近年、ゲーミングデバイスメーカーだけではなく、純粋なオーディオメーカーもゲーミングヘッドセットを開発するようになった。音楽を気持ちよく聴かせることに専念していたメーカーが作り出すゲーミングヘッドセットは、どのような個性を持っているのだろうか。 筆者が個人所有しているゲーミングヘッドセットのひとつ、オーディオテクニカの『ATH-GDL3』のサウンドを紹介しよう。実勢価格は1万4000円ほど。ミドルクラスのモデルとなる。

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音漏れが多いが音場が広い開放型

 頭にかけて装着するヘッドホン、ヘッドセットには、大きく分けてふたつの構造がある。ひとつは音漏れが少なく音場が狭く低音再生が得意な密閉型。もうひとつが音漏れが多く音場が広く低音のボリューム感が薄くなりがちな開放型。『ATH-GDL3』はこのうち後者タイプの構造を取り入れた。

 他のゲーミングヘッドセットを見ると、1万円以下で購入できる人気モデルの多くは密閉型だ。足音や銃撃音を聴き取り、敵兵の方向・距離を認識できるように作られているため、音場は狭くてもシャープな定位を作り、FPSで勝てるゲーミングヘッドセットとなっている。

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パンチングメタルのハウジングパネル。ドライバーユニット背後に発生した音が、そのまま外に抜ける形状だ。

 対して『ATH-GDL3』は、耳の位置を超えた広い空間から音が飛び込んでくるような、広大な音場感を実現している。さらには音の鳴っている位置が着実に掴み取れるほどシャープな定位感で、オーディオ用ヘッドホンとは異なり、ゲーミングヘッドセットが求める要素をしっかりと取り入れている。

 音を作り出すドライバーのサイズは45mm径。40mm径ドライバーを採用するゲーミングヘッドセットが多いなか、やや大きめのドライバーを盛り込んだ。開放型ヘッドホン、ヘッドセットは低音が薄く聴こえてしまうものが多いが、『ATH-GDL3』はドライバーサイズを大きくすることで低域を強化。インパクトのある爆発音などのSE(サウンドエフェクト)を伝えようとしたと思われる。

 ブームマイクがついた左側のハウジングにはダイヤル式のボリュームと、マイクのミュートスイッチも備わっている。こういったコントローラはすべてアナログ仕様となっている。個人的にはタッチパネル&デジタル制御のモデルよりも、着実な操作ができるぶんゲーミングヘッドセットとして適した作りになっていると感じた。

細身のフレキシブルなブームマイクで位置調整可能

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ブームマイクは着脱が可能。あらかじめマイクスポンジも付属している。

 ゲーム中のコミュニケーションやゲーム実況配信時に欠かせないマイクは、着脱可能でコネクタは3.5mm 3極のスタンダードな仕様だ。装着箇所がカーブしているので、汎用のマイクを装着するのは難しい。フレキシブルアームが柔らかく、マイク表面を口元に向けるのも楽だ。

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ブームマイクの内側。この内側の面が口に向くようにセッティングする必要がある。

 なおブレスノイズやポップノイズを低減するマイクスポンジがついているため、マイクの向きが一見しただけではわからない。しかしオーディオテクニカのロゴがプリントされた外側がすぼんだ形状となっており、マイクスポンジの上から触ると向きを把握しやすい。

付属ケーブルは一体型の1.2mと分離型の3m

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マイクとヘッドホンケーブルがわかれた分離型。コネクタ部にマイクとヘッドホンのアイコンが意匠としてあしらわれている。

 有線接続のゲーミングヘッドセットゆえに、各種デバイスと接続するためのケーブルも付属している。1本は1.2mの長さでコネクタは3.5mmステレオ4極ミニプラグ。PS5やNintendo Switch、ノートPCやヘッドホン端子を持つスマートフォン・タブレットと接続する際に使える。

 もう1本は3mの長さで、マイク端子とヘッドホン端子が分かれた分離型だ。こちらはデスクトップPCや、ゲーミングヘッドセットアンプとの接続に向いている。別途変換コネクタを用意することで、PC用オーディオインターフェースとも接続しやすく、Zoom会議などでも活躍するヘッドセットとしても使える。

軽い装着感で長時間プレイに効く!

 『ATH-GDL3』の大きな特徴といえるのが、その軽さだ。コミュニケーション相手の声を聴き取るために作られた片耳タイプや両耳でも定位感は求めていないヘッドセットであれば100g以下のモデルも多数存在するが、本格的な作りで約220gという軽さは特筆できるもの。

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イヤーパッドは適度な厚みがある。着脱も手軽に行える。

 装着しているのを忘れるほど軽い……とはいえないものの、ゲームに集中していると重さが気にならないほどで、負担とは感じにくい。側圧も控えめで、メガネをかけていても痛みを感じることがない。

 イヤーパッドも適度な厚みがあって快適だ。安価な密閉型ゲーミングヘッドセットと比較して熱もこもりにくい。

FPSもいいけど最高なのはASMRコンテンツ

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 肝心のサウンドを、PC版『PlayerUnknown's Battlegrounds(PUBG)』でチェックした。ゲーミングヘッドセットで求められている定位感は実現している。しかし密閉型のゲーミングヘッドセットと聴き比べると、敵兵の方向はわかるけど距離が把握しにくい。広い音場の弊害として、距離に関しての定位がやや散漫となってしまっている。

 もちろんノートPCやテレビ内蔵スピーカーと比較すれば、圧倒的に良質な定位感だ。ただし、FPSのためにゲーミングヘッドセットを購入するのであれば、もっと優れておりコスパも高いモデルもあるということになる。

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 それでは『ATH-GDL3』のアドバンテージはなんだろうか、と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが声の再生品質に優れていることだった。

 一般的なオーディオヘッドホンは、コンサートホールなどの余韻を再現するべく響かせる方向性のチューニングがされているものが多い。本機は余韻が控えめで正確性重視、しかし音場そのものは広めで開放感がある。

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 PC版『エルデンリング(ELDEN RING)』で試すと、重低音域の細さは感じるものの、広い音場が壮大なBGMの演出力を高めてくれることがわかった。またボーカル曲はボーカル自身がステージ壇上で一歩前に進んで、自分に近づいてきてくれたような印象で奏でてくれる。特に女性ボーカルとの相性がいい。

 中高域のクオリティの高さから、iPadにインストールしたウマ娘でボイスを聴くと、思わず「声が近っ!」と喋ってしまった。続いてYouTubeにあるASMRコンテンツを聴くとこれまたすばらしい。リアリティがさらにアップしている。

 うん、アリだ。FPS用として考えるとやや高いか、と思えた価格もRPGやアクションゲーム、リズムゲームや音楽再生を楽しむ用途でも活用できるとあれば、納得のいくプライスだ。マイク付きでボイスチャットが楽な、高音質ヘッドホンがほしい方にも注目してもらいたい一品だ。

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