ゴールデンウィーク向けに、おすすめアニメの紹介記事を書くことになった筆者。ファミ通の読者さんに観てほしい作品はたくさんあるので、何を紹介するか悩みました。

 悩んだ末、素直に最近完走した中でもっとも夢中で楽しめたアニメを紹介することにしました。そのアニメは『その着せ替え人形は恋をする』。原作からファンでしたが、アニメも毎週リアルタイムで観るのが待ちきれないくらい改めてハマってしまいました。

 『ヤングガンガン』(スクウェア・エニックス)で連載中のコスプレをテーマにしたラブコメマンガをアニメ化した本作。タイトルは“着せ替え人形“の部分は“ビスク・ドール”と読むのが正式名称。略称は『着せ恋』となります。

 ちょっとセクシーなところも魅力の恋愛モノでもありつつ、この物語でとくに大切に描かれるのは、主役である五条くんと海夢ちゃん、ふたりの“雛人形”や“コスプレ”といった対象への“好き”という気持ち。

 ゲームやアニメへの“好き”が溢れて止まらないであろうファミ通.com読者の皆さまにとっては、きっと共感するところが多く、勇気付けられる一作にもなると思います。

 この記事を読んで気になったら、ぜひAmazon Prime Videoなどの配信サービスで視聴してみてください!

アニメ『その着せ替え人形は恋をする』(Amazon Prime Video)

人気者のギャルが目立たない男子に懇願! その内容とは……?

 “五条新菜(ごじょう わかな)”は高校1年生の男の子。祖父は雛人形の頭や顔を作る職人の頭師(かしらし)で、幼いころに祖父の作った雛人形にひと目惚れした五条は、自分も頭師になることを夢見ています。

 しかし、“男の子なのに雛人形が好き”ということを仲よしだった女の子に否定され「大嫌い」と言われてからというもの、素直な感情を他人にあまり見せず、目立たないように生きてきたのでした。

 そんな五条にとって、明るくて美人で、クラスの人気者のギャル“喜多川海夢(きたがわ まりん)”は、自分とは住む世界の違う存在。自分にも気さくに話し掛けてくる海夢を眩しく思いながら、同時に引け目も感じていました。

『その着せ替え人形は恋をする』いろいろな“好き”に溢れた、ちょっとエッチだけど性別問わずオススメなラブコメ【GWおすすめアニメ】
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五条新菜、喜多川海夢(画像は公式サイトより)

 ある日、五条が雛人形の衣装を縫うためにひとりで学校の被服準備室を使っていると、そこに突然やってきた海夢! 五条は過去に自分の“好き”を否定されたことが頭をよぎり動揺しますが、海夢は五条の持っていた雛人形の頭に素直な好奇心を寄せたうえ、「かわいい」と言ってくれます。それは五条にとって、初めての経験でした。

 さらに意を決した様子の海夢は、なんとその場で着替え、五条に自作したコスプレ衣装の感想を求めます。衣装づくりの基礎すらできていない海夢の作ったコスプレ衣装は、かなり酷い出来栄え。

 とある大好きなキャラクターにどうしてもなりきりたいものの、不器用で自分では衣装が上手く作れない海夢はコスプレ衣装の制作を五条に頼み込みます。海夢の必死な様子を見て五条はこれを承諾。

テレビアニメ「その着せ替え人形は恋をする」第2弾PV

 こうして五条は海夢に手を引かれ、コスプレ衣装制作やオタク文化という、これまでまったく縁のなかった世界へと足を踏み入れることに。

 海夢の好きなキャラクターの登場するゲームが『聖(セイント)ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部 ハレンチミラクルライフ2(※)』というタイトルの18禁ゲームであることを知り、早くもその洗礼を受けるのでした。

※『聖(セイント)ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部 ハレンチミラクルライフ2』……本作中に登場する架空のゲーム。略称は『ヌル女2』。どんな内容かファミ通.comで説明するのは難しいので、『着せ恋』本編で確認しよう!

コスプレ衣装制作を通して、やがて海夢の気持ちは恋心に……

 その後も、オタク文化へのカルチャーショック(と、年ごろの男の子には刺激が強い、海夢の無自覚な行動)に、幾度となく衝撃を受ける五条。しかしコスプレという行為が、対象の作品やキャラクターへの深い愛ゆえの表現方法であり、そのための衣装づくりには独自の工夫が無数にあることを知ると、その世界の奥深さに気づきます。

 “お金がない学生がコスプレ衣装を自作するとき、どんな工夫をすべきか?”や、コスプレイベントで注意すべき点など……。筆者はコスプレ文化に詳しくありませんが、本作は五条という同じようにコスプレに疎い人物の視点を通して、その文化の魅力をわかりやすく伝えてくれます。

 詳しくない人にとっては未知の世界を覗き見でき、すでにコスプレをしている人ならきっと「あるある!」と共感できるであろう丁寧な描写の数々も、この作品の見どころのひとつです。

 また、衣装の参考にすべく『ヌル女2』の18禁シーンを、メモを取りながら真剣な面持ちでプレイする五条……の姿を目撃して動揺するおじいちゃん、などの場面は、笑えると同時に彼の実直さがよくわかる名(迷?)シーンと言えるでしょう。

 海夢によって知らない世界の魅力を知ることになった五条。対する海夢は、自分の作品愛やこだわりを受け止め、そのうえでよりよい衣装にするためのアイデアを出してくれる五条を、その誠実な人柄も含め、心から信頼するように。そして、とあるコスプレイベントにふたりで参加した帰り道、海夢は五条への恋心を自覚するのでした。

テレビアニメ「その着せ替え人形は恋をする」ノンテロップエンディング映像

 五条にとって海夢は、自分の“好き”に正直な生きかたをしていて、そんな“好き”に溢れた世界へと自分を連れ出してくれた憧れの存在。一方で、相手への感情を恋心として自覚したのは海夢のほうで、このあたりのズレが本作のラブコメとしてのミソ。

 感情の形は少し違うけれど、お互いを好ましい相手として意識し合い、相手の存在によって見ている世界が変わっていくふたりの関係を見ていると、“尊い”というのはこういう感情なのかと気付かされます。

 あと、“コスプレ愛”に加えて“五条くん愛”も加わった海夢の一挙手一投足は、すべてがめちゃくちゃかわいくて最高です。

海夢以外のコスプレイヤーも登場し、“好き”の輪が広がっていく

 『ヌル女2』の雫のコスプレ衣装制作が終わり、物語中盤になると、海夢以外のコスプレイヤーも登場するように。海夢にとって憧れの人気コスプレイヤー・ジュジュこと乾紗寿叶(いぬい さじゅな)が、衣装制作の腕を見込んで、五条の前に現れます。

 小柄な体型から紗寿叶を年下だと思い込んでいた五条と海夢ですが、じつは年上の高校2年生。そして紗寿叶のカメラマンは中学生ながらいろいろなサイズが大きめな、妹の心寿(しんじゅ)が担当しているのですが、心寿にはお姉ちゃんには言っていないコスプレ願望があって……。五条は海夢と紗寿叶だけでなく、心寿の望みも叶えるべく奮闘します。

『その着せ替え人形は恋をする』いろいろな“好き”に溢れた、ちょっとエッチだけど性別問わずオススメなラブコメ【GWおすすめアニメ】
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乾紗寿叶、乾心寿(画像は公式サイトより)

 ひとつの趣味にもいろいろな“好き”の形があって、実現するにはそれぞれで異なったアプローチが必要になってくる。そんな“好きの多様さ”をすべて肯定してくれるのも『着せ恋』という作品の心地よさの一因なのでしょう。

 ちなみに、乾姉妹が登場するエピソードで彼女たちがコスプレする架空の女児向けアニメ作品『フラワープリンセス烈‼』は、実在する複数の女児向けアニメや魔法少女アニメの要素を混ぜ合わせたパロディっぽい作風になっており、アニメ版では作画のテイストや演じる声優陣までもが本家作品を思わせる力の入りっぷり。この作中作のときだけ画面の比率が4:3(2000年前半まで主流だった画面サイズ)だったりするのも、懐かしさを刺激します。

 主人公を丹下桜さんが演じ、紫髪ショートヘアのライバルキャラを宍戸留美さんが演じているなどの配役に、ピンと来る方は多いはず。女児向けアニメ・魔法少女アニメで好きな作品がある方は、この点にもぜひ注目してみてください。

スピラ・スピカ『燦々デイズ』×テレビアニメ『その着せ替え人形は恋をする』Collaboration Movie

 いろいろな“好き”の形を描く『着せ恋』。もし、五条と海夢のどちらかが、相手の“好き”を偏見で否定するような人物だったら、この物語は始まらなかったことでしょう。

 趣味が違う者どうしや、趣味が同じであっても“好き”の表現のしかたが違う者どうしでも、お互いのありかたを尊重し合うことで生まれる豊かさがあることを、本作は教えてくれます。

 1話から五条の前で海夢が生着替えをしたり無防備すぎていろいろチラチラしたりと、セクシーな場面はかなり多めではありますが、何かに対する強い“好き”の気持ちがある方なら、老若男女問わず楽しめる作品なのではないかと思います。

 全12話とサクッと視聴できるボリュームなので、気になった方はこれを機にイッキ見してみてはいかがでしょう?

アニメ『その着せ替え人形は恋をする』作品紹介

キャスト

  • 喜多川海夢:直田姫奈
  • 五条新菜:石毛翔弥
  • 乾紗寿叶:種崎敦美 ※
  • 乾心寿:羊宮妃那
  • 五条薫:斧アツシ

※崎はたつさき

スタッフ

  • 原作:福田晋一(掲載 『ヤングガンガン』スクウェア・エニックス刊)
  • 監督:篠原啓輔
  • シリーズ構成・脚本:冨田頼子
  • 副監督:平峯義大
  • キャラクターデザイン・総作画監督:石田一将
  • 総作画監督:小林真平、川妻智美、山崎淳
  • メインアニメーター:髙橋尚矢
  • 衣装デザイン:西原恵利香
  • 色彩設計:山口舞
  • 美術設定:根本洋行
  • 特殊効果:入佐芽詠美
  • 撮影監督:金森つばさ
  • テクニカルディレクター:佐久間悠也
  • CGディレクター:宮地克明
  • 編集:平木大輔
  • 音楽:中塚武
  • 音響監督:藤田亜紀子
  • 音響効果:野崎博樹、小林亜依里
  • 制作:CloverWorks

配信

  • Amazon Prime Video
  • dアニメストア
  • Netflix
  • Hulu
  • U-NEXT
    ほか
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[2022年5月5日16時05分修正]※テキストの一部を修正いたしました。