スパイク・チュンソフトより2022年6月23日に発売される、Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One、PC(Steam、Microsoft ストア)向けの新作アドベンチャーゲーム『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』(以下『AI2』)。

※Steam版は6月25日配信開始予定。

 夢と現実を行き来しながら事件の真相に迫っていくという設定が独創的な、サスペンスアドベンチャーのシリーズ最新作である。本稿ではそのプレイレビューをお届けする。

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万人が楽しめるスリリングなヒューマンドラマ

 ふたりの主人公、ふたりのチーム(捜査官と捜査補佐AI)、ふたつの舞台(過去と現在)……。前作『AI: ソムニウムファイル』の“AI(アイ:目(Eye)、愛、AI、I(自我))に続く『AI2』のテーマは、“2=対を成すもの”。コンビだとかカップル、親子……、本作で見受けられる人間関係も、ほとんどが“対(つい)”になっている。かなりこだわって設定されており、解決編までプレイし終わってから振り返ると、その細かさに驚かされる。

『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』レビュー。スリリングなヒューマンドラマと、より親切に、より楽しみやすくなった謎解きに舌鼓

 本作のゲームジャンルは、サスペンスにいくばくかの謎解き要素を加えたアドベンチャーゲームである。“サスペンス”を辞書で引くと“映画・演劇や小説の筋で、つぎはどうなるかと思ってハラハラさせる作りかた”とある。まさにこのシリーズの本質を突いた言葉であり、つねにどこかで不安を煽ってくるストーリー展開は、プレイヤーを片時も安心させてくれない。

 左半身のみの死体が突如として出現した殺人事件“ハーフボディ殺人事件”が本作の主題であるため、前述のハラハラさせる要素として、人の生き死にが関わってくる。しかし本作はCERO審査でC(15歳以上対象)と設定されているように、直接的にグロテスクな描写などはそれほどない。後で悪夢にさいなまれそうな描写もしかりだ。

 全体的には“スリリングなヒューマンドラマ”とも呼べるような作りになっており、前作をプレイしたことがある人は、表現がマイルドになったと感じるだろう。とはいえ、それによって本作のおもしろさがスポイルされている、ということはないのでご安心を。

 また詳しくは後述するが、制限時間のある謎解きパート“ソムニウムパート”も、前作より難易度が大幅に下がって誰にでも遊びやすくなっているという印象。つまり本作はこのスリリングなヒューマンドラマを、より多くの人に、より純粋に楽しんでもらおうという意図があるのだろう。

気軽にストーリーを楽しめる“捜査パート”は遊び心も十分

 ゲームは前作と同様、現実と夢の世界を行き来しながら事件解決に挑むという2部構成となっている。現実世界で調査や聞き込みを行い、事件の手掛かりを捜す“捜査パート”と、重要参考人の夢の世界に入り、記憶の底に眠る手掛かりを探り出す“ソムニウムパート”をくり返しながらストーリーが進む。

 捜査パートでは、事件現場や関係者宅などの調査や、参考人との会話によって事件解決の手掛かりを集める。必要な手掛かりが全部集まると、話が展開したりほかの場所へ行けるようになったりするのでわかりやすい。裏を返せば、ひと通り調べたときにそうならないのであれば、どこかに調べ損ねているものがあるということだ。

『AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』レビュー。スリリングなヒューマンドラマと、より親切に、より楽しみやすくなった謎解きに舌鼓
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 捜査パートでは前作同様、さまざまなところに遊び心が忍ばされている。変わったオブジェを調べるとアイボゥやタマからマニアックな解説が聞ける、会話中にネタのような選択肢が紛れている、特定の場所や人をしつこく調べたり会話することでおもしろい反応が見られる、などがそれにあたる。

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 『AI2』からの新要素として、“拡張視覚パート”と“真相再現パート”というふたつの要素が導入されている。このふたつはセットになっていて、拡張視覚パートで手掛かりを集め、それをもとに真相再現パートで推理を行うことになるのだ。多少の謎解きが入ることもあるが、捜査パート中のものなのでゲームオーバーがなく、気軽に楽しめる。

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 真相再現パートをノーミスでクリアーすると“実績評価”という、いわゆる“トロフィー”や“実績”にあたるものがゲーム内で解放される。ただ、ゲーム後半になってもそれほど難しい課題は出てこないので、“謎解き”を重視しているプレイヤーにとってはやや物足りない感じは否めない。先に述べた通り、謎解きを難しくしすぎないことによって、純粋に物語を楽しんでもらうという意図と思われるが、個人的には、もう少しご褒美やペナルティーがあると緊張感が生まれるので、ここは次回作に期待したい。

親切設計がうれしい謎解き“ソムニウムパート”

 ソムニウムパートは『AI』シリーズ最大の特徴とも言える要素で、重要参考人の夢の中に潜り込んで(警視庁内にあるゴッツい機械を使う。サイバー!)その世界を冒険しながら、深層心理の奥深くにある事件の手掛かりを探る。

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 制限時間がゲーム内時間で6分(360秒)と決められており、擬人化したAIのアイボゥとタマが主人公の代わりに調査を行ってくれる。夢の世界なので、物理法則はダイブ対象者によってさまざま。場合によっては潜水したり、宙を舞ったりといったアクションを行うこともある。

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 時間はマップ内を移動する、特定のアクションをする、選択肢を選ぶ……といった行動で消費される。ムダにウロウロしていたり、会話で明らかに正答でないオモシロ選択肢ばかりを選び続けていると、あっという間にゲームオーバーになる(3回までリトライ可)。

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 とはいえ『AI2』のソムニウムパートでは、マップを開けば目標となるポイントがどこにあるのかがわかる。さらに、“ナビ”機能を使えばマップを閉じても目的地までの方向と距離を教えてもくれる。そもそも、前作と比べて目標物自体が少なくなっていて、とくに前半戦だとすべての選択肢を選びながらでもギリギリでクリアーできるくらい、難度は下がっている。

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 ちなみにゲーム前半だと第2章のソムニウムパートが、目標物が多くやや頭を使う設計になっているが、そこでもヒントを教えてくれる本が置いてあって、それを最後まで読めば簡単に攻略できる(ただ、消費時間がかなり多くなるためそのプレイでクリアーすることはだいぶ難しくなるが……)。前作同様“Timie(タイミー)”を使って時間の消費を抑えながら進むのも、安全にクリアーするには欠かせない。

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 ゲーム後半になるとマップがかなり広くなるうえ、失敗が即ゲームオーバーにつながるパートが出てきたりして難しくなるが、それでもトライ&エラーをくり返してパターンを把握すれば、きちんとクリアーできるだろう。

ネタバレ注意! ストーリーのボリュームや、やり込み要素について

 本日までに、ファミ通.comを始めとするさまざまな媒体で本作の情報がもたらされてきた。筆者もそんな予備知識を持ってゲームを始めたのだが、開始1時間も経たないうちに、それらが物語を読み解くうえで何の役にも立たないことがわかって愕然とした。

 事前に仕入れた知識で登場人物たちに好印象を持っているにも関わらず、彼らがそれを裏切るように怪しげな行為を取るので混乱してしまう。たとえば主人公の龍木などは、主人公でありながら序盤で思わせぶりなことを言い出す始末だ。

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 前作をプレイした人なら、前作から引き続き登場するキャラクターに対して安心感を抱くかもしれない。しかし、打越鋼太郎氏の作品では、そんな常識が通用しないのは火を見るよりも明らかだ。「人を見たら泥棒と思え」ではないが、全員が信用ならない。何しろ主人公が上のような調子なのだ。

 このように、本作をプレイしていて謎や疑問が途切れることはない。それゆえに、止めどきもまたない。何と憎らしい構成だろうか。そう言えば前作のインプレッションでも似たようなことを書いた気がする。どうやら、今回もまんまと制作側の思惑にハマってしまったようだ。

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 本作のエンディングはいくつか用意されているが、ゲーム中 のフローチャートからプレイ済のシーンへ戻ってプレイできるため、同じストーリーをくり返しプレイさせられる……ということはほぼない。そうしてすべてのエンディングに辿り着くと、事件の全貌が明らかになる。

 メニュー画面ではミニゲームの“めだまっぺ”で遊んだり、アイボゥやタマの部屋に行って着せ替えや“AI的人生相談”を楽しむことも可能。さらに、マニアックさとぶっ飛び度により磨きがかかっている捜査資料(人物辞典や補記、豆知識など)の解放や、前述した実績評価など、やり込み要素もある。ゲームのボリュームは、ストーリーを楽しむのに20~30時間。隠し要素を解放しようとすると、より多くの時間かかるだろう。

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愛すべきキャラクターたち

 『AI』シリーズの特徴と言えば、コザキユースケ氏が手掛ける魅力的なビジュアルのキャラクターたちを忘れてはならない。彼らはいずれも個性的で、ひと筋縄ではいかないクセの強い性格をしている。

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 中でも、主人公として新たに登場した龍木とその相棒のタマは見せ場もたっぷり。ふだんは草食系を画に描いたようなおとなしい龍木とドSなタマだが、ソムニウムパートでは立場が逆転する。さらに龍木は、ゲーム内の時間軸で6年後のみずき編(現代編)では、変わり果てた姿になっていたりと、見どころは多い。

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 そのほか、四角い顔の芸人(どこかで聞いたことのあるフレーズだ)の米治や、お金持ちのお嬢さまの絆、どこからどう見ても怪しげな思想団体“NAIX”の日本支部主宰、時雨など、気になるキャラクターばかりだ。

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 前作をプレイした人には、成長したみずきが大活躍するさまを期待していてほしい。事前情報ではまったく目立っていない、伊達や猛馬にも活躍する場面は用意されているし、おなじみのあの鑑識官や受付嬢、タクシーの運転手もどこかで登場する。『AI2』の事件は前作『AI』とはまったく関わりがないので、前作をプレイしていなくても問題なく遊べるが、前作を知っていると上記の人物たちの変化した(あるいは変わっていない)姿が見られるなど、ちょっとした楽しみがある。

総評

 全体で見ると、とにかくゲームとしてのハードルを下げてより多くの人に楽しんでもらえるような作りになったという印象。その代わり、ハードな(難しい)謎解きを楽しみたかったという人には少し物足りない感じにはなっているかもしれない。とはいえ、序盤から随所に張り巡らされた伏線が終盤に怒濤の勢いで回収され、収束していく打越氏の爽快感溢れるシナリオは『AI2』でも健在だ。この気持ちよさをより多くの人が味わいやすくなっているのなら、これはこれでアリだと個人的には思う。

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