アメリカの独立系スタジオEmber Labによるアクションアドベンチャーゲーム『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)が、プレイステーション5/プレイステーション4/PCで配信開始。本誌ではプレイステーション5のレビュー版をプレイしたので、その内容をお伝えしよう。

未練を残して荒ぶる魂を成仏させる、アジア的な死生観・自然観の鎮魂の物語

 本作の主人公ケーナは、現世に留まっている魂をあの世へと導く“スピリットガイド”。とある忘れ去られた村にたどり着いた彼女は、そこにたたずむ魂たちの頼みを聞き、さまざまな未練から邪霊化してしまった魂たちを執着から解き放ち、ところどころ禍々しく腐食した一帯を浄化しつつ、聖なる山の神殿を目指して冒険していく。

 登場キャラクターに“タロー”や“トシ”といった和名らしきものがあったり、ところどころにある景勝地で瞑想することで最大体力が増えるといった要素もあって、非常にアジア的な死生観や自然観を扱った作品となっている。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)

 開発するEmber Labは、コマーシャルや短編アニメなどのキャラクター中心のCG作品を得意としてきたスタジオ。なのでカットシーン演出や風景描写などは非常に優れていて、穢れの“浄化”のシーンなどもすごくカタルシスがある。

 ちなみに過去には『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』の非公式なファン映像を公開していたりもするのだが、そちらを見ると本作のトーンと共通する部分が非常に大きい(本作でも“仮面”はそれぞれの魂の領域に入るための重要な要素)。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
雨が降る森の中を、霊の苦悩の記憶とともに追っていく。もともとキャラクターアニメを得意とするスタジオということもあって、キーとなるシーンの演出はかなり印象的。

まったり癒やし系カジュアル……ではなくハードコア!

 その自然たっぷりのスピリチュアルなテーマやピクサーアニメっぽいビジュアル、非ゲーム系の開発の出自などで誤解するかもしれないが、本作は癒やし系なカジュアルアクションゲームではまったくない。

 このタイトルは、想像より遥かにハードコアなアクションアドベンチャーゲームだ。近接攻撃と遠距離攻撃の弓矢、パリー(相手の攻撃に合わせて防御することによる弾き返し)などの各種能力を駆使した3Dアクションの戦闘に、マップギミックを駆使した謎解きもいっぱい。

 特定の倒し方を見つけ出さないとダメージが入らない敵なんかもザラにいるし、ルート開拓の謎解きに必要な手順がいまいちわからなくて先に進めなくなることもしばしば。そもそも話のテイストもやるせない悲しみを鎮める内容なので、なかなかハード。多分そこらへんを間違えると盛大に心を折られたり、途中でプレイ難度を下げるハメになるだろう。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
各ボスともユニークな行動パターンやギミックを持っているし、弱点を狙わないとダメージが入るようにならない敵もザラにいるので、まったりムードで適当ムーブで戦っているとやられる。心してかかろう。
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
『トゥームレイダー』っぽい崖登りシーン。
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
ルート開拓の謎解きにダメージ熱波&落ちたら死亡エリアが組み合わさったパターン。

ガッツリ作り込まれた世界で戦闘・探索・強化が相互に連動

 一方で、非ゲーム系のスタジオにありがちな雰囲気重視の絞ったゲーム構成ということもなく、各マップは結構大きいし、非常にまっとうに要素が詰め込まれている。

 ゲームの進行は基本的に一本道で、戦闘→移動アクションを駆使して踏破→次の場所に向かうためのルート開拓の謎解き→戦闘……といった形で進んでいくのだが、各エリアはオープンワールドというほどではないもののさまざまな場所に脇道や隠しアイテムが用意されている。

 周囲に倒れている像を集めて直したり、腐食に覆われた地蔵を浄化したり、移動アクションを駆使して瞑想スポットを見つけ出したり、追加の戦闘や謎解きをすることで強化のためのポイントなどを得られる仕組みになっているので、探索は結構重要だ。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
移動系アクションで謎解きしつつ道を切り開いていくシーンも多数。弓のジャンプ撃ちは青い花に向かって撃つことでグラップリングフックのようなことができるほか、狙っているあいだはスローがかかるので戦闘にも役立つ。
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
探索のさまざまなアクティビティを通じて得たポイントで能力強化を行える。ただし取得可能になるには後述するRotを一定数以上見つけてないといけないという寸法。(ちなみに説明文の句読点の位置がおかしいが、開発に連絡した所、製品版では直るとのここと)

 一方、オープンなエリアではマップに示された場所が実際どこなのか見誤ってしまうことも。また重要地点間のワープはあるものの、どこからでもファストトラベルできるわけではないので、運が悪いと無駄な移動を多少繰り返すことがあったのが難点。一人称視点でマスクモードに切り替えることでミッション上の目的地の方角だけは見られるものの、ナビシステムつけて欲しかったなぁ。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
魂が先導してくれるシーンも。できればコレ、汎用のナビシステムとして欲しかった。

かわいいお供の精霊“Rot”が大活躍

 死者の霊魂だらけのこの物語でプレイヤーを癒やすとともに冒険の助けになってくれるのが、Rotと呼ばれるちっこい精霊たちだ。

 彼ら(?)は汚染されたエリアの浄化や謎解きのためのアイテム運搬などで働いてくれるし、戦闘でも大活躍。戦闘中にRotのエネルギーを稼ぐと強化攻撃を出せたり、敵にまとわりついて動きを止めたりもする。

 もちろん、弱点を攻撃しないと倒せない敵のスキを作り出すのにも役立つし、そもそもRotの力を使わないと倒せない敵もいるので、本当に頭が上がらない。ちなみにRotは黒っぽいモチモチした生物なのだが、探索でアンロックした帽子を買ってやることで外見のカスタマイズが可能になっている。

『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
ちなみにフォトモードではシャッターを切る前にRotたちを反応させることもできる。
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
Rotたちが集合した状態で地蔵的な何かを浄化。
『Kena: Bridge of Spirits』(ケーナ: 精霊の橋)
特定のオブジェクトを指定した場所に運んでくれることもできる(適切なルートを見つけて進んでくれるのでかなり優秀)。

オリジナルな世界観の正統派3Dアクションアドベンチャー

 アクションスキルの上手さや謎解きの勘の良さ、そしてどこまで脇道にそれて探索してサイドコンテンツをやるかによって大分変わってくると思うが、クリアーまでは8~12時間程度といったところ。

 ひと昔前には結構あったような気がするものの今や大作シリーズ以外だと意外とない、オリジナルな世界観の正統派3Dアクションアドベンチャーとなっているので、ちょっと不便な古典的な設計だったり難しいバランスの部分があるのは承知しつつ、届くべき人に届いて欲しいなぁと思う作品だ。