『クロノ・クロス』は、スクウェア(現スクウェア・エニックス)から1999年に発売されたプレイステーション用RPGだ。

『アナザーエデン』×『クロノ・クロス』のキーマン 加藤正人氏に訊くコラボシナリオ“COMPLEX DREAM”── 「『クロス』が好きだった人はきっと『アナデン』でも楽しみを見つけてくれると思う」

 1995年に発売されたRPG『クロノ・トリガー』の流れを汲み、システムなどを一新しつつも、並行世界を行き来しながらいつしか星の運命をめぐる壮大な物語を紡ぐこのRPGは、物語の深い部分でつながっていた。

 加藤正人氏がシナリオを手掛けた両作品は、以来22年にわたって愛され、いまなお考察動画などが作られるほど入り組み、味わい深く、高い評価を得ている。同時に、光田康典氏による楽曲の評価も高く、長らく伝説的なタイトルとなっていた。

 時は流れ、シングルプレイ専用RPG『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)が、2017年4月12日に異色のゲームとしてサービスを開始した。

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 というのも、この作品はスマートフォンで楽しむゲームながら、一般的なスマホゲーによくあるフレンド機能や時限のイベントなどを排し、ひとりでじっくりと物語に向き合い、キャラクターの魅力を満喫するものだったからだ。

 そしてこのゲームも、また核となるシナリオを手掛けるのは、かつて『クロノ・トリガー』や『クロノ・クロス』でRPGファンを唸らせた上記の加藤正人氏だ。

 つまり『アナザーエデン』と『クロノ』シリーズは、いずれも加藤氏がシナリオ・演出を手掛けた作品であり、物語の根底を貫くキャラクターの姿勢など親和性が非常に高い。

 そして今回、2021年12月6日にPC版もリリースされたばかりの『アナザーエデン』が、伝説のタイトルとなっていた『クロノ・クロス』と、文字通り時空を超えて奇跡のコラボ(協奏)を発表したのだ。その名も“COMPLEX DREAM”!

 “COMPLEX DREAM”には、『クロノ・クロス』から、主人公のセルジュと彼を旅に誘う勝ち気な少女キッド、そして物語のトリックスターであり、敵ながらセルジュの冒険を導くこともある謎の少女ツクヨミが参戦。プレイ中の選択次第でシナリオは分岐するというが……。

 さまざまな思いや奇跡がつながり、協奏に至った『アナザーエデン』と『クロノ・クロス』。このふたつのタイトルについて、ほかならない加藤正人氏に両作や、この“COMPLEX DREAM”に込めた想いをたっぷり訊ねた。とくに『クロノ・クロス』ファンは必読だろう。

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 ちなみに『クロノ・クロス』にまつわる新たなエピソードが味わえる機会は、じつはこの22年来、今回の協奏が初めてとなる。

※インタビューは“COMPLEX DREAM”のリリース前、2021年11月中に収録した。

加藤正人(かとうまさと)

シナリオライター/スクリプター/演出。代表作に『クロノ・トリガー』、『クロノ・クロス』、『ファイナルファンタジーXI』など。

昨日まで作っていたものを作るかのように書けた

――今回のお話を伺って「ついに来たか」と興奮しました。協奏としては第3弾。22年越しに加藤さんご自身が作られた作品とのコラボです。まずはご心境をお伺いできれば。

加藤過去のタイトルにこだわるくらいなら新しいものをやっていきたい気持ちはあるので、今回も『P5R -ペルソナ5 ザ・ロイヤル-』や『テイルズ オブ』シリーズのように新しいタイトルとの協奏でいいのではと思っていましたが、周囲の皆さんが、「『クロノ・クロス』とのコラボがしたい」と強く思っていたようです。

 ですので僕の想いで実現したというよりは、どちらかというと流されて作ることになった感じで(笑)。

――(笑)。

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加藤ただ、『クロノ・クロス』にはとても思い入れがあるので、本当にありがたい話でした。でも22年前の作品なので、若い人たちは名前すら知らないかもしれない。

 一方、そのあいだずっと好きでいてくださったファンの方たちにはそれなりの思い入れがある。だから「やる以上はしっかりと、おもしろいものを作らないとマズい」と本気で作り始めました。

――加藤さんの長いキャリアの中でも、『クロノ・クロス』はやはり特別なものなんですね。

加藤なんだかんだ言って好きですね(笑)。ふり返ってみても、『クロノ・クロス』は、自分のクリエイター人生の中でひとつの大きな頂点です。

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 シナリオのまとまりや完成度で言えば、『バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海』のほうが上だと思いますが、『クロノ・クロス』は好き放題に作り上げたものなので、自分のベストなんです。

 当時も言っていましたが、『クロノ・クロス』はやりすぎて、ゲームとしてシナリオとしてヘンなんですよ。完成度として見れば70、80点程度。満点が付くゲームでは決してない。

――過去に「9点が最高のほめ言葉」とも仰っていますね。

加藤ええ。すべての人は満足しないだろうけど、自分のカラーがいちばん出ていて、しかも文句なくすべて出し切ったものです。

 そういう経緯もあり、『クロノ・クロス』の物語は僕の中で終わっていないんです。たいていのタイトルは作り終えるとそれまでですが、『クロノ・クロス』だけはどういうわけか、つねに自分の中に残っています。

 ですから今回作るときも、セルジュ、キッド、ツクヨミとも、昨日まで作っていたゲームを今日も作るかのように、即座にいくらでも話が書けました。

『アナザーエデン』×『クロノ・クロス』のキーマン 加藤正人氏に訊くコラボシナリオ“COMPLEX DREAM”── 「『クロス』が好きだった人はきっと『アナデン』でも楽しみを見つけてくれると思う」

 今回彼らは『アナザーエデン』の三頭身の姿で登場するので、そういう新鮮さはありますが、古い引き出しにしまってあったものを引っ張り出して……という感覚ではなく。

 それは『クロノ・クロス』というタイトルが、自分の中でずっと根強く生き続けているということなんだろうなと思いますね。

時空を超える冒険と並行世界はどう絡み合う?

――今回の協奏のテーマは、『クロノ・クロス』が題材なので、やはり並行世界になるのでしょうか。

加藤『クロノ・クロス』とコラボをする以上、テーマはやはりパラレルワールドです。しかもあくまで『アナザーエデン』の中のコラボとしてのボリューム。

 オリジナルの『クロノ・クロス』のように、何十人ものキャラクターがいて、連れていく相手によって話が分岐するようなものを作るわけにはいかず、だったら『アナザーエデン』というゲームの中で、パラレルというテーマをどう展開しておもしろいものにするか、というところがコラボにあたって真っ先に頭を悩ませた部分です。

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――物語としてどこまで『クロノ・クロス』との関連性があるのでしょうか。『クロノ・トリガー』や『ラジカル・ドリーマーズ 盗めない宝石』から脈々と続くような流れの中に位置付けられるものですか?

※『クロノ・トリガー』……旧スクウェアより1995年発売のスーパーファミコン用RPG。堀井雄二氏、坂口博信氏、鳥山明氏などの豪華制作陣を迎え、時空の移動をテーマに壮大な物語が描かれた。企画・メインシナリオ・演出は加藤正人氏。

※『ラジカル・ドリーマーズ -盗めない宝石-』……旧スクウェアより1996年にリリースされた、サテラビュー配信のサウンドノベルアドベンチャーゲーム。セルジュ、キッド、ヤマネコらの原型が登場する『クロノ・トリガー』と『クロノ・クロス』をつなぐエピソードなどが描かれている。メインシナリオである“Kid 盗めない宝石編”は加藤正人氏のシナリオ。

加藤僕の中では、『クロノ・トリガー』でプレイヤーがしたことが『クロノ・クロス』では責任として押し寄せてくる構造なので、両者はつながっています。

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 一方、『ラジカル・ドリーマーズ』はキッドやセルジュというキャラクターとヤマネコのやりとりなど、設定そのものがつながっていますので、今回もそうした因縁はそのままです。

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 自分としては今回の“COMPLEX DREAM”は『クロノ』シリーズの最新エピソードのつもりでいます。時間軸も『クロノ・クロス』の後というよりは、途中のどこか。キャラクターたちがそれぞれ『アナザーエデン』の世界に呼ばれてくるというような形です。

――かなり色濃くつながっていると。

加藤今回はオマージュとして、『アナザーエデン』としては初めての3DCGムービーを作りました。『CHRONO CROSS ~時の傷痕~』が流れる、『クロノ・クロス』のオープニングムービーのオマージュです。観るとちょっと感慨深いですよ。

――光田康典さんの名曲を思い浮べてゾクゾクしますね。そもそも『クロノ・クロス』の彼らはどうして『アナザーエデン』の世界に来たのでしょうか?

加藤それは『クロノ』シリーズの設定で、ある意味最大のバックグラウンドになっている“星の見る夢”に関係します。

 これは、死にかけた星が最期に走馬灯のように見る夢です。星から見たら一瞬ですが、そこに生きる人たちにとっては何年、何十年という時間であり、人生とは、そうした星の夢の走馬灯のひとかけらなんだというもの。

 もう一歩踏み込むなら、『クロノ・クロス』の星が見る夢と、『アナザーエデン』で未来を幻視する胎児たち“幻視胎”の夢が交錯して複雑に絡み合い、それで今回の協奏の舞台ができあがっています。

 その様子から、今回のタイトルは、複雑で入り組んだ夢、つまり“COMPLEX DREAM”となっているんです。

――なるほど!

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加藤星の見る夢と幻視胎の予見した未来の夢が一体化し、そのためにセルジュらは『クロノ・クロス』の世界から呼び込まれるし、幻視胎は幻視胎で自分の視た夢を『アナザーエデン』的な展開で変えようとします。そのふたつの夢のせめぎ合いを軸に話が進むんですね。

――どちらも知っていると膝を打つ感じです。

加藤『クロノ・クロス』を知っている人は、「こういう形で彼らは新世界に紛れ込むのか!」となれますし、『アナザーエデン』をずっと遊んできた人にとっては、倒したはずの幻視胎がじつはまだ生きている時空が舞台。

 幻視胎が視ていた夢のひとつが『クロノ・クロス』でいう星の見た夢であり、幻視胎がいろいろなスクリーンで視ていた未来のひとつが『クロノ・クロス』のオープニングであって……そういう時空にアルドたちが入り込む、という感じで非常にうまく『クロノ』シリーズと『アナザーエデン』を交錯させられたと思います。

――期待しかないです。

加藤『クロノ』の新しい断片を出す以上は、ちゃんと両方のテーマにつながらないと自分でも納得できないわけで、最初にこの結び付きを考えついたときに、これだったらいいゲームになるなと思えました。

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ツクヨミとキッドがやり残したこと

――『アナザーエデン』プレイヤーには『クロノ・クロス』を知らない方も大勢いると思います。そうした人たちに、協奏の中で『クロノ・クロス』をどう教えようとしているのでしょう? 知らなくてもプレイに問題はありませんか?

加藤たとえば『アナザーエデン』の世界に迷い込んでいるキッドやツクヨミは、「ここは(『クロノ・クロス』の舞台の)エルニド諸島じゃないのか?」と語ります。そこで誰かに「エルニド諸島って何?」と聞かれ、「いや、こういう美しい島に村があって」というように、背景がわかるような説明をちょこちょこと入れています。

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 『クロノ・クロス』を知らないプレイヤーも、遊びながら「こういうキャラクターがいて、そういう世界から来たんだな」と思うことで『クロノ・クロス』に興味を持ってもらいたいんですね。

 自分なりに調べて発見して、理想としてはやはり『クロノ・クロス』を遊んでもらい、「22年前にこんなゲームがあったんだ!」と、『アナザーエデン』を通じて『クロノ・クロス』を発見してもらえればと思っています。『クロノ・クロス』を遊んだら当然『クロノ・トリガー』にもつながるだろうし。

――今回の協奏の中でキャラクターの掘り下げなどもしているわけですよね?

加藤サブクエストを遊ぶと、キッドやツクヨミというキャラクターがわかるようにしています。

 そうそう、ツクヨミは今回『クロノ・クロス』のテーマを大きく引きずっているんですよ。というのも、『クロノ・クロス』ではツクヨミの最後が描き切れなかったので……。

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――そうですね。

加藤今回は『クロノ・クロス』の世界からやってきているわけだから、退場する前のツクヨミです。

 いずれ自分に訪れる宿命を知りながら、そのツクヨミが『アナザーエデン』の今回の世界に来たらどう思うのか。「自分はいずれそうなる。でも、自由に生きてもいいんじゃないか」って……。

――聞いているだけで泣けそうです……。

加藤今回の『アナザーエデン』の世界では、ツクヨミはひとりの生きる者として自由を求める気持ちを原動力に動いてもいいんじゃないかと。ひとつの生のありかたを描いています。

――お話を伺っていると、「わーい! コラボだ!」というレベルじゃないですね。

加藤基本的に僕は、新しいものをと言うわりに、描き切れなかったことを引きずるんですよ(笑)。

 『クロノ・トリガー』で描き切れなかった登場人物サラを描きたくて、昔も『ラジカル・ドリーマーズ』を作りました。書き始めこそ別の3人の盗賊団の話でしたが、最後のほうで「これって『クロノ』じゃん!? だったらサラの物語にしてしまえ」と自覚したんです。

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 さらに『ゼノギアス』を作り終えたあと、プロデューサーの田中弘道さんと『ラジカル・ドリーマーズ』をもっとちゃんとしたゲームとして作りたいと話して『クロノ・クロス』が作られました。

 でもまた『クロノ・クロス』で描き切れなかったツクヨミを、今回『アナザーエデン』で描くわけで、毎回同じことをしているんですね。(笑)。

――(笑)。ツクヨミは人気も高いですよね。

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加藤インパクトのあるデザインですし、物語の中でもいい役回りでしたので、いまもファンの皆さんにとても愛されています。だからこそそれだけ愛されている彼女の話をもう一度描き切りたいという想いがありました。

――22年越しの補完は堪りません。一方のキッドには、どう踏み込んでいるのでしょう?

加藤キッドはアシュティアとの話なんです。

――あっ。

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加藤キッドのやり残したことというのは、アシュティアとの関係性なので。今回はキッドが『アナザーエデン』の世界に迷い込んできたことで、アシュティアと出会い、「なんでここで生きてるんだ?」となり、そこで絆ができていきます。キッドは、そこでキチンとケリをつけようとしています。

――「うひゃー!」っとなりますね。

加藤でしょ?(笑)

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特定のキャラクターがいるとルートが変化する

――少しシステムの話をさせてください。“強くてニューゲーム”の仕様があるとのことですが、何周もする前提ということですね?

加藤基本的には『アナザーエデン』の13章までをクリアーしていれば始められますが、ストーリーもマルチに展開し、エンディングも分岐します。それらをクリアーしていて、かつ『アナザーエデン』を第1部程度まで終わらせていると、新たな分岐が現れます。

 基本的にはひとつの話の流れですが、キッドやツクヨミなど特定のキャラクターがいることでイベントが変わり、彼女たちの能力に応じてルートが変わる仕掛けです。

――能力?

加藤たとえばキッドだったら、閉ざされた牢屋なり扉なりを盗賊の技術で開けられるし、ツクヨミだったら彼女の能力でふつうは行けないところにも行ける、という仕掛けなどで枝分かれする感じです。

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――なるほど。それで周回の必然性が生じますね。

加藤ほかには、どちらのルートでもゲストとしてグレンや星の子が出てきます。ルートによって新しいイベントが発生するというような、枝分かれに対してのプラスアルファになっています。

星の子とラッキーダン

――星の子は、確か『クロノ・クロス』本編でも、ツクヨミとの切ない会話イベントがありましたね。

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加藤僕は星の子が大好きなので。今回もツクヨミと星の子は仲よしなんです。むしろその関係性があるからこそ、今回ツクヨミを出すんだったら、自分としては星の子とまたいい感じの会話をさせたいという思いがあって、出さないわけにはいきませんでした。

――なるほど。登場させられる人数が限られていても、そう考えると星の子は外せないですね。

加藤僕はラッキーダンなど、もっと個性的なキャラクターを入れたかったんですけどね(笑)。キャラクターを選ぶときも、僕がセルジュ、キッド、ツクヨミの3人を提案したわけではなく、満場一致で決まりましたが、僕だけ「星の子とラッキーダンは入れないの?」なんて言っていたりして(笑)。

――(笑)。

加藤『クロノ・クロス』のときもイロモノキャラクターばかり作っていて。「キノコなんて誰もいらねえだろう」なんて言われながらも喜んで書いていました。確かに「いま考えると、さすがにキノコはやりすぎたかな?」と自分でも思ったりしますが、彼は彼で味わい深く。

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――当時は、40人以上も登場すると、こんなキャラクターも出てくるんだなと思いながら攻略をしていました(笑)。

加藤当時はもうタガが外れてやりたい放題でしたね。

 ラッキーダンにしても、キャラクターを考え始めたときに、「ワラ人形を出そう!」と最初の最初に考え、必然的に最初のアルニ村にいるんです。

――初手ワラ人形は……。

加藤昔の攻略本などでも言っていますが、田中弘道さんに「ゲームをスタートして最初に仲間になるのがワラ人形とイヌって何だ? どんなゲームだと思われるよ?」と突っ込まれ、「出だしはヒロインなり、幼なじみなり、ちゃんとしたキャラクターでプレイヤーをつかまないと」と軌道修正されました(笑)。

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――ラッキーダンがレナとキッド以前に出るはずだったんですか?

加藤僕が初めに書いたシナリオでは、レナと待ち合わせするシーンで、すでにラッキーダンがゆらゆら踊っているはずでした(笑)。

――(爆笑)。

加藤僕は基本的に暴走するんです。ノッているとやりたい放題。それをまわりの冷静な人たちが抑えてくれる。『アナザーエデン』も毎回そういうところはあります(笑)。

 だいたい僕はやりたい放題のくせに、シナリオでは最低限のことしか説明しないので、『アナザーエデン』でも、いつも「何を言っているのかわからない」、「ふつうの人が読んでも、それは理解できない」など、まわりからツッコまれます。

――(笑)。

加藤とはいえ、どんな作品でも当然僕だけではなく、毎回毎回それぞれのスタッフがいて、その姿になっているわけで。

――皆さんそれぞれが持っていた熱量によって生まれたと。

加藤ええ。中でも田中弘道さんがいてくれたのが、やっぱり大きいですね。「経験値なんかいらない」という僕のワガママに対しても、田中さん自身がレベルスターなど、いろいろなレベルアップの仕組みを考えて、バトルそのものを一生懸命に作り上げてくださって。

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 その田中さん自身は、「これがもう自分のバトルシステムの理想で、これ以上のものは作れない」と断言していたほど。でもそれに対して僕は、「いや、あれはヘンですから」って(笑)。バトルはやっぱり複雑すぎて、「何をやっているのかわからない」というプレイヤーの声も多く聞きました。

 そういうふうにバトルも、シナリオ、グラフィックも、モンスターも、それぞれのスタッフが「やり切るんだ」というものすごい熱を放っていたタイトルだったと思います。

若いスタッフにどう『クロノ・クロス』を伝えたのか

――いつまでも聞けてしまいますが……“COMPLEX DREAM”の話に戻りますね(笑)。バトルまわりはほかのスタッフの皆さんのお仕事ですね?

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加藤うちのスタッフですね。ディレクターの竹嶋大輔くんが、今回『クロノ・クロス』をいちから遊び直し、“強くてニューゲーム”、“エレメント”や“フィールドエフェクト”などのシステムをできるだけ取り込んで、『アナザーエデン』の中でできるかぎり『クロノ・クロス』っぽいおもしろい遊びを入れ込んでくれました。

 彼に限らず、どのスタッフも率先してガンガン注ぎ込んでくれたという感じですね。ただ、『アナザーエデン』のシステムを壊すわけにはいかないので、やれないことはやれないこととして、ちゃんと見極めていてくれています。

 アートディレクターの江草天仁くんも星の子が好きすぎて、「描かせてください! 描かせろ!」くらいの勢いで嬉々として会話用のバストアップなどを描いていましたね。

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――22年越しで『アナザーエデン』に『クロノ・クロス』を取り入れるとき、スタッフの皆さんに、加藤さんから何か説明をされたのでしょうか?

加藤うちのスタッフには、もともと『クロノ』好きが多く、必要がなかったんです。説明する以前に、みんな攻略本を持っていたりして。

――それは話が早い(笑)。

加藤でも『クロノ・クロス』の話をスタッフとしていて、「私が5歳のときです」なんて聞かされると、どんよりしちゃいますね(笑)。

――(笑)。

加藤でも遊んでくれているんですよ。もちろん中身は理解してないんですが、進めることはできる。そういう子たちが、子どものころはわからなかったけど、大人になって、プレイしたりいま流行りのプレイ動画を観たりして、「こんな話だったのかと愕然とした」と言ってくれて。だからみんなから話を持ちかけられることになるわけです。

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 僕らの世代は、ファミコンのころから30年くらいずっと自分たちが作りたいものを作ってきましたが、いまの20代30代の若いスタッフは子どものころからすでにゲームがあり、それで育ってきている。善し悪しでなく、「あのゲームが好きだから」、「ああいうゲーム作りたいから」でゲームを作っているんですね。

 いまの『アナザーエデン』のスタッフたちも、『クロノ・クロス』みたいなゲームが好きだ、と集まっている。

 だから今回「『クロノ・クロス』が作れるんだ!」というだけで、みんなやっぱり楽しくてしかたないと喜んでいますね

みっちゃんとプロキオンさん

――光田康典さん率いるプロキオン・スタジオさんとも、ひさびさのタッグです。

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加藤『クロノ・クロス』とコラボするシナリオの音楽であれば、オープニングの『CHRONO CROSS ~時の傷痕~』を始め、重要な曲は『クロノ・クロス』から引き継いで使わせてもらいたい、と最初からプロキオンさんにはお願いしてあったのですが、やっぱりコラボですから、新しい曲も描き下ろしてほしくて。

 『アナザーエデン』としても、土屋俊輔さんとマリアム・アボンナサーさんにゲーム中の楽曲でずっとお世話になっていて、最近はまたライブにご登場いただく機会などもあり、「『クロノ・クロス』の協奏ならもう一度お願いできないか」となりました。

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 ただ、みっちゃん(光田さん)は相変わらずの忙しさ。でもやっぱり『クロノ・クロス』の音楽にはみっちゃんもこだわりがあるので、プロキオン監修としてカッチリと作っていくという話はしていましたね。

――出来はやはりすばらしく。

加藤仕上がりについては、さすがのひと言ですよ。

――何も言わずに情景にぴったりの曲がやってきている?

加藤ですね。土屋さんやマリアムさんとは、『アナザーエデン』の最初で初めてごいっしょしたわけですが、そのときは「こういう感じの曲がほしいんです」などといろいろな資料を渡し、仕上がってきたものに対して、どうしても納得がいかないことがあったら曲を直してもらったりしていました。

 ですが、だんだんシナリオが進むにしたがって、僕の作りたいものや、やってほしいものが見えてきたのか、どんどんおふたりが『アナザーエデン』の世界に合わせてくれて。

 オーガ編などでは、合唱を取り入れたとてもカッコいい戦闘曲を作ってくださったり、もう僕がうるさく言わなくても、どんどんいい感じに曲ができてくるようになっていました。ですから、プロキオンさんとはとてもいい感じで。

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 土屋さん、マリアムさんとは今回のコラボでまたごいっしょできましたが、みっちゃんとも『アナザーエデン』本体で、またうまい形で機会があればいっしょにやっていただけたらなと思っています。

オレのキッドがここにいる

――音のつながりで言うと、『クロノ・クロス』のキャラクターには、今回初めて声が付きます。声のイメージをスタッフの皆さんに伝えていたのでしょうか?

加藤僕は声優さんに詳しくないんですよ。ですからスタッフたちがキャラクターをわかっていて、この人という方たちを決めてくれて。

 一方の僕はぜんぜん気にしないなどと言いながら、自分の中にはやっぱりイメージがあるわけです。キッドは当然こういう声だとか、「てめえら許さねえ! 月までぶっ飛ばす!」と言うにもこういう言いかたなんだとか。

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 それを伝えるべく収録場所に赴いたら……わかっている人たちが選んだだけに、バッチリ合っているんですよ。キッドの声なんて聞いた瞬間に、「ああ! オレのキッドがここにいる! すげえな!」と急に前のめりになる体験をしました(笑)。

――(笑)。

加藤あとはセルジュですね。『クロノ・クロス』ではセルジュはしゃべっていないんです。あくまで彼は主人公であり、プレイヤーの分身なので、選択肢などでセルジュの発言は登場しますが、通常時にはひと言もしゃべっていなかったんです。

 そういう経緯を超え、今回の“COMPLEX DREAM”では、キャラクターのひとりとしてセルジュがしゃべり、ボイスも付き、「なんかこれは新しいなあ。とても新鮮だなあ」と思っていたのですが……考えてみれば『ラジカル・ドリーマーズ』ではセルジュがしゃべっているんですよ(笑)。

――ああ! 地の文で。

加藤そうそう。『ラジカル・ドリーマーズ』は、セルジュの一人称視点のテキストなんです。だから、言ってみればセルジュが全文しゃべっているんですよ。それを忘れていました(笑)。

――(笑)。

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『クロノ・クロス』を通じて『アナザーエデン』を楽しんでもらえれば

――あらたまって、『クロノ・クロス』の何がそれほどまでにプレイヤーを惹きつけたのだと思いますか?

加藤結城信輝さんの力を得たキャラクターの力が大きいのと、みっちゃん(光田康典氏)の音楽ですね。物語を書いている身としては、自分の中にあるものをただ形にしただけですが、それがほかの人にとっては異質で、「こんなものは見たことがない」とか、「触れたことがない」という新鮮さも当時はあったのかなと思います。

――確かに新鮮でした。

加藤いま考えると、当時はそれほどパラレルワールドなどがゲームで使われていませんでした。SFが大好きな僕としては、「『クロノ・トリガー』は時空モノだったから、今度の『クロノ・トリガー2』では、流れを受け継ぎつつ、パラレルワールドをテーマにして、別のタイトルとして立てたい」と、自然な流れでそのときやりたいことを全力でやりきっただけなので。

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――22年経ったいまでも『クロノ・クロス』は愛され続けています。タイトルを支えるファンに対して、また今回の協奏を楽しみにしてる『アナザーエデン』ファンの皆さんに、加藤さんから伝える言葉があるとすれば?

加藤本当にもう、ありがたいとしか言えませんね。ひたすら本気で作ったものに対し、それを受け止めてくれた人たちがいる。

 たぶん人間と同じような感じじゃないですかね。人が人と知り合って、なぜだかハッキリ理由はわからないけど、会った瞬間から気が合い、その後も数十年ずっと友だちになっている、そういう感覚に近いんじゃないかなと。

 やりたい放題だったタイトルのどこかがファンの皆さんの琴線に触れ、長いあいだずっと好きでいてくれたんだとしたら、ただただ感謝しかありません。

 逆に『クロノ・クロス』ファンでスマホのゲームが嫌だという人は多いと思うんですよ。そのために『アナザーエデン』を敬遠している人もいるはずなので、そういう方たちにも『クロノ・クロス』から興味を持っていただいて、『アナザーエデン』に触れてもらいたいです。

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 『クロノ・クロス』が好きだった人はきっと『アナザーエデン』でも自分なりの楽しみかたを見つけてくれると思うので。

 本当にそうなれば、作っている僕たちとしては、ものすごく幸せな気持ちになれます。今回の協奏が実現したのは、ある意味すごい奇跡なので、皆さんどうかぜひ、逃すことなく遊んでほしいなと思います。

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