人気バンドsumikaのボーカル&ギター、片岡健太が初のエッセイ本『凡者の合奏』(KADOKAWA)を2022年6月23日に刊行した。音楽との出会いから、これまでに経験した失敗や挫折まで、ミュージシャンとしてだけでなく、“片岡健太”個人としての半生が赤裸々に綴られた1冊になっている。

 じつは、片岡はかなりのゲーム好き。本書の中でも『ファイナルファンタジー』が登場したり、バンドメンバーによる“ゲーム実況”ならぬ“映像なしゲーム実況”のエピソードが語られたりしている。今回のインタビューでは、初エッセイを書き上げて感じたことと、ゲームに関する思い出についても聞かせてもらった。

片岡健太(かたおか けんた)

神奈川県川崎市出身。荒井智之(Dr./Cho.)、黒田隼之介(Gt./Cho.)、小川貴之(Key./Cho.)とともに構成される4人組バンドsumikaのボーカル&ギターで、すべての楽曲の作詞を担当。キャッチーなメロディーと、人々に寄り添った歌詞が多くの共感を呼んでいる。これまで発売した3枚のフルアルバム『Familia』(17年)、『Chime』(19年)、『AMUSIC』(21年)はすべてオリコンチャート入り。ツアーでは日本武道館、横浜アリーナ、大阪城ホールなどの公演を完売させる、今最も目が離せないバンド。

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――初エッセイ本の発売、おめでとうございます。まずは、この本を書くきっかけから聞かせてください。

片岡はい。漠然とではありますが、「いつか自分の半生みたいなものを振り返りたいな」ということを以前から思っていました。でも、音楽をやっているとそれだけで手一杯になってしまって、結局できないまま年月が流れていく。そんな中、去年この本の表紙や巻頭に載っている写真を撮ってくれた写真家のヤオタケシくん経由で、KADOKAWAの編集の方が提案してくださって。その方に「ご自身の半生を書いていただけないでしょうか?」と言っていただきました。sumikaが結成10周年イヤーに突入したところでしたし、「このタイミングで振り返れたらいいな」と思っていたので、漠然と思っていたことが実現できることになったんです。

――いいタイミングで、いい出会いが。

片岡そうですね。漠然と思っていたと言いましたけど、誰かに言ってもらわなかったら動き出せなかったと思うんです。どこから手をつけていいのか分からないですし、0から1にすることは結構労力が必要ですから。

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――どういう内容にしたいと思って書き始めたのですか?

片岡書き始める前に、「どういう本にしていこうか」というのを、編集の方を含めた今回のチームの皆さんと話し合いをしました。これまでの30数年を振り返るということなので、いろんな出来事がありますし、選択が難しいなって思いましたから。それで、今の自分に繋がっていることだけをピックアップしようということになったんです。でも、心が動いたり、自分が変化する瞬間って、大体は傷ついたりした時なんですよね。

 そんな失敗や挫折というのは、ある意味トラウマになっている部分でもありますし、これまでだったらふと思い出したりしても考えないふりをして逃げてきたんです。だけど、今回は書くにあたって言葉にしないといけないということで、しっかりと向き合う覚悟を決めました。

 大変ではありましたが、黒歴史にしていたことも「こういうことがあったから今の自分がいるんだ」と結びつけることができたことで、ちゃんと白に浄化させることができたかなって。失敗したことは変えようのない過去ではありますが、“強み”だったり、他の方から「これ、いいね」って言われる部分が実はマイナスな部分から生まれていたことにも気づきました。失敗にもちゃんと意味があったと分かって、過去に対して自信が持てたのは、この本を書いたからかなって思います。

――『凡者の合奏』というタイトルもインパクトがありますね。

片岡エッセイというか、自分の半生を書くというのは初めてなので、どう書いていいか分からなかったんですけど、サポートしてくれたライターの方に、「事象じゃなくて、心象を書いてください」っていうアドバイスをいただいたんです。事象だけを並べると普通のバイオグラフィになってしまうので、まだどこにもアウトプットしていない自分の心の中にしかなかった言葉を咀嚼して言語化する。そこに価値があると言ってもらえたことが大きなヒントになりました。ほかにも、編集の方やデザイナーの方、カメラマン、マネージャーなど、たくさんの人に関わってもらってこの本が完成しました。

 この本に限らず、音楽に関しても僕は天才じゃなく凡人だと思っているので、ひとりでは何もできないですし、バンドメンバーたちがいて成り立っています。自分ひとりで答えを導き出したり、自分ひとりで何でもできていたら、きっと『天才の独奏』というタイトルになっていたと思うんですけど、僕は誰かに生かされて今の自分がいるので、『凡者の合奏』がぴったりだなって思ったんです。

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――いろんな意味や思いが込められているタイトルに。

片岡はい。バンドのアルバムのタイトルだったら、この1、2年の間に起こった出来事を象徴する言葉をキーワードにしてタイトルにすることもできるんですけど、半生を書いた本のタイトルですからね。30数年の出来事や思ってきたことをどんなタイトルにするのかというのは、人生のキャッチフレーズを考えるようなものですから、本当に難しかったです。リアルに二転三転しましたね。

 この本で特に伝えたかったのは「いっぱい失敗してきた」ということなんです。最近の風潮として、“失敗”というものに対してものすごく風当たりが強い気がしていて、“失敗するともう終わり”とか“傷ものリスト入りしてもう上がってこられない”とか。だからこそ、あえてこのタイミングで、この本を書きたかったのかもしれません。気づけば僕の周りにいる人は“失敗したから出会えた人”ばかりだから。音楽に限らず、誰かと一緒にやったり、誰かの力を借りてやったほうが楽しかったり幸せだったりするんですよね。なので、音楽好きの人だけでなく、いろんな方に読んでいただけば、何かしら通じるところがあると思っています。

――本書の中にゲームの話も出てきますが、ゲームにハマったきっかけは?

片岡小さい頃なんですけど、親戚にゲームのしすぎで日常生活に支障をきたすレベルのゲーム好きおじさんがいて、その家のお母さんがおじさんからゲームを取り上げて、それが僕の家にごっそりやってきたんです。「なんだこれは!」って片岡家で革命が起きました(笑)。毎晩毎晩やったことのないゲームをやって……、というのが僕のゲーム人生の始まりです。いきなりディズニーランドとユニバーサル・スタジオ・ジャパンが家にやってきたぐらいの衝撃でしたね。アトラクションの乗り方は分からないけど、とりあえず乗ってみよう! って感じでした。RPG、アクション、パズル系、本当にいろんなソフトがあったので、ひと通り遊んでみて、自分の心に刺さったジャンルを見つけて、新しいソフトも買うという感じだったので、めちゃくちゃ贅沢な環境だったと思います。

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――普通なら一つのゲームソフトを買うのにも慎重に選んだりしますからね。

片岡その親戚のおじさんには感謝しています! 大人なので、取り上げられてからも新しいハードを買っていましたし、メガドライブの最終形態と呼ばれている、“メガドラタワー”も持ってた稀有な方です(笑)。

――今はゲームをする時間はあまりないんじゃないですか?

片岡でも、Nintendo Switchとか携帯できるゲームだと移動中にもできますし、メンバー同士で通信して遊んでたりしますよ。ゲームの没入感って特別なものがありますよね。映画だと2時間くらいで終わるじゃないですか。僕はRPGが好きなんですけど、50時間とか60時間とか平気で経ちますから。2020年にコロナ禍になって、誰にも会えない時期、メンバー全員でオンラインのゲームをやっていました。あの頃はヤバかったですね。楽曲制作とか、仕事をするタイミングは仕事をするんですけど、「じゃあ2時間後、ご飯食べ終わったら(オンラインで)集合!」って感じで、みんなでダンジョンに行くっていうのを朝から晩までやっていて、謎の連帯感が生まれました(笑)。

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――『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)といえば、エッセイ本の中でドラムの荒井(智之)さんが、RPGの冒頭からラストまでをストーリー仕立てで解説する“映像なしゲーム実況”をしていた話が出てきますよね。

片岡はい。車での移動中に、眠気が出てきた時にお願いして話してもらっていました。最初は『ファイナルファンタジーIV』から始まったんですが、事細かく覚えていて、喋る才能もあって、聞いていて楽しいんです。語り部として上手だったんだと思いますね。一つの才能だなって思っていました。

――“ファミ通”は読んだことありましたか?

片岡はい。新しいゲームの情報を知るのが楽しみで、特に『FF』シリーズが出る時は、新キャラが発表されていると、「どんなキャラなんだろう?」、「剣がデカイなぁ!」とか、“ファミ通”から情報を得ていましたね(笑)。

人気バンドsumika片岡健太が語る、初のエッセイ本と『FF』の思い出。「『FF10』は自分の人格形成に影響した気さえしています」

――最後に、一番好きなゲームは?

片岡ファイナルファンタジーX』です。フェイバリットゲームに挙げる人も多いと思うんですけど、とにかく隙がない。完璧です! 以前、RHYMESTERの宇多丸さんのラジオ番組でも『FFX』についてプレゼンしたくらい好きです(笑)。高校1年の時にプレイしたんですが、自分の人格形成に影響した気さえしています。舞台は異世界で「そんな世界見たことない、聞いたことない、体験したことない」っていう世界観なんですけど、プレイし終わった後は「見たし、聞いたし、体験したよな!」って実感できるので「俺の物語も終わった!」っていう達成感というか、やり切った感がありました。このゲームで味わった感情をなんとか音楽で表現できないかなってずっと考えています(笑)。

人気バンドsumika片岡健太が語る、初のエッセイ本と『FF』の思い出。「『FF10』は自分の人格形成に影響した気さえしています」
人気バンドsumika片岡健太が語る、初のエッセイ本と『FF』の思い出。「『FF10』は自分の人格形成に影響した気さえしています」
※撮影:後藤壮太郎

書籍概要

人気バンドsumika片岡健太が語る、初のエッセイ本と『FF』の思い出。「『FF10』は自分の人格形成に影響した気さえしています」

『凡者の合奏』

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