2001年8月23日にプレイステーション2で『デビル メイ クライ』(以下、『DMC』)が発売。“スタイリッシュアクション”というジャンルを生み、2019年には最新作となる『DMC5』が発売された。全世界で450万本越えの販売本数を記録し、改めて『DMC』シリーズの人気の高さを知らしめた。そんな『DMC』シリーズが今年で20周年を迎える。ここではシリーズを通してディレクターを務めてきた伊津野(いつの)氏に、記憶に残る思い出話や『DMC』に対するこだわりなどを直撃。貴重なお話を聞くことができた。

※本記事は、週刊ファミ通2021年11月11日号(2021年10月28日発売)に掲載したインタビュー記事をまとめたものです。

伊津野英昭氏(いつのひであき)

シリーズには『デビル メイ クライ 2』から関わり、『2』、『3』、『4』、『5』でディレクターを務める。

「『DMC3』は自分から「作らせてほしい」と直談判しました」

──改めて『DMC』20周年おめでとうございます。いまのお気持ちをお願いします。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

伊津野僕は第1作の立ち上げ時にはチームにいなかったのですが、20年というのはすごく早いですね。なにより驚いたのは、カプコンに入ってもう20年経ったんだなと(笑)。ここまで続けてこられたのは、やはりファンの方たちのおかげなので、とても感謝しております。でも第1作『DMC』からファンだった方は、20年という歳月が経っているんですね。

──当時中学生だったとしても、もう30代でバリバリ働いているわけですからね。

伊津野子どもがいらっしゃる方もいるかも。最新作の『DMC5』を親子で遊んでくれていたらうれしいです。

──伊津野さんは『DMC』立ち上げ時に関わられていなかったということですが、どのタイミングで参加されたのでしょうか? また、当時の記憶に残る思い出もお聞かせください。

伊津野DMC2』の途中からですね。開発が難航していて、開発後半の助っ人としてディレクターとして加わりました。助っ人でディレクターというのが、そもそもおかしい話ですよね(笑)。でも『DMC2』の開発に関しては時間が短すぎて、納得いくまで作り込めずにやり残したと感じたところもありました。『DMC2』の開発が終わった後、「『DMC3』をやらせてください」と直談判したくらいです。

──『DMC2』は懐かしいですね。当時でもグラフィックがとにかく美しいし、音楽もカッコイイし、キャラクターを操作していて気持ちよかった記憶があります。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

伊津野そう言っていただけるとうれしいですが、とにかく当時は苦労しましたね。なんせ途中から参加してきたもので。

──ちなみに助っ人として参加する前は、どのようなお仕事をされてたんですか?

伊津野CAPCOM VS. SNK 2』が終わった後、じつはオリジナルRPGを立ち上げるための企画をずっと練っている最中でした。そろそろマチュピチュに取材旅行でも行こうかなと思っていたら「おまえ暇そうだから『DMC2』のディレクターやれ」となったんです(笑)。

──オリジナルRPGというのは、もしかして『ドラゴンズドグマ』ですか?

伊津野そうですね。『ドラゴンズドグマ』は『DMC2』、『DMC3』、『DMC4』とやって、「そろそろオリジナルRPGの続きやっていいですか?」ということで開発が再スタートしたんです。

──なるほど! そうだったのですね。ちなみに『DMC3』の製作開始を直談判したとおっしゃっていましたが、 伊津野さんが考える『DMC』の魅力とは、なんでしょうか?

伊津野作品ごとに細かいテーマは違うのですが、共通しているのが、キャラクターがカッコよく戦っている。それを操作している自分もカッコイイと感じられるところですね。カッコよく戦えるかどうかは、まさに操作している人しだいになるので。当時は3D空間でしっかりしたアクションゲームを確立しているゲームは、それほど多くなかったんですよね。その時代にうまく融合できたというのもよかったし、シリーズの魅力と思っています。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

──確かに、当時からいろいろなコンボがつながったり空中でも攻撃を当てまくったりと、工夫しだいでカッコよく戦えましたね。

伊津野キャラがカッコイイ=自分がカッコイイと思ってもらうために、操作も簡単にはせず「できる人だけできる」というバランスは、つねに気にかけているところです。

──伊津野さんは、 先ほどお話に出ました『CAPCOM VS. SNK 2』など、多くの対戦格闘ゲームにも関わられていましたけど、『DMC』シリーズを見ていると格闘ゲームに通じるものがあるなと感じることもあるのですが……。

伊津野それはありますね。『DMC3』を作るときには開き直って、格闘ゲームのコンボの気持ちよさも全部入れてしまえということで開発を進めていったので、自分の自信のあるところで勝負できたのはよかったです。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

──『DMC』といえばキャラクターもカッコよくて魅力的ですが、伊津野さんが気に入っているキャラクターは誰ですか?

伊津野誰かひとりというのは難しいですね。途中から参加したこともあって、ダンテ、トリッシュ、ルシアはすでに登場していたキャラクターなんですけど、よくできているんですよ。カッコいいし、機能的にも理にかなっている。そのクオリティーで新しいキャラクターを作るということで、いちばん生み出すのが難しかったのがネロです。

 主人公交代、もしくはそれに近いことをやろうとして、ビジュアルでもゲーム性でもとても時間がかかりました。そのつぎで言えばバージルがたいへんでした。ダンテのライバルを出そうと考えたのですが、袋小路に入ってしまって。チンピラヤクザ風なキャラクターになりそうな時期もありました(笑)。でもさすがにこれは違うだろうということで、ダンテが赤だからバージルは青、というようにシンプルに考えて現在のバージルにたどり着いたんです。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

──ネロは、バージルのようにダンテと対比させたような要素はあったのですか?

伊津野世代交代ということで、軽口をたたくし、カッコつけるし、髪の毛も白いなどダンテと似ているキャラクターなんですけど、どこで差別化させるかということを、ひたすら詰めていきましたね。お風呂に入ったときには、前を隠すか隠さないかという差別化も閃きました。隠すのがネロで隠さないのがダンテなんですけど、大きいのはネロみたいな。これ記事にしちゃっていいのかな?(笑)

──(笑)。新しい主人公を出しつつも、ダンテもしっかり活躍するという、新しい層を取り入れつつ既存のファンも大切にするという、絶妙なキャラバランスですよね。

伊津野じつは開発チームの中にもダンテファンが多いんです。なので、チームが納得するゲームを開発していくと、自然とキャラクター全員に見せ場があって開発のモチベーションも上がるんですよね。そして『DMC』シリーズファンの方たちの存在ですね。皆さんのおかげでここまでこられたと思っているので、本当に感謝しかないです。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた
初登場時のネロ。たしかにダンテと似た部分も持っている。

『DMC3』は未知へのチャレンジ精神で生まれた作品

──『DMC』といえば“カッコよさ”ですが、その点へのこだわりもお聞かせください。

伊津野カッコいいといのはいくらでもあると思っていて、『DMC』では“操作したくなるカッコいいキャラクター”が重要だと思っています。 見ているだけでは満足できない、「俺にもやらせて!」と思いたくなるギミックとセットになっている必要があるんです。銃と剣など同じ武器を使うにしても、キャラクターごとに触り心地からすべて変えるといいますか。そして、それらすべてを“見ているだけでなく操作したくなる”バランスに落とし込む、というのが、こだわりですね。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

──聞けば聞くほど格闘ゲームですね。

伊津野ぶっちゃけると、そうかもです(笑)。

──『DMC』はキャラクターだけでなく音楽も魅力のひとつになっています。伊津野さんの気に入っている曲を教えてください。

伊津野音楽では賞をいくつかいただいていて、『DMC4』のテーマ曲『DRINK IT DOWN』が印象に残っているのと『Devil Trigger』、あと『DMC5』の『Devil Trigger』も思い入れがあって好きですね。そして、第1作『DMC』の戦闘曲もめちゃくちゃ好きなんですよ。

──『DMC5』はコンボのつながり具合で音楽が変化する、音ゲー的な要素も楽しいですね。

伊津野サウンドチームが新しい提案をしてくれて、『DMC5』に関してはボーカルを入れましょう、と。サビがどんどん上書きされていく仕掛けなど、サウンドチームと非常に盛り上がって。これからも、まだまだ新しいことはできるな、と感じましたね。

──興味深いお話をお聞きできましたが、伊津野さんが『DMC』に関わられて、とくに苦労したエピソードはなんでしょうか?

伊津野『DMC3』を作らせてほしいと直談判したときですね。スタッフを集める際、言いかたが少し悪いですけど、“腕はあるけど仕事に恵まれていなくて暇そうにしている”人たちに声をかけたんです。「俺といっしょにゲーム業界に名前を残さないか?」 て。 じつは『DMC3』は社内でも作りかたを大幅に変えたタイトルでした。

 いまではひとつのチームがワンフロアに集まって開発するのは当たり前になっていますが、当時はグラフィッカーやプランナーなど、職種ごとにフロアがバラバラだったんですね。それを同じフロアにまとめたり、アイデアを練るためにチーム全員で合宿したり。他にも英語を話すなら役者さんも外国人にしよう、という流れでオーディションをしたり、コミュニケーションが大切だからと月に1回ボウリング大会をしたり(笑)、 とにかくいろいろなチャレンジをさせてもらいました。「これでこのゲームが成功しなかったら終わりだね」と話していたのも覚えています。 結果的に、それが実を結んだタイトルだったので、苦労もありましたけど思い出深いですね。

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

――チャレンジ尽くしの開発だったんですね。でも、その挑戦が現在の体制の礎になったと考えると挑戦した甲斐もありますよね。では、逆にうれしかった思い出は?

伊津野『DMC5』発表時のお話ですが、ファンの方とお話する機会があり、そこで『DMC』シリーズが好きでゲーム業界に入りましたという方たちがいたんですよ。いろいろな人たちの人生に影響を及ぼすゲームを作れたんだな、と思ったのがうれしかった思い出ですね。

――2021年9月1日~15日に20周年を記念したセールやリツイートキャンペーンを行っていましたが、そちらの反響はいかがでしたか?

伊津野予想していた以上の反響があり、うれしかったですね。すべて目を通していますし、イラストなどもたくさん上げていただけました。なにより『DMC5』発売までに10年も経っていたのに、ファンの方が温かく見守っていてくださっていたことに感謝ですね。

――『DMC』のスマホタイトルが中国市場向けに開発されていますが、『DMC』とスマホの相性については、どうお考えですか?

伊津野「無理でしょ」と思っていましたが、テストバージョンが届いてプレイしてみると「意外と遊べるな」というのが正直な感想でした。相性は悪くはないなと感じましたね。中国市場で開発されている『DMC』は外付けコントローラにも対応しているので、コントローラで操作するという条件ですが。でも可能性は感じましたね。僕たちも楽しみながら監修をさせていただきました。

――『DMC5』でバイクが武器に変形するギミックは、発想は昔からあったけど技術的な問題で、PS4の世代でようやく実現できたというお話を以前にうかがいました。ほかにもまだまだアイデアがあるのでしょうか?

『デビル メイ クライ』20周年記念インタビュー。ディレクターの伊津野英昭氏に20年分の思い出話を訊いた

伊津野別のインタビューでも言っているかもしれませんが、楽器のサックスを使ったギミックはやりたいなと思っています。基本的には、傍から見てカッコイイなと思えるものは、なんでも武器にしたいですね。最近は「これカッコイイかもな」と思うことをテレビなどで観ることは多いのですが、なかなか“新しいもの”が思い浮かばないんですよ。今後は技術的に、というよりはアイデア勝負になると思うので、「こんなアイデアがあるよ」という方がいましたら、ぜひTwitterなどで教えてください。採用されたら、裏でこっそりプレゼントなどお送りするので(笑)。

――これからの『DMC』がどうなるのか楽しみです。最後にひと言コメントをお願いします。

伊津野第1作からのファンの方、 途中からファンになってくれた方たちに、改めましてありがとうございます。ナンバリングの『DMC』全作品は現行機でもプレイできますし、最新ハードのプレイステーション5やXbox Series Xを手に入れた方は、ぜひ『デビル メイ クライ5 スペシャルエディション』で美しい映像とともに堪能していただければと思います。小説やマンガ、アニメなどでも『DMC』の世界観を楽しんでいただければうれしいですね。今後についてもいろいろ考えているので、ぜひ応援よろしくお願いします!