【はじめに】
 中国。人口14億人を超えるこの超巨大な国家の片隅で、今、小さなコミュニティが僅かに揺れている。そのコミュニティの名は、”コアゲーマー”。2021年7月以降オンライン要素を含む新作ゲームが一本も販売許可を得られていない状況は今なお続いており、関連企業は既に1万社以上が倒産したと言われている。ビデオゲームに対する法的規制はより一層の厳しさを増しており、未成年のゲームプレイ時間から歴史的表現の修正に至るまで監視の目も実に多種多様だ。巨大市場となった中国を取り巻くビデオゲーム産業の現状に、海外メディアも連日のようにニュースを報道する。時には政治家の視点から、時には投資家の視点から、そして時にはクリエイターの視点から。

 しかし、当然と言えば当然のことなのかもしれないが。これほどまでに世界中から注目を集めていながら、一番身近な視点からこれらのニュースが語られることは、稀だ。……”ゲーマー”。中国ビデオゲーム業界の姿は、今、彼らの目にどう映っているのだろう? この【中国ゲームニュース座談会】は、中国から”ゲームが好き”という共通点を持った人々をお招きし、彼らの視点から中国のゲームニュースを解説してもらう企画である。第一回目となる今回は、規制強化の発端となった2021年7月~9月にかけての各種ニュースについて語っていただいた。

【中国ゲームニュース座談会】中国政府のゲーム規制強化、その本気度は? 2022年はどうなる?

赤野工作

中国のゲームが大好きなライター兼作家。座談会の司会進行を務める。座談会当時遊んでいたゲームは『ファークライ6』。

ニャンさん

元中国の某ゲームメディア編集者、現在はフリーのゲーム好き。座談会当時遊んでいたゲームは『Zookeeper World』。

コさん

某ベンチャーにて中国政府上層部との直接交渉を担当するコーディネーター。座談会当時遊んでいたゲームは『Death Loop』。

ポチルマンさん

超のつくレトロゲーマー。数年前に来日し、現在は開発者として勤務。座談会当時遊んでいたゲームは『ステラグロウ』。

Aさん

「素性を完全に秘匿したい」との要望があったため紹介無し。座談会当時遊んでいたゲームは『Diablo3』。

中国政府はどこまで本気なのか?

【中国ゲームニュース座談会】中国政府のゲーム規制強化、その本気度は? 2022年はどうなる?

赤野2021年9月8日。世界中のSNSをひとつのニュースが駆け巡りました。国営新華社通信の“中国当局が未成年者に対するネットゲーム規制で業界の取締強化”との報道です(中国政府による通知はこちら)。ここ数年、すでに新たなオンラインゲームの認可が凍結される等々、ゲーム業界に対する締めつけは徐々に厳しくなっていましたが、こうして表立って名指しされる事態は珍しく、「未成年向けのビデオゲーム市場が実質なくなってしまうのではないか?」との推測が飛び交いました。この前提として、8月3日には新華社通信関連紙がオンラインゲームを「精神的アヘンである」とかなり厳しい論調で批判したという事実があり、中国政府内でのゲーム産業の立場が変わったのではないか? と不安視されるようにもなりました。

 そこで皆さんにお伺いしたいのは、そもそもこの施策、中国政府としてはどこまで本気で取り締まるつもりなのか? という点です。なぜかというとこのニュース、微博(※)などを見るに、あくまで諸外国のゲーマーの動揺と比べてですが、中国のゲーマーにはあまり重く受け止められていないように見受けられた。よく見たのは「そもそも中国は未成年者のゲーマー人口は少ないから大した影響がない」だったり、「どうせ遊びたい未成年者は親の身分証を借りるから有名無実の施策だ」という抜け道ありきの視点です。また、「キッズプレイヤーがオン対戦に出てくると荒れるから制限してくれたほうがマシ」なんて理由で賛成している底意地の悪いゲーマーもちょくちょくいる。

※微博(ウェイボー)
Twitterによく似た中国の短文SNS。

 皆さんの実感として、中国政府としてはどこまで本気で未成年者のネットゲームプレイを取り締まるつもりがあると思われますか?

ニャンまず大前提として、SNSで政府に異議を唱えるような投稿はすぐ削除されるので、あとからニュースのコメント欄を読んでもそこにゲーマーの本音はあらわれない、ということは言えると思います。つまり赤野さんが微博でご覧になった意見は、すでに“浄化”された内容なんですよ。あともうひとつ、微博自体の検索機能の難もあって、いわゆる実際にゲームを遊んでいるゲーマー層の意見はうまく反映されていないのではないかと思いますね。そうですね……たとえば、もっとほかの場所、百度(※)のBBSを見たりすると意見がまた違ったりする。あとはbilibiliですとか、通話アプリ上なんかでもそうです。少なくとも私が知りうる限りではですが……、やっぱり反対している人のほうが多いのではないかな? という感覚ですね。

※百度(バイドゥ)
百度が運営する検索エンジンおよびポータルサイト。

ポチルマンあー、でも中国のゲームファンの声を聞くなら、僕はQQ(※)をオススメしますね。とくに低年齢版は広く使われているので。ひとつの方法としては、『伝説対決 -Arena of Valor-』は、いま中国の未成年者に大人気なので、どこかのグループに入って実際に彼らの意見を聞いてみると本音がわかると思いますよ。

※QQ
テンセントが運営する中国のメッセンジャープラットフォーム。

ニャンWechat(※)のなにかのグループごとで意見を言うのがやっぱりメインですから。実際、けっこうな割合の人が微博をやらない、あるいは微博でこういう発言はしない、ということはあると思いますね。

※WeChat
テンセントが運営するインスタントメッセンジャーアプリ。

赤野実際にゲームを遊んでいる人たちからしてみれば、当然ながら危惧はある、ということなのですね。じつはこの指導については後日内容が一部報道されていまして、中国政府はゲーム企業に対し18歳未満のネットゲーム利用を週3時間までとするよう通達を行っています。未成年のゲームプレイに対する法規制はどこの国でも似たようなケースがないわけではないのですが、週3時間というのはかなり厳しい部類に入ると思います。しかも中国はオンラインゲームを遊ぶ上で個人情報の登録……というか身分番号を通して個人の特定まで求められるシステムですよね? 週3時間しかゲームを遊べない層、つまりは未成年者に向けたゲーム産業というのは、今後中国でビジネスとして成り立たなくなっちゃう気がするのですが、いかがでしょう?

未成年者が遊べるゲームがなくなっていく、という点についてはご指摘の通りです。もしこの政策に忠実に従う場合には、必ず遊べなくなりますから。中国市場に現在未成年向けのゲームが豊富にあるか? という点はともかくとして、すべてのゲームが個人情報を特定するシステムに参加する必要があるので。では中国に「未成年向けのゲーム」という市場があるかというと……、ないわけではないのですが……、あまりタイトルが思いつかないな。先ほどお話に出ていた『伝説対決 -Arena of Valor-』とか?

ニャンじつはこの手の制限ってのは、いまに始まった話でもないんですよ。10年ほど前からすでに規制の必要があるという声は上がっていて、2017年ごろからテンセントが同様のシステムを運用しています。ほかのゲーム会社も同様のシステムへの参加をずっと模索していた過去があって、そこからつながる形でこの現状がある。今回は政府からの通達という形だったために大きく報道されましたが、大きなゲーム会社の内部ではすでにこういうシステムをずっとテストしてきたわけです。おそらくは未成年の顧客を失った場合のシミュレーションも済ませていると思いますし、リスクマネージメント上でも検討済みでしょう。ゲーム会社にとっては、すでに十分予想されていた規制である。その点については、あまり大きな影響が出る内容ではない……とは言えると思います。

赤野ちょっと追加で質問してよいですか? この顔認証であったり、身分番号の収集であったり、政府から要求を受けて実装している“ゲームプレイを管理するためのシステム”部分って、何か共通のプラットフォームがあったりするんですか? それとも各会社が個別に作って実装している?

ニャンいまの状態では各会社が自分たちでシステムを作っています。プレイヤーから個人情報を収集して顔認証とかもやったりしているんですが……、政府からは、これが良くないと言われていまして。なぜかと言うと、たとえばテンセントのゲームを1時間遊んで、つぎはネットイースのゲームを1時間遊ぶ、そしたら合計2時間遊べちゃうでしょ? プレイ時間規制の抜け道になっちゃってるんですよ。各会社の情報も共通化すべきということで、それぞれの持つデータを公安部にある実名認証のデータベースで管理する方向へ話が進んでいます。まだ実現していないですけど、おそらくは今後そうなっていくでしょう。

 あと、いままで話してきたのはすべてネット接続が不可欠なオンラインゲームについての話じゃないですか。ではネット接続無しでも遊べるコンソールのゲームとかはどうかというと、まだ実際に始まってはいないですが、やろうとしたらアカウント認証部分で締め出してしまうでしょうね。実際中国版のプレイステーションのアカウントは、未成年の場合制限時間を超えると強制的にログアウトされます。

赤野あの、じつはその件、ちょっと細かいことが気になってて。すでにこの座談会を開催している時点で未成年者に対する規制強化は着々と実行されているのですが、一方で「家族の身分証を使って子供たちがつぎつぎとゲームに戻ってきたので、突然初心者のお爺さんのアカウントに無双された~」なんてニュースが笑い話としてシェアされたりもしている。私の感覚からすると、「家族の身分証ってそんなに勝手に盗ってこられちゃうもんなの!?」という感じなのですが……。中国の身分証ってそんなに子供が簡単に手に取れるもんなんですかね?

ポチルマンここは日本と中国との家族の違いもあるかもしれませんね。中国では専業主婦が珍しかったりとか。

Aまぁ親の目を盗んで認証するのはけっこう簡単、ということですね。

家族の身分証を勝手に使うのはあります。……まぁ日本の皆さんが想像している以上にありふれた手法とは思うんですが、実際にはいろんな形で不正ログインは対策されていますからね。たとえばタオバオでアカウントの売買を検挙したり、テンセントなんかは顔認証やプレイ記録から怪しいアカウントを検挙したりしています。まさに先ほどの高齢初心者が突如華麗にプレイしたりするケースとか、何かしらの技術でサーチしていることもあるようです。

Aコさんから見て、今回のケースにおける当局の取り締まり、どの程度の真剣度でやっていると感じられますか。

かなり真面目に取締りが行われていますね。

赤野おお。

どれくらいの真面目さかというと、ここ一連の取り締まりは政府のエンタテイメント業界全体に対する取り締まりであり、ビデオゲーム業界に対する取り締まりもあくまでその一環なので、最上級のものだと考えてもらって良いと思います。

赤野なるほど。役所が成果主義に走ると目的と手段が逆転することがあるってのはよくある話ですからね。

はい。アピールにもなりますから、皆さん真面目ですよ。

赤野今回の一連の流れ、海外の報道を見ますとまず2021年8月3日に中国の新聞がビデオゲーム産業を「精神的アヘン」と批判したことを皮切りに始まっている……という見方が多かったのですが、ぶっちゃけ中国の新聞がビデオゲーム産業を批判するってだけ言えば、それってたいして珍しい話でもないじゃないですか。だからこの「精神的アヘン」って言葉、どこまで真剣に受け止めたらよいのか正直私にはちょっとわからなかったのですが。中国の人たちからすると「今回は本気だな……」って気配はあったのですか?

【中国ゲームニュース座談会】中国政府のゲーム規制強化、その本気度は? 2022年はどうなる?

そうですね……。あの記事は証券時報という株取引をメインとした新聞に載ったものだったのですが、分析するに、おそらくある編集者が勝手に“アヘン”という言葉を使ったものなんです。だから後に記事が一時公開停止になって、再公開されたときには“アヘン”という言葉は削除されていた。上から言われたことではなく、現場で書いてしまったことだろうと(記事はこちら)。

赤野海外の報道でよく分析されていたような、「党の方針を反映したものではないか」というハナシと実態は異なる、ということですね。

はい。もうひとつ、これらの取り締まりを行っている中国の政府機関は中央宣伝部という組織なのですが、彼らはゲーム産業を嫌っているわけではありません。あくまで指示通り健康的に産業が発展し、税金を正しく納めて欲しいという立場なので、ゲームを全面的に否定する、ということはないんです。実際、第一報ではテンセントも株価が大幅下落しましたが、翌日(状況が確認されると)ほぼすべて回復しました。ちょうど同じころ、中国政府は国内の受験産業にかなり厳しい法規制を実施しており、たったの一週間ほどでひとつの業界を軒並み潰してしまったんです。なので市場は「つぎはゲーム産業ではないか」とパニックになってしまった、ということだと思いますね。

赤野ではそうした前提を踏まえて、皆さんはここ一連のゲーム規制加速の発端はどこにあると考えていらっしゃいますか?

どうして一連の動きが発生しているかというと、かなり複雑な話で、上から下まで理由は多岐にわたります。まず上からお話しすると、中国政府は、青少年が国家的なイデオロギーをどう受け止めているのか非常に重要視しています。そうした事実の裏付けとして、十八大と十九大(※)でも青少年に関する議題に時間が大きく割かれました。そもそも何年も前から、党の体制として青少年の思想を注視する背景があった、ということです。

※十八大と十九大
中国共産党全国代表大会の第十八回大会(2012年)、第十九回大会(2017年)のこと。政府最高機関とされる全国人民代表大会に対する、中国共産党における最高機関。五年に一度開かれ、国体の方針が議論されることが多い。

 そこから一段下がると、現在中国では娯楽、とくに芸能界を整理するという動きが活発になっています。中国で人気のアイドルグループがセクハラや労働問題に巻き込まれる事件が相次ぎ、若い人たちは芸能界に関する法体制や社会体制についても疑問を持つようになりました。それを受けて、政府としても青少年の思想やイデオロギーをちゃんと管理しなければならない、と改めて危機感を持っている。ゲームだって若い人たちの娯楽ですから。そうした一環として見直しが行われている側面はあるでしょう。

ニャンゲーム業界からの影響ももちろんありますよ。こうした一連の流れを中国のゲーム産業がどのように受け止めているかというと、大手企業は歓迎している部分もあるのではないかと思いますね。

赤野歓迎!?

ニャン歓迎まではいかないかもしれませんが(笑)、そもそも未成年者からの課金の割合が0.6%しかないですから。むしろ早めにこうした規制に従っていれば模範的な企業として政府にアピールすることもできますしね。もちろんゲームによってはそうではない。たとえば中国版の『マインクラフト』とか『ミニワールド:クリエイター』などは未成年者がメインのゲームです。そうした毎日アクティブユーザーが動いているゲームは大打撃でしょうね(※)。ただ一概には言えませんが、金銭的なダメージはほぼないでしょう。あと。

※中国の未成年のオンラインゲームユーザー
中国互联网络信息中心が発表する“2020年全国未成年人互联网使用情况研究报告”によると、過去半年でゲームを遊んだ未成年の割合は62.5%。

赤野あと?

ニャン成人が遊ぶゲームにもこの話には絡んでいて。

赤野と言うと?

ニャン例えば、男性の女性化の禁止、ですとか。

赤野ああ~、表現に関わる問題ですか。

ニャンはい。青少年の思考を“社会の正しい姿”にあわせよう、という話においてですが。男性のキャラクターの多くが女性になってるゲームあるじゃないですか、ああいうのが上から見ると良くない。ほかにもエロスとか露出とか、歴史改変とか、政府上層部が思う青少年向けのイデオロギーに対して不健全と見なされる要素って多岐に渡るんです。なので、一部のゲーム会社はそうした動きを察知していち早く表現修正に動き出した。こうした多くの角度からの影響が相互に影響をおよぼし合って、一連の流れの始まりになったわけです。

赤野うーん、そうかぁ。短期的には影響がないかもしれませんが、一世代がゲームから切り離されるのは長期的な影響が大きそうな感じもしますね。中国のeスポーツの代表などは戦力低下につながる気もします。

もちろんそうですよ。実際、政府の発表を受けて直ちに解散したeスポーツのチームもいくつかあります。未成年者が練習生として参加しているチームなどは戦力構築システムが破綻したことになりますから。短期的な収入には影響がないと思いますが、長期的に見るとゲームを遊ぶ人が少なくなれば作る人も少なくなる、将来は大きな損失を生むと思います。中国のeスポーツが発展してきた背景には“お国のため”という精神性がありました。ゲームで勝って、祖国に栄誉をもたらすと。なのでeスポーツを宣伝するときは、どのゲーム会社もゲームではなくスポーツとして売り込んできたのです。中国では体育局という部署がスポーツを管理していますが、おそらく彼らはeスポーツを他の競技ほどには重要視していません。だから、まぁ、こうした問題もそこまで深刻には捉えていないでしょう。選手にとってはかわいそうな話ですけどね……。

赤野そういう形で中国の選手が弱体化するのは煮え切らないなぁ。

Aそうなんですか? でも、日本のeスポーツと言えば格闘ゲームとかバトルロイヤルとかが人気ですよね? 中国で人気のMOBAは日本のゲーマーはあまり熱心なイメージがなかったのですが。

赤野もちろんプレイ人口は中国より少ないかもしれませんが、やってる人たちは「中国には負けんぞ!」って気持ちでやってますよ。どうせやるなら強い相手を倒したい、みたいな話はよくある話な気がするけどな。……あっ、ごめんなさい。熱が入って関係ない話しちゃった、つぎの話題行きまーす。

歴史認識をゲームで問う難しさ

赤野えーでは、続きましてのニュースですが。先ほど話題にもちょっと出ましたが、昨年の夏、日本でもサービスされている人気タイトルにおきまして、一部キャラクターが突然改名されて画像も差し換えられる、という事態が発生しました。まぁ一部と言いますか、中国に縁のある歴史上のキャラクターですよね。ある歴史上の人物のキャラクターなんかは名前がシステム上の数値に差し替えられ、キャラクター画像も個人を特定できないものに変わってしまった。現在ではその名前も差し換わり、隠語のような表記に変わったりしています。

 要は課金して入手したゲーム内アイテムが、見た目だけの話ではありますが、ある日突然よくわかんないものに差し替えられた。えー……これについてですが……まぁいいや。ハッキリ言いますと、私が同じ対応を喰らったらめちゃくちゃブチ切れると思うんですが、中国のユーザーの皆さんはどのような反応だったのでしょう。だって自分が課金したものが突然消えちゃったんでしょ!? 腹が立ってしかるべきだと思うんですが。「しかたないな」なのか、「ふざけるな!」なのか、皆さんの目から見ていかがでしたか。

ポチルマンこれはどちらかというと「しかたないな」って反応のほうがメインだった気がしますね。なぜかと言えば、ゲームに対する規制って10年以上前からずっと同じことで、慣れてるんですよ。

赤野なるほど……。なぜこういう質問をしたかというと、ちょっと先ほどの話と似た部分もあるんですが、私の見る限り、この対応自体が抗議より先にネタとしてユーザーに受け入れられてるなーって気がしたんですよ。ふつうに笑い話になってる。コラ画像とか作られて、システム上の数値を名前として名乗らせたりとかね。まぁそういうノリはどこにもありますけど、みんな真意はどこにあるんだあれは? という疑問があって。

一律にうれしがってるとか悲しがってるとかは言えないと思いますね。なぜかというと、いまの中国の若い人たちは愛国心が強いですから。人によってはゲーマーでもあるけれど、やっぱり自国の歴史は尊重すべきという立ち位置の人もいます。好きなゲームではあって、お金も出してはいるけれども、政府の指示であればこうした修正も当然。そう受け止められている。

 あくまで私見ですが、これには根拠もあって。2000年代から思想教育をちゃんと政府がやるようになった、ということです。たとえばボーカロイドでイベントを企画したりとかね。もっと大きな話で言えば2000年代以降中国の経済成長は目覚ましく、強国になった自国を誇りに思うのもおかしい話ではありません。米中の競争も激化していますから、彼らの世代は愛国心を持って対抗しなければならない背景もある。また大前提として、こういう話は若い人にとっては魅力的でしょう。みずからもまた国の一部として、そういう大きな歴史に参加しているという感覚は。

赤野ではユーザーも大方の人は「修正されてもしかたないよね」と受け止めている、と考えてよいのでしょうか。

Aそうですね、大体そのような感じだと思います。

赤野ちなみになんですが、この事件と前後してほかのゲームでも似たような歴史描写の問題が起きましたよね。南宋の英雄・岳飛が上半身裸でヤギを連れているイラストが公開されたのですが、“肉袒牵羊”といって微子啓や鄭襄公など過去の武将たちが降伏の際に裸でヤギを連れていたという逸話があり、暗に岳飛を降伏者として描いているのではないか? とユーザーから指摘を受けた。岳飛は金に対抗した国家的英雄ですから、それが兜を脱いでいるのは「これはもう、敢えて降伏したかのように描いているだろう」と。

Aありましたね。

赤野結果として中央人民広播電台が「歴史を修正するゲームは許さない」という論説記事まで出すこととなり、メーカー側は「これはヤギではなく十二支イベントの羊です」と釈明し、イラストを削除するに至った。あれも、メーカー側は炎上を招くことは一切予期出来なかったのでしょうか? ブラックジョークが政府から怒られちゃったのか、そんな意図すらなかったのか。それとも過去に似たような事例があって、誰でも簡単に想像がつく危うい歴史表現だった?

Aいや、予期してなかったと思いますよ。でも、敏感な人はいますから。時には虫眼鏡で探して「国を侮辱してない?」と指摘してくるケースもある。一部の人が騒げばみんなソースを確認しないからネット上ですぐ炎上するでしょう。

赤野……同様の事例がほかの作品でも起きているのかが気になるのですが、そこはいかがでしょう?

Aいくらでもありますよ!

ポチルマンけっきょく、規制されてても構わないんですよ。PCゲームについてはイヤならMODで消しちゃうとか、海外版を買うとか、方法があるので。

Aでもそれは、モバイル版では使えない方法ですからね……。

赤野そこも少し気になりますね。皆さんけっこうなゲーマーなのでムダな質問かもしれませんが。中国国内向けのゲーム配信プラットフォームって使ってます? いまの中国のコアゲーマーって、さっきポチルマンさんが仰ったように「規制された国内版を遊びたくないなら海外版を遊べばいいだろ」、「海外サーバーで遊べばいいだろ」、という基本的な考えかたがあるじゃないですか。じゃあ、そもそもそういう制限の多い国内向けのプラットフォームって、皆さんの中でどういう立ち位置になってるのかなーって。

ニャンまぁ正直あんまり使ってないですね、一部有名タイトルを遊ぶときにランチャーとして使うことがあるくらいで。

Aうーん、使ってないですね。

赤野そうでしたか……。これまでは、国外向けの中文版ゲームが海外プラットフォームを通して中国在住のユーザーでも買えちゃうとか、あるいは海外サーバーにVPNを通して入るだとか、厳しい規制があるにせよ、抜け道ってないわけでもなかったと思うんです。しかし2021年9月29日にあった報道ですが、中国国内213のゲーム会社が合同で、海外プラットフォームでゲームをリリースしないようにするというガイドラインを出した(ガイドラインの詳細はこちら)。

 2021年末にはSteamへのアクセスが突如遮断され「ついにブラックリスト入りか!?」みたいな報道も出ました。ブラックリスト入り自体は2017年から確認されていましたが、今も繋がったり繋がらなかったりで状況の見通しは暗い。今後はこうした抜け道も閉ざされていくのかな、という感覚があるのですが、いかがでしょう? いままでのお話をお伺いするに、こうした海外プラットフォーム外しもゲーム業界が政府に忖度して動いている、その一環なのかな?

A大前提として、中国のゲーム会社はほとんどがモバイル向けのゲーム会社なので、このガイドライン自体にはそこまでの意味はありません。現状Steamなどの海外プラットフォームで販売されているゲームは国の審査も行われていませんし、彼らがこのガイドラインでやろうとしていることは、あくまで「我々は今後も国家の定めた方針を尊重します」という声明を改めて強調しただけです。我々は審査されていないゲームを出すことはない企業ですよ、という社会や政府に対するアピールですよね。

 これも同時多発的に起きただけで、政府の中で何かしらの方針変更や基準改定があった結果、というわけではないと思われます。昨日今日きびしくなったというわけではなく、徐々に規制がきびしくなった結果が見えてきたということです。

ニャンもちろんこうした動きも業界側の忖度と言えば忖度なのですが、お話をお伺いする限り認識のズレがある気がしますね。まず業界が連合してひとつの声明を出している、という事実の意味合いが日本と中国のゲーム業界では大きく異なります。例えば、今回声明を発表した213社は組合や業界団体という体をとっているわけではありません。ゲーム会社が自発的に立ち上げた組織ではなく、ゲームの取り締まりを担当する中央宣伝部に代わって、中央宣伝部の指示で集められた集合体なのです。

 簡単に言えば、まず始めに「忖度しなさい」という政府からの意志表示があったはずなのです。その後、忖度の詳細について決めるために業界側が集められたと。先ほどの赤野さんの聞きかただとそもそも「忖度をするかしないか?」を業界側が考えているように聞こえましたが、違うと思います。業界側は「忖度しなさい」という指示の下どう忖度すべきかを考えた、その結果として先ほどの声明が出された、ということなのです。

赤野なるほど。ではこうした声明については、上の動きを察知した業界が先んじて動いたというよりは、まず上からの指示があって声明を出したというアクションである、という認識なのですね。

Aはい、その認識で問題ないと思います。

ガイドラインに直接的な影響がないといっても、その背景には政府からの指示があったでしょうね。そこで何の話が出てきたかというと、ふたつありまして。まずひとつは、審査を受けていないゲームは販売できないということです。これはいままでもそういう基準でやってきましたが、今後は審査を受けていないゲームのCMやPRもできなくなりました。もうひとつは、中国のユーザーが海外のプラットフォームを通じてゲームを遊ぶことを禁止すること。これはまだ意見として出ている段階で何か実施されたわけではないのですが、もしかすると先ほどの赤野さんの危惧通り、今後具体的に実施される可能性はあるでしょう。具体的には、やはりSteamを念頭に置いた声明なのではないでしょうか。

 政府もどういうやりかたで禁止するかを検討していると思います。いつになるかはわかりませんが、中国ユーザーは海外リージョンのゲームを遊べなくなるでしょう。SteamChinaは中国企業である完美世界の管理するプラットフォームで、現在では中国リージョンのSteamも中国企業に管理されています。そもそも将来的には海外にいたとしても支払方法がアリペイだと一発で足がつくでしょうし、IPアドレスも検査されていますし、強制的にSteamChinaに移されちゃうということも考えられるわけで、やりようはいくらでもあるということです。

ポチルマンタオバオ(※)なんかでは隠語で売っているゲームもありますよね。要は物理メディアならそういう規制を逃れられるから、隠語で流通させるだけの需要がすでにあるってことですよ。

※タオバオ……淘宝。中国で展開されるオンライン商取引プラットフォーム。

赤野過去、中国政府がゲーム産業への規制を強化するたびに、中国国内のゲーム企業が海外市場に販路を見出すことは多くありました。規制強化を受けて、今後は業界動向にどのような影響を与えると思いますか?

中国産ゲームの海外展開に関しては、これはほかならぬ中国政府自身が支援しています。むしろどんどんゲームを輸出して欲しいという立場と考えてよいと思います。歴史的な経緯があり、中国政府は厳しい国内向けの基準と国外向けの基準という常にふたつの基準を持って対応してきました。これからも同じでしょう。海外市場に向けて作るしかない状況は続くでしょうね。

ニャンふたつの基準には裏の意味もあって、海外ユーザーが中国サーバーでゲームを遊ぶことも現状ほぼ不可能な状態になっていますよね。国内外の分離。その傾向も今後もどんどん加速していくでしょう。

ポチルマン中国のVPNを使って遊ぶことはできないんですか?

A身分証明書や携帯電話の番号が必要ですからね。

赤野それ、困ってるんですよ……。中国のゲームの新作出たから遊ぼうと思っても物凄くハードルが高くて……。あの手この手で、どうにか遊べないかって、頭抱えてて……。

ニャンいやー、まさにそれですよ。いまの赤野さんが、政府が構築しているシステムが阻止したい例外のひとつです。

赤野いやね、でもね、私は本当にね、純粋に、ゲームを遊びたいだけなんですよ……。中国政府に迷惑がかかってると言われたら、返す言葉もないけど……。中国政府的には、あんまり俺にゲーム遊んでほしくはないんだ……。

Aまぁ、ふつうに考えたらいまの赤野さんって単なるシステム上の例外ですから、今後何らかの形で抜け穴になってもイヤだし、遊んでほしくないでしょうね。

赤野そっか……。

正しい社会の姿を巡る駆け引き

赤野これまでの皆さんのお話を総括しますと、中国政府には“社会の正しい姿”のグレート・プランがあり、国内のゲーム産業もその姿に自分たちの業界をすり合わせるために忖度して動いている。ゲームプレイヤーも対応にいくらかの不満はあれど、多かれ少なかれその方針に納得して受け入れている。という情勢が何となくですが伺うことができました。そうなると、少しお話が戻ってしまうんですが、一点どうしても確認しておきたいニュースがあります。先ほどニャンさんにも話していただいたキャラクター描写の件ですね。

 具体的に言いますと、2021年9月24日から26日にかけて北京で開催された“北京国际游戏创新大会(北京国際ゲームイノベーション会議)”の内部資料が流出した、というものです。政府主導で多くのゲーム会社が集められたカンファレンスで、業界の注目度もかなり高い。先ほどお話しした未成年の健康的成長が多く取りざたされた会議でもありました。とくに注目されていたのは中国総局の監査専門家が記述したコンテンツレビュー基準についての所見で、いくつかのゲームタイトルを名指しして「どういけないのか?」を解説していた。そこで、日本でもすでにサービスが行われているゲームも取り上げられていたんです。

 指摘点は大まかにいうと、「値段設定」、「反社会」、「文化性及び歴史観」、「不適切な宗教要素」、「技術審査」の5目標に分けられるんですが、中でもそのタイトルは「不適切な文化性」を持つタイトルとして挙げられていた。で、その理由ってのが、「女性的に見える男性が出てくるから」ってものだったんです。もう少し正確に言うと、主観的に見て性別を判断できないキャラクターは価値の混乱を招くから、説明を見ないと性別を区別できないようなキャラクターは、ダメだと。このゲーム関しては別格というか、代表的なものとしては個別に不適切なキャラクター名まで例示されてたらしいんですよね。

 もちろん流出文書ですのでどこまで信憑性があるかは疑わしいところではあるのですが……、じつは大会公式の発表でも、中国音像与数字出版协会が、この流出文書とかなり近しい発言をされていまして。掻い摘んで説明しますと「誤った価値観、わいせつ物、グロ表現、拝金主義、BL、女性っぽい男性などの“不良表現”に意識的に抵抗し、業界全体で浄化の努力をしなさい」みたいなことを仰っています。先ほどまでのお話に照らせば、この公式発表が「忖度しなさいよ」という政府からの指示で、流出した内部文書が指示を受けての忖度の具体的な内容だった……ということになるんじゃないかと思います。

【中国ゲームニュース座談会】中国政府のゲーム規制強化、その本気度は? 2022年はどうなる?

 平たく言えばこれって、女性っぽい男性、中国語で言うところの“娘炮”(※)や“偽娘”(※)の禁止ですよね。海外の報道ではそのほかの項目についてはある程度中国のお国柄……という受け止めかたも多かったですが、この禁止についてはかなり物議を醸しました。ともすればLGBTの表現規制にもつながるような話だったからです。文書内ではBL作品に対する規制も示唆されていましたしね。ジェンダーの描きかたをいちいち”社会の正しい姿”に合わせなきゃいけないのは、昨今のトレンドを考えると大変なことだと言わざるを得ない。今後海外で作られた作品が中国市場に入ったときに問題はないの? って不安もある。皆さん、このニュースをどう受け止めましたか?

※娘炮
女性っぽい男性、という意味のスラング。本人の性自認とは無関係に、メイクや美容に興味を持つ男性アイドルなど、ファッションを評することが多い。

※偽娘
偽の娘、日本語で言うところの“男の娘”に近い意味を持つスラング。少女のような外見をした少年一般に対し使われることが多い。

ポチルマンところで。

赤野はい。

ポチルマン私の大学の後輩は男の娘好きでした。

赤野突然何の話!? あ、ああ、そういう作品の需要が中国にもありますよって話か……。ちなみにどんなキャラが好きだったとかはありますか?

ポチルマンいや~どんなキャラだったかは覚えがないな。

赤野なるほど、わかりました。ちなみに私も男の娘は嫌いではないです。というか好きか。ただ……端的に「女っぽい」と言われても正直わからないと言うか、どういう基準で判断してるのかがよくわからなかった。なんかこう曖昧というか、「こいつはナヨナヨしてるからダメ!」くらいの説教ノリ、というか基準じゃありません? これも中国のユーザーから見れば「こういう基準だな」ってのが肌感覚でわかるもんなんでしょうか?

A因果関係が逆です。これまでの話のすべてについて言えますが、基準が曖昧だからこそ権力が動くと思うんです。

赤野逆?

あくまで私見ですが、こういった審査にひとつひとつ客観的な判断基準を定めるのは無理ですし、中国のユーザーだからと言って予想がつくものでもありませんよ。最終的には審査をしている人の主観に委ねられるものなので。

Aなので、日本のユーザーとか中国のユーザーとか関係なく、状況は同じです。誰にもまったくわからないです。たぶんパッと見、最近のゲームキャラクターでは一番中性的だったからでは? くらい。私たちは少なからずゲーム業界に携わっているのでこうして話していますが、その私たちでもわからない。一般の人たちは国がどのように審査しているのか、何を目的に審査しているかも考える機会はないと思いますし、おそらく答えも必要とはしていないでしょう。

「基準があるから審査がある」という状況なら、キャラクター設計する人も対策を講じますよね。でも基準がわからないのに審査だけあるとなったら、上の考えを忖度して自分たちで勝手に基準を作らざるをえない。上の人からしてみれば「審査があるから基準がある」状態が望ましいということでしょうね。

ポチルマン逆に言うと、どれほど審査がきびしくあれ、そういう曖昧な状況だと“裏の手”が残るってことも言えますね。……たとえば、審査とは無関係な同人作品として出しちゃうとか。

Aいや、でも最近は同人も安全とは言えないですよ。同人作家が不法な収益活動をして逮捕されるケースも少なくないので。

赤野娘炮的なキャラクターがゲーム内で描けないとなった場合、中国国内での影響はどう考えられるのでしょう? ファンのすそ野が広くて、同人活動でひとつのジャンルが消えちゃうかもー、とか。

Aあまり影響はないと思います。企業が出しているゲームのレベルで言えば、メインキャラクターになっていることはまだまだ稀ですし。

ポチルマンまぁ三国志のゲームとかだと、そもそもあまり(そう描くキャラクターが)いないですからね。

赤野bilibiliのゲームとかは?

Abilibiliも案外男の娘キャラっていないですよ。問題視されそうな部分があるとすれば、露出度がめちゃめちゃ高いことのほうです。

赤野アハハハハ。露出度はね……そうですね……。

A胸がめちゃくちゃ揺れるとか、下乳が出てるとか。

赤野アハハ……。

A話は逸れちゃいましたけど、本当にキャラクター数も少ないし多分影響もそんなにないと思いますね。

赤野ちょっと視点を変えますが、LGBTQの人々を描く観点からの反応はいかがでしたか? いま日本でこの文書と同じものが世に出回ったとすれば、それは暗に「LGBTQの人々をゲーム内で描かないほうが良い」という業界指針として受け止められ、かなりの批判を受けると思いますが。

Aあくまで暗黙の了解だとは思うんですが。もともと中国のコンテンツ制作の現場では、映画とかテレビとか、創作物の中でLGBTQを描かない、という立場をとることが多いんですよ。

赤野え……そうなんですか。

Aはい。実際、現場レベルでもLGBTQを前面に出さないというポリシーはあります。なんて言うかな。肯定とか否定とかそういうレベルの話ではなくて、基本的に「触れない」という対応をとっているんです。

ポチルマンむかーしゲイの人向けのBBSを見たことがあるんですが、それもいつの間にかなくなってたし、これに関する規制は昔からありますね。

A当時、BBS運営は政府方針に沿うようにしなさいという法律ができて、いろいろなBBSが一斉に消えたという逸話もあります。

ニャンLGBTQという立場をどうこうという話題については、個人間で話すことは問題ないのですが、公の場に出された創作物、ゲームや映画やドラマが作品として支持を明確にすることは、立場的にまずできないですね。では、逆にファン層はというと。たとえばBLは中国でも女性ファンが非常に多いですが、彼女たちがこの規制をどう見ているかと言えば……、おそらく先ほど話にも出できた問題と同じだと思います。

 「いつか規制されるかも」という気持ちはずっと持ち続けていて、実際に取り締まられる日が来たら「しかたがない」と認めるしかない。後は残った作品を楽しめるだけ楽しむか、あるいは今後はまた規制の範囲内で作られるものに期待する。ほとんどの人は、現実を受け入れるという立場でしょう。

赤野まぁ、やれる範囲でやっていくしかない、ということですよね。

Aそうですね。これはゲームに限らずほかのことにも言えます。たとえば中国ではいまネット小説が人気なのですが、何年か前に一番人気だった投稿サイトがきびしく取り締まられたことがありました。“晋江”(※)というサイトです。まだサイトは残っていますが、国の取り締まりを受けながらも存続している。文学作品の取り締まりは古代からよくあることですが、ここも取締りの中で現状を受け入れながら、できる範囲で新しい作品を模索しているわけです。

※晋江
正式名称は”晋江文学城”。2003年オープンの主に女性向け小説を取り扱う小説投稿サイト。猥褻物頒布の罪で作家が逮捕される事件が複数回発生し、それに伴って題材や性行為の描写に規制がかけられている。(サイトはこちら

赤野うーん。ゲーマーの皆さんの大半が、いつどういった基準で規制が行われるかはわからないけれど、歴史的背景から「いつかはゲームも規制されるかもしれない」という覚悟の中で過ごしてきた。だからこそ、いざ実際に規制強化されてもそれを受け入れている、ということなのですね。

Aそうですね。多かれ少なかれ、「いつかはなくなる」という覚悟は皆さんある程度心の中に持ちながらゲームを遊んでいると思います。

大胆予測!2022年の中国ゲーム業界!

赤野では、これまでの議論を踏まえた上で。皆さん2022年の中国のゲーム業界はどのようになると予想されていますか?

ニャンこれからのゲーム業界の展望は、映画業界の現在を鏡にすることである程度見えてくるのではないかなと想像しています。中国の映画業界に対する審査はいま、ひとつの作品につき計3回行われると言われています。すなわち撮影する前、撮影中、そして撮影後です。最初から最後まで国が徹底的に審査して、国が国民に見せて良いと判断したもの、管理下のものしか公に出すことはできません。中国のゲーム業界ももしかしたらですが、映画業界と同じように最初から最後まで審査する動きになるんじゃないかと思いますね。なぜかというと、ゲームに対する審査は完成してからの1回のみで、リリース後は放置されてきたから。今後は開発中も何かしらの審査が入るようになるかもしれません。

 将来的に映画業界と同じ道をたどるとすれば、夢を持って製作を続ける人たちは必ずいるでしょうが、その人たちの努力でもって数少ない秀逸な作品を年に2~3作送り出す……そんな業界になるんじゃないかと思います。ユーザーにとっては海賊版を遊ぶか、何かしら別の方法で海外のゲームを遊ぶか、あるいは数は少ないでしょうが正式に政府から認可されたゲームだけを遊ぶか……そういう市場になっていくのではないでしょうか。

私からは具体的な展望を3つあげさせてください。まずひとつ目ですが、税金の話。中国ではIT業界は産業育成のため長らく税制優遇措置を受けてきました。もちろんこの優遇措置にはゲーム業界も含まれています。すでに成長した産業と見なされるようになったIT業界およびゲーム業界は、これから税制優遇措置から外されて税金を多く払わなければならなくなるでしょう。

赤野あ~、なるほど。中国の新聞がゲーム業界に対して「税金を納めていない」といった論調をとりがちなのは、実際優遇を受けているからなのか……。

そういうことです。ふたつ目は、審査のやりかたが変わると予想されます。どう変わるかというと、たとえば日本ではレーティングがあるじゃないですか。年齢別に遊べるゲームを分けているような。基本的に中国の審査にはレーティングというものはありません。出していいか、出してダメか、それだけなので。まぁそもそもレーティングという基準をユーザー向けには明かすわけにはいかないので、外に向けて基準を明確化することはこれからもないとは思うのですが。審査のやりかたについてだけ言えば、今後は内々でレーティング方式が採用されるのではないかとはみられています。年齢別、内容別に審査が細分化された結果として、審査はこれまでより厳しくなるでしょう。

 そして3つ目ですが……、こうした審査のきびしさが、結果的に世に出る作品のクオリティーを左右してしまうのではないか? ということを危惧しています。審査がきびしくなることで、1年にリリースできるゲームの絶対数が絞られるでしょう? そうなると、大作ゲームから徐々に認可が下りていき、一定数を超えたところで調整的に審査が打ち止めにされてしまう。目新しいゲームやできの良いゲームは審査が通るでしょうが、ありふれた量産型のゲームやできの良くないゲームは限られた販売枠を与えてすらもらえなくなる。(注:2022年2月時点でも中国の新作ゲームの審査事務は止まっており、再開の目途が立っていない。約半年ほど新作がリリースできない状況が続いている)

赤野審査でゲームの良否を判断されて、挙句リリースもできんとはかなり手厳しい……。

ちなみに個人の意見としては、量産型のゲームやできの良くないゲームも市場に必要だと思っています。仮につまらなかったとしても、ね。一見良さそうにも思える方針ですが、やはり良くない結果を生むと思いますよ。

A私は……もしかすると海賊版のブームが再来するのではないかなと思っています。Steamがこのまま予想通り使えなくなると、皆さんがどういう風にゲームを遊ぶのかということを考えると……。中国の大多数のゲーマーはほとんどモバイルゲームしか遊んでいなくて、コアゲーマーはPCでゲームを遊び、その中でも少数派のゲーマーがゲーム機でゲームを遊んでいるわけですが。

 タオバオの闇市でパッケージ版のゲームが売買されていることはすでに政府もわかっていて、昔とあるゲームが発売されたときに一斉に取り締まられたことがあったんです。そのゲームのパッケージ版が大量に出品されて、中国の税関がそれを止めたという事件があった。これからどんどんゲームに対するアクセスは難しくなっていくでしょうし……、これから20年、またこれまでの20年のように海賊版の時代が来るんじゃないかと、ちょっと思いますね。

赤野きびしくなる法に対して、抜け道は違法なものしかない状況に陥ると。

ニャン海賊版もダメなんじゃないかな……。もしもそれが抜け道として機能するようなら、ただちに関わった人たちが逮捕されるでしょう。そのリスクを冒してまで海賊版を提供する人がいまの時代いるかどうかと考えると……。知識も必要だし、危険だし、それを利用するユーザー側も勉強しないといけないし。おそらく大半のユーザーはそれを利用することもできないでしょう。だから、まぁ、20年前の海外製のゲーム機が禁止されていた時代に社会が巻き戻るんじゃないかな? と思いますね。

赤野ありがとうございます。うーん、皆さん、冷静ではあるのですが、諦観もあるというか、状況をかなりきびしくご覧になっていますね……。

Aそうですね……。

赤野では、ポチルマン先生、最後にまとめの意見をいただければ……。

ポチルマンえ? お、俺!?

赤野……そりゃそうですよ! ホラ、この順番でしょ!?

ポチルマンまぁ、俺は今別に困ってないからな~。

赤野……いや、その、なんて言うか、こう、議論も最後のまとめに入ってますし、今後の展望みたいなんかを教えてもらえると助かるんですが……!

ポチルマンう~ん……。

赤野う~ん?

ポチルマンいや~こればっかりはね、どうなるかなんて誰にも分かんないですから。

赤野……いや、そのまとめ、いただけて良かったです。今回こうしてお話を皆さんにうかがって……、「誰にとってもどうなるか分かんない」こそが現状なんだと、なんか思いましたから。