2012年に発売された、ネットワークレコーダー&メディアストレージ“nasne(ナスネ)”。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が生産・販売をしていたが、2019年に生産終了。2021年3月25日にバッファローが生産・販売を継承し、現在はバッファロー製“nasne”が発売されている。

 nasneは、2010年に配信されたテレビ視聴・録画用アプリ“torne(トルネ)”を介することで、プレイステーション(PS)ハードなどを通してテレビ番組を楽しめるもの。人気のひとつだったのが“ニコニコ実況連携機能”だ。

 この機能はドワンゴの運営するニコニコ実況のテレビ番組実況サービスと連携し、torne上でコメントが流れるというもの。会員登録などの条件はあるがコメント保存も可能で、録画番組でも生実況の雰囲気が楽しめる。しかし2020年12月16日、Adobe Flash Playerサポート終了にともない、ニコニコ動画自体のシステムが大きく変わったため、ニコニコ実況連携機能が終了となってしまった。

 そして約1年半の月日を経て、ついにニコニコ実況連携機能が復活を遂げる。どのような反応があったのか、なぜ復活できたのかなど、復活の立役者である3人のキーマンにお話をうかがった。

柳瀬和大氏

SIE プラットフォームプランニング&マネジメント部門 グローバル商品企画部 1課 チーフ(文中は柳瀬)

安藤史朗氏

バッファロー 事業本部 事業戦略部 担当部長(文中は安藤)

高橋 薫氏

ドワンゴ ニコニコ事業本部 ニコニコニュース担当部長(文中は高橋)

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ファンの声が大きな力に

――今回、ニコニコ実況連携機能が復活となります。まずはその経緯と発端を教えてください。

高橋2020年12月16日にAdobe Flash Playerサポート終了にともない、ニコニコ動画は新システムへ移行しました。その際に、torne&nasneへの対応も一端終了とさせていただきました。ただ、そのときの反響がものすごく大きくて。連携機能を楽しんでいた人がものすごく多かったこと、そして多くの人が望んでいた機能だということを改めて感じていました。ですので、2021年1月にはすぐSIEさんのほうに連絡して「反響はどうですか?」と聞いたのが始まりです。

柳瀬まったく同じタイミングで、ユーザーの皆様から連携が終了することに対して、「残念です」とたくさんの声をいただきました。こんなに愛されていた機能なのかと、我々としても改めて感じまして、「どうしようかな」と考えていたところ、高橋さんからお声掛けをいただきました。お互い、強く望まれている機能だと実感したところで、自然と復活へと動き始めました。

安藤バッファロー製・nasneとしても、連携機能が終わるタイミングで柳瀬さんから連絡をいただきました。まだバッファロー製・nasneは発売していなかったのですが、発売前から反響が大きすぎて、これは大変なことになったぞ、と(苦笑)。連絡をいただいた瞬間から「なんとかなりませんか?」と言っていましたね。連携終了と同タイミングで、3社ともにすぐ復活へと動き始めていました。

――やはりユーザーから「復活してほしい」という声も多かったのでしょうか。

柳瀬ありました。ただ反響としては、やはり連携機能の終了の際の声が大きかったです。その反面、連携機能の復活を発表した際には、同じくらいの喜びの反響をいただき、復活させてよかったなと思っています。

安藤バッファローとしては購入者の皆さん向けにアンケートを実施しました。その中で4分の1以上の回答が「ニコニコ実況連携機能を復活させてほしい」という声でした。また、インターネット上での反響を見ても、nasneを語る中では二言目には、ニコニコ実況連携機能の話題があがることが多くて。

高橋ニコニコ動画には「連携機能が復活しないとプレミアム会員を辞めるかも……」と、悲しみに満ちた声がたくさん届いていました(苦笑)。ですが、復活を発表したら「プレミアム会員にならなきゃ!」という反響が多くあがっていて、実況連携機能はものすごい機能だったんだなと改めて認識しました。

柳瀬torneの公式アカウント・トルネフのもとにも、とてもたくさんのレスポンスがあり、つい泣きそうになってしまうほどうれしかったです。

安藤ただうれしいだけではなく、「死ぬほどうれしい!」みたいな声が多くて、そこもうれしかったですね。

高橋本当に、やってよかったです。

――連携終了から約1半年と時間が経っていますが、技術的な面でカンタンには復活させられなかったのでしょうか。

柳瀬すみませんが、そうなります。ユーザーの皆様には関係のない話ではありますが、ニコニコ動画のシステムが変わったため、今回のニコニコ実況連携機能も技術的な仕組みは全部違うものなんです。そこをどう作り込んでいくのか模索しながら制作していたため、長らくお待たせしてしまいました。

――具体的には、どのような苦労がありましたか?

柳瀬仕組みとしては、ドワンゴさんのコメントサーバーからデータを頂戴して、それを画面に表示するという、基本的にはシンプルなものです。重視したのは、当時のニコニコ実況機能を極力そのままの使い心地で復活させることでした。技術的な仕組みが違うので、その面でドワンゴさんにはかなり苦労を掛けてしまったかもしれません。

高橋ほとんどの使い心地は同じになったかと思います。ただ、2020年12月16日以前に録画した番組がまだ残っている場合、申し訳ないのですがその録画映像についてはコメントが表示されません。

柳瀬システムがすべて変わるので、表示できないということです。将来的にはなんとかしたいと思っていますが、今回のアップデートでは未対応とさせていただきました。昔の映像を「当時のコメントをそのまま見て楽しみたい」という声があがるのは、絶対にあると思っています。現時点でお約束できるわけではありませんが、できる範囲で継続的なアップデートはしていきたいです。

高橋旧実況機能のデータは、すべて残してあります。その再活用は可能です。ただまるっとシステムが違うのでそれをどう引っ張ってくるのかが、これからの課題となっています。

――それはすごいですね。文字とはいえ、コメントのデータ量も相当なものなのでは?

高橋詳細はお答えできませんが、約10年の約20チャンネルぶんの番組の実況データですからね。相当な量です。

――では、ニコニコ実況連携機能の魅力を改めて教えてください。

高橋たとえばTwitterなどでも、映画やスポーツなどをハッシュタグをつけたりして、みんなで実況する文化がありますよね。そういった楽しみかたがある中で、ニコニコ動画は画面上にみんなのコメントが流れるのが魅力です。そうすることで、みんなの空気感や感じている雰囲気が“可視化”されるんです。そのライブ感がより強く出るのが、ニコニコ実況だと僕は思っています。歴史の教科書にあるような、街頭テレビの写真があるじゃないですか。ひとつのテレビにみんなで集まって眺める、という楽しみかたに近いと思います。

柳瀬ニコニコ動画さんは、PCベースで始まったサービスなので、PCモニターをメインに想定していると思います。torneは、プレイステーション3で始まった商品です。あの当時からテレビは大画面のものが多く、ゲームユーザーのモニターも大画面化していきました。その大画面で流れるコメントは非常にインパクトがあり、ニコニコ実況連携機能の魅力のひとつとなっていると思います。現在は4Kモニターを超える8Kモニターなどもあり、さらに迫力のあるコメントの流れる様子が見れるんじゃないでしょうか。典型的なものではありますが、映画『天空の城ラピュタ』の「バルス!」が一斉に流れるのは楽しかったですね(笑)。

高橋いや、バルス祭(※)はすごかったです。ちょうど連携機能が終了近いころに、一度テレビで『天空の城ラピュタ』が放送されたことがありまして。そこだけコメント量が、何倍にも膨れ上がりました。

※バルス祭:『天空の城ラピュタ』終盤のクライマックスで、主人公たちが「バルス!」という呪文を唱えるシーンにて、同時に「バルス!」と書き込む、古くからあるネット上のブーム・ミーム。

nasne(ナスネ)&torne(トルネ)にニコニコ実況機能が帰ってくる! 復活実現を目指した3社の立役者にインタビュー

――いろいろな使いかたを想定されていると思いますが、いまだからこその想定している使用シーンはありますか?

柳瀬当時torne・nasneを発売したときと大きく違うのは、スマートフォンが普及していることです。当時はテレビでtorne・nasneを使うことが多かったと思いますが、いまはスマートフォンでいつでも気軽に試聴でき、さらに今回の連携機能でコメントも楽しめます。また、コメント連携機能の何が楽しいのか他人に伝えようとしても、なかなか難しくて。スマートフォンならその場でパッと見てもらえますから、さらなる広がりがあるといいなと思っています。

安藤バッファローとしてはユーザーからの声が発端とはなりましたが、一方で他社さんの動画配信サービスでも、みんなで映像実況を楽しむサービスがどんどん出てきたところに、注目していました。コロナ禍という状況の中で、テレビをみんなでいっしょに楽しむ、そしてそれを追体験できるのは、この時期だからこその魅力だと思っています。新たなテレビの見かたとして、実況機能を楽しんだことがない人にもアピールしていきたいです。

――喜ばしくない状況ではありますが、たしかにいまならではですね。2021年11月には、プレイステーション5版・torneが配信されました。現在の利用状況などを教えてください。

柳瀬何か新しい使いかたをされているというよりは、乗り換えていままで通り使用している、というデータがほとんどですね。プレイステーション5を発表した際に日本のユーザーから多く言われたのが「torneへの対応は?」という声でした。対応しないと「プレイステーション4を片付けられない」と、うれしくも申し訳ないことになってしまって。プレイステーション5自体が供給不足でまだ行き届いていない状況なのも申し訳ないのですが、購入された方々にはしっかりと利用されています。

安藤電子機器って、頻繁にファームウェア(ハードウェアを制御するプログラム)をアップデートしているのですが、じつは購入後に更新してもらえることって、ほとんどないんですよ(苦笑)。それはバッファロー製・nasneも同じです。ただ、プレイステーション5版torneと同時に始めた“お引越しダビング機能”を搭載した際には、非常に多くの方々がファームウェアをアップデートしてくださって、驚きました。お引越しダビング機能を使うということは、おそらくかなり以前から、長く使用されているということですよね。改めて根強いファンに支えられている商品・サービスなんだと実感していました。

――最後に、読者の方々へメッセージをお願いいたします。

高橋このサービスを長く続けていき、まだ体験したことがない人たちにもどんどん広めていきたいですね。ニコニコ実況は、みなさんのコメントがあってこその機能です。torne・nasneでコメント機能を使用する人たちを楽しませるためにも、ぜひ本家ニコニコ実況でコメントしていってください(笑)。

安藤ニコニコ実況の機能は、新しいテレビの楽しみかたのひとつとして、完全に確立しています。それをどう広げていくのかが、バッファローの仕事だと思っています。それもあり、バッファローはニコニコ実況のオフィシャルスポンサーにもなりました。ぜひ今後ともtorne・nasneとともによろしくお願いいたします。

柳瀬nasneのビジネスは、SIEとしては一度諦めてしまったところ、バッファローさんのおかげで継続できました。そして今回、ドワンゴさんのおかげでニコニコ連携機能も復活できました。それもこれも、長く使用されているユーザーの方々のお声があったからです。長く使用してくださって、本当にありがとうございます。可能な限り終わらせることなく、さらに長く続けていけるように努力していきます。

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