2001年に第1作が発売された『逆転裁判』は2021年で20周年。これを記念し、さまざまな特別企画を掲載。本稿では、『逆転裁判3』、『逆転裁判5』、『逆転裁判6』、『逆転検事』シリーズの作曲やオーケストラの編曲、バンドライブも行う岩垂徳行氏にインタビュー。作曲やライブでの裏話などを語ってもらった。
※『逆転裁判』20周年記念インタビューその他の記事は以下の関連記事をチェック!
岩垂徳行 氏(いわだれ のりゆき)
作曲・編曲家。『逆転裁判3』、『逆転裁判5』、『逆転裁判6』『逆転検事』シリーズの作曲を担当。オーケストラの編曲や、バンドライブも行う。ほかにも『グランディア』など代表作多数。
なるほどくんのテーマはジグザグ
──岩垂さんは『逆転裁判3』から参加されていますが、どんなことが印象に残っていますか?
岩垂あのときは無我夢中でした。「『逆転裁判』の曲をもとに自分なりの解釈でやってくださいと」言われていたのですが、たとえば『成歩堂龍一 〜異議あり!』で、最初はどれが主旋律でいいのだろうと混乱していました。
そこで『逆転裁判2』を担当した木村明美さんはどうしたかなと曲を聴いたら、音階を“降りる”というやりかたをしていて。それならこっちは“ジグザグ”にするしかないと(笑)。従来の楽曲を引き継いだものはこれで本当にいいのかと不安でしたね。当時、杉森さんにも聞いてみたかったのですが、連絡先は知らなかったので……。杉森さんと直接お会いしたのは最近なんです。
MP3『逆転裁判3 オリジナル・サウンドトラック』(Amazon.co.jp)※『成歩堂龍一 〜異議あり!』は上記リンクのサウンドトラックディスク1の5曲目で一部試聴可能です。
──最近お会いしたというのはどういったきっかけで?
岩垂東京ゲームタクト2019のときです。杉森さんの曲は本当におもしろいですね。ちょこちょこ隠しネタみたいな、おもしろさを出すためのコツを持ってらして。先ほどの『成歩堂龍一』の曲で言えば、16分音符で均等にくるのではなく、ちょっと跳ねているんです。それによってジャズのような大人っぽさが出ている気がします。
そういえば、オーケストラの編曲のために北川さんとも連絡を取りました。曲を聴くとこれまた緻密な人で。細部までこだわりを感じます。『大逆転裁判』という作品を反映してか変拍子も多くて。新しいことをやりつつ曲の盛り上げかたもわかっている方で、勉強になりました。
─そもそも、オーケストラの編曲はどんないきさつで担当されることになったのですか?
岩垂『逆転裁判4』の開発完了後、今後の展望を聞かれた巧さんが「オーケストラアルバムを作りたい」と言ったそうで、お声が掛かったんです。そのレコーディング現場で、巧さんと「せっかく作ったからにはコンサートもやりたいよね」となりまして。
でも、生で楽団が演奏するなら、譜面作りでミスがあってはならないし、ゲームで聴いていた曲を観客の皆さんがオーケストラで聴いたときに「なんかもとの曲と違うね」と思われたくないというプレッシャーもありました。もちろん、オーケストラとゲーム音源とは音色が別物にはなるのですが、同じような音色に聴こえるように書きましたね。
ゲームの場合、原曲はPCで作っていますから、そのまま楽譜にすると人間が演奏できない曲もあるんです(笑)。それに『開廷』など歴代作品バージョンをメドレーにした場合、同じ楽器の編成だと似たような曲になるので、メロディーラインを異なる楽器にするなど工夫しました。
CD『逆転裁判15周年 記念オーケストラコンサート』(Amazon.co.jp)――結果的にコンサートは毎回大盛況でしたね。
岩垂直前まで本当にお客さんが来るのか関係者みんな心配だったんですよ。「1日2回公演にするか……いや、2回やったら空席が出まくるかもしれないな……1回にしておこう!」と、決断したくらい(笑)。それがまさか再演の機会を何度もいただけるとは、思ってもみなかったです。
――第1回の公演では岩垂さんも壇上に上がって、何かを演奏されていましたよね。
岩垂弾けるオルゴールの“カナデオン”ですね。ラミロアの曲『恋するギターのセレナード』を霜月はるかさんに歌っていただいたのですが、その隣で弾いていました。カナデオンはね、僕が『逆転裁判3』のお仕事をいただけたきっかけになった(株)スリックのオルゴールなんですよ。
――コンサート以外でも、岩垂さんはバンドでライブもされていますよね。
岩垂ライブはお客さんの反応が直に来るのですごく楽しいです。ライブハウスでやるようになった以前にも、Japan Expoでパリとアメリカで演奏させてもらう機会がありました。現地のファンの方が喜んでくれるのを見て海外でもこんなに愛されているんだとうれしくなりました。日本でも盛り上がるぞと、確信を持てましたね。
――ガリューウエーブの曲、『LOVE LOVE GUILTY』はお客さんのレスポンスがすごいですよね。昨年は『恋の禁固刑13年』をリモートライブで公開されたのも話題になりました。
岩垂あの曲は、巧さんと「そういえば題名しかない曲があるから、メロディーもつけようよ」という話になって作ったんです。もっと情勢が落ち着いたら、またみんなで盛り上がりたいですね。
MP3『逆転裁判4 オリジナル・サウンドトラック』(Amazon.co.jp)※『恋するギターのセレナード』(ノンボーカル)は上記リンクのサウンドトラック23曲目で一部試聴可能です。
ゴドーのテーマはジャズ喫茶から
――岩垂さんは作曲するとき何から始められますか?
岩垂まず、リスト曲数ぶんの楽曲ファイルを作って色分けします。全体の流れを見てどんなジャンルだったらおもしろくなるかと考えるんです。それから作曲の日を決めてその日にほとんどのメロディーを作りますね。巧さんたちからの説明を見て、浮かんだものから書いていきます。ひと通り書き終えたら、つぎの日からアレンジに入ることにしています。
――巧さんとのやり取りと言えば、「ゴドーの曲がイメージぴったりだった」と言われたと、サントラCDのライナーに書かれていました。
岩垂ああ、覚えています。ゴドーは一発オーケーでした。ゴドーの説明でコーヒーと聞いたときに、ジャズ喫茶のイメージが浮かんだんです。高校時代から通う地元の喫茶店があるのですが、そこで初めて飲んだブラックコーヒーがおいしくて。店内で流れていたジャズの気だるい感じがゴドーに合いそうだなと思いました。
MP3『逆転裁判3 オリジナル・サウンドトラック』(Amazon.co.jp)※『ゴドー ~珈琲は闇色の薫り』は上記リンクのサウンドトラックのディスク1の11曲目で一部試聴が可能です。
――実体験から生まれていたんですね。ほかに思い出深い楽曲はありますか。
岩垂そうだなあ、『追求』は初めて聴いたときジュリアナ系の曲に思えたんですよ。楽曲が作られた当時もブームは去っていたのになぜ、と。『逆転裁判3』のときはよくわからないながらも自分なりのアプローチをしました。
あと印象的なのは、僕の曲ではないのですが、不穏な感じや事態が変化したときに流れる曲『サスペンス』。とても使いやすくてよくできていると思います。デケデケデケデケ……ってやつ(笑)。
――最後に、岩垂さんにとって『逆転裁判』の音楽はどんな存在なのかお聞かせください。
岩垂 僕の中の、いままでになかったところを引き出してもらった作品です。僕は幸運なことに『逆転裁判』のいくつものタイトルをやらせていただきましたし、僕のひとつのステータスのような、とても大切な代表作となっています。これからもみんなにずっと聴いてもらえるようがんばっていきたいです。
※『逆転裁判』20周年記念インタビューその他の記事は以下の関連記事をチェック!