ファミ通.comの編集者&ライターがGWのおすすめゲームを紹介する連載企画。今回はシリーズ20周年を迎えた『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』をおすすめしたい。

【こういう人におすすめ】

  • シミュレーションゲームが好きで物語を読むのも好き
  • うたわれるもの』シリーズを遊んでみたい
  • GWにふだん遊べない長編シリーズものを遊んでみたい

喜一のおすすめゲーム

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

  • プラットフォーム:プレイステーション4、プレイステーション Vita、PC(Steam)、iOS、Android
    ※iOS、Androidはアドベンチャーパートのみ。
  • 発売日:2018年4月26日(※Steam版は2021年1月22日配信)
  • 発売元:アクアプラス(※Steam版はDMM GAMES、Shiravune)
  • 価格:6,800円+税/Steam 6,600円[税込]/iOS、Androidは無料
  • パッケージ版:あり
  • ダウンロード版:あり
  • 公式サイト
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『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』プロモーションムービー

 “うたう”というひとつの言葉には複数の意味がある。一般的には歌うと使うことが多いだろう。他には唄う、謡う、詠う、謳うとある。どれかしらを見かける機会はそれなりにあると思う。

 それぞれはどんな意味を持っているのだろう。詳しく調べたことがある人は、あまりいないのではないだろうか。この手に持つ『うたわれるもの』は、どの“うたう”に該当するのだろうか。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

 後世に歌(唄)、詩となるほどの傑物が描かれたものか、何かの偉業を成し遂げて謳われたものなのか……などと考えながらプレイしたことを昨日のように思い出す。

 そんな『うたわれるもの』は2022年4月でシリーズ20周年を迎えた。ただ20年と書くだけなら容易だが、実際に積み重ねてきた年月を思うと気が遠くなる。日本ならば、赤子が酒を飲めるようになるくらいの年月だ。それほど熟成された『うたわれるもの』という酒を、まだ楽しんでいないというならば、いま味わってみるのも一興ではなかろうか。ほら、目の前には大型連休の野郎が佇んでいるではないか。二日酔い(遊びすぎ)も問題ない。

 プレイすれば、あなただけの思い出がきっと残るだろう。その思い出に浸る時間は、何物にも代えがたい。その理由は、遊んでみればわかる。遊ぶ理由は、いまから説明したい。いや、どうかさせてはくれないだろうか。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

初見の皆さ~ん!! うたわれるものですよ~!!

 まず、『うたわれるもの』シリーズの説明をさせてほしい。

 本稿で紹介するのは3部作の1作目『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』だ。そのあと『うたわれるもの 偽りの仮面』or『うたわれるもの斬』⇒『うたわれるもの 二人の白皇』or『うたわれるもの斬2』と続く。詳しくはアクアプラスの『うたわれるもの』シリーズ指南書もご覧いただきたい。

 さて、本作の物語は大怪我をして倒れていた男がエルルゥという名の少女に救われることに端を発する。男は記憶を失っており、名前も出自も思い出せない。そして、決して外れることのない仮面をつけていた。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
この男が主人公のハクオロである。名前については、序盤に命名理由が明かされるので読み飛ばさないように注意してほしい。

 それにしても、改めてレビューを書こうと初心に帰ると思い出すことがたくさんある。『うたわれるもの』の住人たちは皆、獣耳と尻尾を有していること。もちろん、ただかわいいから付いているだけではない。

 具体的な理由については、ぜひ本編で確かめてほしい。そういえば最初のうちは、いわゆる亜人的なデザインが多少なりとも気になっていた気がする。でも、プレイしていると全然気にならなくなっていく。なんとなく、その瞬間に自分が『うたわれるもの』の世界に本当の意味で入り込んだんだなと勝手に納得した。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

 いわゆるADVパートがあるゲームで物語への没入感が高まる理由のひとつに、登場キャラクターたちへの愛着があると思う。愛着がわく理由はさまざまで、たとえばキャラクターの出自や性格、物語の展開に起因することもあるだろう。

 とくに『うたわれるもの』は日常とシリアスな戦闘などの描写が巧みだ。楽しくて温かみのある話があったと思えば、厳しい現実を突きつけるような展開もある。そういうものを経て芽吹いた小さな愛着は、ゲーム中盤には無視できないものになっているはずだ。

 主人公のハクオロを支えるエルルゥの献身が、エルルゥの妹でハクオロに懐いたアルルゥの無邪気さが、豪胆の中に気品を思わせるカルラの忠義が、たまにドジだけど折れない芯を持ったトウカの生真面目さが、全員を包み込むようなウルトリィの優しさが、気さくで誰とでも仲よくなるカミュの明るさが、後ろを見ずに突っ走り続けるオボロの熱さが、オボロを支え尽くし続けるドリィとグラァの親愛が、臣たるものとして欠かせないベナウィの姿勢が、漢気溢れるクロウの言動が、言い表せずとも胸に刻まれていく。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

 こうして見えずとも積み重なった愛着がきっかけで、とても濃密なゲーム体験が生み出される。だからこそ、物語におけるひとつひとつの展開や出来事を、我がことのように一喜一憂できるのではないだろうか。

 そして、『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』のエンディングを迎えたとき、それまで紡いできたプレイと思い出の数々が走馬灯のように頭を駆け巡るだろう。その瞬間のことは、いまでも大切な思い出として、胸の内にそっとしまわれている。

物語、バトル、音楽、イラスト、全部まとめて楽しんでこそ『うたわれ』

 『うたわれるもの』シリーズには共通でバトルパートがあり、物語の緊迫感や盛り上がりを演出するうえでも欠かせない要素になっている。もちろん、iOS、Android版でアドベンチャーパートのみを楽しんでもらってもいいのだが、欲を言えばバトルもしっかりと体験してほしい。

 勝つか負けるかの戦いを経て、キャラクターたちが成長し、勝てば祝杯をあげて親交を深める。これは『うたわれるもの』シリーズにおいて、大切な要素なのだ。前述した登場人物たちへの愛着がわくというのには、ともに戦場を駆け抜けた体験も含まれる。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

 戦闘はシミュレーションゲームの形式がとられているものの、難易度が選択できるので苦手な方も安心して遊べる。少し戦闘が物足りない方には、“連撃”というタイミングよくボタンを押してコンボをつないでいくシステムもある。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
それぞれが持つ必殺技の演出も見逃せない。

 なかでも戦闘システムでいちばんのお気に入りは、特定の登場人物同士で協力して攻撃する“協撃”だ。いわゆる協力必殺技のようなもので、特殊な演出も入るため、好きな組み合わせの“協撃”を戦闘中に無理やり見ようとしてしまい、戦闘に負けそうになったこともある。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

 また、『うたわれるもの』の物語を彩るのは、何もバトルパートだけではない。甘露樹氏がデザインした魅力的なキャラクターに(『偽りの仮面』からは、同じくみつみ美里氏もなくてはならない存在)、作品を飾る素晴らしいBGMや楽曲の数々。『散りゆく者への子守唄』は原点的な作品でイベントCGこそ当時のものが使われているが、逆にこれはありがたいなと思う。

 何故ならば、往年のファンには懐かしさを、新たなファンには『偽りの仮面』『二人の白皇』の前の世界を当時のままに感じてもらえるからだ(一部、立ち絵などで新規絵はある)。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
BP割り振り画面では一部キャラクターの立ち絵が新規だ。
『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
『うたわれるもの』の世界には独自の用語が登場するが、それを補足する用語辞典もあるので安心してほしい。
『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
音楽鑑賞ができるモードには驚愕の107曲が収録。気に入ったら、ぜひサントラも手に取ってみてほしい。

『うたわれるもの』で君だけの旅路へ

 ここで語ったことですら、書き手のいち体験でしかない。ゲームには、遊ぶ人の数だけ感じる思いと広がる世界がある。これを読んで『うたわれるもの』が気になったあなたが、あわよくばプレイしてくれることを願わずにはいられない。

 そうした結果、何を感じたのか。それはプレイヤーだけが抱く気持ちであり、あなただけが歩んだ旅路として刻まれていくだろう。どうか1作目をプレイして何かを感じたならば、『二人の白皇』まで手に取ってみてほしい。もしかしたら、あなたは友人に同じことを言いたくなるかもしれない。

 遊ぶ理由は、いまから説明したい。いや、どうかさせてはくれないだろうか、と。

 2022年には、TVアニメ『うたわれるもの 二人の白皇』の放送、シリーズ20周年記念作品『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』の発売が予定されている。それに現行でアプリ『うたわれるもの ロストフラグ』もサービス中だ。

 20周年を迎える本年に、言葉は交わせずとも同じ空の下で『うたわれるもの』を多くの人が楽しんだなら、なんとうれしいことだろうか……。想像しながら杯を傾けてみたら、いつもより酒がうまく感じた。

『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』
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