運営20周年を迎えた『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)だが、現在も精力的にバージョンアップが行われている。今回は、プロデューサーの松井聡彦氏とディレクターの藤戸洋司氏にインタビューを実施。これまでの運営の思い出話はあえて割愛し、この1年間の動きや新規要素の実装意図などを中心に、“現在・未来のヴァナ・ディール”について話をうかがった。マスターレベルの導入やストレージの追加といった大きな変化はもちろんのこと、“シェオル ジェール”の攻略状況や上位ミッションバトルフィールド“★神竜”のドロップ率、狩人のホバーショットのパフォーマンスといったホットなトピック、そしてつぎなる伝説武器群と目されるプライムウェポンについてなど、現役のプレイヤーに向けた内容となっている。

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松井聡彦(まついあきひこ)

『FFXI』プロデューサー。開発初期からバトルプランナーとして本作に関わる。2013年に田中弘道氏の後を引き継ぎ、プロデューサーに就任した。

藤戸洋司(ふじとようじ)

『FFXI』ディレクター。チャットまわりやアイテム合成、チョコボ育成など、生活系コンテンツを中心に幅広く開発に関わる。2016年、ディレクターに就任した。

一年一年積み重ねてきた20年。大きな節目で思うことは

──『FFXI』は運営期間が非常に長期にわたるため、周年の振り返りももはや恒例となっていますが、20周年は大きな節目となります。これまでの周年と心境の違いはありますか?

松井17周年のときに“20周年に向けての展望”をお伝えさせていただいたので、感慨深いものがありますね。振り返れば20年はあっという間でしたけど、なんだかこの1年は長かったな、という気はします。いろいろな人とお会いし、お話しすることができてすごく経験になりましたし、もっと『FFXI』のことを多くの人に知ってもらおうと走り回った1年間でした。

──藤戸さんはこの1年間はいかがでしたか?

藤戸自分は、とくにいままでと変わらない感覚ですね。ふだん通り実装計画を立てて、エンジニアさんとやり取りをして……といった感じで。やるべきこと自体は20周年だからといって変わりません。唯一違うとすれば、Webサイト“WE ARE VANA'DIEL”の準備と展開があった、というところですね。そのぶん、いつもに比べれば作業量は増えているのですが、このサイトでいちばん動いていたのが松井プロデューサーなので、自分はチーム運営やゲーム内の実装計画といった部分に注力していました。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
『ファイナルファンタジーXI』20周年記念サイト“WE ARE VANA'DIEL”

──いまお話にあった“WE ARE VANA'DIEL”というサイトが生まれた経緯と、その意図を改めてお聞かせください。

松井もともとは、シンプルに20周年をカウントダウンするためのサイトになる予定でした。しかし、話を進めていくうちに、しっかりと『FFXI』の20年の歴史を載せようとか、これまで公開してきた膨大な数のイラストや設定画をまとめて観られるようにしようとか、いろいろな企画が出てきたんです。そうなると、このサイトを一過性なものにはせず、20周年を迎えたその後も『FFXI』のプレイヤーが見に来て楽しめるような場所にしたいと思うようになりました。

──『FFXI』とプレイヤーをつなぐハブ的なものにしたいとおっしゃっていましたね。

松井はい。それで、ローカライズチームのマイケル(マイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏)に、グローバルで通用するような命名をお願いして、彼から“WE ARE VANA'DIEL”というアイデアをもらったとき、このサイトの方向性について確信が持てました。“みんなのヴァナ・ディール”、“私たちがヴァナ・ディール”なのだと。

──サイトを見ると、松井さんが映ったサムネイルがずらっと並んでいますね(笑)。

松井このサイトの企画でいろいろな方と対談をさせてもらいましたが、個人的には『FFXI』のことだけではなく、『FFXI』が誕生した当時のゲーム業界の空気感であったり、対談相手の人となりであったりを伝えることができたらいいな、とぼんやり考えていました。結果、『FFXI』をよく知らない方にとっても興味深い話が聞けたのではないかなと思います。お相手の中には、いわゆる競合他社の方もいて、実際話してみたら「おお、仲間よ!」と共感する部分もありましたね(笑)。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!

──さまざまな方との対談を通じて、『FFXI』というプロジェクトについて新たな気づきなどはありましたか?

松井ふたつあります。まずひとつは、『FFXI』20年の歴史の中で最初の1年の密度が本当に高くて、「1年目でこんなにいろいろやっていたかな……?」と自分でも驚くくらい多くのことをしていました。でも、この1年目のがんばりがあったおかげで20年間戦ってこられたんだなあと、手前味噌にはなりますが当時のスタッフを賞賛したいと思います。もうひとつは、会社の上役たちが口を揃えて「『FFXI』を続けなさい」と言ってくれているということです。ですので、プレイヤーの皆さんがいる限り『FFXI』は続くだろうという、心強い思いを持てました。

藤戸サイトの記事を見ていて、これまでプロジェクトに関わられた人たちが『FFXI』に対して強い愛着を持たれていたり、開発の一員であったことを誇りとされていたりするのを感じ取れました。『FFXI』の立ち上げに尽力された初期メンバーの田中さん(田中弘道氏。『FFXI』初代プロデューサー)、石井さん(石井浩一氏。『FFXI』初代ディレクター)を始め、表には出ていない関係者がそれこそ100人、200人といるわけですが、おそらく相当数の方が同じように『FFXI』を大事にされていると想像できるので、自分たちはそんな彼らの気持ちを汚さないように守っていかなければと改めて思いました。

──そういう意味では、皆さんも『FFXI』を客観視するいい機会になったというわけですね。

藤戸今回、他社の開発者にもいろいろお話をうかがいましたが、「『FFXI』を遊び始めたころはまだ社会人になる前だった。『FFXI』の経験があったからこそ、いまの自分がいる」とおっしゃっていただける方が多いんですね。『FFXI』が人生を変えてしまったなあと(苦笑)。でも、そういった方々の人生の土台作りにひと役買ったゲームというのは、なかなかないのかなと。長く続けたからこそ礎になり得て、多くの人に関わっていただけたのかなと思います。

──20周年に関連して、この記事が公開されるころには、なんとタイトル曲が新曲になっているとうかがいました。これには、どういった経緯があったのでしょうか?

藤戸20周年をどう祝おうか、どう盛り上げようかと考えたとき、タイトル画面は変わらないといけないな、と思いました。これまで、タイトル曲が新しくなるのは拡張データディスクが発売されるタイミングだったのですが、さすがに現在の体制で拡張は難しい。だからといって、ずっと同じ曲を流し続けるもの寂しいと。

──現在のタイトル曲は『アドゥリンの魔境』のものなので、2013年から9年間同じですからね。

藤戸ゲームの中で真正面から“20周年”というメタな表現ができるのは、タイトル画面だけだと思うのです。18周年、19周年とかわいい周年ロゴを作ってきて、今回は新しいロゴに加えて、新しい曲でいきたい、というのがまず発端でした。それで水田(水田直志氏。『FFXI』の音楽のほとんどを担当)に発注したところ、「これは生音で収録したい」となりまして。上がってきた曲を聴いてみたら、それはもう想像以上の豊かさでした。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
左から18周年、19周年、20周年のロゴ。

──曲名は『Vana'diel March』の連番になるのでしょうか?

藤戸いいえ。『プロマシアの呪縛』のタイトル曲が『Unity』であったり、『アドゥリンの魔境』のタイトル曲が『A New Direction』であったりするように、何かふさわしい名前を与えようと思いました。自分は安易に“20周年”という言葉を使いたくなかったので、英単語の組み合わせでいくつか案を考えてローカライズチームに確認してもらったんです。それで、そこそこ納得感のある曲名にたどり着くことができたので、それを水田に見せました。

──すると……?

藤戸水田は『We Are Vana'diel』にしませんか? と即答したんです。

──先回りされていた(笑)。

藤戸うあー、なんでそれを思いつかなかったんだろうと(苦笑)。

──“WE ARE VANA'DIEL”はWebサイトの名称であると同時に、20周年へ向けての大きなキーワードでもあったので、藤戸さんにとっては身近すぎたのかもしれませんね。

藤戸“灯台下暗し”ですよね。水田から提案を受けて、「もうこれしかないよなあ」と思いました。

松井水田はアイデアマンなんですよ。“ヴァナ・ディールの星唄”のエンディング曲のコーラスを、冒険者の皆さんに歌ってもらうという企画も、水田からの提案でした。曲をただ作るのではなく、どうプロモーションしていくのかまで、つねに考えているんです。

──曲を発注した際の水田さんの反応はいかがでしたか?

藤戸じつはこの曲の発注は1曲だけではなく、“蝕世のエンブリオ”に関連した楽曲オーダーの一環でした。その中でもタイトル曲は20周年の特別な曲ではありますが、こちらから伝えたのは「いい感じに盛り上がる曲で」くらいですね。そうしてでき上がった曲には、まさに水田の“『FFXI』の20周年はこうあるべき”という想いが表れていると思います。

松井水田は、このコロナ禍に生音の収録という難しいトライをしてくれました。スケジュール調整はとてもたいへんそうでしたが、その労力に見合ったものになったと思います。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
実際のタイトル画面。現在ログインすると、新しいタイトル曲を聴くことができる。

10年ぶりのレベル上げ。この1年の大きな変化について

──それでは、ゲームの中身の話に移りたいと思います。この1年間で実装された内容の中でとくにインパクトが大きかったのが、ジョブマスターからのさらなる成長要素であるマスターレベルの導入でしょうか。その意図をお聞かせください。

松井キャラクターが強くなる要素として、装備品のアイテムレベルではなく、キャラクター自身の新しい成長要素がほしかった、ということがありました。また、これまでさまざまなジョブ調整を行ってきましたが、これからはキャラクターの能力をいったん縦に伸ばしたうえで、また改めてジョブごとの調整を行おう、という方針を立てたのです。

──“レベル”として数値が上がっていくのは、じつに10年ぶりくらいでしょうか。

松井マスターレベル上げは、昔懐かしいレベル上げの感覚にしようということになったのですが、じつはその点に関して自分は当初懸念を感じていたんです。プレイヤーから「もうレベル上げは勘弁して……」となるのではないかと。そもそもマスターレベルを上げるための前提条件が、ジョブマスターですからね。でも実際に実装してみると、これらのことはほぼ杞憂に終わりました。

──狩り場が混み合って、敵を取り合うほどですものね。

藤戸ただし、昔のレベル上げとまったく同じではありません。これまでのレベル上げには、“レベルが上がれば新しい武器や防具が装備できる”、“新しいジョブアビリティが使えるようになる”という、キャラクターの強化を直感的にイメージできる要素がありました。でも、それと同じことをマスターレベルでやろうとしても、正直に言って蛇足的な性能のアビリティが増えていくばかりだと思うのです。

──だからといって、思い切った性能の装備なりアビリティをここに置いてしまうと、それこそ必須化してしまいますか。

藤戸でしょうね。ですので、マスターレベルではメリットポイントやジョブポイントのギフトのようにアビリティやジョブ特性を習得する形ではなく、ステータス(バトルパラメータ)の上昇とともにサポートジョブの上限が上がるようにしています。これで、「いままでサポートジョブでは使えなかったあのジョブアビリティが使えるようになる。それをこのメインジョブと組み合わせたときのシナジー効果は?」といった、新たなビルド要素が生まれることになりました。そういった情報を仲間と共有することで、作業感を薄める狙いもあります。新しい狩り場も実装され、そこにパーティ単位で人が集まってくる。ソロで遊べる要素が増えている『FFXI』において、懐かしくも新鮮な状況を作れているのではないかなと。

松井『FFXI』で生まれた概念のひとつに“時給”というものがありますが、プレイヤーもだんだんマスターレベル上げに慣れてきて、それが時給に反映されてどんどん稼ぎがよくなっていく。そういった点もウケているのではないでしょうか。

──新たに開放された狩り場であるクロウラーの巣〔S〕では、モンスターを派手にまとめて狩っている様子なども見られますが……(笑)。

松井プレイヤーの強さには、いつも驚かされます。本音としては、あんなにまとめてはほしくないのですが……(苦笑)。とはいえ、あれもプレイヤーの努力や工夫のひとつです。それを皆さんが技術のうちと見ている限りは、下手な介入は避けようと思っています。

──今後、マスターレベルの上限開放などは予定されていますか?

松井6月に上限を40に、11月には上限を50にする予定で、それをキャップと考えています。これによってサポートジョブの上限は59までとなり、サポートジョブを魔導剣士にしたときに“フォイル”が使えるようになります。ナイトの“サポ魔剣”のパフォーマンスがかなり上昇するはずなので、本職の魔導剣士とのバランスはしっかり確認しないといけない部分です。

──マスターレベルは特別なアビリティの追加こそないものの、たとえばマスターレベル50ならば、全バトルパラメータ+50、戦闘/魔法スキルも上限が+50と、なかなか軽視できない上昇量です。今後追加されるバトルコンテンツは、マスターレベルによる成長を前提とした調整になるのでしょうか?

松井まず、バトルコンテンツはジョブマスターを前提にはしていません。とはいえ、ジョブマスターになったりマスターレベルを上げたりすることは、装備を揃えるのと同じようにプレイヤーを強くする要素です。

藤戸装備に関しても、いわゆるRMEA(レリックウェポン、ミシックウェポン、エンピリアンウェポン、エルゴンウェポン、イオニックウェポン)と呼ばれる伝説武器群を前提にはしていません。性能的に突出した装備を持ってないとクリアーできない、という調整は行わないようにしています。

──ちなみに、マスターレベルには限界突破クエストのようなものは用意しないのでしょうか?

松井そういった関門を設けてしまうと、以前のマート戦のようにクエストを突破できない人がストレスを感じてしまうでしょう。それに、マスターレベル上げに必要なエクゼンプラーポイントは膨大なので、それ以上に“時間稼ぎ”に映ってしまうような要素はいらないだろうと。先ほどのまとめ狩りの話ではないのですが、それぞれのペースでマスターレベル上げを楽しんでもらいたいですね。

──そんな大盛況のクロウラーの巣〔S〕ですが、今後このような狩り場が追加されることはあるのでしょうか?

松井本当にたまたまクロウラーの巣〔S〕の通称“ドーナツ広場”が未開放だったので、そこを狩り場として実装できましたが、基本的に追加は難しいです。

藤戸容易に高レベルのモンスターを配置してしまうと、既存のクエストの進行が困難になるなど、思わぬ影響が出ます。クロウラーの巣〔S〕のようなまったく新しい場所は難しいですが、たとえばいまは誰も訪れる人がいないようなエリアを改修してなんとか狩り場に……という可能性はあると思います。

──2020年8月に追加・開始された新シナリオ“蝕世のエンブリオ”は、いよいよ佳境が近づいているという印象です。今後の展開や完結する時期などを教えてください。

藤戸完結する時期はさすがに伏せますが、想定よりはちょっと遅れてしまうかな、といったところです。広げた風呂敷をうまくたたむことができるのかと、ちょっと心配になっているところです(苦笑)。また、今回新しいバトルフィールドをいくつか用意していますが、新エリアの実装は見送っています。

──それはなぜでしょうか?

藤戸“ヴァナ・ディールの星唄”では、エスカ-ジ・タ、エスカ-ル・オン、そして醴泉島という3つのエリアを追加しましたが、最終的には醴泉島に人が集中してしまいました。オンラインゲームに人の集中は付きものですが、シナリオもバトルも全部そこで、というのはなるべく避けたいなと。バトルフィールドに関しては、基本的にレイヤーエリア(インスタンス)を採用していることもあり、多少混み合っても問題になりにくい、という利点があります。

──物語の中で“プライムウェポン”という存在が語られましたが、ずばりプレイヤーが手にすることはできますか?

藤戸できます。

──即答で驚きました(笑)。

藤戸あれだけ意味ありげに登場して何もないわけはないでしょう(笑)。 プライムウェポンは、まずは物語の進行上で手にすることになります。プライムウェポンがどういうものかをお話を通じて理解してもらい、そのうえで……といったところですね。プライムウェポンは、もともと開発内では“ブラックレリック”と呼んでいました。なぜプライムウェポンという名になったのか、それは物語を進めていくうちに明らかになります。何にせよ、“蝕世のエンブリオ”を進めないと入手することができないので、いまからでも進めておいていただけると。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
ディスティニーデストロイヤー団のGloom Phantom(グルームファントム)が手にしている武器は、黒いラグナロクのように見える。

──まだシナリオは完結前ですが、2022年2月から4月にかけて実装されたクエストの報酬はかなり高性能な首装備でしたし、進めておいて損はないですね。

藤戸もらってもあまりうれしくないような報酬にしてはもったいないので、それなりに使えるものを用意しています。

松井報酬はみんなで話し合って決めるのですが、QA(Quality Assurance。品質保証)チームから「こんな性能では、ちっともうれしくないんだが?」ときびしくクレームが入ったこともあります(笑)。彼らにとってはバグを見つけることが主任務ですが、プレイヤー視点での指摘も重要な仕事なのです。

藤戸こちらも、QAチームに対して「プレイヤーにとっておいしいものになっているか」という聞きかたをすることもあります。そこはQAチームも長年『FFXI』をプレイしてきた歴戦のメンバー揃いなので信頼しています。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
“蝕世のエンブリオ”のミッションを進めていく中で入手できる首装備。所属国による効果も含め、魅力的な装備だ。

──さて、これまでさんざん「これ以上は無理」と言われてきたストレージの拡張が、2022年2月に実現しました。収納アイテム数80個のストレージが4つ、つまり320個も持てるアイテムが増えています。これにはどういった経緯があったのでしょうか?

松井誤解いただきたくないのは、我々の中で“無理”ということは変わっていないのです。これまでもそうでしたが、エリアチェンジした後にストレージ内の所持品がすべて表示されるまで、かなりの時間がかかっています。この待ち時間が我々の中ではすでに限界値で、もしプレイヤーの皆さんがどれだけ時間がかかっても耐えてくれる、という条件であれば実現できる……そういうレベルだったのです。とはいえ、ストレージ不足はいまのプレイヤーにとって深刻な問題で、そのために割り切ったというのが正確なところです。そのうえで、ゲームシステム全体が破綻しないかという確認が取れたので、実装に踏み切った形ですね。

藤戸プレイヤーがどんなアイテムを持っているか記憶するサーバー領域というのは、大げさに言えばいくらでも増やすことはできます。でも、増やしたぶん、エリアチェンジ後に表示されるまでの待ち時間は長くなるわけです。すでにこれまでのアイテム保持数でストレスを感じている人がいるのに、さらに助長させるようなことはできません。我々にとってストレージを増やすということは、アイテムを持てる数は増やしつつ、待ち時間は変わらない、むしろ減る、という課題をクリアーする必要があったわけです。ただ、システム的にはどうにもできませんでした。

──だから、「無理」と回答するしかなかったと。

藤戸とはいえ、依然としてプレイヤーからの要望も多く、その可能性については探り続けていました。そこで、今回はいかに待ち時間の長さを感じさせない“雰囲気”にできないか、ということを目指しました。

──体感や印象の部分で工夫するということしょうか。

藤戸そうですね。これまでは、エリアチェンジの後、所持アイテムのダウンロードが完了するまで装備画面やアイテムリストが開けないようにしていたんです。それは、アイテムの使用や選択のタイミングによって事故が起こる可能性をはらんでいたため、安全面を考慮してのことでした。そこを、安全性をしっかりと検証したうえで、ダウンロードした順に開放していくという形にして、なるべくプレイヤーの負担にならないよう、実装レベルの仕様までどうにか落とし込むことができたんです。

──なるほど。全体のダウンロード時間は長くなっているけれど、アイテムを確認・操作できるまでの時間は逆に短くなっているわけですね。

藤戸そういうイメージで合っています。それにより、ストレージの増加は実装の目処が立ったのですが、ストレージが増えたら増えたで今度はマクロや装備セットが足りないという意見が絶対に出てくるだろうということで、ここもセットで実装すべきと考えました。ただ、マクロや装備セットを増やすとなると、クライアント側のメニューシステムを耐えうる範囲まで拡張しないといけないですし、合わせて設定のバックアップまわりも整備する必要があります。そのため、設定ソフトの『FINAL FANTASY XI Config』にも手を加えて、各種設定をパソコンのローカルディスクにバックアップファイルとして保存できるようにしています。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
マクロやマップマーカー、装備セット、ゲーム内コンフィグの内容などをPCのローカルディスクにバックアップすることができるようになっている。

──そうした一連の整備があって、ようやく実現したということなのですね。

藤戸なんとか20周年に間に合ったという感じです。あと、これらの担当者がアイテムまわりで起きていた問題をちゃんと拾ってくれたため、誤って捨ててしまったアイテムを、エリアチェンジや回線切断をしていなければ直近の10種類までなら取り戻せる“リサイクル”のシステムも同時に実装できました。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!
リサイクルの画面。不用品を整理している際に、間違って貴重なアイテムを捨ててしまったという人もいるはず。

松井アイテムまわりはプログラム的にもとくにデリケートな部分になるのですが、今回の担当になった第三開発事業本部のエンジニアが短期間で『FFXI』の仕様を理解してくれたおかげで、スケジュール的なトラブルもなくスムーズに進みました。ひとつずつ問題を解決していったこともあって、ストレージ追加はだいぶ時間をかけた遠大な計画でしたね。

“ジェール”には何かスゴイものが? 現役プレイヤーが知りたいアレコレ

──少しピンポイントな話になりますが、狩人の新アビリティ“ホバーショット”は、移動をくり返して攻撃するという手間に対して、もう少しそれに見合うパフォーマンスが欲しいという意見も見受けられますが、いかがでしょうか。

松井そもそもホバーショットは導入の経緯からして、“コストは高いけれど、そのぶんパフォーマンスも高い”という調整になっています。誰でもいつでもというアビリティではないからこそのパフォーマンスであることは、ご理解いただきたいです。長引くバトルでは、かなり有効だと思います。敵によってホバーショットとデコイショットを使い分けてくれれば、というイメージですね。

──現在のエンドコンテンツとしてかなりのやり応えがあるオデシーの“シェオル ジェール”ですが、開発側から見てプレイヤーの攻略状況はどうでしょうか?

松井担当いわく、「キッチリと倒されているな」ということでした。ジェールのボスは当初から強めに作っていたのですが、それを超えてくるプレイヤーの数もだいたい想定通りです。Veng(難易度)の上限開放については可能なのですが、現在はちょっと様子を見ています。

藤戸つぎのVeng上限開放のときは、「これがあるから挑戦する」というモチベーションにつながるような要素を用意しています。

『FF11』運営20周年インタビュー。プライムウェポン、シェオル ジェール、マスターレベルなど、プレイヤーが気になるあれこれを直撃!

──2021年7月に実装された、上位ミッションバトルフィールド“★神竜”ですが、武器や防具のドロップがとても渋いように見受けられます。何かドロップ率が上がるような仕組みがあるのでしょうか?

松井やはり報酬が高性能なので、それに見合った入手確率で調整しています。一方で必要なメリットポイントを30に上げさせていただいたときに、ドロップ率も上方修正しています。「変わっていない気がする」という声もありますが、ちゃんとこちらの期待値通りに設定してあります。

藤戸バトルフィールドは基本的には装備を手に入れてしまったら終わりで、もう誰も行かなくなってしまうため、難しいところです。敵をとても強くする代わりにドロップ率を上げるか、それとも戦闘はそこそこの難度にして入手率を絞るか。この“★神竜”では、報酬の性能を鑑みて確率を絞る方向にしています。

──ここのところ、アンバスケード防具の強化アイテム(アブダルスメタル/アブダルスファイバ)の交換上限が増えたり、AF119+3やレリック装束119+3の強化条件に新たな選択肢が追加されたりするなど、実質的な緩和が行われています。こうした調整は今後も続くのでしょうか?

松井まずアンバスケード防具ですが、すべて強化しきるのに最低これだけの月数がかかるという部分に対して、最近復帰された方やこれから始めようという方たちにはもう同じ時間をかけさせなくてもいいのではないか、という観点からの変更です。武器や防具、強化アイテムを入手するための労力自体は以前と変わりませんが、1ヵ月で取得できる上限を増やして、もっと早く強化できるようにしています。AF119+3やレリック装束119+3も同様で、各コンテンツに参加してもらうために、もう入口の段階でそれらを入手する手段を絞らなくてもいいだろう、と判断しての結果です。

藤戸とくにアンバスケード防具は、“エンドコンテンツに参加するまでのつなぎの装備”という側面が大きいです。少し前までは、各種コンテンツで入手できる防具とアンバスケード防具を見比べて、状況によって使い分けるような性能差でしたが、これからのエンドコンテンツで入手できる装備はかなり高性能のものになっていきます。ですから、アンバスケードの防具をサクッと強化して、エンドコンテンツに挑戦してほしいですね。

松井この交換上限変更ついては悩むところもありました。上限を引き上げると、何事も上限までやらないと気が済まないプレイヤーはただしんどくなってしまいます。ポイント稼ぎなどの上限が決まっているということは、ある種の優しさだと思うのです。そういう意味での上限変更にはちょっと心配があったのですが、いまは「自分のペースで遊べればいい」と考えている人も多いかと思うので、時間が取れる月に一気に稼ぐ、ということもできていいのではないかなと。

──マスターレベル上げを経験した多くの人が思うはずですが、エクゼンプラーポイントの獲得量が増えるキャンペーンの予定はないでしょうか?

藤戸その予定はないです。指輪などの経験値ボーナスも意図的に対象外にしています。唯一、コルセアズロールが獲得量に影響しますが、アビリティの性質上そのほうが自然だったので、そのままにしています。獲得量フォローについては、今後何らかのアイテムで対応することを検討しています。

──マスターレベルの導入によってプレイヤーとフェイスの能力差はさらに開いていきますが、フェイスの強化要素の追加についてはいかがでしょうか?

松井フェイスはそれほど戦闘能力が必要な場面を想定して作られてはいないので、現状は一律で強化をするといったことは考えていません。ただ、おっしゃる通りキャラクターはどんどん強くなっているので、何かいい落としどころがあれば……といったところです。

藤戸何かをしたいときに人手が足りない、という状態を脱するためにフェイスは作られているので、それを飛躍的に強くしてしまうと、今度は逆にフェイスだけあればいいということにもなりかねません。そこはすごく加減が難しいのですが、“フェイスは強くしすぎない”というのが一貫したポリシーです。『FFXI』はMMORPGなので、基本的にエンドコンテンツはパーティを組んで、というのは守りたい部分ですね。

松井ただヴァレンラールのように、ジョブ調整を受けて特定のフェイスを部分的に強化する、ということは今後もあり得ます。

──20周年を迎えた『FFXI』ですが、これからのヴァナ・ディールについてお聞かせください。

松井以前、20周年中に皆さんにお届けするとお伝えした内容の中に、まだ実装されていないものがあります。この1年はその実装に向け、楽しんでもらうために全力を尽くしたいと思います。冒険者の皆さんもこの20周年をいっしょに楽しんでいただけたらと思います。

藤戸2019年に発表させていただいた3ヵ年計画で、“『FFXI』は2022年まではサービスを続ける”という言いかたをしたので、「もしかして2022年でサービスを終了するのでは!?」と不安に思っていた人もいるかもしれません。しかし、先ほど松井プロデューサーの発言にもあったように、会社の上役が「まだまだ続けてほしい」と言ってくれているみたいなので、その心配は当分ないのではないかなと思います。とはいえ、何もせずに安泰というわけではなく、『FFXI』を続けるために何をしていかなければいけないか、何に注力すべきかはつねに課題として自分の中にあります。そんな日々を過ごしていたら、「あれ? もう30周年!?」みたいな感じで、これからも『FFXI』は動き続けると思います。まだ20周年を迎えたばかり。いまは“蝕世のエンブリオ”の完結を含め、全力を尽くしていきたいと思います。

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