴音のパーソナルな部分がしっかり表現されているんですよね。そういった描き込みの深さもくまみね先生のマンガの魅力だと思いますので、本作でもぜひ注目していただけたらうれしいです。

――本作が発表されてから、SNSでもかなり話題になっていましたが、反響はどのように受け止めていますか?

くまみねたくさん話題にしていただいて、たいへんありがたく思っています。0話やキービジュアルを制作しているときは、プロデューサーの方々に受け入れていただけるか不安でしたが、ポジティブな反応をたくさんいただけているようでうれしいです。

 “食”がテーマの作品ですが、私自身があまり“食”にこだわりがない(※食に関しては質より量と味の濃さ重視とのこと)ので、“食”とアイドルをどのように組み合わせて魅力的に見せるか、苦戦しているところではあります。でも、本作を楽しみにしてくださっているいまの、未来のプロデューサーを満足させられるように、私もマンガ家として全力でがんばりますので、応援していただけたら幸いです。そういえば、“アイドラ”は楽しみに買っていた話や“ショッピングマスター”が好きなどの話までできなかったので、これはまた機会があれば、いつかお話しできればと思います。

[2022年7月28日21時記事修正]
本文中の一部表記を修正しました。