レイニーフロッグからNintendo Switch用ソフト『ポップスリンガー』が配信中だ。

 本作は、主人公のリア・カーボンが、闇の力で堕落した邪悪な侵略者・コラソンたちから世界を救うべく戦うアクションシューティング。リアは、“ソーダ銃”を駆使して、ヒーローの“ポップスリンガー”に変身。もとポップスリンガーの相棒ジンとともに、敵に相対することになる。ポップでファンキーなテイストで、1990年代に放送された魔法少女モノのアニメや古典的な日本の映画、テレビ番組にインスパイアされたストーリーが特徴となっている。

 本作を開発するのは、メキシコのインディーゲームデベロッパーであるFunky Can Creative。同社にて本作のディレクターを務めるホセ・ルイス・アブレウ氏のプロフィールを聞かせてもらうと、『ポップスリンガー』のユニークな世界観が構築された発想の一端がおわかりいただけるかもしれない。まずは、ホセ氏の自己紹介に耳を傾けてみよう。

 「私はホセ・ルイス・アブレウ(@Yumcans)、26歳です。ベネズエラで生まれて8歳までそこで暮らしたのち、当時の経済状況が原因でメキシコへ移住しました。

 ゲームデザイナーになるのが長年の夢だったため、高校卒業後にゲーム業界で働くための教育を受けようとアメリカへ行きました。当時、メキシコのゲーム業界は規模が小さく、アメリカでチャンスをつかみたかったのです。

 学校を卒業後、日本へ行き、東京工科大学の研究生になりました。私が籍を置いていたメディアサイエンス専攻では、当時研究を行っていた遠藤雅伸さんとクラスメイトでしたね。日本では白井暁彦博士に師事し、GREE VR Studio LaboratoryでVR技術を研究しました。その後、インディーズゲーム会社Atooiにエンジニアとして勤務し、iOS用『Knight Fright』とNintendo Switch用『Pictooi』を手がけています。

 『ポップスリンガー』は、2017年にモバイル向けゲームとして開発がスタートしましたが、すぐにNintendo Switch向けにシフト。プロジェクトはメキシコで始まり、私は日本からリモートで参加しました。チームはメキシコを拠点としていたものの、メンバーは業界未経験者ばかりで、それぞれ違う州や都市で活動していました。

 Funky Can Creative(@FunkyCanDev.)のスタッフは、キャラクターアーティストのディエゴ・アンドレス・マルティネス(@DiegoAndsMtz)、背景アーティストのタニア・レジェス(@azulilah)、フューチャーファンク(※)アーティストとしても知られるスクル・トヤマ(@Skule_Toyama)がアクションステージの音楽を担当しています。トレーラーや読み込み画面で見られるアニメーションは、『ポケットモンスター サン・ムーン』のストーリーボードアーティスト、Misu 山猫(@Super_Misurino)が手掛けています。

 『ポップスリンガー』の開発には少しブランクがあったのですが、2020年に任天堂と正式な契約を結び、Nintendo Switch用のゲームを作るのに必要な開発ツールを入手。私は新型コロナウイルス感染症拡大を受けてメキシコに帰国し、本作は完全リモートで完成させました」

 なんともユニークな成り立ちではないか! というわけでちょっぴり前置きが長くなってしまったが、ホセ氏に『ポップスリンガー』開発の経緯などを聞いた。

※フューチャーファンク……シティ・ポップのサンプリングにアレンジを施したハウスミュージック

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ホセ・ルイス・アブレウ氏

Funky Can Creativeの創設者。『ポップスリンガー』では、シナリオ、ディレクター、デザイン、一部の音楽を担当。

『ポップスリンガー』ニンテンドーeショップサイト

日本人の身の回りにあるものに敬意と感謝を示す行為は、作品作りのインスピレーションに

――ゲームデザイナーになるのが長年の夢だったとのことですが、ホセさんがゲームをお好きになったきっかけを教えてください。

ホセ幼いころからゲームでたくさん遊んできました。姉からNINTENDO 64をお下がりでもらったので、多くの素晴らしいゲームをプレイしましたね。幼少期に遊んだ数々の任天堂やセガのゲームからは、大きなインスピレーションを得ました。とくに『ソニック』シリーズが好きだったんです。

――学校を卒業後、日本に来た理由を教えてください。日本のゲームが好きだったからとかでしょうか?

ホセ子どものころに鈴木裕氏や宮本茂氏といった、日本の有名なクリエイターのインタビューを雑誌で読んでいたんです。そのため自然と日本製のゲームに興味を持つようになり、いつか日本に行ってゲーム開発を学びたいという夢を持つに至りました。

――とくに好きな日本のゲームとかはありますか?

ホセアウトラン』、『スペースハリアー』、『ジェットセットラジオ』など、たくさんのセガ作品が好きです! ほかにも『すばらしきこのせかい』や『ビューティフルジョー』といった、個性的なゲームも好みです。

――日本で暮らしてみての、日本の印象を教えてください。とくに「日本人とゲーム」という見地からどのような印象を感じましたか?

ホセ印象としては、非常に組織立った国で、風景も美しいと思いました。どこを歩いていても安全で、毎日がまるで冒険のように楽しかったです。そして何よりも日本食が最高でした(月並みかもしれないけど、カツカレーが大好きです!)。

 ほかにも、多くのゲーセンで気軽に過去の名作をプレイできるのも好きでした。CEDECや東京ゲームショウといった数々のゲーム業界のイベントに参加できたのも素晴らしい経験でしたね。

――ゲーム開発という点において、日本の文化から影響を受けたところはありますか?

ホセ組織力に規律、探究心を大事にしている点ですね。とくに身の回りにあるものに敬意と感謝を示す行為は、私の作品作りのインスピレーションとなりました。“わびさび”の概念は、私の開発に対する姿勢に大きな影響を与えました。

――遠藤雅伸さんとクラスメイトだったとのことですが、遠藤さんとの関わりのなかで、印象的なエピソードがありましたら教えてください。

ホセアカデミックな環境の中で彼のそばにいられたことは、信じられないぐらい光栄なことで、一生忘れられない経験になりました。たとえ業界のレジェンドであっても、謙虚な人間でいられること、そして業界内でどんなポジションにいようと、皆に知識を共有しつつも学び続けられるということを彼から教わりました。

 私も遠藤さんのように業界で成功して、なおかつ自分の知識を人々と共有できるような人物になりたいと思います。

――Atooiさんに勤務されたとのことですが、念願だったゲームデザイナーになれたときの率直な感想をお教えください。

ホセまるで夢が実現したような気分でした。胸を張ることのできる多くのプロジェクトに携わる機会に恵まれ、さらにいまでも使っている技術をたくさん学びました。そこでの経験はゲームデザイナーとしての私の職業観を大きく形成してくれたんです。

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本作の主人公であるリア・カーボン(左)とジン(右)。

都会的なファッションの魔法少女が活躍する作品を作りたいと思った

――2017年にモバイル向けに『ポップスリンガー』の開発をスタートしたとのことですが、『ポップスリンガー』を開発するにいたった経緯を教えてください。

ホセ当時、私が参加していたプロジェクトの多くは中止になったり、そもそも開発が始まらなかったりする状況でした。つまり、ゲームを完成させることができない環境にいたので、それなら自分自身で作ってみたいという気持ちが湧いてきたのです。

 そこで自分なりにゲームを作り上げて、完成品を人々に披露しようと決めました。初期段階はソーダが登場する魔法少女ものをテーマとした、1画面のモバイルゲームでした。その後、お気に入りだったその設定は残して、いまのような形へと発展させていったんです。

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モバイル版の画面写真。修正を入れた手書きのあとも確認できる。

――会社とは関係のないところでの開発だったかと思いますが、「自分の作りたいものを!」との思いから開発に着手したのですか?

ホセテーマは最初から作りたいものがハッキリしていたのですが、ゲームプレイとシナリオに関しては開発を進めているうちに形になっていきました。

 徐々に自分が作りたいものが具体的に見えてきて、最終目標が定まってからは、ひたすら完成までがんばり続けました。ゲーム業界で培った経験と知識をできる限り応用することで、無事に完成させることができたんです。

――どのような発想から『ポップスリンガー』は生まれたのでしょうか。

ホセ本作は、都会的なファッションの魔法少女が活躍する作品を作りたいという自分の気持ちから生まれました。ラテンアメリカで育った私は、テレビで日本の魔法少女モノのアニメをよく見ていたので、そのころの懐かしさを思い出しながらキャラクターを作り上げていきました。

 ゲームの構想を練っていた当時、家族でたくさんのソフトドリンクを飲んでおり、その空き瓶で遊んでいるときにソーダというテーマが浮かびました。ほかにもペプシマンなど、ソフトドリンクのマスコットキャラクターたちからもインスパイアされています。

 さらに、ネットでフューチャーファンクという音楽のジャンルのPVをたくさん見ていて、それらの動画に自分の構想と近い要素が含まれていたため、そういったPVの感覚に近い作品を作ろうと思ったんです。

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初期のビジュアル。

――1990年代のアニメを思わせるグラフィックを採用した理由を教えてください。

ホセ子どものころに『カードキャプターさくら』、『機動警察パトレイバー』、『鉄腕バーディー』などが放送されていたので、あの時代のアニメには強い思い入れがあります。

 多くのフューチャーファンクのPVにも、そういったレトロなアニメの要素が使われているので、90年代アニメと自分がゲームに取り入れたい音楽ジャンルが強く結びついていることに気づきました。それで現代的な感覚とレトロなセンスが共存しているスタイルのゲームを作りたいと思ったんです。

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初期のキービジュアル。

――Nintendo Switch版でリリースしたいと思った理由をお教えください。

ホセNintendo Switchが2017年にリリースされ、その年のGDCで試す機会があったからです。自宅だけでなく、外出先でもプレイできるというコンセプトには強く惹かれました。それに加えて、私は任天堂のハードをプレイして育ったので、任天堂コンソールでゲームをリリースするということは大きな夢でもありました。

――バラエティーに富んだメンバーが集結していますが、どのような経緯で皆さんは集まったのでしょうか。メンバーは業界未経験者からなるとのことですが、あえて業界未経験者を集めたのですか?

ホセ試行錯誤のくり返しでした。当初、誘った人材の中には、家庭用ゲーム機のタイトルを手掛けるのは厳しいだろうと難色を示した人々もいました。

 やがて、プロとしての経験はないものの、本作に興味を示し、完成させるのに必要な技術を持つ人々を見つけることができました。私は自分と同じようなものに興味を持ち、かつコミュニケーションが取りやすいよう、近郊に住む人材を探して本作を完成させたので、集まったチームとは運命的なつながりを感じています。

――業界未経験者だからこそ、ほかのゲームにはない『ポップスリンガー』のテイストとしては、どのようなものがありますか?

ホセ本作の独自の表現とスタイル、そして届けたいターゲット層は、メキシコ人をはじめ、ほかの開発者が着目していなかったものだったと思います。

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チームメンバーの皆さん。左からホセ・ルイス・アブレウ氏、タニア・レイエス(ホセ氏のiPhone上)、スクル・トヤマ氏、ディエゴ・アンドレス・マルティネス氏。

――『ポップスリンガー』を開発するにあたって、とくにこだわった点をお教えください。

ホセダイナミックな音楽が特徴の表現豊かでスタイリッシュなゲームを意識していて、とくにフューチャーファンク、90年代アニメ、レトロカルチャー全般が好きな人たちに楽しんでもらえるように作りました。限られたリソースの中で、これらを実現することを目標に精一杯努力したつもりです。

――さきほどの質問とすこしかぶるかもしれませんが、『ポップスリンガー』でとくに注目してほしい点をお教えください。

ホセ本作は音楽がゲームプレイと連動しているのが特徴で、そこにかなり力を入れて開発しました。効果音とBGMが連動しているのはもちろん、プレイヤーのパフォーマンスによって音楽がよくなったり悪くなったりするシステムを設けています。昔のシティポップのアルバムジャケットや『ツイン・ピークス』のような90年代のテレビ番組なども登場するので注目してください。

 物語の中で、キャラクターどうしの関係がどう発展していくのかもゲームの見どころです。

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――開発で、とくにたいへんだったポイントをお教えください。

ホセデビュー作だったので、使用しているシステムでゲームを動かすために、多くの技術的なテクニックを学ぶ必要があり、何度も試行錯誤をくり返しました。

 しかしもっとも困難だったのはメキシコにいながら、制作に必要なツールと開発キットを手に入れることでした。私は幸い、日本での経験を活かして日本の任天堂と関係を築くことができましたが、そこに至るまでは長いプロセスでした。

――リモートでゲームを完成させたとのことですが、リモートワークという点において、とくに苦労された点をお教えください。

ホセコミュニケーションとチームのまとめかたに関しては、たくさん学ぶ必要がありました。つねにチームのメンバーたちとコミュニケーションをとり、皆をまとめ、調整を行わないといけなかったんです。

 さらに、コロナ下で隔離されている状況でもモチベーションを保つ必要がありましたが、最後まで努力し続けました。

――『ポップスリンガー』をどのような人に遊んでほしいですか?

ホセフューチャーファンクやシティポップといった音楽のジャンルが好きな人、アクションゲームが好きな人、日本や欧米のレトロなアニメやゲームが好きな人、そしてオシャレでスタイリッシュなキャラクターが登場するゲームが好きな人たちですね。

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――今後作ってみたいゲームを教えてください。

ホセ今後も鮮やかな色彩とファンキーな音楽が特徴の表現豊かな作品を作っていきたいです!

――最後に、『ポップスリンガー』を楽しみにしている日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

ホセ音楽、グラフィック、キャラクターなどを通じて皆さんに本作を少しでも好きになってもらえたら嬉しいです! そのうちの要素でひとつでも気に入ってくれたものがあれば、心から感謝します。

 日本のゲームは世界一で、クリエイターとしての自分を育ててくれました。だから日本の皆様に本作をプレイしていただけるのは非常に光栄です!

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