ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介する作品は、2022年4月11日にSteamで配信されたばかりの探索ホラーアドベンチャー『Ib』(イヴ)のリメイク版です。

【こういう人におすすめ】
・クラシックなグラフィックに魅力を感じる人
・謎解きやパズルが好きな人
・『Ib』を遊んで見たかった人はこの機会に、すでに遊んだことがある人は、ぜひもう一度!

常在戦場常広のおすすめゲーム

  • 『Ib』リメイク版
  • プラットフォーム:PC(Steam)
  • 発売日:2022年4月11日
  • 発売元:PLAYISM
  • 開発元:kouri
  • 価格:1300円[税込]
  • フリーゲーム版は2012年より配信中
『Ib』リメイク版のダウンロードはこちら(Steam)

いまなお愛される名作が蘇る

 2012年2月にフリーゲームとして登場した探索ホラーアドベンチャー『Ib』。kouri氏が『RPGツクール2000』で個人制作したゲームで、奇妙な美術館に迷い込んだ少女イヴの不思議な体験を描いています。

 本作が登場した当時はと言うと、『青鬼』、『魔女の家』、『霧雨が降る森』など、『RPGツクール』産のホラー系フリーゲームが一世を風靡した時代。『Ib』もリリースされると、個人制作であることや独特の後味があることなどですぐに話題となり、いまなお多くの根強いファンに愛されるフリーゲームの代表作となりました。

 その頃、小学生だった筆者にとっては、無料で遊べるフリーゲームはお宝のような存在。ホラーが苦手ながらも、友だちといっしょにビクビクしながらプレイしていたのが、いまでは懐かしく感じます。

 そして、10年の歳月が流れて2022年4月4日。この日、「『Ib』のリメイク版が配信される」という発表を見たときは驚きましたし、幼少期の思い出もあって気づいたら即買いしていました。3Dのハイグラフィックなゲームが主流であるこのご時世に、当時の雰囲気を残したままリメイクするというエモさに心惹かれたのです。

 筆者のように、もう一度プレイしたくなった人やこれを機にプレイしたい人はたくさんいるはず。そういう方に向けて断言します。「絶対にプレイするべき」です!

 前置きが長くなりました。極力ネタバレはなしで本作の魅力を語らせていただこうと思います。

恐ろしい美術館で巻き起こる儚い物語

 先にも軽く触れましたが、『Ib』はさまざまな仕掛けを解きながら物語を読み進めていく、オーソドックスな探索アドベンチャーゲームです。

 ある日、ゲルテナ展を見に家族で美術館を訪れたイヴ。展示された美術品を見ていたところ、ふと気がつくとひとりぼっちに。そして、徐々にイヴの周りに異変が起こり、誰かに誘われるようにして、不気味な美術館の奥へと迷い込んでしまいます。

 プレイヤーはイヴとなり、美術館から脱出するため探索していくことになります。そこには無数のギミックが仕掛けられており、周辺を調べて必要なアイテムを見つけ出したり、パズルのようなギミックを解きながら先へと進んでいくといった感じです。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
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 本作の魅力のひとつは、謎解きの作り込みのすごさにあります。例えば、絵画を足場にして進むなどの物理的すぎる仕掛けがあるとします。その絵画から暗号を読み取ったり、オブジェを運んで絵を完成させることでキーアイテムがゲットできたりと、美術という世界観を存分に活かした奇想天外な謎解きが多数待ち受けているのです。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
直線状に動くティーカップを特定の位置に配置するギミック。かなり頭を使う謎解きも多く、やり応えがある。
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
本作に登場する美術品の多くが、何かしらの仕掛けとなって登場します。
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
筆者のお気に入りの“うそつきたちの部屋”のギミック。正しいことを言っている絵画を見つけ出し、その先の部屋の仕掛けを解くというものなのですが、部屋から戻ってきたときの演出にゾクッとしてしまうはず!

 部屋によっては、首無しのマネキンや絵の女が問答無用で這いずりながら追いかけてくる場面も。じりじりと迫りくる恐怖に耐えつつ、焦る気持ちを抑えて仕掛けを解いていくスリルと緊張は“ザ・ホラーゲーム”といった印象です。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
途中で入手する薔薇は体力のようなもの。ダメージを受けると花弁が散っていき、すべての花弁がなくなるとゲームオーバーとなってしまいます。
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
何かあると分かっていても、ついつい驚いてしまう仕掛けも満載。古典的ですが、この懐かしい感じがいいんですよね。

 道中では、ギャリーとメアリーのふたりと出会います。彼らとともに行動することになるのですが、会話や行動の選択肢によって結末が変わっていくのも本作の特徴です。

 見え隠れする内に秘めた想いや自分が犠牲になってでも誰かを守ろうとする姿、そしてときに残酷な展開に心が締め付けられるでしょう。それでもなお、物語に魅了され、その後の展開を見ようと無心に先に進むことになるのですから、ある意味これが本作の“恐怖“なのかもしれません。

 ちなみに、エンディングの数は全部で7つ。全部見ようとするとかなりの時間を費やさないといないので、こまめにセーブをしておくのがオススメ。ノベルアドベンチャーで言うところのトゥルーエンドがどうしても見たくて、筆者は10時間以上プレイしていました。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】

 今回注目してほしいのが“移植”ではなく“リメイク”という点。“PCゲームが家庭用ゲーム機でも遊べるようになった“というのはよく目にしますが、『Ib』に関しては、いまの時代にあわせつつも、より遊びやすくリメイクされているのです。

 まずはグラフィック面ですが、緻密なドットで描かれる世界はフリーゲーム版からほぼ一新。いくつかの美術品はデザインが変更されており、新たに加えられた美術品もあります。新要素としてズーム機能が使えるようになり、美術品をじっくり鑑賞できるようになったので、世界観を存分に堪能したい人にとって、これもかなり嬉しいポイントです。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
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フリーゲーム版
リメイク版
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
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ズーム機能で、小さな美術品も鑑賞しやすくなっている。

 筆者はゲームを遊ぶからには建物やオブジェクト、ひとりひとりのキャラクターまで目に映ったものはすべて眺めて、ゲームの世界にどっぷり浸かりたいタイプ。もちろん今回遊んだ際も、ついつい美術品に目を奪われてしまいました。リアルの美術館で作品鑑賞をするようにじっくり進めていたら、「この作品はイヴの心情を表しているのでは?」とそのシーンにぴったりの美術品があることに気づいたりもして……。

 これは謎解きに夢中になっていた幼少期のときには気づけなかったことです。当時の自分に「もっと探索はしっかりすべきだぞ」と言いたい気持ちもありつつ、美術品に意味が込められていると知り、ひたすら夢中で楽しんでいました。
 

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
ギロリとこちらを見る人が描かれた絵画“心配”。これは、そのときのキャラクターの心情にぴったりな場所に展示されているように思える。

 もうひとつの新要素として追加されたのが“会話システム”。これは、同行しているキャラクターと会話できるというものですが、そのときの心情を聞けるだけでなく、行き詰ったときにはヒントを教えてくれます。

 また、セーブポイントや花を回復できる花瓶も増設されており、遊びやすくなった印象を受けました。筆者がフリーゲーム版をプレイしているとき、HPが残り1の状態でセーブをしてしまい、先が地獄となるということがたびたびあったので……。とはいえ、難易度が極端に下がったというわけではないのでご安心を。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
キャラクターとの会話は、ギミックを解くたびに切り替わるので、くまなく確認してみるのがよいだろう

 とはいえ、これらの変更点だけだと、そこまで驚きはしないはず。しかし、実際にリメイク版をプレイしてみると、多くのステージの調整に驚かされました。単純に道順が分かりやすくなっていることもあれば、ステージによっては新たな仕掛けも用意されています。

 ブラッシュアップされた点をひとつ取り上げるとするならば、フリーゲーム版では大量の女の絵とマネキンに追われる部屋(灰の大広間)。女の絵が超高速で襲い掛かってきたり、新たな美術品によるギミックも盛り込まれていたりと、まったくの別物になっていました。

 なので、フリーゲーム版をプレイしてからリメイク版に挑むと「このステージの構造が変わってないか?」、「この謎解きは新しい!」と、まだ見ぬワクワク感に心を躍らせることができるでしょう。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
“灰の大広間”の新しい仕掛け。

 配信決定のプレスリリースには、“「ゲームが苦手な人でも楽しめる」という原作のコンセプトを崩すことなく、そのうえで当時のフリー版を遊んだ人も初めて遊ぶ人も楽しめるような変更や調整が行われている”とありました。まさにそのとおり。ただリメイクしたのではなく、作品への愛やファンへのサービス精神が込められていること肌で感じました。

 これから遊ぶ人にとっては原作版より遊びやすくなっており、プレイ済みの人も新鮮な気持ちでもう一度作品に浸ることができる。これが「リメイク版を絶対にプレイしてほしい!」理由です。

『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】
『Ib』がリメイクされたから遊ぶしかない! 懐かしさに胸打たれつつも、驚愕した話【おすすめゲームレビュー】

 ストーリーやキャラクターについては、もっともっと語りたいところではありますが、これは実際に見て楽しんでいただきたいところ。キャラクター名の花言葉を調べてプレイすると、ストーリーのメッセージがより重くなったりもして、かなりディープな作品です。購入を迷う必要はありません。買いましょう。

『Ib』リメイク版のダウンロードはこちら(Steam)
ファミ通.com編集者&ライターによるおすすめゲームレビューまとめはこちら

※2022年5月9日12時50分:記事中で人名の表記に誤りがありましたので修正しました。お詫びして訂正します。