2021年10月28日にプレイステーション5版とプレイステーション4版が3gooより発売予定の『WRC10 FIA世界ラリー選手権』。(以下、『WRC10』)FIA(国際自動車連盟)より公式ライセンスを受けたレースゲームシリーズの最新作であり、WRC(世界ラリー選手権)50周年記念タイトルとなる本作では、歴代のマシンやラリーを隅々まで体験できるほか、実際の競技のようにふたりでラリーを攻略していくモードも搭載されている。
本記事では、元SKE48のメンバーであり、現在はタレントやラリーのコ・ドライバーとして活躍する梅本まどかさんに、ラリーの魅力などを聞いた。インタビューの後半では本作のコ・ドライバーモードを実際に体験してもらっているので、お見逃しなく。
梅本まどか
SKE48でのアイドル時代を経て、現在は地元名古屋を拠点にタレントとしてマルチに活動中。
名古屋の魅力をPRする名古屋観光文化交流特命大使として、様々な名古屋の魅力を発信しつつ、WRC招致応援団に参加し、WRC日本開催をPRしている。モータースポーツ関連のメディアや、スポーツ、チアリーディングなど幅広い分野で活躍している。(公式サイトからの抜粋)
アイドルからラリーの世界へ。サーキットの魅力に惹かれて……
――梅本さんがアイドルからコ・ドライバーになった経緯を聞かせください。
梅本アイドルになる前からサーキットは知っていたのですが、モータースポーツ自体に接点がなくて、クルマもただの移動するものというイメージしかなかったです。
SKE48に加入して1年目の夏に鈴鹿の8時間耐久ロードレースの前夜祭で、ライブをさせていただいたことをきっかけに初めてサーキットに行って、その後“2&4”という2輪と4輪がいっしょにレースするイベントでPR などをやっていました。そのときいっしょにPRしたドライバーが中嶋一貴選手だったのですが、そこでいろいろとお話を聞いてとてもおもしろそうだなと思いました。
最初は本当にラリーとか知らなくて、鈴鹿サーキットに通ってクルマをどんどん知って好きになっていくうちに、イベントで「運転しない人も参加できる競技があるんだよ」と、ラリーのことを教えてもらったんです。ラリーは、運転するドライバーと隣でナビをするコ・ドライバーのふたりでタイムアタックに挑戦して、ときには自分たちでメンテナンスもするからクルマの勉強にもなると言われて。「えっ!? そんな競技があるなら実際にやってみたいです」って言ったら「コドラ(コ・ドライバー)をやりたいっていう人を探しているチームやドライバーはたくさんいるからできるんじゃない!?」というお話を聞きまして、そこからつぎの年には、声をかけていただいてやることになりました。
――クルマのどういったところに惹かれたのですか?
梅本サーキットの独特の雰囲気や音、スピードなどでしょうか。そんなに近くで見たわけではないのですが、心に響くものがあり、「おもしろそうだ」と感じました。PRでお話を聞いて「こういう世界があるんだ……!」と思って。競争というのは、私たちの日常でもありますが、そういうのとはまた違う、モータースポーツの世界で“戦っている姿”がかっこよく見えたんです。
――最初は自分では運転しようとは思わずに、コ・ドライバーのほうに興味を惹かれたのですか?
梅本アイドル活動をしていた当時も、免許は持っていたのですが、自分のクルマは持っていなかったこともあり、ぜんぜん乗れない環境ではありましたね。SKE48を卒業してからバトルのないタイムアタックができるイベントを教えてもらって、実際にやってみたのですが、やっぱり難しかったり、たまにしか乗れなかったりするので、「クルマのことをもっと知りたいのになぁ」と思っていたところに、コ・ドライバーのことを教えてもらったんです。コ・ドライバーは勉強するツールもあるし、うまい人の横に乗ったらわかることもあると教えてもらい、「じゃあ、やってみようかな」と挑戦してみた感じです。
――最初は勉強がてらという感じだったのですね。
梅本そうですね。まずラリーという競技を知らなかったので「そういうのがあるんだ」みたいな感覚でした。
――なるほど。そこからはぶっつけ本番に近い感じで体験することに?
梅本ラリーに出ると決まってすぐに、1日でできる講習を受けました。コ・ドライバーは管理をする仕事が多いので、いろいろなことがわかってないといけないんです。たとえば、“タイムコントロール(※)”とか。
※ラリーのコース上に設置され、時間を記録するチェックポイント
――なんです、それは?
梅本ラリーは時間の管理がきびしくて、タイムアタックをするSS(※)とそのあいだを移動するリエゾンという区間があり、ポイントごとに通過する時間が決められているんです。きちんと時間を守らないとペナルティがあったりします。コ・ドライバーが「タイムコントロールは何分なので、1分前にポイント前に設置された予告看板にインしたい」という感じで、ドライバーに指示をし、管理するわけです。そういうところを教えてもらいました。
※スペシャルステージの略。ひとつのラリーにつき複数のSSがあり、その部分のタイムの合計を競う。
――スケジュール管理みたいなものでしょうか。
梅本そうですね。「つぎのポイントまであと何分あります」など、ドライバーの質問に答えたり、いま時間に余裕があるのか、急がなければいけないのかをしっかりと把握し伝えなければいけないんです。
――お話を聞いていると、運転の経験がない人にはかなり難しそうな気がしますね。
梅本コ・ドライバーはまず管理能力がないとできなくて、割と言われているのは“旅のしおり”がうまく作れる人が向いているということですね。
――“旅のしおり”! なんとなくわかります。
梅本たとえば、コ・ドライバーはこういった“ロードブック”も読めないといけないのですが、コマ図という地図が読めないと、SSにまで行けないんですよ。もちろん決められた時間に遅れたらペナルティが課せられるので、その時点で順位もかなり落ちてしまいます。
――それはキツそうですね。タイムアタックだけではなくて、そこまでの移動とかも含めて管理しないといけないという。
梅本はい。全部ですね。ですので、女性のほうが向いていると言われたりします。
――最初に講習を受けたときは、どのような感想を抱きました?
梅本「おもしろそう!」と思いました。私に合っているかなと。私、アイドル時代はメンバーよりも比較的年が上だったということもあり、イベントのMCやラジオとかで時間管理などをしながら考えたりすることが多かったんです。コ・ドライバーのことを知って、MCに近いものがあるなあと思い、自分なりに「あぁなるほど!」みたいな感じで、楽しんで覚えられたんです。
――コ・ドライバーがMCに近いというのはおもしろいですね。
梅本ドライバーさんに合わせるところもとかも重要で、MC って相手を乗せないとうまく引き出せないところもあったりするので、「コ・ドライバーのスキルを覚えれば、MCとしての能力も上がるかな」と思って。さらにクルマの勉強もできてうれしいみたいな。
――ひと粒で2度おいしいみたいな(笑)。では、ラリーデビューはどうだったのですか?
梅本初めて出たのは、TGR ラリーチャレンジっていう1DAYのラリーでした。前日に参加受付と初心者講習を数時間受けて、すぐに本番でしたね。ちゃんと話すのも初めてのドライバーさんで、ふつうは“ペースノート(※)”とか合わせたりするらしいのですが、練習する時間がなくて。ベテランの方だったので「とりあえず行ってみなよ」って言われて。それでやってみたら、まさかの優勝という。
※走行する際にコ・ドライバーが読み上げるノート。カーブの長さや曲がり具合、路面状況など走行に必要な情報が書きこまれている。
――あら! 優勝したのですか!?
梅本そうですね 。まあクラスがいちばん下で、ドライバーさんもそのラリーに何回も出ているそのクラスのベテランさん……というのもあったので。ただ、ノート読みはけっこう大事になってくるので、ラリーに出る1ヵ月前くらいから、そのドライバーさんが以前に走られた動画とか見て、言うタイミングとか、使う言葉とかをちゃんと勉強しました。
――それはすごいですね。よくそこまで気が回るなあ。
梅本初めてだからこそやってみないと不安で、コ・ドライバーって乗ってみたら本当にやることがたくさんあるんですよ。SSはとくにドライバーとの掛け合いになるので、気持ちよく走ってもらわないとタイムも出ないですし。そこをうまくできるか不安だったので、とりあえず覚えていかなくっちゃみたいな思いがありました。
――その優勝をきっかけに、ラリーに向いていると思われたのですか?
梅本はい。すごく楽しかったという気持ちがいちばんありました。ラリーは、一般道を走ることもあってか、地元の人とかがすごく見ていてくれているんです。「なるほど。この土地を走るのはこういう感じなんだ!」というのがとても楽しくて! あと、ドライバーさんとコ・ドライバーは相性みたいなものがあるのですが、初めて走ったときに、ドライバーさんとすごく息が合ったような印象があったんですね。ドライバーさんも、息が合っていたことをとても喜んでくださったんです。私も、「私たちの息が合っている!」みたいに思って、それがすごく嬉しくて。1位で帰ってきたことに対してもチームのみんなが喜んでくれて、「ラリーっていいなぁ、楽しいなぁ」と。
――それが、コ・ドライバーの道に行くきっかけになったのですか?
梅本そうですね。やれるならやりたいという気持ちになりました。
ラリージャパンに対する想い。「やり切った!」という気持ちで走り切りたい
――今年、11年ぶりにWRCが日本で開催されることになりました。愛知と岐阜で開催されるラリージャパンへの想いをお聞かせください。
梅本私は地元が愛知県で、招致応援団をやらせていただいたこともあり、ラリージャパンをすごく待っていまして。早く見たいです。
――いまいろいろな事情がありますが、たしかに実際に生で見たい競技ですよね。
梅本私もWRCは生では見たことなくて。今年WRCで活躍している勝田貴元選手も愛知県の方ですし、トヨタもチームでの年間優勝がかかっているので、地元での勇姿を見てみたいですよね。みんなの期待もいっぱい膨らんでいるところなので、やりたい気持ちも高まっている感じです。
セントラルラリーをやったときも、民家のあいだを走ったりして、そこで旗を持って応援してくれたりとか、見てくださった方たちもいました。全日本ラリーでいちばんお客さんが多いのが愛知県の新城ラリー。岐阜県恵那市も毎年“L1ラリー”という女性のラリーもあります。ラリーにゆかりのある地なのでラリーファンの人も多いですし、それが世界戦となったらさらに盛り上がって、みんなも待っていると思うんです。
――11年ぶりの開催ですものね。梅本さんもラリージャパンに出られるんを目指しているんですよね? 抱負を聞かせてください。
梅本2019年から全日本ラリー選手権に参加して、3位、2位と着実にレベルアップできてきていたんです。それで、ラリージャパンへの準備ということで、セントラルラリーに挑戦したんですね。そのラリーがとても難しくて、ラリーをしていて、初めて「悔しい!」って思ったんです。いままでは「楽しい」という思いでラリーをやってきたのですが、セントラルラリーはやっぱり格が違って、「あぁ、こんなにできないものなんだ。悔しい」と思った気持ちが強く残っています。その悔しさを晴らしたいというか、ラリージャパンに出て完走して、「やり切った!」という気持ちで走り切りたいなというのが、いまの私の目標です。
梅本まどかさんがコ・ドライバーモードを体験!!
ここからは、筆者が実際に『WRC10』のコ・ドライバーモードを遊んでみた。1回目は、運転をサポートしてくれるコ・ドライバーがいない状態で挑戦。運転席からの視点で操作するため、標識や目に見える視界を頼りにクルマを走らせていくことになる。しかし、急なカーブや短い間隔で右折左折があるポイントでは判断が遅れてしまい、猛スピードで壁などに突っ込んでしまうことも……。
ところどころ衝突しながらもなんとかゴールし、2回目は梅本さんにコ・ドライバー役として参加してもらうことに。ボイスチャットで梅本さんのナビを聞きながらもう一度同じコースを走っていく。言ってみれば、実際のラリーのようなやり取りを再現したプレイが楽しめるというわけ。
さっそくスタートし、「右に○○」「この先○○です」など、梅本さんが道のりをナビゲートしてくれるおかげか、1回目のぎこちない走りと比べると、極めてスムーズな走行に。飛ばしすぎてしまい多少のクラッシュはあったものの、曲がるタイミングや道のりをサポートしてもらい、走行タイムは1回目のときよりも早くゴールできた。まさに、梅本さんのコ・ドライバー効果といったところ。
以下、梅本さんのコ・ドライバー体験動画をお届け。
そんなわけで、『WRC10』を遊んでみたあとで、改めて梅本さんにお話を聞いてみた。
――コ・ドライバーモードを実際にプレイしてみた感想はいかがでしょうか。
梅本ペースノートが自分のものではないので、読むのが難しかったですが、とても楽しかったです(笑)。ラリーでは、ノートを早読みしたときに訂正したりするのですが、ゆっくり言い直しているとつぎのコーナーに行ってしまったりすることもあるので、自分の中で呼びかたとかをつねに考えながらやっているんです。
レッキ(下見走行)を走っているときに、「この部分はつなげて読む」、「ここは早めに読む」とか自分で印をつけたりして、自分だけのノートを作っていくのですが、ゲームだとレッキがなく、ノートが完成している状態なので、どのタイミングで何を言えばいいのかという判断はなかなか難しかったです。基本はつぎのコーナーがわかるように、前のコーナーで言ったりするのですが、ドライバーさんは運転しているので、早読みしすぎると覚えきれないんです。
――確かにそうですね。ゲームを通して、言うタイミングとか阿吽の呼吸がいかに重要かというのがよくわかりました!
梅本そうなんです(笑)。ミスしたときに読み続けるのか、お互いにちょっと励まし合いながらやっていくのかとかも違ったりするので。あと、ゲームなので、ぶつかってもすぐに再スタートできるのはよいところですね。ゲームだと、心のダメージも少ないですし。これが本物だったら、ちょっとこすっただけでも「ああ、もう! これはあとで怒られるな」とか思ってしまいます(笑)。
――(笑)。ラリー未経験のプレイヤーがコ・ドライバーを体験するのは楽しめそうでしょうか?
梅本コ・ドライバーでプレイできるゲームというのは、いままでにあまりなかったと思うので、よりラリーっぽい感じを体感してもらえるのではないでしょうか。モータースポーツは、ひとりで黙々と走っているというイメージが強いので、コ・ドライバーの重要性がこのモードを遊ぶことですごく伝わるのではないかと思います。
――コ・ドライバーの声を聞きながら操作して、実際にラリーをやっているような感覚でした。「つぎ、○○です」「はい!」みたいな。梅本さんがおっしゃっていたノートを読むタイミングとかを、細かく調整していく理由がよくわかりました。コースのポイントごとに攻略して、タイムを切り詰めていくおもしろさもありますね。
梅本自分のペースノートを作りたくなりませんか? 「自分だったらこう作るな……」とか。
――そうですね。でも、ふたりでやっていくことがこんなに重要なんだということが、すごくわかります。
梅本もしもこのモードで競ったりするイベントとかあったら、やり込んだペアが出てきそうですね。
――それはおもしろそうですね! ところで、私がゲーム内でミスをしたときに、梅本さんから「大丈夫ですよ」とフォローをいただきましたが、ああいった声かけも実際にあったりするのでしょうか?
梅本人によりけりですが、たとえば本当に壁にぶち当たってしまって何も動けないという状況もあったりするので、ラリーの場合は動けなかったら後続車が突っ込んでくる二次災害を防ぐために、ぶつかったらなるべくつぎの判断を急がないといけないんです。
クルマが動くようなら「大丈夫?」って声をかけつつ、行けるとこまで行ったりとかします。クルマが動けないようだったら、ボードを出して、後続車に自車が止まっていることを伝えたりします。ドライバーの状態やペースに合わせた声掛けはしています。
――ラリーの世界は奥が深いですね。ところで、プロの目から見て、『WRC10』はいかがでしたか?
梅本ラリーは割といろいろなことを把握しないといけないのですが、このゲームではラリー自体の仕組みや大切なことなど、ラリーの魅力をしっかり押さえてあるというのが印象的でした。
映像もキレイですよね。とくにドライバー目線は、まるで実際のレースで走っているかのようで、とても臨場感がありました。リアルな画面でコ・ドライバーの役割ができるのは、実際のラリーに近い感覚があるので、ぜひ体験してみてほしいです!