2022年2月10日にリリースされたスマートフォンゲーム『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)。“最上の切なさ”をテーマにした本作は、泣けるストーリーと個性的なキャラクターが魅力で、多くのユーザーの心をつかんでいる。そんな本作は、2022年5月20日にリリースから100日を迎えた。

 本稿では、リリース100日を記念して、『ヘブバン』の原案・メインシナリオ・音楽プロデュースを手掛ける麻枝 准氏へのインタビューをお届け。近年はアニメを中心に活動していた麻枝氏がどのような想いで本作の企画に参加したのかをうかがった。キャラクターの誕生経緯やシナリオの監修をどのように手掛けているのかなど、詳しくお聞きしているのでぜひチェックしてほしい。

※インタビューは4月中旬に実施しました。

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『ヘブバン』麻枝 准氏インタビュー。今後5年の構想もラストシーンも、その先も頭の中に。完成させるまで死ねないプレッシャーと戦い続けるクリエイターの真意

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麻枝 准氏(まえだ じゅん)

Key所属。『Kanon』、『AIR』、『CLANNAD』といった“泣きゲー”で人気を不動のものに。2010年からはアニメの原作・脚本も手掛ける。文中では麻枝。

もうシナリオは自分では書かないと思っていた

――『ヘブバン』がリリースされてから100日を迎えようとしていますが、いまの率直な感想をお聞かせください。

麻枝最近の自分の作品は、世に送り出すたびに「筆を折れ」、「引退しろ」など、いろいろな不評を買ってきました。古くからのファンからも『Summer Pockets』のように、原案だけするべきという声があったため、本作においても自分はお荷物にしかならないと思っていました。ただ、実際にサービスが始まるとシナリオが読みたいという声がたくさん聞こえてきて、正直いまでも驚いています。

――苦しい気持ちもあった中で、どのように企画は立ち上がったのでしょうか?

麻枝2016年ぐらいに馬場社長(馬場隆博氏。株式会社ビジュアルアーツ代表取締役)から「『艦これ』や『刀剣乱舞』のような、キャラクターがたくさん登場して戦う作品を作ってほしい」と頼まれました。当時、PCでプレイするノベルゲームのブームが過ぎ、ビジュアルアーツとしては新しいことを始める必要が出てきていたんです。そのため、流行のゲームをプレイして、どのような作品がユーザーに求められているのかを日々模索しました。

――トレンドを勉強したと。

麻枝はい。その翌年ぐらいにWright Flyer Studiosさんといっしょに仕事をすることになったのですが、そのときに自分は大病を患い心臓の手術をしていたため、会議には聞くだけの立ち位置で参加していました。企画が固まっていく中で馬場社長に「この作品は自分が責任を持たなくてもいいですよね?」と聞いたところ「駄目だ。お前がいいと保証できるものを出してくれ」と言われました。それだったら自分が原案から考えなければいけないと思い、決まりかけていた企画をボツにしてイチから考えることにしました。

――原案を手掛けることになったとき、どのような作品を作ろうと思いましたか?

麻枝女の子が戦う、キャラクターがたくさん登場するという、ふたつの要素がビジネスモデルとして必須でした。多くのキャラクターを作るのは得意ではなかったのですが、時代のニーズに合わせて取り入れることにしました。また、Keyのブランドを掲げる以上は泣けるという要素とも向き合う必要がありましたね。

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――本作のシナリオは好評で、シナリオをプレイしたくて『ヘブバン』を始めているプレイヤーは多いと思います。

麻枝そうですね。でもシナリオの作りかたはまったく変えていなくて。時代遅れのギャグや古臭い掛け合いも書いていて、それが受けるとも思っていなかったのですが、ユーザーに好評で意外でした。

――昔からのファンはプレイしていて「これこれ!」と感じることも多かったです。

麻枝ありがとうございます。

――今回久しぶりにシナリオを執筆して、どのように感じましたか?

麻枝ノベルゲームのシナリオは物量が多く、地の文を書くだけでも苦労するため、正直書くことに限界を感じていました。ただ、本作の文章は基本的にセリフだけで進むので、そこに活路を見出しました。昔のようにノベルゲームの文章は書けないけれど、セリフだけを書くことはできるので、いまの自分に合っていると思います。

――麻枝さんにはユーザーの評価はどう届いていますか?

麻枝ゲーム自体がRPGとしておもしろいはずなのですが、現状「シナリオがおもしろい」、「シナリオを早く読ませろ」という声が多く、Wright Flyer Studiosさんのスタッフの方々に対して申し訳なく思っています。

――実際にユーザーからのシナリオの評価は高いと思うのですが、その理由について麻枝さん自身はどのように分析されていますか?

麻枝いま言ったことがすべてで、自分自身はシナリオも音楽もやっていることは昔から変えていないんですよね。それをどう生かすのかはWright Flyer Studiosさんのコントロールによるものなので、Wright Flyer Studiosさんの手腕でいいスタートが切れたと思っています。

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――本作にはメインストーリーや交流など、多彩なシナリオがあります。こだわっている点や注意している点を教えてください。

麻枝5年という長い年月の中で何度も仕様が変わり、書き直しが大変だったのですが、自分で書くときもほかの誰かが書いたものをチェックするときも、キャラクターの魅力が深まるのかということだけを指標にして作っています。

――本作の物語は『リトルバスターズ!』や『Angel Beats!』の延長線上にあるように感じられる面もありますが、いかがでしょうか?

麻枝うーん。過去作を意識した点は一切ありませんね。新規IPとして新しいものを生み出そうとしていたので。ただ、同じ人間が作るものなので、最終的に似通ってしまう部分はあるかもしれません。

――麻枝さんの作品としては珍しく、壮大なスケールの物語になっていますが、このような世界観にした理由をお聞かせください。

麻枝戦うというのが前提として決まっていたので自然とこうなりました。いままでのようにドラマだけを描くわけにはいかなかったので、外宇宙から飛来した生命体が地球に襲ってきて、人類が戦うという設定にしました。安直ですが。

――ネットでは世界観に関する考察がたくさん行われていますが、そういったものをチェックされることはありますか?

麻枝いえ、ほかの人に任せてシナリオを書く仕事に集中しています。ですが、後から「ここはこう思われているので、こう書いたほうがいいです」とアドバイスをもらえる体制にはしていますね。

――なかには鋭い考察もあるのでしょうか?

麻枝あまり見ていないのでわからないですが、ループものという説が多いようですね。あとはキャンサーが癌だからこの世界は末期患者の体内で司令部は看護師というものも見たな……。本作がループものであれば、シナリオのテキストを変えるだけなので工数や容量的には効率がいいですね。

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試行錯誤を続けて揃えていった“動く”キャラクターたち

――本作の主人公が女性なのも意外でした。男性を主人公にするというアイデアは最初からなかったのでしょうか?

麻枝じつは初めは主人公を男性キャラクターとして描いており、女性は全員指揮される側の人物として描いていたんです。ただ、それだとぜんぜん筆が乗らず、いっそ主人公も指揮される側のひとりにしたらどうだろうと思ったことから、いまの茅森月歌というキャラクターが生まれました。

――最初は男性だったんですね。

麻枝はい。主人公が茅森になってからは筆が乗り始めました。また、当初は学園という設定だけだったのですが、そこから規律のきびしい軍隊という設定が加わり、ボケまくる茅森のキャラクターが生きてきました。そして、茅森のボケに対して強烈なツッコミをする和泉というキャラクターも生まれてきました。

――茅森と和泉はセットで生まれたと。

麻枝本来、主人公は自分を投影するものなので、Wright Flyer Studiosさんに女性主人公にしたいとお伝えしたときは戸惑われました。ただ、筆も乗っていて自信があったので「大丈夫です」とお伝えし、性別を変更させていただきました。女性主人公であることに疑問を持っていたり、不満を持っていたりするプレイヤーはほとんどいないようなので、いい思いつきをしたと思っています。

――第31A部隊には茅森と和泉に加えて4人のメンバーが所属していますが、どのように誕生したのでしょうか?

麻枝まず、自分は昔からキャラクターが勝手に動き出さないと書けない人間なので、姉御肌とかお姉さんキャラとか(イラストレーターやほかのスタッフに)ひと言だけを伝えて、上がってきたイラストを見てキャラクターが動きそうかを慎重に判断しています。そうやって何度もデザイナーとキャッチボールをくり返し、第31A部隊のメンバーを揃えていきました。

――なるほど。

麻枝ただ、自分の中でも6人の大人数で日常シーンを回すことはやったことがなく、不安な面もありました。たとえば『CLANNAD』では岡崎と春原ともうひとりのヒロインがいるという3人の形が基本で、ほかの作品も同様に少人数で会話をしていました。これが6人になると話さずに置き去りになってしまうキャラクターが出てきてしまうのではないかという懸念があったんです。でも、第31A部隊の6人はそういったことも起きず、スムーズに書き進めることができたのは非常に大きかったです。

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――第31A部隊のキャラクター以外はどのように生まれていったのでしょうか?

麻枝マッドサイエンティストや勉強家、占い師などのキーワードだけを出し、とにかく描いてもらいました。その中で動きそうだと感じたキャラクターを採用していき、最初の24人を作りました。そのとき執筆していた第一章は第31A部隊が中心で、まだ第二章や第三章もできていなかったので、それらのキャラクターたちがどう動いていくのかは後付けで作っていきました。そのため、第一章の最後に第31C部隊の山脇や豊後が出張ってくるのも、後からうまくハマった感じですね。

――いまでは50を超えるキャラクターたちを動かせるのはすごいですね。

麻枝最初にキャラクターを作ったのは自分ですが、このキャラクターは自分には動かせないなという人物もいるので、そこは分業にしています。ただ、物語はすべて監修していて、キャラクターがブレないように自分のほうでブラッシュアップしています。

――分担しているとのことですが、何人ぐらいのチームで制作しているのでしょうか?

麻枝ほぼ3人で書いています。ひとりは軍事面を担当してもらっているので、キャラクターに関してはほぼふたりですね。ライターを増やせればいいのですが、あの個性的なキャラクターを動かすのは難しく、付け焼き刃では扱えないんです。

――麻枝さん的に動かしやすいキャラクターとそうでないキャラクターの違いは?

麻枝本作はセリフのみで進行するので、寡黙なキャラクターはたいへんです。また、剣術など自分の知らない知識は書けないので、小笠原や夏目はテキストがおもしろいかどうかのチェックになりますね。逆に第31A部隊のメンバーは自分にしか書けないと思っています。昔から自分のキャラクターはトリッキーで安易に模倣ができないため、二次創作が難しいと言われていましたが、第31A部隊の会話も同じかもしれません。

――制作してきた中で、とくに思い入れのあるキャラクターは誰ですか?

麻枝『ヘブバン』は主人公が茅森でメインヒロインが和泉という物語なので、このふたりはものすごく思い入れがあります。このふたりの関係性はこれからも大事に描いていきたいです。思い入れが強いぶん、ほかのライターが書いたときは「和泉はこんなこと言わないんだよ」と直すことがけっこうありますね。

――しっくりこないと。

麻枝はい。最近では二次創作のほうが正しく書かれていると感じることも多いです。

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――デザイン面で気に入ったキャラクターはいますか?

麻枝見てすぐに好きになったのが白河ユイナです。ゆーげんさんにもそのことを伝えました。そのため、白河に関しては今後も自分で全身全霊をかけて書こうと思っています。第30G部隊の白河はSSスタイルが実装されて恐ろしい人気ぶりを発揮しましたが、自分のキャラクターの作りかたが間違っていなかったことがわかってうれしかったです。

――麻枝さんは白河のどんなところに人気があると思いますか?

麻枝とにかくビジュアルが強いと思っています。とくに立ちポーズは破壊力が強すぎますね。うちのゲームだと『リトルバスターズ!』のクドのようなかわいい系のキャラクターの人気が出やすいのですが、白河はお姉さん系のキャラクターにもかかわらず大人気で驚きました。

――現状だと白河は詳細があまり描かれていませんが、今後大きく描かれていくのでしょうか?

麻枝はい。ちょうど何週間か前に書く機会がありました。白河の交流や記憶の修復でのストーリーを気に入ってくれた方なら、絶対に求めているものに仕上がっている自信があるので、実装までいましばらくお待ちください。

――ほかの部隊についてもお聞かせください。第31E部隊のキャラクターは6姉妹で個性を出すのが難しいと思うのですが、どうしてこうなったのでしょうか?

麻枝これはWright Flyer Studiosさんに『五等分の花嫁』的なキャラクターはどうかというアイデアをもらったからですね(笑)。

――『五等分の花嫁』!?  なるほど、そんなところから。第31B部隊のビャッコも意外なキャラクターですが、こちらは?

麻枝もともとは浅見真紀子とセットだったのですが、ビャッコ単体のほうがキャラが立つと思って別々にしました。メインストーリー第二章では蒼井えりかだけに寄り添っていたビャッコですが、第三章では水瀬すももにも寄り添うようになるなど、きちんと変化を描けていると思っています。ただ、トラを単体にすると最初に言ったときは、Wright Flyer Studiosさんからは「マジか」という反応が返ってきましたね(笑)。

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ビャッコ(左)と浅見真紀子(右)

――第31X部隊には海外の支部からメンバーが集まっていますが、いずれ日本だけでなく、海外も舞台になっていくのでしょうか。

麻枝海外を描くのは工数や容量的に難しいです。そのため、今後も日本のストーリーが続くと思います。

物語をより魅力的で切ないものにしたストーリー以外のこだわり

――バトルパートのモーションや探索パートのセリフなど、ストーリー以外でこだわっているポイントを教えてください。

麻枝ストーリー以外はとにかく監修して、キャラクターがより魅力的に映るように工夫しています。ノベルゲームを作っていたときは、ひとつのセリフに対して表情や背景の表示、音楽の切り換えなど、すべて自分でスクリプトを組んでいたのですが、今回はWright Flyer Studiosさんに作ってもらったものを、右手が腱鞘炎になるぐらい監修しています。最初はWright Flyer Studiosさんが設定されている表情と自分が思い描いていた表情が違うことも多くて。

――そうだったんですね。

麻枝はい。その違いがとくに明確だったのが第31A部隊の東城つかさで、彼女はポンコツでありながら堂々としているキャラクターなのに、間違っていることを言うときに申し訳なさそうな顔をしていたんです。それだとふつうの残念キャラになってしまうので直してもらいました。これまでに半分以上は直しましたし、その作業はいまも続いていますね。音楽に関しても違うBGMを指定し直したり、フェードアウトするタイミングを修正したりといった調整をしてもらっているので、こちらも半分以上は直しています。

――本作はテンポがよく、心地よくストーリーを読めるので、さすがノベルゲームを最前線で作っているKeyだと感じました。

麻枝テンポのよさに関してはセリフだけの会話劇になっていることが大きいと思います。制作している当初、スマートフォンゲームは隙間時間に遊ぶものなので、しっかりボイスとサウンドを聞きながらシナリオを読み込んでいただけるか疑問に思っている時期がありました。そのため、自分が腱鞘炎になりながら監修しているこの作業は意味があるのだろうかと考えたこともありましたが、結果としてしっかり読んでもらえて報われましたね。

 ただ、それはWright Flyer Studiosさんが作ってくれているゲーム部分のおもしろさや、オートモードの快適さのおかげだと感じています。リリース後に実際にプレイして気付いたのですが、自分がシナリオ部分の完成度を高めている中で、Wright Flyer Studiosさんもシナリオを最大限楽しめるようにゲームの完成度を高めてくれていたことがわかってうれしかったです。

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――スマートフォンゲームだとフルボイスであることは珍しいと思うのですが、なぜ本作はフルボイスが実現できたのでしょうか。

麻枝自分がフルボイスがいいと伝えていたというのもありますが、開発が進んでゲームができ上がっていく中で、徐々にそれ以外の選択はないのではないかと自然になっていった感じですね。メインシナリオだけがフルボイスで、ほかはパートボイスという選択もあったかもしれませんが、最終的にはしっかりフルボイスでいくことに決まりました。『ヘブバン』は5年は戦える作品にしたかったのでフットワークが比較的軽い声優さんを選んだことも大きいです。このメンバーだからフルボイスが実現していますし、今後もフルボイスで行けるのではないかと思っています。

――それは5年分のシナリオがすでに麻枝さんの頭の中にあるということでしょうか?

麻枝5年ぐらいは尽きないですね。

――それはすごい。これからも楽しみです。第二章のエピソードについて、水瀬いちご役の愛美さんの演技がユーザーのあいだで好評でした。どのようなディレクションをされたのでしょうか?

麻枝いちばん意識したのは温度ですね。渡された台本だけでは熱量は伝わりづらいと思うのですが、収録で「もっと、もっと」と高い熱量をディレクションしていきました。最終的には「雨ざらしで捨てられた子犬のように」とお伝えして演技してもらい、いちどオーケーになったのですが、愛美さんから「もう一度だけやらせてください」という申し入れがあって収録し直すことになりました。それがオーケーテイクを凌駕するすばらしい芝居だったので、すべてその演技に入れ換えたんです。

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――主題歌や劇中歌の作詞・作曲についてもこだわったポイントをお聞かせください。

麻枝いちばんこだわったのはBPM、曲のテンポを上げることでした。BPMは160以上で書いていて、これまでの曲よりも段違いで速いです。スマートフォンゲームの曲はすぐにオフにされてしまうという怖さがあったので、できるだけ速くしました。もちろん、戦闘の曲もあるので速くしたほうが盛り上がるという考えもありました。そのため、なぎさん(やなぎなぎさん。本作の主題歌・劇中歌を担当)にはライブで気軽に歌唱をお願いできないレベルの難曲ばかりになってしまいました(笑)。

――やなぎなぎさんとの共同作業の中で思い出に残っていることはありますか?

麻枝まず、なぎさんに成功するかもわからないスマートフォンゲームの新規IPで、こんなにたくさんの曲を歌ってもらえるとは思っていませんでした。2018年の冬にオファーを出したときは1曲か2曲を歌ってくれたら心強いなと思っていたのですが、結果としては何曲でも歌ってくれる形になったので、うれしかったです。

――新生“She is Legend”のXAIさんと鈴木このみさんに関してはいかがでしょうか?

麻枝茅森は“She is Legend”という一世を風靡したバンドの天才アーティストという設定があり、その設定に説得力を持たせる歌が歌えるかどうかがカギでした。なかなか見つからない中、劇伴を担当しているMANYOさんに相談したところ、XAIさんの名前が上がりました。それで曲を聴いてみたところ、すごくよかったので、オファーを出させていただきました。朝倉可憐役の鈴木このみさんは『Summer Pockets』で主題歌も担当していただきましたが、そのときの販促番組で『Angel Beats!』で泣きました、ということを語ってくれていたので、受けてもらえるのではと思って、オファーを出しました。

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――声質の雰囲気が、『Angel Beats!』の岩沢(marinaさん)とユイ(LiSAさん)に似ているような気がするのですが、意識しましたか?

麻枝まったく意識していませんでしたが、言われてみれば似ていますね。ただ、そう感じてもらおうと思っておふたりを選んだわけではないです。

数年前から考え続けている『ヘブバン』のこれから

――今後、作品内で書きたいものや表現してみたいテーマがございましたらお聞かせください。

麻枝ストーリーの節目となるラストシーンは数年前から考えていて、そこに向かって全力で取り組んでいます。その切ないラストシーンにすべてが詰まっているので、いまはそのシーンを描くのが目標です。

――楽しみです。ただ、ラストシーンを描くとゲームが終わってしまいますよね。それはそれでユーザーとしては寂しいです。

麻枝いえ、終わらないです。ラストシーンを描いた後のつぎの展開も考えています。

――そうなんですね! さらに楽しみになりました。メインストーリー第四章の進捗状況はいかがでしょうか?

麻枝第四章は前後編に分かれており、前編は書き終わっています。後編も順調に書き進めているので、実装までお待ちください。

――これからも本作を運営していくうえで目標や夢がございましたら教えてください。

麻枝自分は作曲が趣味と言えるぐらい好きなので、毎月新曲を発表できるぐらいの予算が下りてくれれば満足です。ただ、現状、新曲を発表するという目標は叶っていて、しかも曲に対して格好いいPVなども作ってもらっているので、ほかに大層な夢や目標はないですね。

――最後に、今後の意気込みをお願いします。

麻枝意気込みというか、完成させるまで生き続けなければいけないというプレッシャーがあります。何年か前は死んでもいいと思っていたのですが、最近は自分自身の命だけではないと感じています。ラストシーンを書くまでは死ねないと思っているので、ぜひそのラストシーンを見届けてほしいです。

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『ヘブバン』の主題歌・劇中歌ダウンロード発売中! 

 なお、『ヘブバン』の主題歌・劇中歌はダウンロード販売されている。麻枝氏が作詞・作曲を手掛け、やなぎなぎさんが歌う美しい楽曲を要チェックだ!

ゆーげん氏へのインタビューと、やなぎなぎさんへのメールインタビューも公開中

 キャラクターデザイン・メインビジュアルなどを手掛けるゆーげん氏へのインタビューと、主題歌・劇中歌を担当するやなぎなぎさんへのメールインタビューも公開。合わせて確認してほしい。