セガとColorful Paletteが手掛けるiOS、Android向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)。本作は、『メルト』(作詞・作曲:ryo)や『千本桜』(作詞・作曲:黒うさ)といった人気楽曲にのせて演奏が楽しめるリズムゲームに加えて、現実世界と人々の“本当の想い”から生まれたふたつの“セカイ”を舞台にしたストーリーと“バーチャルライブ”で、初音ミクたちバーチャル・シンガーやオリジナルキャラクターの魅力にも触れられる作品だ。
そして、キャラクターの生き生きとした姿が楽しめる3DMVもファンから大きな支持を受けている点。リリースから1年が経ち、現在では40曲を超えるMVが実装。どの楽曲もクオリティーが高く、多くのユーザーを魅了してきた。そこで、3DMVの制作に携わるクリエイター陣にインタビューを実施し、現在実装されている楽曲について、3DMVのこだわりや制作秘話を伺った。
※『プロセカ』1周年記念★4イラストまとめはこちら
※『プロセカ』発表時のインタビューはこちら
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク 公式ビジュアルファンブック』の購入はこちら (Amazon.co.jp)セガ 新井啓史氏(あらい さとし)
『プロジェクトセカイ』のMVプロット・演出考案、制作進行を担当。
Colorful Palette 飯塚昂平氏(いいづか こうへい)
『プロジェクトセカイ』アートディレクター。ステージデザイン、MVプロットの方向性チェックなどを担当。
マーザ・アニメーションプラネット 花田義浩氏(はなだ よしひろ)
『プロジェクトセカイ』のMVプロット・演出・カメラレイアウト考案、ディレクションを担当。
ディッジ 芦田洋之氏(あしだ ひろゆき)
『プロジェクトセカイ』のディッジ社内の3DMV制作進行管理、ディレクション。
ディッジ 勝山祐弥氏(かつやま ゆうや)
『プロジェクトセカイ』のモーション制作、実装などを担当。
『プロセカ』だけの新しいものを手掛けたい!
――まずは、1周年おめでとうございます。本日は3DMVについてうかがえればと思っています。まず、『プロセカ』において、開発や企画の段階から3DMVの実装は考えていらっしゃったのでしょうか?
新井3DMVは企画の段階からゲームのひとつの要素として入っていました。当初から、3Dのモーションでキャラクターのモデルを動かすということを念頭においたうえで企画が進行していました。
――なるほど。3DMVの大まかな制作の流れを教えてください。
花田まずは曲の大まかな方針を決めるプロットを作成し、ざっくりとした演出を決めてモーションキャプチャーをしていきます。
その後、モーションキャプチャーのデータが届いた段階からカメラワーク、背景制作、アニメーションの制作がスタートしていき、それぞれが成熟して集まってきた段階で、ディッジさんのほうで“Unity”に組み込んで、ひとつに合体させていくというのが大まかな制作の流れになります。
――3DMVの制作ではマーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)やディッジを始め、4社が携わって制作されていますが、会社間でのやりとりで苦労されたことはありましたか?
花田僕の中では、この座組は“席が近い”ように感じていて。他人行儀ではなく、“会社”という壁に分けられているとはいえ、同じチームであるという感覚でいます。冗談を言い合ったり、「これいけますよね!」といった無茶ぶりをしてみたりだとか、かなりいい関係性を築けているのではないかと思っています。
――会社間の壁を感じず、お互いがチャレンジできているのですね。
花田僕としてはそう感じていますね。
――良好な関係の中で作り上げられたMVだからこそ、多くの人に刺さるものになっているのでしょうね。初音ミクのゲームと言えば、『Project DIVA』シリーズが切り離せない作品かと思います。ミクたちの踊っている姿を楽しめる点は、『プロセカ』においても重きを置いているところなんですか?
新井『Project DIVA』シリーズのこともありますが、最近の音楽ゲームアプリでは2DMVや音楽がメインになっているタイトルが多く、3Dでキャラクターが歌って踊る演出を加えることで、ゲームをリッチなものにして差別化することも意識しておりました。
――『Project DIVA』シリーズの3DMVから参考にされたことはありましたか?
新井最初のプロット打ち(※1)のときに、私と花田さんで演出やモーション、ステージデザインといったMVの方向性を固めていくのですが、その際に『Project DIVA』シリーズを意識することはあります。
※1:プロット打ち……作品の構想の打ち合わせ。今回の3DMVにおける、演出方法、ステージデザインなど、MVの方向性を決める作業。
ただ、『プロセカ』は『Project DIVA』を超えるものを目指しつつ、ある程度『Project DIVA』を踏襲しながらも、しっかりと差別化したいという意志を持ちながら制作しております。
花田僕たちの中では『プロセカ』だけの新しいものを作っていこうというマインドが非常に強いです。同じものを作ってもおもしろくはないのですから。『Project DIVA』で取り上げられていた楽曲が、そのときはどのように作られていたのかを参考にさせていただいたり、新しい表現を模索していく中での、ちょっとしたヒントを拾ってくるときに参照することはあります。
――実際にヒントを得て制作されたMVのエピソードがあれば教えていただきたいです。
花田『スイートマジック』(作詞・作曲:Junky)の制作のときのことですが、ステージの空間の寂しさを埋めるために、空中に何か出てくる演出を取り入れたらおもしろくなると考えたものの、じゃあ何を出せばいいのか、という案が出てこなかったんです。
そのときに『Project DIVA』のステージはどのようになっていたのか参考にさせていただいて、そこからケーキといったお菓子の要素を持ってきたらハマるのではないか、というヒントをもらい、話が進んでいったというエピソードがあります。
――確かに、『Project DIVA』のMVではお菓子をモチーフにした演出になっていますが、その要素を咀嚼して『プロセカ』でも取り入れたと。
花田そうですね。もとのMVとも繋がりますし、ファンの皆さんにも喜んでいただけるのではないかと思いました。
――3DMVを実装する楽曲を決める際の基準はありますか?
新井基本的にはColorful Paletteさんのほうで、ゲーム内に実装する楽曲を選んでいただき、各ユニットでMVの本数のバランスを取りながら実装しています。
毎月書き下ろし楽曲と既存曲の2曲の3DMVを実装していまして、書き下ろし楽曲であれば、ストーリーと密接な関係にある楽曲を書き下ろしていただいているので、そのときのイベントにあわせて楽曲を3DMVにしています。既存楽曲では、これが3DMVになったらユーザーさんが喜んでくれるだろうという楽曲が選定の基準になっています。
――ファンとしては全楽曲の3DMVを観てみたいです!
新井もちろん、どの曲も魅力的ですし、とくに書き下ろし楽曲については「可能であればすべて3DMVにしたい」とColorful Paletteさんからご希望をいただきつつも、その中でスケジュールやコストなど、さまざまな都合で数を絞っているというのが現状です。
キャラクターデザインや3Dモデルへのこだわり
――バーチャル・シンガーやキャラクターたちを、『プロセカ』のビジュアルとして3Dモデルに落とし込む際に気をつけているポイントはありますか?
芦田もとのキャラクターデザインが本当にかわいいので、それを3Dでも違和感なく落とし込むことにこだわっています。どうしても3Dモデルの仕様的にきびしいところはあるのですが、モデルっぽさやポリゴン感はなるべく出ないようにしつつ、とくに顔まわりは気を遣って制作しています。
花田僕が3Dモデルを初めて見たときに、髪の毛がいろいろな方向に跳ねていたり、すごくボリューミーだったので、そのこだわりように驚きました。アウトラインの出しかたでも、かなり苦労されていましたよね?
芦田アウトラインも苦労しましたし、トゥーンシェーダー(CG処理の手法のひとつ)を取り入れた作品なので、モデルが汚いと影の入りも汚くなってしまうといったこともありました。それに付随して、モデルの細かい部分もひとつひとつ調整しているんです。
――原案となっている2Dのデザインのところで、『プロセカ』のミクを描くときに意識された点を教えてください。
飯塚イラストのテイストを決めるときは初音ミクの公式感が出るように注意して描いています。初音ミクたちのパッケージイラストと並べても遜色なく、そのテイストでありながらも“いまっぽさ”を出したくて、ミクのデザインは作り直しをしながら固めていきました。
オリジナルキャラクターたちも同様に、バーチャル・シンガーたちのパッケージと並べても違和感のないテイストにしており、キャラクターのディティール的には、ある意味3D映えしないくらいあっさりしています。そのようなキャラクターデザインとなっているので、3Dモデルに反映しても違和感がなく、あっさりしているけれどポリゴン感が強くならないということは、かなりすり合わせをしていきました。
――できあがった3Dモデルを見て、リテイクなどをされたりはしましたか?
飯塚できあがった3Dモデルのルックスに対して、画像に赤入れをして「こういうかたちにしてください」といったことをやっていた時期がありました。あとは、かなりアウト気味のタイミングで、キャラクターのスタイルを変えたいという要望を出させていただいて、より“いまっぽい”デザインに調整してもらったこともありましたね(笑)。
――本当に細かいところまで、チェックをされて調整しているんですね。『プロセカ』はユニットごとの特色が強いですよね。これもキャラクターデザインやモデルを描く際に意識されていたのでしょうか?
飯塚キャラクターデザインに関しては、設定の段階でかなり色(個性)を出して、イチバンしっくりくる絵に落とし込んでいきました。
キャラクターの設定が詰まる前に、絵だけでユニットを5パターン出してみて、それぞれの色が分かれるかを確認したうえで、キャラクターの個々の設定やデザインを決めていったのですが、オリジナルキャラクターひとりにつき、数十種類のパターンを出しているんです。
だから、じつは100や200じゃ収まらないくらいの顔の数が生まれていたりします。そうやって生まれたキャラクターたちなので、3Dモデルもがんばってくださいとお願いしました(笑)。
細かく作りこまれた振り付けとアニメーション
――『スイートマジック』、『ハッピーシンセサイザ』(作詞・作曲:EasyPop)などの一部の楽曲では、これまでの振り付けのテイストを取り入れつつもアレンジされたものになっていますが、振り付けを考える際に意識していることはありますか?
花田制作期間の前半と後半では制作体制が変わってきていて、最初のころは体当たりなところもけっこうありました。
振り付けは『Project DIVA』からお世話になっている“ソリッド・キューブ”さんにお願いをしているのですが、担当者さんやアクターさん、振り付け師の方が振り付けを覚えていらして、「よきように!」とお願いしてできあがったものが、過去の振り付けを踏襲したものであったり、新しさが追加されたものだったんです。そこから『プロセカ』の振り付けの流れが固まっていったと思っています。
――すべてを委ねた結果、振り付けの方向性が固まっていたのですね。
花田後半になってくると僕たちも経験値を積んでやりたいことが見えてきまして、振り付けに関しても、音をいただいてから「この振り幅で組み立ていただけないか」といったことをお伝えしたりとか、その中でアクターさんの表現するものを自由に盛り込んでいただける余地を残したものをお願いするような流れが多くなっていきましたね。
すべてをコントロールするというよりは、みんなの感性でいろいろなものを盛り込んでいって、最終的に素晴らしいものに仕上がるといった感じです。
――振り付けが完成したあとは、どのようにしてMVに落とし込まれているのですか?
花田リハーサルなどでアクターさんたちが振りを練習されている様子を見るタイミングがあるのですが、そこで僕たちは「この曲はこういった仕上がりになるんだ!」と、知ることになるんです。その際に「ここのカメラワークはこれでいこう」とか、一気にMVの世界感が固まっていきます。
それまでの期間はわりとアバウトな感じで進んでいって、段階を経るごとにどんどん肉付けしていくという形で進行することが多いです。あとは「3Dを活かして立体的に動かそう」とか、「ここの振り付けは揃っているからカメラは固定で抜こう」とか、振り付けを活かすような演出を心がけています。
――Vivid BAD SQUADはストリートグループらしいカッコよさ、MORE MORE JUMP!はアイドルとしてのかわいらしさを出すといったように、ユニットごとにダンスや動きの強弱も意識されていますか?
花田かわいらしさやカッコよさにもいろいろな方向があるので、「この曲ではこの方向性のかわいさを表現したい」といったお願いをしています。そのうえでリハーサルのときに、動きの強弱であったり、「曲のテーマに対して振りが激しすぎるので少し弱めてほしいです」といったご相談をさせていただいてます。
――実際にMVを見てみると、キャラクターごとに振り付けを変えられている印象を受けました。
花田「このキャラクターは元気よく」とか、「この子はあまり跳ねないでほしい」とか、はたまた「王子様感を出してほしい」だとか、キャラクターの個性が出るような振り付けになるようオーダーはしています。
ただ、曲の世界観を壊さないためにもキャラクターの個性に寄せすぎた振り付けにはしないように、ほどよいところで収めています。
――その過程を経て、モーションができあがったら、最終的に細かい調整を加えて完成すると。
花田そうですね。振り付けやモーションキャプチャーデータが届いてから、表情や細かい手の動きなどは、ディッジさんにフォローしていただいております。
勝山実際にモーションキャプチャー収録時の動画などもいただけるので、そういったものも参考にしながら細かい部分の調整を加えています。
――キャラクターの表情や仕草まで細かく作り込まれていますが、アニメーションにおけるこだわりを教えてください。
花田ディッジさんには、キャラクターの心情によってどのような表情をするのかといったところから、目線の制御であったり、口の形が変わるときに何かしらのフォローを入れてなめらかに動かしてほしいと細かくお願いしています。
勝山マーザさんから口の動きや目の表情といった細かいところもご指摘いただけるので、とてもいい形でアニメーションに落とし込めていると思います。たまにですが、アクターさんの動きがよすぎて3Dに落とし込めないといったことがありまして……(笑)。
一同 (笑)。
勝山そのままの動きを落とし込むと3Dキャラクターがとんでもない体の動きをしてしまうことがあるので、こちらで調整することになるのですが、どうしても動きのキレが鈍くなってしまったり、似せきれない部分があったりするんです。アクターさんがやってくれている動きを完全に再現しきれていないというのは、悔しいところではあります。
――キャラクターの表情以外にもLeo/need(以下、レオニ)の楽器の演奏もかなり作り込まれていますね。
花田レオニは本当にこだわりの詰まっているユニットです。最前線で活躍されている方をアクターとしてお呼びいただいて、演奏している手元を映像で撮らせていただき、それを参考資料にして使ったりもしています。
あとはドラムのシンバルを動かすためにはどうすればよいかをディッジさんに相談させていただいたりもしていて。もちろんできないことはありますが、その中でもどこに力を入れてアニメーションをキャプチャーし、よりリアルなものにするかは、こだわっているポイントです。
スタッフの感性とこだわりが詰め込まれた映像表現
――『シネマ』(作詞・作曲:Ayase)は映画のスクリーンのような演出を取り入れていたり、『ウミユリ海底譚』(作詞・作曲:n-buna)では、ぼかしを入れることで海底にいるような雰囲気を演出されています。こういった楽曲のように、曲のテーマに合わせて取り入れられている演出法があれば教えてください。
花田 いろいろな部分で取り入れているので、なかなかひとつを挙げづらいですが、最近だとレオニの『いかないで』(作詞・作曲:想太)が思い出深いです。
この曲はどういった心情で歌われていて、どのようなストーリーがあるのかを調べていく中で、そこにいたものがちょっとずつ離れていく寂しさというものを、皆さんの脳裏にキレイに残せるものにしたいと考えました。それを時間軸であったり、光の移動であったり、空間の作りかたで表現したMVになっています。
ディッジさんにも電車は直接映さずに、光で間接的に電車があることを見せたいという、無茶なお願いをして、密に相談させていただきながら、キレイにまとまったMVへと仕上げていただきました。
芦田『いかないで』は自分も好きなMVです。最初に社内で制作したMVがあったのですが、花田さんのこだわりによって美しい仕上がりになったと思います。それ以外だと、『チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!』(作詞・作曲:和田たけあき(くらげP))が独特な雰囲気のMVで印象に残っています。
花田この曲を聴いたときから、「ご唱和下さい」をどうしてもやりたかったんです。でも、それを入れるのであれば、ふつうのカメラワークで捉えたくないという気持ちがあって。初めての試みとして枠を表示したり、コミックを読んでいるかのような演出を取り入れたりと、いろいろなチャレンジをさせていただきました。
よく見てみるとコミックの演出のところは完全に白黒じゃなくてピンクになっているのですが、白黒だと情報量が足りないと思ったのでアレンジさせていただいています。
カメラワークも前半と後半であえて雰囲気を変えているんですよ。観ていて飽きないように、カメラ―ワークをカッコよく激しく動く感じに構成して、そこから「ご唱和下さい」で幕が上がるといった怒涛の流れになっています。
新井ほかにも、『チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!』は原曲のMVを意識して再現されているので、この世界観だったら最後にミラーボールをいれてギラギラに光らせて振り切ったMVにしたほうがいいと思い、最後にミラーボールを組み込んでいただいたりしています。
――8月に追加された『チルドレンレコード』(作詞・作曲:じん)も、曲に合わせた激しいカメラ―ワークや、ラスサビ前に“合図が終わる”の演出が取り入れられていたりと、かなり力が入っている印象を受けました。やはり3DMVを作り続ける中で、演出へのこだわりが強くなっているのでしょうか?
新井『チルドレンレコード』のプロット打ちをした際、セガ側としては「キャラクターの色を入れつつも、原曲の世界観を大事にしたい」とマーザさんにお伝えしていたんです。
それを踏まえてカメラレイアウトや演出をつけていただいたのですが、「合図が終わる」という原曲を再現した演出を入れていただいていて。初めて観たときには、マーザさんとディッジさんのこだわりを強く感じました。
花田じつはプロット打ちの段階では、どうしたら『チルドレンレコード』を期待している方に満足いただけるのか、まったく見えていなかったんです。
とはいえ、頭を抱えながらも何とか形にしていく中で方向性が決まり、マーザ内のカメラレイアウトを担当するチームにお願いして、作業だけは進んでいたんですね。そうしたらレイアウトチームが感性を膨らませるようなおもしろいものを返してくれて。そこにさらに、「こうすればもっとおもしろくなるだろう」と乗っかった結果生まれたのが、現在の演出になります。
――花田さんだけでなく、スタッフの感性やこだわりが詰め込まれているMVなんですね。
花田制作的には、30曲目~40曲目くらいの3DMVだったのですが、僕のやりたいことをスタッフが理解してきて、そのうえでおもしろいものを出してきてくれるので、スタッフの成長を強く感じましたね。
これからもMVを作り続けていく中で、技術力や表現力、やりたいことはさらに高度化していくと思います。
――『タイムマシン』(作詞:164、作曲:40mP)では、曲でおなじみのタワーがステージバックに入っていますね。やはり、楽曲のモチーフを取り入れるといった、ファンが喜んでくれる要素も意識されているのですか?
花田そうですね。『タイムマシン』に関しては、その曲が好きなスタッフがいて、「完成したタワーを黒板に描きたい」とアツく語られたので(笑)、いろいろ試案して入れさせていただきました。
最終的にはポリゴンでも入れられることになって、このプロジェクトに関わっているスタッフのアツい想いでできあがったMVになっています。もしかしたらそのスタッフがいなかったらタワーはなかったかもしれないですし、いまとは異なるMVになっていたかもしれません。
――それは素敵なエピソードですね!
花田そのほかの既存曲に関しても、リスペクト要素を必ず盛り込むようにしておりまして、ステージデザインやちょっとした動きはもちろん、映像的にも「なんとなくあのシーンに似ているね」と思っていただけるように意識しています。
――たとえば制作過程で、先ほどのエピソードのようなアツい想いから実現した演出などはありますか?
花田当初すごく反対された演出のことになるのですが、『ステラ』(作詞・作曲:じん)で最初に天馬咲希を7秒近くロングショットで映し出すシーンがあるんですね。もともと僕の中で「この演出にしたい!」とリファレンスとして持っていて、「これを冒頭に添えたらエモすぎて泣いてしまう!」と意気込んでいたんです。でも、「画として保たせることができるのか」という意見がありまして、スマホでの映像表現の限界もあり不安な部分はありました。
ただ、マーザ内にいい表情設計やカメラワークを作ってくれるスタッフがいて、ディッジさんが素晴らしいアニメ―ションに仕上げてくれるのはわかっていたので、そのまま押し進めさせていただいたんです。結果的にYouTubeのコメントなどでも、「最初のロングショットがエモい」と喜んでいただけて、皆さんにメッセージが伝わって本当によかったです。
あそこを細かく切るとニュアンスが変わってしまいますし、伝えたいことを伝えることができなくなってしまうので、そこは崩さないようにこだわって作りましたね。
――実際にMVを観て、表情の付けかたなどかなり苦労されて作られている印象を受けました。
花田初めて観たときには長く感じるかもしれませんが、一曲観終わってしまうと最初のところの意味が生きてくるものになっているんです。ですから、1回目と2回目では印象も変わってきますし、いろいろな楽しみかたができるMVに仕上がっていると思います。
制作陣の印象に残っているMVは?
――これまでに40曲強のMVが登場していますが、とくに印象に残っているMVやオススメの楽曲を教えてください。
新井“ワンダーランズ×ショウタイム”(以下、ワンダショ)の『potatoになっていく』(作詞・作曲:Neru)です。レオニ以外で唯一、手にアイテムを持って撮影した楽曲となっています。ステッキを持つことに関して技術的な課題もありながらもうまく課題をクリアーしていただいて、モーションからカメラワーク、演出などすべてにおいて、ワンダショらしいショーを表現していただいた楽曲です。
とくに冒頭のところの、ミクがステッキを前にかまえていたずらっぽい笑顔を見せるカットがかわいくて、すごく印象に残っています。
花田『potatoになっていく』では、映像を組み立てていく中でシネマスコープを使わない手はないと考えていて、横長のキレイな絵や、後半の光の粒感も非常によく表現できたかなと思います。カメラワークもシネマティックで重厚感があり、一本のミュージカルショーを見ていただいているかのように仕上げることができました。
勝山『限りなく灰色へ』(作詞・作曲:すりぃ)という“25時、ナイトコードで。”(以下、ニーゴ)の楽曲がありまして、淡い印象のニーゴのキャラクターの中に、明るい印象の鏡音リンを入れることに関して、モーションを作るうえですごく悩んだ楽曲です。
MVとしては、彩度を落として重い雰囲気のある前半から、後半にかけて徐々に明るくなっていくという演出になっているのですが、彩度がないところと明るいリンがすごくマッチしており、結果的にリンの明るさが映えたなと思っています。
花田キャラクターの衣装を見せるうえで、“色をなくす”というのはそれなりに意見もありまして、でも「この曲はこれでいくんだ」と話し合ったうえで進めました。
カメラワークにもすごくこだわっていて、あるひとつのカットだけ3日間くらいNGを出し続けていたんですよ。「これでは鳥肌が立たない」って(笑)。永遠にくり返していましたね。
新井ひとつひとつのカットへのこだわりは、どのMVにも出ていると思います。
新井自分としては『いかないで』がすごく好きです。しっとりとした演出と光の演出にメリハリがあって何回も見れるMVになっていて気に入ってます。
花田先ほどもお話しましたが、電車の光がキャラクターの足元に落ちるという演出を説明してもなかなか伝わらなくて……。ですが、この曲が伝えたいところは雰囲気であったり、“近くにいたいけど離れていく距離感”だったので、それをまとめるには、この演出がイチバンだと思ったんです。ですから、そのままの形でリリースできてよかったです。
あとは、MVのあいだに画面が黒くなるシーンが一瞬挟まっているのですが、僕たち映像側からすると、黒を使うのは映像全体の引き締まりにもなるので抵抗がないのに対し、ゲーム開発側からするとエラーやバグとして見られる可能性があるから、あまり使いたくないと思われていることが分かり、すごく勉強になりましたね。
飯塚思い出の話になりますが、オリジナルキャラクターを使ったMVで最初にできた『スイートマジック』の完成版を観たときは、「がんばってよかったな」と思いましたし、「こんなにかわいいMVになるんだ!」とColorful Paletteのスタッフ間でも心の癒しになっていました。
――男女混合ユニットながらも、かわいく仕上がったMVですね。
飯塚『プロセカ』で表現したい世界観がすごく出ていて癒しでした。ほかには、思い入れ補正になってしまいますが、『Tell Your World』(作詞・作曲:kz(livetune))はずっと好きです。本当にいろいろな想いが詰まり過ぎていて冷静な評価はできないですが(笑)。
花田『Tell Your World』はイチバン最初に収録をした曲で、勝山さんといっしょに試行錯誤した作品なんですよね。
勝山そうですね。このプロジェクトがどういったイメージで固まっていくのかというところから話し合って、本当にいろいろなことをやりました。
――皆さんの想いが詰まった大切な1曲であると......。
新井開発的な話をすると、もともとは固定化されたカメラや演出でうまくサイクルを作り、どんどんMVを作っていこうという思想があったんです。
その中で1、2本目となる『Tell Your World』、『スイートマジック』は力を入れたものにしたいというお話があり、マーザさんやディッジさんにすごくがんばっていただいたMVとなっているんです。
それがセガを含む関係会社やユーザーさんからも評判がよくて、結果として当初考えていたものよりも基準が上がり、さらに追及してもっとMVをよくしていこうというのが、いまのMVチームの方針になっています。
花田最初はここまでこだわる予定ではなかったのですが、MVを作り続けるうちによくなっていき、僕たちのやりたいことを優先してやらせていただいております。
量産化向きのやりかたではないと、つねづねいろいろな方にお話をしているのですが、それだけみんなの熱意とアイデアが詰め込まれているので、できる限りこのままの路線で続けていきたいです。
――これからのMVに期待が高まります! では花田さんのおすすめのMVも教いただけないでしょうか。
花田……ひとつを選ぶことはできないです! どのMVも大好きです(笑)。
一同 (笑)。
――最後に、1周年を迎えて、これからの2年目に向けての抱負やファンの方へのメッセージをお願いします。
新井ユーザーの皆さんの応援があったからこそ、1周年を迎えることができたので、皆さんには感謝しかないです。今後も「この曲を3DMVにしてほしい」というご意見はいただきつつも、随時公開されていくMVもただ満足していただくだけでなく、驚きがあるものなっていますので、ぜひ楽しみにしていてください!
飯塚この1年はずっと全速力でマラソンをしている状態でした。ボーカロイドの楽曲をもっと聴いてほしいという意気込みで始めた企画で、10年以上続くコンテンツにしたいと思っているので、MVのメンバーはもちろん、ユーザーさんにも長くお付き合いいただければと思っております。
芦田リリース開始されてから、MVのバリエーションも増えて、どんどんよくなっていると感じています。じつは今後、私のお気に入りのMVの実装も控えています(笑)。あの手この手で演出を考えていくのは作り手としての日々の楽しみになっています。どういった表現になっているか注目していただきつつ、今後のMVも楽しんでください。
勝山MVを制作するたびにいろいろなアイデアをいただいて、それがあるからこそユーザーさんが楽しめるものになっていると思いますし、ただただ作り続けるだけではなく、今後も新しいことに挑戦していきたいです。
楽曲によってはキャラクターにフォーカスしたものもあるので、ストーリーといっしょにキャラクターの変化も追っていただければ、より楽しんでいただけるのかなと思います。
花田やりたいことが多すぎて、まだまだ表現しきれていないですが、今後もおもしろいものや新しいものをお伝えできるようにがんばります。MVには裏テーマや深い意味が込められていることがあるので、考察なども楽しんでいただきつつ、MVをご覧いただきたいです。今後ともよろしくお願いします!
1周年記念キャンペーン開催中!
2021年9月30日でサービス開始から1周年を迎えた『プロセカ』。それを記念して“クリスタル×3000”や10連無料ガチャチケットが最大で7枚もらえるログインキャンペーン、1周年限定衣装やユニット専用衣装がおまけとしてついてくる“プレミアムプレゼントガチャ”など、さまざまなキャンペーンが行われている。
さらに、Eve書き下ろしのアニバーサリーソング『群青讃歌』が新たに収録されているほか、cosMo@暴走Pが書き下ろす最高難易度の楽曲『マシンガンポエムドール』といった追加楽曲も続々登場予定。詳細は以下の記事をチェック。