2022年1月24日、名越稔洋氏が代表取締役社長を務める、新たなゲーム開発スタジオの設立が発表。公式サイトがオープンした(名越スタジオ公式サイトはこちら)。その名はド直球とも言える、“名越スタジオ”!

 2021年10月、『龍が如く』シリーズや『ジャッジアイズ』シリーズを生みだした名越稔洋氏や佐藤大輔氏らがセガを退社するというアナウンスがあり、驚いたゲームファンも多かったことだろう。それから約3ヵ月。新たな動向が発表されたわけだが、『荒野行動』や『IdentityV 第五人格』の展開で日本でも知られる企業・NetEase Gamesの出資によるスタジオになるという。

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

 スタジオ設立時のコアメンバーとして、名越氏の右腕として龍が如くスタジオの代表を務めた佐藤大輔氏、『ジャッジアイズ』シリーズなどのプロデューサーとして知られる細川一毅氏、数多くの龍が如くスタジオ作品に携わり、直近では『たべごろ!スーパーモンキーボール 1&2リメイク』のプロデューサーなどを務めた城崎雅夫氏(※“崎”の字は正しくはたつざき)ら9名が集結。実力派のゲームクリエイターが顔を揃える船出となった。

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く
スタジオ設立に参加した9名。写真上段左から、藤本光伯氏(開発支援)、時枝浩司氏(プログラマー)、安藤俊周氏(デザイナー)、潮田太一氏(企画)、染屋直樹氏(デザイナー)。下段左から、細川一毅氏(デザイナー)、佐藤大輔氏(取締役)、名越稔洋氏(スタジオ代表)、城崎雅夫氏(企画)。

 本稿では、スタジオ設立にいたる経緯から、新たな挑戦への意気込み、そして新たに生み出すゲームなど、いま語れるすべてを代表の名越稔洋氏に直撃。さらに、ゲームクリエイターとして表に立つ機会の多い、佐藤氏、細川氏、城崎氏にも現在の心境や今後の展望を語ってもらった。

スタジオ代表・名越稔洋氏を直撃!

新スタジオ設立が目指すのは世界に通用するエンタテインメントの創出

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――新スタジオを立ち上げられるということですが、いまの率直なお気持ちをお聞かせいただけますか。

名越長く働いていたセガの退社を決めたのは、これまでとは違うことをしたいという気持ちがあったからなんです。同じことをするなら、セガに居続ければいいですから。正直、このタイミングでの独立が早かったのか、遅すぎたのかは自分でもまだわかりません。ですが、“いまから新たなスタートを切るんだ”という30年近く前にゲーム業界に一歩足を踏み入れたときと同じフレッシュな気分です。

――スタジオ名は、“名越スタジオ”というストレートなものです。とてもわかりやすい名称ですが、決定するまでに試行錯誤はあったのでしょうか。

名越そこは、あまり悩まなかったですね。自分の名前を冠するということで覚悟を表明したかったというのがいちばんの理由で。ゲームファンの皆さんへの伝わりやすさを考えても、あまりひねる必要はないかなと。

――スタジオのロゴもなかなか個性的です。

名越吹き出しっぽい部分は、コミュニケーションしているように見えるでしょう? 我々のスタジオでは、つねにスタッフどうしが密接な対話をしながらドラマ性の高いゲームを作っていきたいと考えているので、それがロゴでも表現できたのではないかなと。スタッフが作ってくれたのですが、俺はとても気に入っています。

――“ドラマ性の高いゲームが作りたい”というお話がヒントになるように思いますが、名越スタジオはどんなゲーム作りを目指すのでしょうか。

名越ひとつは、世界に通用するエンタテインメントというものに対して、我々なりの回答を出したいと思っています。というのも、俺がこれまで手掛けてきたゲームでは、その回答を出せた部分と、出せなかった部分があると思っていて。

――まだまだ挑戦しきれていない部分があると。

名越ええ。我々は日本人だし、作っているのも日本のスタジオだったので、当然ながらいちばん理解が深いマーケットは日本でした。軸足を日本に置きながら、どこまで世界に通用するものを作れるかという方法論をこれまで必死に模索してきたわけです。ただ、その完全な回答はこれまでは出せなかったと自分では考えています。その回答を求めるため、理想を追求するために名越スタジオを作ったというところが大きいですね。ただ、今後も軸足は日本に置いていくことに変わりはありませんが。

――名越スタジオがどういう回答を導き出すのか、とても楽しみです。

名越長年のあいだ『龍が如く』シリーズを手掛けてきたスタッフだからこそ見せられる、“つぎのステップ”があるんじゃないかと思うんです。まあ、「なんでセガにいてその理想を追求できなかったの?」という話になると思うんですけども。

――端的に言うと、それはなぜなのでしょう?

名越ごく当たり前の話で、悪いことではないのですけども、大きなゲームメーカーの場合、数年先までの事業計画があり、それに準じて商品ラインアップを揃えていくわけです。ゲームを作るにしても、そこをベースに内容や予算を考えながら開発を進めることになる。今回、開発スタジオとして独立した理由のひとつは、そうした前提条件をいったん考えずにゲーム開発をしたかったという想いが強いんです。出資してくれたNetEase Gamesの面々と話したときも、「クリエイティブに対しては、我々なりの方法論でやっていきたい」ということを明確にアピールしたし、彼らもそれに賛同してくれました。

――つまり、作りたいタイミングで、作りたいものを作れるというわけですね。

名越そうですね。とはいえ、コンテンツビジネスとして商売が成り立たないようなゲーム作りをするつもりはありません。これまでと同じように、ゲームファンの皆さんに喜んでいただけるものを、しかるべきタイミングでリリースするというのは大前提です。中身についても、これまで以上に大胆なものになるかもしれませんが、冷静に市場を見る視点は絶対に必要です。

――ゲーム開発についてある程度の自由度を保ちながら、中身の充実を目指していくと。

名越そうですね。今回スタジオを立ち上げたことで、会社的な都合で諦めなければならないようなものからはかなり自由になった。逆に言えば、言い訳ができなくなったということでもあるのですけれど。そのぶん、辛い状況になることもあるかもしれませんが、それを乗り越えたらとてもいいクリエイティブができると期待しています。

組織がコンパクトになったことで得られるメリット

――名越スタジオ設立にあたって、名越さんを含めて9名のスタッフがセガから移られました。皆さんは、どのような役割を担うのでしょうか。

名越スタジオのトップは俺がやらせてもらうのですが、佐藤にはクリエイティブのほか、取締役として経営面を見てもらいます。細川はもともともデザイナーであり、そこに対して厳しい目を持っているので、デザインの統括責任を担ってもらおうと。城崎は開発のマネジメントもやれるのですが、忌憚のない意見を言える貴重な人材でもあるので、プランナーとして設計まわりを任せたいと思っています。そのほかのメンバーもそれぞれに持っている高いスキルを活かしつつ、新たなチャンレジをしてほしいなと。俺自身も含めてですが、開発現場ではセガ時代のキャリアからすると、1段階下からやる感じに近いかもしれません。

――なるほど。それは皆さんが総じて現場に近づいたというイメージでしょうか。

名越組織自体がずいぶんコンパクトになりましたから、自然とそうなりました。俺もいままでより現場の全員と顔を突き合わせて話ができますから、丁寧な進めかたができるんじゃないかな。

――立ち上げに参加してくれたスタッフには、どのような想いを抱かれていますか。

名越「いっしょにやります」と言ってくれたモチベーションや背景は個々に違うと思います。ただ、共通しているのは“自分たちの仕事や実力、キャリアに対してプライドがありつつ、新しいことに挑戦したい”という強い気持ちです。会社のために仕事をすることには、以前から何も変わりはないんです。ただ、会社の規模がコンパクトになったことで、“会社のために動くことが、自分たちの理想につながる”ということをよりダイレクトに感じられるようになっているかなと。もう一度、白紙の段階から何かを始められるということは、クリエイティブに携わっている者からすれば、とても魅力的だしワクワクできると思うんです。

――会社としての名越スタジオは、どういう場を目指しているのでしょうか。

名越ありきたりかもしれませんが、スタッフが何でも言える場にしたいですね。これは規模が大きい会社でもできないわけではないのですが、どうしてもやりづらい部分はあって。会社がコンパクトになって、“風通しのよさ”というものが本当に大事だなと改めて痛感しています。ゲーム作りをする中では、当然ながら出した意見が否定されることもあるのですが、「どうして否定されたのか」をしっかり説明して、意見を出した側もちゃんと腹落ちできるような会社にしていきたいですね。結果、それが人を育てることにもつながっていくのでしょうし。

――議論を尽くす中で、おもしろいアイデアが生まれてきそうですね。

名越そうですね。アイデアって、だいたいにおいて若い人たちのほうが発想が豊かだし、いいものも出せると思うんです。ただ、彼らは経験が浅いから、おもしろいアイデアだけど穴があったりする。その穴を埋めてあげるのは、ベテランの仕事で。そういう掛け合わせを綺麗にするためにも、密接なコミュニケーションはとても大切なんです。

――若い人たちの意見も積極的に取り入れる土壌ができるといいですね。

名越そうじゃないと、ベテランがモノを決めていくだけの会社になってしまいますから。会社を新しく立ち上げた意味すらなくなってしまうので、そこは大事にしたいです。

“理想が叶うまで粘り強くやる”というポリシーを大事に

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――NetEase Gamesからの出資によってスタジオを立ち上げることになった経緯を教えていただけますか。

名越スタジオの独立性やクリエイティブの自由度について、もっとも真剣に向き合ってくれたのがNetEase Gamesだったのです。日本以外の資本でスタジオを立ち上げることについては自分でも驚いた部分がありますが、この時代、とくにエンタテインメントの領域においては、どこの国の資本で作られているかという価値観は崩壊しつつあると思うんです。

――なるほど。

名越「日本から世界に打って出る」というスタジオの目標を考えたとき……これは少し極端な話ですが、たとえば欧米の企業と組むよりも、アジア圏の企業と組んで世界を目指すほうが、シナリオとしては現実的に思えたんです。そこから世界に広く知られるようなゲームを送り出せれば、新しいクリエイティブのルートが作り出せるだろうと。これは日本を見捨てるというわけではまったくなくて、“日本から世界へ”という想いを内包しつつ、“アジアから世界へ”という感覚で臨んでいきたいという考えです。

――最近のエンタテインメントの潮流を見るに、“アジアから世界へ”という流れはスタンダードになりつつありますね。

名越少し話が逸れますが、十数年前から俺は韓国映画が大好きで。作り込みの丁寧さ、作り手のこだわりに、同じエンタテインメントの作り手として素直に感動するんです。彼らの地道なクリエイティブはすぐに芽が出たわけではないですが、十数年を経て、いまでは世界中で大きなムーブメントを巻き起こしている。それを考えると、しっかりと戦略を立て、理想を捨てず、粘り強くやっていくという歩みは、我々も忘れずにやるべきだと思うのです。

――ゲーム作りにおいても、そうした歩みに挑戦したいと?

名越結果的に、それが近道な気がするんですよね。同じエンタテインメントでも、ことゲームにおいてはそういったスタイルで歩んできた会社って、じつはあまり多くない。日本の会社のやりかたでも十分に利益は出ているし、ある種、完成されているのですが……それ以外のやりかたがないのかと言えばそうではないと思うんです。俺たちのスタジオがそこに挑戦することで、新たな道標になれたらいいなと思っています。まだ試行錯誤を始めたばかりなんですけどね。

名越スタジオの1作目はどんなゲームになる?

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――ちなみに、すでに名越スタジオの1作目となるゲームの構想はあるのでしょうか。

名越もちろんあります。時代にフィットした、あるいは時代を先取りしたものをチョイスしながら、アイデアを組み合わせて作っていきたいと考えています。質問への直接的な答えにはならないのですが、「ゲームファンに喜ばれることが前提でありながら、多様化する時代の中でそのタイトルが存在する価値があり、文化やビジョンの異なる人々からも魅力的に見えるもの」を目指します。あとは繰り返しになりますが、せっかくリソースが潤沢な会社がついてくれたので、中身のクオリティーには徹底してこだわりたいですね。

――あくまでもクオリティーを重視するという姿勢なのですね。

名越俺はかつて任天堂さんといっしょに仕事をしたことがありますが、“ちゃんとできたと言えるところまで作り込まないうちは出さない”というスタンスがうらやましかったし、憧れでした。だからそれと同じように“理想を捨てず、その理想が叶うまで粘り強くやる”というポリシーを大事にしていきたいなと。ゲームを作ったことのない人が聞くと、「なんて当たり前のことを言っているんだ」と思うかもしれない。ただ、ゲームを作っている人が聞けば、「このご時世にそんなことを言っていて大丈夫か?」と思われる気がします(笑)。

――確かに妥協しないゲーム作りというのは、簡単ではありませんからね。そんなお話をされている中でお聞きするのはどうかと思うのですが……(笑)、1作目をリリースする時期をどのように想定されていますか。

名越これまでの『龍が如く』シリーズのように、1年くらいで発売までたどり着けるかと言えば、はっきり言ってそれは難しいです(笑)。けれど、のんびりするつもりはないので、できる限り早い段階で発表したいと思っています。ゲームのリリースに至るまでには、最初の発表から発売までの流れがあり、どういう情報をどのように出して行くかも含めてエンタテインメントだと俺は思っています。というわけで、現状で言えることはないのですが、1作目の発表タイミングには皆さんに驚いてもらえるような仕掛けを用意して臨みたいと思っています。ぜひ期待していただければと。

――これまで短い期間でいいものを作り上げてきたチームのメンバーが多いだけに、そこのスピード感には期待が持てそうですね。

名越ありがとうございます。企画の詳細は言えないのですが、ゲームのスケール感は大きくなる予定です。それにともなって開発の規模も大きくなりますが、会社はコンパクトにまとまったぶん、しっかりとしたビジョンを持って、可能な限り余計な手戻りをしない形で開発を進めていければと思っています。回り道を少なくするクリエイティブは、俺たちのキャリアが存分に活かせるところですし。

――最短で最適解を出すことに長けたメンバーが集まっていますからね。

名越加えて、開発を進めるうえでの温度感が近いのもいいんですよ。たとえばゲーム開発においては、ひとつの問題が発生したときに「これはすぐに解決しなければならない」というものと、「後回しでもいいだろう」というものがある。それを選別する基準が、うちのスタッフは全員同じなんです。ある程度以上の規模のゲームを作るうえでは、こういう感覚が近いことが意外と大事になってくる。

――スタッフ間で温度感を共有できているのは理想的だと思います。ただ、立ち上げメンバーのみで大型のゲームを作るのはなかなか難しいでしょうから、今後はさまざまな方面から人材を集めることに?

名越立ち上げメンバーの中にも、もともとはセガ出身ではないスタッフがいます。出身母体が違うからなのか、そうしたメンバーの発想のプロセスはほかと違いますし、それはとてもいいこと。俺たちのキャリア自体は長いですが、しょせんはひとつの企業の手法を極めたに過ぎません。もちろんそこには価値があるけれど、世界に対して挑戦するということを考えると、そこから脱皮して、いろいろな手法をうまく取り入れる必要がある。それは、今後の名越スタジオが成長していけるかの大きな鍵ですね。とにかく、いろいろな人に会って、いろいろな人に入社してもらって、いろいろな手法を学んでいきたいと考えています。

――名越スタジオ設立の発表に合わせて、スタッフ募集も開始されるのでしょうか?

名越ええ。ゲーム開発に必要なスタッフを積極的に募集していきます。詳細は今後立ち上がる求人サイトを見ていただければと思います。いまゲーム業界で働いていて不満はないのだけれど、ひとつのプロジェクトに根を生やしてモノを作りたいとか、もっと活発に会話をしながらモノを作りたいという方がいたら、応募を考えてもらえるといいかもしれません。ウチはそこを重視したスタジオにしていきたいので。もちろん、新卒の方も大歓迎です。

――では最後にゲームファンの皆さんに向けてひと言をお願いします。

名越“昔に解決できなかったことを、べつのフィールドで解決できるかどうか挑戦する”ということが、新スタジオを作った大きな動機のひとつです。それはすなわち、日本人が作ったゲームスタジオの世界に対するチャレンジでもある。この歳でそんな挑戦ができるのは本当にワクワクするし、幸せだとも思います。この気持ちを大切にしながら、今後もクリエイティブを続けていきたいです。また、俺と同じような挑戦をする日本人が続々と現れてほしいなとも思っています。


佐藤氏、細川氏、城崎氏が語る、名越スタジオへの想い

 前述の通り、スタジオの立ち上げ時には、名越氏を始めとする9名が参加。今回はその中から3名にショートインタビューを行い、それぞれの想いや今後の展望、スタジオへの期待を語ってもらった。そこからは、スタジオの輪郭がより鮮明に見えてくるかも!?

佐藤大輔氏

「名越の思い描くビジョンをしっかり実現できるスタジオの体制を作りたい」

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――名越さんとともに新スタジオの船出を迎えることになりましたが、いまはどんな心境ですか?

佐藤名越が私に期待している仕事の大きな部分として、スタジオの経営があります。いままでは龍が如くスタジオ代表のほか、セガの開発事業部長という経営に近い立場の仕事もさせもらったのですが、そうした経験が活かせそうです。新スタジオでは、開発プロジェクトの運営はもちろんのこと、総務や経理、人事といったところも私が見ていくことになるので、その意味でも新しいチャレンジになります。

――会社組織にはそうした業務は必要ですし、名越さんの信頼が厚い佐藤さんであれば適役に思えます。

佐藤まあ、そういった挑戦はしつつ……コンパクトな会社ですから、クリエイターとしての仕事もこれまで以上にやりたいです。ここ数年は何本ものラインを監督する立場になっていて、どっぷりとクリエイティブに携わる時間はなかなか取れませんでした。でも、これまでを振りかえると、仕事をしていて一番楽しかったのはディレクターをやっていたころなんですね。せっかく新たな環境に移ったわけですから、今後は自分自身も楽しめるゲーム作りができたらいいなと。

――お話しをうかがっていると、佐藤さんが担当する仕事の領域はかなり多岐にわたりそうですね(笑)。

佐藤ええ(笑)。楽しく仕事をするためにも、コーポレート系の仕事を安心して任せられる人材を早めに確保したいと思っています。

――佐藤さんとしては、名越スタジオをどのようなスタジオにしていきたいですか。

佐藤“モノ作りにこだわるスタジオ”であり続けたいということが、スタッフ共通の想いですので、それを実現できるように動いていきたいです。私自身のいちばん大きな役割は、とにかく名越稔洋というクリエイターをできるだけ輝かせることだと信じています。それが「名越スタジオ」の存在感を高めることに繋がるかと。まずは名越の思い描くビジョンをしっかりと実現できるような体制を整えていきます。

――人材募集をスタートされましたが、どんな方を求めているのでしょうか。

佐藤我々が目指すのは、オリジナルのIPで勝負していけるスタジオです。世界に向けて恥ずかしくない、作り込んだ作品を世に出し、しっかりと成功させたいなと。私たちは“本当におもしろいものを作りたい”と思っている人と仕事がしたいと考えています。そこに共感してくださる方は、ぜひお話を聴きに来てください。

――業界の注目度は大きいので、きっと多くの方々が集まるのではないかと思います。ファンの方々にもぜひひと言を。

佐藤これまで名越や私、細川、城﨑がプロデュースしてきたゲームを楽しんでいただいたゲームファンの方々には、少しお時間をいただくことになります。しかし、何年後かにはこれまでよりもさらに魅力ある作品をお届けできるはずなので、忘れずに待っていていただければ嬉しいです。

細川一毅氏

「もう一度クリエイティブに向き合って、モノ作りに励んでいきます」

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――新スタジオの立ち上げをされたことで、ご自身にはどのような変化がありましたか。

細川大きな変化はこれからでしょうし、自分の人生にとってどんな転機になったかというのは後々わかることだとは思うのですが……名越スタジオへの移籍は、私にとってこれまでに積み上げてきたものをある程度リセットする決断でした。

――そこまでの決意をされていたのですね。

細川セガに入社してしばらくは、デザイナーの立場でゲーム作りを続けてきたのですが、毎回「本当にこんなことができるのだろうか?」という高い目標を、ドロくさい努力で乗り越えてきたという自負があります。仕事を続けていくなかで、立場がアートリーダーからディレクター、プロデューサーと移り変わっていき、その都度、キャリアと共に積み上げてきたものがあったと思います。ただ、与えられたポジションの重みが増し、目を配る範囲が広がるほど、挑戦よりもミッションを完遂させること自体に重きを置くようになっていたように感じるのです。

――責任のある立場になると、そういう志向になりがちかもしれません。

細川そんな状況のなか、「これから第一線のクリエイターとして、あと何年仕事ができるのか? クリエイターとして死に物狂いで挑戦できるゲームをいくつ手掛けられるのか?」ということを自分なりに考えたことがあって。いまの年齢を考えると、それほど多くはないんですよね。その事実に直面したとき、“諦め”を抱えたまま仕事を続け、クリエイター人生を終えるのは嫌だと思ったんですよ。

――なるほど。

細川自分なりに納得のいくクリエイター人生を貫くには、自分自身が変わらなければいけないし、もう一度クリエイティブというものに向き合ってゲーム作りに励まなければならないなと。そんなとき、今回の話が持ち上がり、強制的に自分にリセットをかけられる機会が巡ってきました。クリエイティブに向き合うということを考えたとき、「これはいいきっかけになる」と思ったので、セガを辞めることを決意したんです。私の場合、名越スタジオではデザインを立脚点にして、改めてクリエイティブ活動に専念しようと思っています。もちろん不安はありますが、それ以上にいまはワクワクしています。

――細川さんとしては、名越スタジオをどのような場にしたいと思っていますか。

細川名越スタジオには頼りになるメンバーが揃いましたから、心強いです。振り返れば、龍が如くスタジオは全員が同じ方向を見てポテンシャルを発揮できる異能のチームでした。いまはまだ9人の名越スタジオですが、今後はさらに新たな人材を迎えつつ、龍が如くスタジオに負けないような、チーム内のリテラシーが高い組織を作り上げていきたいと思います。そして、各々が求められたことに対して高いクオリティーの仕事ができる会社にしていきたいですね。

――ありがとうございます。最後に今後の展望をお聞かせください。

細川これまでとは違った環境だからこそ実現できるゲームを作っていこうと思っています。きっとそれは、我々がこれまで作ってきたものとは異なるものになるでしょう。ただ、これまで我々が作ってきたものに対して「楽しかった」、「好きだった」と言ってくれた方々に広く受け入れていただけるものにする自信はあります。そして、皆さんの期待を上回るような作品にしていきますので、ご期待いただければと思います。

城崎雅夫氏

「強く、大きく、長い目で名越スタジオに期待してください」

名越スタジオ設立! NetEase Games出資の新たなゲーム開発会社について名越稔洋代表と所属クリエイターに聞く

――今回の名越スタジオへの移籍について、ご自身の率直な感想を教えていただけますか。

城崎僕はセガでしか働いたことがないので、今回の移籍は間違いなく人生の大きな転機ですね。こういう結果は後からわかるものですが、10年後、20年後に「あのときの決断は正しかったな」と思えるようになるといいなと。ただ、全力でゲームを作るということ自体はこれまでと何も変わらないです。変に力むことなく、ある意味で“ふつうに結果を出す”という気概で臨んでいきたいと思います。

――そこは冷静なところもあるのですね。

城崎そうですね(笑)。名越スタジオでは、これまでより負荷のかかる立場で仕事に取り組むことになるでしょうし、これまでに悩んだことのないようなことで悩むこともたくさんあるはずです。ただ、そのひとつひとつを解決していくことで、自分自身も成長につながると思いますし、その成長がゲームのクオリティーアップにつながっていくのだと思います。そしてそれが、ひいては皆さんに魅力あるゲームをお届けすることに直結するのでしょう。これまでと同じく、1日1日、自分の成長に責任を持ってゲーム作りに取り組んでいきたいです。

――素晴らしいコメントありがとうございます。それぞれの目線によって異なると思うのですが、城崎さんは名越スタジオをどんな場にしたいですか。

城崎僕たちが作ったゲームを多くの方に楽しんでもらうことが本質だと思うので、それを実現することに特化した場になればいいと思います。そのために必要な空気感やいいルールを作っていければいいですね。ゲーム作りとひと口に言っても、それは人がやることなので、パフォーマンスを発揮できる雰囲気や仕組みはとても大事だと思うんです。

――確かにそうですね。

城崎たとえば、すべてのスタッフがヒエラルキーを気にせずに思ったことをあっけらかんと発言できて、ちゃんとその反応がもらえるような。名越スタジオは、そういう場になればいいなと考えています。ちなみに、僕はこれまで自分から意見を言うことが多かったのですが、今後は聞く側に回る機会も増えることでしょう。なので、意見を聞く立場になっても、変な気づかいなく話してもらえるような人間になりたいですね。そして、それに対して適切な返事ができるような。

――年齢的にもキャリア的にも、そういったことが求められる時期なのかもしれませんね。それでは最後に読者に向けてメッセージをいただけますか。

城崎まずはゲーム業界の方に向けて。名越スタジオはクリエイティブを最重要とするスタジオになっていくと思います。ご自身もそれにチャレンジしたい、あるいはそういった環境に興味があるという方は、ぜひお話を聞いていただきたいですね。また、どういう発信をしていくかという点についても、見守っていただければうれしいなと思います。ゲームファンの方に向けてですが、「いいゲームを作り、それを楽しんでいただく」ということを目標にした組織ですので、強く、大きく、長い目で期待していただきたいです。皆さんの期待は、間違いなく僕たちのエネルギーになります。これから開発を進めていくので、しばらくお待たせすることになりますが、名越スタジオのことを忘れずに注目していただければと思います。