KONAMIが2022年4月15日(金)にSteamにて配信開始した対戦ミステリーゲーム『CRIMESIGHT』(クライムサイト)。AI技術が発達した2075年のロンドンを舞台に、“これから起こる殺人事件”を阻止する最大3人のチームと、その中に紛れ、犯行の成就を目指すひとりのプレイヤーにわかれて勝敗を決するゲームです。

 犯行阻止を目指すチームは、犯罪捜査AI“Sherlock(シャーロック)”のサポートを借り、館に閉じ込められた“Pawn(ポーン)”と呼ばれる6人のキャラクターたちに指示を出します。犯行を防ぐとともに、ポーンの中にひとりいる“キラー(殺人者)”を推理するのがこのチームの目的。

 対して犯行成就を目指すプレイヤーは、犯罪計画AI“Moriarty(モリアーティ)”のサポートを借り、シャーロックたちを出し抜いて“キラー”による“ターゲット”の殺害を目指します。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

 本稿では、前半でこのゲームのレビューを、後半では本作のプロデューサー・長田毅志氏、世界観監修を務めたイシイジロウ氏へのインタビューをお届けします。これまでにないゲームとなっている『CRIMESIGHT』への理解を深める一助となれば、幸いです。

『CRIMESIGHT』Steamサイト

『CRIMESIGHT』レビュー。追い詰めるシャーロック、出し抜くモリアーティ! 勝負の行方は、最後までわからない

 本作のリリース前、ファミ通.comの編集者や、KONAMIの開発スタッフと対戦プレイを楽しんだ筆者。今回のレビューは、このときのプレイをもとに執筆しています。シャーロック側とモリアーティ側、両方でプレイできたので、それぞれでの遊びの要点・プレイフィールを順番に書いていこうと思います。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る
『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る
シャーロック(左)とモリアーティ(右)

犯罪捜査AI・シャーロック側でのプレイ

 これから起こる殺人事件を、複数のプレイヤーで協力して阻止するシャーロック側でのゲームプレイ。まず何よりも重要なのは、“モリアーティ側の殺人を阻止すること”。モリアーティ側が殺人を成功させるには、以下の条件を満たしている必要があります。

  • 凶器を持った“キラー”が、“ターゲット”と同じエリア(マス)にいる。
  • “キラー”と“ターゲット”がいる部屋に、視界の効くほかのポーンがいない。

 逆に言えば、シャーロック側はこうした状況にならないように、ほかのプレイヤーと協力して、ポーンたちをコントロールすればよいということ。4日目の朝(10ターン目)に救助隊が到着すると、ゲームは終了。犯行を阻止しつつゲームが終了した場合、シャーロックプレイヤーがキラーを特定していればシャーロック側の勝利。キラーを特定できていなかったのなら、ドローとなります。

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ターンごとに制限時間が設定されている。時間内にポーンへ指示を出そう。
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光っているオブジェクトが何なのかは、シャーロック側からは触れてみるまでわからない。できれば凶器ではなく食料を手に入れたいのだが……。

 「殺人を阻止するには、ポーンを全員密集させておけばいいのでは?」と最初に考えますが、プレイをはじめると、そういうわけにはいかないことがわかります。ポーンには“空腹”の概念が設定されており、1日に1度の食事を行わなければ、徐々に“衰弱”していってしまうのです。衰弱すると移動距離が縮まり、この状態が続くとやがて“視界”を失ってしまう――多くのポーンが視界を失った場合、キラーが行う犯行を“目撃できる者”はいなくなってしまいます。

 必然的に、シャーロック側のプレイヤーは、屋敷内の至るところに配置されている“食料”を手に入れるため、ポーンをあちらこちらへと動かします。配置されているオブジェクトは、シャーロック側からは“食料”か、“凶器”か、それとも“別のなにか”か、ポーンが手に取るまで分かりません。気がつけばほとんどのポーンが凶器を所持し、その中の誰かがキラーだったら、いつでも犯行が可能な状況になっている……なんてことも。こうして好むと好まざるとにかかわらず、状況は刻一刻と変化していくのです。

 “自分はこのポーンを動かしたい”というのは、アイコンでほかのプレイヤーに伝えることができ、これを見たそのほかのプレイヤーは、賛同/拒否の意志を示すことも可能。“モリアーティかもしれないプレイヤー”をミュートして、それ以外のプレイヤーとだけ連携を取る――などの駆け引きもできるようになっています。

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ポーンの移動可能範囲は、1ターンにつき最大3マス。ただし3マス分移動すると“全速力”扱いになり、次ターンでは2マスまでしか移動できなくなる点も注意。
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指示をしたポーンがモリアーティ側と被った場合、モリアーティ側の指示が優先されてしまう。なお、誰も行動の指示を行わなかったポーンは、自動で行動する。

 1日の終わりには、シャーロックの“データ解析”によって“ターゲットの3エリア以内にキラーがいるかどうか”が明らかになります。これによって、ポーンのアイコンの上にある“キラーである可能性”のマークと“ターゲットである可能性”を示すマークが徐々に減っていき、日に日に候補者が絞られていくのです。

 キラーの特定が先か? それとも殺人の遂行が先か? 手に汗握る頭脳戦が味わえます。

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画面上部にあるポーンのアイコンに注目。赤い蜘蛛のマークがキラーである可能性を示しており、青い標的マークはターゲットである可能性を示す。
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シャーロックの“データ解析”が、犯行を阻止するカギ。逆にモリアーティ側は、この能力も見越した立ち回りが求められる。

犯罪計画AI・モリアーティ側でのプレイ

 シャーロック側のプレイヤーを出し抜き、キラーによるターゲットの殺害を成功させなければならないモリアーティ側のプレイヤー。1ターンで動かせるポーンはふたりまでと、シャーロック側より少ない上、“ターゲットにだけは指示を出せない”という縛りも存在。代わりに、いくつかのアドバンテージを持っています。

 まず、ステージに配置されているオブジェクトが、モリアーティ側の視点では色分けされており、食料と凶器の区別が付くという点。食料を探させるフリをして、何食わぬ顔でキラーに凶器を持たせる……といったプレイが可能です。

 また、シャーロック側で指示したのと同じポーンに指示した場合、モリアーティ側のプレイヤーの指示が優先されることに。これによって、シャーロック側の作戦をかき乱すことができます。気をつけなければいけないのは、ここで“キラー”を“ターゲット”に近づけようとしてばかりいると、その行動が怪しまれ、キラーやターゲットが特定される恐れがあるということ。適度にブラフを混ぜるなどの策を講じる必要があるのです。

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モリアーティ側では、オブジェクトの種類が色分けされているため、識別できる。
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シャーロック側と同じポーンに指示を出した場合、それがモリアーティ側の干渉であることがわかってしまう。警戒されないよう、ブラフを混ぜるのも重要。

 ターンの終了時点で“ほかのポーンの視界が効いていない状態で、キラーとターゲットが同じエリアにいる”という条件が整えば、自動的に殺害は発生する。また、モリアーティ側がキラーにだけ実行できる“襲撃”というコマンドを使うことでターゲットを追尾することが可能。ただし、殺害を実行しようとしたところで、ターゲットにほかのポーンがいる部屋へと逃げ込まれてしまったりすると、改めて犯行を成功させるのは難しい状況に。

 “殺害を実行する前にいかに外堀を埋めるか?”というのが、成功率を高めるコツと言えそうですが、時間が経つにつれ、シャーロック側に有利なデータが増えていくリスクも。チャンスは見逃さず、速やかに犯行に及ぶ度胸も必要なのかもしれません。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る
キラーを犯罪へと導くモリアーティ。決行の瞬間には、専用のムービーが流れる。計画は成功か? それとも……?

まとめ:モリアーティ側での勝利にはコツが必要。いままでにない“頭脳派”対戦ゲームへと、きっとあなたも虜に

 今回のレビューで書いてきたのは『CRIMESIGHT』の駆け引きの、基本的な部分のみ。プレイ中は、一部の部屋がガス漏れしたり、窓から野犬が乱入してきて、近くにいたポーンを襲うなどのランダムイベントが起こることもあり、シャーロック側・モリアーティ側ともに、綿密な計画が崩れてしまう場合も。最後まで“こうしておけばOK”といった最善手は存在しない、ハラハラドキドキの頭脳戦が楽しめました。

 モリアーティ側での勝利のほうが、初心者のうちは難度が高い印象で、今回筆者は2回モリアーティ側になったものの、1勝もできず。しかしだからこそ、ポーンたちの行動を完璧に支配し、ターゲットの殺害を遂行できるときが来たら、ほの暗い達成感に震えることになりそうです。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る
ロビーにガスが充満してしまった。ポーンを修理に向かわせることも可能だが……?
『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る
第3勢力“アイリーン”に選ばれたプレイヤーは、モリアーティにだけ意志を伝えられるツールの使い分けが可能。モリアーティを勝利させればアイリーンもまた勝利となる。

 また、4人戦専用の捜査攪乱AI“Irene(アイリーン)”の設定をオンにすれば、シャーロック側として振る舞いつつも、モリアーティ側の手助けをするという第3勢力が登場。全員に伝わるコミュニケーション手段と、モリアーティ側のプレイヤーにだけ伝わるコミュニケーション手段を使い分けられるなど、トリッキーなプレイが要求されます。

 気心の知れた友人どうしで、Discordなどで通話をしながらプレイするのも盛り上がるでしょうし、見知らぬ人とのマッチングにより、お互いのことを何も知らない状態での腹の探り合いをするのも、スリリングなプレイになるはず。

 いままでにない対戦ゲーム、とくに“頭脳戦”や“心理戦”が楽しめるゲームを求めている方は、ぜひプレイしてみてください。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

『CRIMESIGHT』プロデューサー・長田毅志氏、世界観監修・イシイジロウ氏インタビュー

 ここからは、長田毅志氏とイシイジロウ氏へのインタビューをお届けします。非常にユニークな本作が、なぜ生まれたのか? 開発者自身が思う本作の魅力とは?

 “クローズドβテストが不評だったらプロジェクトは打ち切られていたかもしれない”といった赤裸々なエピソードも飛び出しているので、ぜひ最後までチェックしてみてください。

長田毅志(おさだつよし)

コナミデジタルエンタテインメント
『CRIMESIGHT』プロデューサー

イシイジロウ(いしいじろう)

ゲームデザイナー 原作・脚本家 映画監督 作詞家
1967年兵庫県生まれ。
リクルート関西支社やカルチュア・コンビニエンス・クラブで広告・宣伝担当を経てゲーム業界に転職。チュンソフト(2000年入社)、レベルファイブ(2010年入社)において、おもにアドベンチャーゲームのシナリオ・監督・プロデュース、ディレクションを務めたのち、2014年に独立。2015年ストーリーテリング設立。独立後はビデオゲームだけでなく、アニメーションや舞台、ドラマ作品などでも活躍。代表作は『428 ~封鎖された渋谷で~』『文豪とアルケミスト』『新サクラ大戦』『タイムトラベラーズ』『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』『マジカパーティ』など。星海社新書より『IPのつくりかたとひろげかた』『ストーリーのつくりかたとひろげかた』を上梓。

長田氏は大のボードゲーム好きで、自宅に300種類も所有するほど。イシイ氏のアイデアとの融合で“犯人が毎回変わる推理ゲーム”が実現

――『CRIMESIGHT』を開発することになった経緯を教えてください。

長田2020年6月ごろ、部署内で新規の企画を募集したときに、正体隠匿系の推理で対戦するゲームシステムを考えつきまして、その際に提案したアイデアが原型になっています。

 当時は新型コロナウィルスの影響で、在宅勤務のまっただ中だったのですが、私の家にはボードゲームがいっぱいありまして、その中にあるボードとトークンをいろいろと組み合わせたら、システムの検証はできると考えました。その時点でゲームシステムはほぼできあがって、あとはプログラムを組めばデジタルゲームに落とし込めるような状態になっていました。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

――ボードゲームをたくさんお持ちとのことですが、具体的にはどれくらい?

長田300種類ほど持っています。『CRIMESIGHT』で参考にしたのはそのうちの7~8種類くらいのルールです。

 具体的なタイトルを挙げると、古典的なゲームでは『クルード』、プレイした人から類似点について言われることがある『汝は人狼なりや?』(人狼ゲーム)はもちろん、『レジスタンス』というゲームの要素も含まれています。あと少々マニアックなところだと『惨劇Rooper』というゲームなどを参考にしています。

イシイ『惨劇Rooper』はループをくり返すことで犯人を見つけ出すという、『ひぐらしのなく頃に』のボードゲーム版みたいなゲームですね。

――ボードゲームを300種類も所持しているのは、すごいですね……!

長田家を買うとき、奥さんに「押入れはボードゲーム置き場にするからね」と宣言して、許可をもらっています(笑)。

――理解のある奥さんでよかったです(笑)。ゲームシステムがほぼ固まったところに、イシイジロウさんはどのような形で関わっていったのでしょう?

イシイ企画はおもしろいんだけど、商品としてはもう少し何かがほしい……というところを僕が監修するのがいいのではないか、ということでKONAMIさんに依頼していただいたんです。『CRIMESIGHT』以外の企画もいくつか見せていただいたのですが、その中で突出してできあがっていたのは『CRIMESIGHT』でした。

 「では、これを顔を合わせてプレイすることができない、デジタルのオンラインゲームに落とし込むならどういう仕様にすればいいのか?」という点を、いっしょに詰めていこうということになりました。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

――本作はAIとして蘇ったシャーロック・ホームズとモリアーティが対決するという設定になっています。イシイさんは著書である『ストーリーのつくりかたとひろげかた 大ヒット作品を生み出す物語の黄金律』(星海社新書)でも、AIが創作物のストーリーにもたらす変化について書かれていたので、それが企画の下敷きになったのではないかと予想していました。

イシイ『CRIMESIGHT』に関しては、AIという設定は後付けなんです。“同じ事件が何度も起こる”、“けれど犯人は変わる”という状況を成立させるには“AIどうしが戦っている”という設定にするのがいいのではないかということで決めました。

 AIがディープラーニングで「猫とは何か?」といったことを学習して、徐々に精度の高い画像を描けるようになるという話がありますよね。そういった形で「推理小説や犯罪についても、AIはディープラーニングできるのではないか」というのが着想になっているんです。あくまでSFの世界での話ですけど。

長田本当にこのゲームにピッタリな設定でした。シャーロック・ホームズって原作小説だと、世界で唯一の“諮問探偵(しもんたんてい)”――つまり探偵のコンサルティングをしているんです。『CRIMESIGHT』の場合、“探偵のAI”という設定を組み込んだとしても、主役はプレイヤーであるべきだと思っていたので、“プレイヤーの推理をコンサルティングする上位AI”がシャーロック・ホームズというのは、もうバッチリなんですよ。イシイさんからアイデアをご提案いただいて、すぐに「それです!」と(笑)。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

イシイ僕はミステリー系のサウンドノベルや『TRICK×LOGIC』(トリックロジック)の開発を経て、これらの路線で“犯人が毎回変わる推理ゲーム”をコンピューターゲームとして成立させるのは無理だという結論を出したんです。

 “すべての証拠に意味がある”というのは、“すべての証拠に意味がない”というのといっしょなんです。“全員に犯人である可能性がある”ということは、あらゆる推理が成立してしまう。

 『CRIMESIGHT』のゲームデザインは、“誰が犯人で、誰がターゲットか?”というのを隠すことで、何度も問題を作ることができます。僕の中では不可能だと思っていたことが、長田さんのアイデアなら実現できる。それで「僕が参加する意味がある」と感じました。

長田ありがとうございます。

『CRIMESIGHT』は“論理で追い詰める”ことを追求した“非アクション対戦ゲーム”

――“多人数での腹の探り合い”を要求されるオンラインの対戦ゲームというのは先行作品がいくつかありますが、『CRIMESIGHT』ならではのおもしろさというのは、ズバリどんなところにあるとお考えですか?

長田これまでの先行作品は、突き詰めればアクションゲームだったと思うんです。それは“アクションによってなんらかの状況を解決していくゲーム”という意味で。本作は、“論理で詰めていく”ことで解決に向かっていく“推理ゲーム”にしたい、という思いがありました。

 そのため、『CRIMESIGHT』はアクション要素を極力排除して、“論理によって追い詰める”という点に注力したゲームになっています。そこがこれまでのゲームと異なる点だと思います。

 “論理で詰める”ことに加えて“ブラフを混ぜる”ことも可能というバランスを取るのはすごく難しかったのですが、それが独特のおもしろさになっているんじゃないかなと考えています。

イシイアクション要素があると、鬼ごっこ的な要素が前面に出てきます。一方の『CRIMESIGHT』はターン制を採用しているので、チェスや将棋のように、いわば数式を解くようにミステリーを解いていく――ミステリー小説で犯人当てをしていくのに近いゲーム性になっています。

『CRIMESIGHT』(クライムサイト)レビュー&インタビュー。CBTが不評なら発売されなかった!? “論理で追い詰める”新機軸対戦ゲームの魅力に迫る

――駆け引きがかなり入り組んでいて、プレイをはじめたばかりだと、どういった行動を優先すべきかの判断が難しい印象なのですが、ある程度のセオリーのようなものはあるのでしょうか?

長田いまのところ、“これをやれば有利”と言えるようなセオリーは見つかっていません。ただ、悪手というのはいくつかあります。たとえば、シャーロック側にせよ、モリアーティ側にせよ、探索をせずにいると必ず不利になるんです。

 シャーロック側は食料を失って、やがて視界も失ってしまいます。モリアーティも、バレたくないからといって指示を出さずにいたら、凶器を持ったポーンが増えづらいので、犯行を行いづらくなります。また、モリアーティは仮にプレイヤーが指示を出さずにいてもモリアーティ自身が指示を実行してしまうので、シャーロックへの情報バレのリスクを回避できるわけではありません。アクションを起こし続けなければ不利になるバランスにはなっています。

――「みんなで集まっていよう」みたいに考えていたのに、食料などを探してひとり、またひとりと勝手な行動をしていくのは“リアル『かまいたちの夜』”みたいな感じですね。

イシイ開発中、一度食料の概念をなくしたんですけど、「これは絶対なくしちゃ駄目だ」という結論になって復活させたんです。『かまいたちの夜』だったら疑心暗鬼からバラバラになったりしますけど、『CRIMESIGHT』は理詰めのゲームなので、そういうのは組み込めないんです。結果として“リソースが足りなくなるから動く”というのはよくできた仕組みになったと思います。

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――ゲームへの理解度が勝敗に大きく影響しそうですが、プレイヤースキルの差をカバーする方法はありますか?

長田対戦ゲームなので、やり込んだプレイヤーほど勝ちやすくなるべきだとは思っているのですが、運の要素もそれなりに大きいので、初心者だから絶対に勝てないということはないです。

イシイ何度もプレイしていると、初日にモリアーティが勝利するようなこともあるんですけど、そうなるのはほとんど運だと思います。もちろん積極的に仕掛ける必要はありますけど。まだシャーロック側に情報が揃っていない中で、そういう状況になったらさすがにどうしようもないですね。

長田とはいえ、殺害が成立する条件は明示されているので、序盤、とくに1日目はキラー特定よりも偶然にでも殺害条件を満たさないように立ち回る、というのがシャーロック側は重要と言えると思いますね。

 あと、本作のプレイ人数は2人~4人ですが、何人で遊ぶかによってゲームプレイの感覚は相当変わってくるんです。4人だとけっこう運の要素も強い、パーティーゲームっぽい感覚ですが、1対1だと、将棋や囲碁に近いシビアなゲーム性になると思います。製品版で追加された第3勢力の“アイリーン”が入ると、よりパーティーゲーム感が増しますね。

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アイリーン

――ゲームルールの設定変更は、どのような部分を行うことができますか?

長田アイリーンは設定でオン/オフを切り替えられます。ほかには野犬の出現などのアクシデントの頻度を落とすこともできます。ターンごとの制限時間を変更して、よりじっくり考えられるようにするといったことも可能です。

イシイ4人プレイでアイリーンも入れて――というルールだと「えぇっ!?」とびっくりするようなおもしろいことが起きやすいので、配信にも向いているのではないかと思います。初心者の方にも、まずはできるだけ多い人数でプレイして、アクシデントも含めて楽しんでほしいですね。

――マップは現在3種類ありますが、これから追加の予定はありますか?

長田マップの追加はしたいのですが、制作コストというより調整コストがとんでもなく高いんです。

 一方で、既存マップに“ここを危険にする”、“ここは入れなくする”といったギミックを追加するだけでも、かなり遊びかたが変わってくるので、そういった変化はアップデートでなるべく加えていきたいと思っています。

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クローズドβテストでの評価次第では、プロジェクト打ち切りの可能性もあった

――『CRIMESIGHT』は2021年の夏にクローズドβテスト(以下、CBT)を行っていますが、大々的な発表の前にテストを行ったのはなぜだったのでしょう?

長田「新しいコンセプトのゲームだ」と思って提案して、社内で「おもしろそうだ」という評価もいただいたものの、「ビジネスとして成り立つくらい、ユーザーは受け入れてくれるのか?」というのが議論になったんです。

 あまり前例のないゲームだったので、“どれくらいヒットするか?”という予測も立てられない。そこで、ユーザーの反応を直接見た上で検討しようということになりました。

イシイ「おもしろそうだね」となってからが、めちゃくちゃたくさんのハードルがあったプロジェクトなんですよね。でも、それは会社としては当たり前の判断なんです。

 「CBTでお客さんに評価してもらえなかったら、このプロジェクトは閉じよう」くらいの状況だったと思います。そのくらいシビアな目で見られていた中で、結果としてCBTでのお客さんの評価はすごく高かった。

 それで「じゃあやろう」ということになったと、僕は聞いています。「“普通”よりはちょっとよかったよね」くらいの評価なら通ってなかったと思います。

長田ですので、CBTに参加してくださったプレイヤーの方々には、本当に感謝しています。本当に、本当に感謝しています!

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――では、そこは強調して書いておきましょう(笑)。CBTで、とくに手応えのあった反応というものがあれば教えてください。

長田まず、アンケートを取った結果として、ポジティブな反応が異例なくらい多かったというのがあります。それはチーム一同、すごく喜びました。

 個人的にいちばん嬉しかったのは、データとしてプレイログも取っているのですが「この人、3人くらいの交代制でやっているんじゃないか?」というくらい、ずーっと遊んでくださっている方がいらっしゃったんですよ(笑)。刺さる人にはちゃんとめちゃくちゃ刺さるゲームになっていたんだなぁ、よかったなぁと、それを見たときは思いました。「この上位5人のデータはなんなんだ!? ちゃんと眠っているんだろうか?」みたいな。ちょっと心配にもなりましたけど。

イシイ本作は、広いマーケティングを行うゲームではないんですよね。そもそもこれを最初に「おもしろいはず」と思ったのは家にボードゲームを300種類も持っているような人ですから(笑)。でも、それくらいの人間が心からおもしろいと思えるゲームというのは、いま大手のゲームメーカーさんからはなかなか出てこないものだと思います。

 僕も最初「これ本当にやるんですか?」と聞きましたし、途中で「やっぱりちょっとしんどいかも」と言われて「あ、そうかもね」と。でもCBTの結果が出て「じゃあがんばろう」という話になって現在に至るという。そういう紆余曲折を経ていまここにあるゲームなんです。

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ミステリーの新たな可能性、言語の壁を越えた騙し合い

――現在アナウンスされているのはSteam版のみですが、コンシューマーやスマートフォンで展開する予定はありますか?

長田Steam版の発売にこぎつけるだけでも大変だったので、それはSteam版の人気次第――ということになりますね。

イシイSteam版の時点でマウスだけで操作できる設計になっているので、タッチパネルやコントローラーでのプレイへの対応は可能です。ですが、なにぶん順風満帆なプロジェクトではないので、あとはお客様の応援次第で決まっていくというところです。そういう意味でも、KONAMIさんのゲームですが、インディーゲームっぽい作りかたですよね。

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――いちファンとしても応援しています。最後に、本作をどういったプレイヤーに遊んでほしいか、お聞かせください。

イシイまずは対戦ゲームがお好きな方にプレイしてほしいです。それから、“新しい形のミステリーゲーム”として、いままでノベルゲームやアドベンチャーゲームでミステリーを楽しんでいた方にも一度試していただけたらうれしいです。

 いままでとは違った“ミステリーの可能性”を見出していただけるのではないかと思っています。「こんな騙しかたしやがった!」みたいなところを楽しんでいただけるんじゃないかと、僕たちとしては期待しています。

長田本作は会話をしながらプレイするのも楽しいのですが、根っこのコンセプトとしては“言葉が通じなくても騙し合い・腹の探り合いができる”というところを目指しているんです。チャットはおもしろさが“上乗せ”される要素ではあるけど、必須ではない。そういった理由で、ゲーム内にテキストチャット・ボイスチャットは実装せず、PINGやスタンプなどで意志表示をする仕様にしています。

 口下手な人であったり、それこそ外国の人が相手であっても、盤面から“何をブラフにして、何を狙っているのか?”といったことを推理することができますので、コミュニケーションが苦手な人にもぜひ遊んでほしいです。

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