完全にTPS(サードパーソンシューター)だ。いざゲーム画面を見てみれば、誰もがそう思うことだろう。
これは2022年1月20日~23日に開催された、ネットマーブルの『Overprime』(オーバープライム)クローズドβテストに参加した筆者のファーストインプレッションである。
TPSとは第三者視点で操作するシューティングのこと。敵と障害物などを挟みつつ撃ち合いをくり広げるゲームだ。そのつもりでプレイしていたのだが、様子がおかしい。
1試合中、5回ほど連続で暗殺された。
こりゃヤバいと、その後の試合では暗殺されないように引き気味に戦っていたのだが、
そのままびっくりするほどあっさり制圧された。暗殺まではまだわかる。TPSやFPS(ファーストパーソンシューター)でも、こっそり忍び寄られてナイフでキルされることはまれにある。ここまで連続で決められるのは、シューターでは異常だが。
真正面からプレイヤー同士が1対1でぶつかり合ったというのに、なぜここまで一方的に押し負けたのか。テスト段階だからキャラ性能が未調整なのだろうか。
……と、少々大げさに驚いているが、答えはわかっている。種明かしをすると、本作はTPSにMOBA(※)要素を加えた戦略シューターなのだ。
※MOBA:Multiplayer online battle arenaの略。チームを組んで相手の本陣を攻め落とす対戦ゲームのこと。リアルタイムストラテジー(RTS)の一種で、キャラをレベルアップや装備の更新で強化するRPGのような育成要素も持つ。
最初は「MOBA要素があるとは言え、TPSでの撃ち合いが重要なのだろう」と高をくくっていた筆者。だが、MOBA部分も重要であると理解すると、途端に本作の見かたが変わった。
撃ち合いで敵の注意を引き、仲間が裏取りから奇襲を仕掛ける。そんな定石を踏まえつつも、マップ上を縦横無尽に動き回れることが非常におもしろい。
今回は徐々に学びを得ていった筆者のプレイフィールをお伝えしつつ、本作の魅力に迫ろうと思う。なお、記事内の画像はすべてクローズドβテスト段階のもので、製品版では変更が入る可能性があることはご了承願いたい。
TPSの視界と射撃がリアルタイムの戦略を深くする
改めて本作『Overprime』の概要を説明しよう。本作は最大5対5で対戦する戦略アクションゲームだ。
ゲームの舞台となる“デキマー銀河”の惑星は、それぞれが滅亡の危機にさらされている。各惑星ごとに“ヒーロー”が立ち上がり、滅亡回避の鍵が眠るとされる惑星“プライム”に集結。自身の惑星のための譲れない戦いをくり広げる。
ゲームの基本ルールは単純明快で、ステージ端の自陣“コア”を破壊されたチームが負けとなる。戦いのなかで敵に倒されたヒーローは、かなりの時間を置いてから自陣で復活する。
つまり、妨害してくる敵チームのプレイヤーを倒しつつステージの逆サイドまで攻め入ればオーケーということ。
それならもう敵プレイヤーを撃って倒しつつ進むだけでいいのでは、という話になる。筆者も最初はそう思っていた。
そんなプレイヤーを待ち受けるのが、敵のコアに至る道中に配置されている“タワー”と、一定時間ごとに自動で生成され進撃していく“ミニオン”の群れだ。
何も考えずに突き進むと、ミニオンやタワーにハチの巣にされる。加えて、最終関門として建っている3本のタワーのうち最低でも1本を破壊しないとコアにダメージを与えられない。
ではどうするべきか。味方のミニオンを盾にしながら進み、タワーをへし折ってしまえばいい。
ヒーローたちは消費なしで放てる基本攻撃のほかに、時間経過で自然回復するエネルギー“マナ”を消費して放つ強力なスキルを4つずつ持つ。再使用可能になるまでのクールタイムもあるため連発できないが、これらを使えばミニオンの群れを一気に吹き飛ばすことも可能だ。
ミニオンは敵側のタワーやミニオンの攻撃を引き受けてくれるだけでなく、タワーやコアに対する高い攻撃力を持っている。タワーへの攻撃はミニオンに任せて自分は敵ミニオンの殲滅に集中。こうしたほうが効率的な場面も多々あった。
レベルアップや買いもの、モンスター撃破バフで強化
本作には経験値と所持金の概念がある。これらは敵側のミニオンやプレイヤーを倒すと入手可能。また、進軍ルートから逸れた場所(※)には敵味方のどちらにも属さない中立モンスターが生息している。これらを倒すのも経験値・所持金稼ぎにとって効率的だ。
※MOBAでは一般的に“ジャングル”と呼ばれる場所。
経験値が一定値に達するとキャラはレベルアップし、全能力がかなり上がる。レベル差が1あるだけでも、正面からぶつかり合えばキャラ同士の戦いは一方的になりかねない。
さらに、本陣で所持金を使用して回復アイテムや装備を購入可能だ。こうした“稼ぎ”による戦力差は、ちゃんと意識しないとどんどん開いていく。
さらに、ジャングルのモンスターの中には、倒すとチーム全体に特殊なバフ(強化)効果を与えてくれるものもいる。とくに“プライム・スピリット”と“プライム・ガーディアン”は、それぞれマップ上の決まった位置に1体ずつしか出現しないぶん、バフ効果も強力だ。それだけに、敵との争奪戦になる可能性も高い。
また、プライム・ガーディアンを倒す理由はほかにもある。倒すと“オーブ”が出現し、それを祭壇に設置(プライムダンク)することで、戦場にガーディアンを召喚できるのだ。
ガーディアンはミニオンと同じルートを自動で進軍し、迎撃される前にタワーやコアにたどり着ければ大ダメージを与えられる。ここでも熱い攻防が発生する。
このように、さまざまな戦略的要素を含む本作。こうして解説するだけだと、TPS要素とは直接関係なさそうに思える。撃ち合いを放棄して、ひたすら戦略的要素に集中したほうが勝てるのでは? と思う人もいるだろう。
だが、実際にプレイしてみると、これが違うのだ。TPSならではの要素が戦略性をより高めているように感じる。いちばんわかりやすいのは、MOBAやRTSとは視界がまったく異なる点だろう。
俯瞰視点では、当然ながら画面内に表示された範囲しか確認できない。ところがTPSの視点だと、かなり遠くまで見通すことができる。その反面、目の前に障害物があると向こう側の状況を確認しづらい。
実際にプレイしてみると、これがゲーム性に強く結びついているように感じた。戦場の中央部分は開けているので、はるか遠くから何人のプレイヤーとミニオンが迫ってくるか目視可能。逆に、ジャングルなどの障害物が多い場所では、目の前に出てくるまで敵プレイヤーの存在を確認できないのである。
これに気づいた筆者は、どこから敵が奇襲してくるかわからない戦場に立たされたかのような感覚に包まれ、リアルに震えた。24時間ゲリラに怯え続けたという、ベトナム戦争時のアメリカ兵もこんな気分だったのだろうか。
ふだんは神の視点(俯瞰)で遊ぶストラテジーゲームをTPS視点で遊ぶと、臨場感と緊張感がここまで高まるものなのか。
キャラの尖った個性がさらに戦略性を高める
本作はTPS形式ではあるが、TPSとしては常識外なスキルを持つキャラも多い。キャラの選択によってさらに戦略の幅が広がるようになっていた。
キャラ選択式の対戦ゲームは、その個性が重要だ。使ってみて気に入ったキャラや、キャラを変更していく中で気づけた本作の魅力について、プレイ遍歴に沿って紹介してみよう。
最初期はやはり射撃キャラがお気に入り
ここまで書いて来たとおり、筆者は本作をTPS感覚で遊ぼうとしていた。最初のうちは使用キャラがレンジャー(遠距離ダメージディーラー)に偏りがちだったのは当然かと思う。
中でも使用頻度が高かったのが、弓使いの“エヴェリン”だ。基本攻撃とスキルのすべてが物理攻撃なので、物理攻撃系の装備を揃えれば順当に強化できそうというのも選択した理由のひとつだ。
だが、継続的にダメージを与えるより、一瞬で大ダメージを与えるほうがミニオンの群れをスピーディーに処理できると気づいたところで、メイン使用キャラを女軍人の“ヴァロラ”に変更した。
ヴァロラは瞬間的に高威力を出せる魔法属性の範囲攻撃スキルをふたつ持っており、エヴェリンよりも圧倒的に速くミニオンを処理できたのだ。
ヴァロラでひたすらミニオン処理に集中し始めた頃から、敵のアサシン(打たれ弱いがプレイヤーへの奇襲が得意なタイプ)キャラにジャングルから忍び寄られ、やられてしまうことが増えてきた。
対策を強化するため、アサシン側からの視点を知りたい。とはいえ、アサシンは上級者向けとされている。いきなりアサシンを使うのは難しそうなので、まずは近接攻撃を得意とする戦士タイプのキャラを使ってみることにした。
近接は射撃に対して強い……わけでもない?
戦士キャラの中でとくに気に入ったのはタオ。長大な斬馬刀を振るうため基本攻撃からして広範囲で、さらに自身にバリアを張るスキルと指定地点にワープするスキルを持っている。大量のミニオン処理にも困らないキャラだ。
戦士タイプのキャラはほとんどが指定地点に移動するスキルを持っており、これなら射撃系の敵に肉薄して圧倒するのも楽だろう……と、敵のヴァロラに突撃してみた。
すると、敵を打ち上げる効果がある直線範囲のスキルで足止めされたところに、高威力の円形範囲スキルを重ねられ、回避できずに体力を半分以上一気に奪われ、そのまま撃沈させられるハメに。
硬さが足りないからか? と、より頑丈な近接タイプであるタンク(味方の盾になる前衛役)キャラに変えてみることにした。
突撃スキルに加えて、範囲内の敵を引き寄せたり、自身を巨大化させて体力を増幅したりといったスキルを持つ使いやすいタンクキャラ・テラックで同じように立ち回ってみたが、やはり突っ込むとあっという間にやられてしまう。
言うまでもないとは思うが、あっさりやられる原因は明らかだ。敵の射撃系キャラはこちらの動きを警戒して迎撃用スキルを温存。筆者の特攻にスキルを直撃させてきた。ロール(役割)による有利不利も、スキルの使いかた次第でしっかり覆せるわけだ。
当然、距離や立ち位置に注意して立ち回るTPSの手腕も関わってくる。この辺の感覚は人それぞれだと思うが、筆者は照準のうまさよりはスキルの使用タイミングが勝敗を分けるように感じた。
戦略の極意は機を待つことにあり
スキルの先出しが危険と学んだところで、筆者が最終的に多用することになったのがアサシンタイプのベアトリスだ。
敵に急接近した後、もう一度同じスキルを使うことでもとの位置にワープして戻れるという、一撃離脱をそのまま形にしたようなスキルを持つキャラだ。直線範囲のミニオン処理に便利な攻撃スキルも備えている。
また、スキルのクールタイムが全体的に短かった。ヴァロラのような瞬間的なミニオン処理と、近接キャラのような射撃キャラの撃退という役割を、どちらも器用にこなすことができる。これはもうカタログスペックからして強い。
実際に使ってみると、マナの回復力を高める装備やマナ回復アイテムが重要なことに気付いた。スキルを多用できるぶん、マナの消費が激しいのだ。
序盤から消費アイテムにお金を使うと、それだけ装備を整えるのが遅れてしまう。余分にお金を稼ぐためにジャングルのモンスターと戦ってもみたが、打たれ弱いので体力面が不安だった。
使い始めたばかりの頃は、ミニオン処理もプレイヤー狩りも十分にこなせない事態が続いた。そもそも敵プレイヤーを狩るなら相手よりレベルが高くないとかなりきついというのに、できることが多いぶん、レベリングに向かうヒマがない。
筆者にはミニオン処理にムキになる傾向があり、そこでマナを使い過ぎていた。そこで、今度はあえて状況を静観。時間をレベリングに回すような戦いかたを意識してみることに。
するとどうだろう。時間の流れがいままでよりもゆっくりと感じられ、ミニマップを確認したり、目の前に広がる視界に目を凝らす余裕も出てきた。これなら暗殺に向かうタイミングを計りやすい。勝ちかたと楽しみかたを一段階深く理解できたように思う。
先に触れたとおり、本作の視界はTPS形式なので、突発的な状況に陥ると周囲を確認しづらい。一般的なRTSやMOBAより、予想外のダメージを受けることが多い印象だった。
しかし、『Overprime』には本作なりの対処方法がある。TPSならではのエイムやアクションの技術で補うのもいい。そういった要素に頼らず、いったん本陣に戻って回復や買いものをするなど、時間をリソースとして使ってもいい。
『Overprime』では1試合が40分近くなることもある。焦ったら負けだ。やられると敵に経験値を献上することになるので、無理に突出して倒されると不利が重なってしまう。
こうした気付きを得ると、同じキャラを使っても違う結果が出るようになってきた。新たな扉が開きそうな予感……と期待が高まったところで、残念ながらクローズドβテスト期間は終了してしまった。
あらゆる面でTPS視点に驚かされる期待作
クローズドβテスト中では全キャラに触れてみた。とにかくスキルが多彩で、たとえ同じタイプでもあのキャラにできることがこのキャラにはできない、というパターンが多い。
また、まだプレイヤー同士の連携が取れていない状況ということもあり、とくにサポータータイプの真価は計り知れなかった。
MOBAとして考えると基本に忠実な作りになっており、驚くべきところはあまりない印象だ。それだけに、『リーグ・オブ・レジェンド』などのプレイ経験があればすんなり入り込めるだろう。
筆者が記事内で書いてきたことの多くは、別のMOBAで経験してきた要素だ。ところが、操作感覚はTPSとしてのウェイトが圧倒的に大きく、そうしたシミュレーション的な感覚が覆い隠されていた。そんなように思う。
アクション性の高いTPSがMOBAの戦略性を内包し、「TPSなのに」という違和感を感じられた本作。もちろん、いい意味で。FPS/TPSを多く遊んでいる筆者のようなプレイヤーからすると、この組み合わせは非常に新鮮だった。
感覚はいつものTPSなのに、できること、やれること、考えることが段違いに多いのだ。
こう書くと難しいゲームに思えるかもしれない。しかし実際にプレイしてみると、どれかひとつの要素に時間をかけることを意識すれば、何とでもなる印象だった。
敵プレイヤーを狙い撃つTPSであることを忘れていったんミニオン処理に集中したり、ミニオン同士の押し合いというストラテジー的な要素を横に置いて敵に奇襲を仕掛けたり。
筆者はおじさんゲーマーなので、長時間の集中はそろそろ難しい。だが、本作ではこうした意識の切り替えでちょっとした休憩時間を作ることもでき、わりと試合の最後までパフォーマンスを維持できたかと思う。
クローズドβテストの段階ではまだ楽しみかたの入り口に立てたかな、といった程度。もっと遊べばさらなる魅力を発見できそうな感触があった。
TPSや戦略ゲームを愛好する皆さんだけでなく、それらにあまり触れていないという人も、ぜひ本作に注目してほしい。そして、さらなる魅力の研究に力を貸してほしいと願ってやまない。