2021年9月2日~3日の2日間、国内最大規模のインディーゲームの祭典“BitSummit THE 8th BIT (ビットサミット ザ エイト ビット)”が開催。同イベントにて大きな注目を集めたトピックのひとつが“集英社ゲームクリエイターズ CAMP”。 集英社による新人クリエイターの発掘・支援の取り組みとなる同プロジェクトだが、BitSummitの会期に合わせて、5タイトルを発表。大きな関心を集めた。

 いずれ劣らぬキャッチーなタイトルが並ぶなかで、ひときわ目を惹くのが『ONI』(仮称)。ミストウォーカーにて数々のRPGを手掛けきた葉山賢英氏が2020年に設立したKENEI DESIGN開発によるアクションだ。“集英社ゲームクリエイターズCAMP”のエグゼクティブアドバイザーである山本正美氏がプロデューサーを務め、クラウディッドレパードエンタテインメントがパブリッシャーを担当するということからも、気合いの入った感じがひしひしと伝わってくる。

 会場にて、葉山賢英氏にお話をうかがうことができたので、その模様をお届けしようかと思う。

 記者は、最初会場で初公開されたPVを見て、「かわいい絵柄」だと感じたのだが、実際のところ『ONI』の世界観はけっしてほのぼのとはしていない。本作のモチーフとなるのは、昔話の『桃太郎』で、“鬼ヶ島で敗れた鬼が、桃太郎に復讐を果たす”というのが本作のストーリーラインだ。

 となると気になるのは、なぜ『桃太郎』を題材にとったのかということだが、葉山氏によるともともと葉山氏は日本の昔話が好きで、『桃太郎』や『浦島太郎』といった昔話をモチーフにしたゲームを作りたいと思っていたのだという。葉山氏はミストウォーカー在籍時にRPGを手掛けていたので、「『桃太郎』をRPGで」との思いから企画に着手したところ、「作っているうちに話が広がりすぎて、収集がつかなくなってきた」という。

 発想がつぎつぎと膨らむというのはいかにもクリエイターらしい感じだが、まずは、鬼のキャラクターデザインがかわいかったので、この鬼を主人公に据えたスピンオフを作ることにしたのだという。少しカジュアルなゲームとして。ところがこれも作っているうちに「自分のやりたいことがもりもりと入って、世界が大きくなってしまった」のだという。クリエイターの因果というべきか、あるいは葉山氏の因果というべきなのか……。

 とはいえ、それだけ気合いの入ったモノを作るとやはり注目を集めるようで、ビジュアルなどを葉山氏のTwitterなどで公開しているうちに盛り上がり、「本腰を入れて、鬼が主人公のゲームをコンシューマー向けに作り直そうかな」(葉山氏)と決意したのだという。それが『ONI』の企画のスタートとなる。

 RPG『桃太郎』のスピンオフとして取り組むのが『ONI』ということになるわけだが、そうなると気になるのが、そもそもRPG『桃太郎』とは、どのようなものを構想しているのかということ。葉山氏に聞いてみると、「RPGなので、街を作らないといけないですし、お城も出てくる。ストーリーとしていろいろなキャラクターとの出会いがある……ということを考えているうちに、構想がどんどん広がっていきました」という。どうやら真正面から『桃太郎』のRPG化に取り組んでいるようだ。

 なぜそこまで『桃太郎』が好きなのだろうか……。記者が率直にギモンをぶつけてみると、「なぜでしょうね(笑)。なぜか小さいときから『桃太郎』が好きで、自分でもちょっとわからないのですが、ひっかかっているものがあって、ゲームとして作りたいと思いました」とのことで、葉山氏の琴線に触れるものがあるようだ。

 『桃太郎』と言えば、日本人みんなが知っている物語なので、結末もご存じの通りという感じなのだが、それに対しては「そうですね、ですので、実際の『桃太郎』の話とは変わると思います、桃太郎の設定も日本人ではなかったりするので。いろいろなことはオリジナルの話になります」とのこと。「『ONI』が売れたら『桃太郎』に取り掛かりたい」とのことで、葉山氏の構想がどのように実現するのか、見てみたい。

『ONI』(仮称)の開発者に聞く。敗れた鬼が復讐を誓う『桃太郎』の世界観はこう広がった【BitSummit THE 8th BIT】
公開された『ONI』のキービジュアル。おなじみ桃太郎や犬、猿、キジの姿が見える。とはいえ本作では彼らは主人公ではない。

 ということはさておき、話を『ONI』に戻そう。桃太郎に負けたあと、鬼の空太が鬼世島(きせじま)という島に行って、桃太郎に復讐を果たすべく修行することになる本作。島では、石碑に話しかけると試練を与えてくれて、1日に1試練、それを30日間受けることになるという。ところが、この鬼世島は、修行があまりにも過酷で試練をクリアーしたものがいないと言われているという。「ただ、試練を乗り越えると最強の鬼になれるんです。空太は桃太郎に勝つために危険なことも顧みずに、この島にやってくるわけです」(葉山氏)という。

 ゲームプレイで本作のキモとなるのが、相棒の風丸。この風丸、じつは幽霊で、瞬時に敵の“心”を抜き取ることができる。“心”は、空太の攻撃することでも入手できるが、何回か攻撃しないといけないという。「空太が攻撃するか、風丸が抜き取るか、そのへんはユーザーさんのお好みです」と葉山氏。たとえば、わらわらと出てくる敵に対して、空太が打撃で攻撃しつつ、遠方の敵に対しては風丸が心を抜くといったことも可能。つまり、「ひとりのプレイヤーが、ふたつのスティックで2体のキャラクターを別々に操作するというのがゲームメカニクス的な新しさですね」とは、取材に同席してくれたプロデューサーの山本氏の言葉。

『ONI』(仮称)の開発者に聞く。敗れた鬼が復讐を誓う『桃太郎』の世界観はこう広がった【BitSummit THE 8th BIT】
鬼の空太(左)と相棒の風丸(右)。

 この“心”を集めて島のお地蔵さんのところまでもっていくと、空太のHPが増えていくという成長要素もあるそうだ。与えられる試練はどんどん難しくなっていくので、いかに成長して難しくなる試練をこなしていくかがカギとなる。さらに、この鬼世島はオープンワールドであるという。プレイ時間は、ストーリーを追いかけるだけなら、10~15時間を想定しているとのことだ。

『ONI』(仮称)の開発者に聞く。敗れた鬼が復讐を誓う『桃太郎』の世界観はこう広がった【BitSummit THE 8th BIT】

 ちなみに風丸は、鬼世島に修行に来て、志半ばで倒されてしまった鬼の幽霊で、空太を助けるとのこと。幽体離脱して瞬間移動もできるとかなんとか……。

 と、話を聞いているだけで、『桃太郎』の世界観をこうアレンジするか……とわくわくしてくるような内容だ。

『ONI』(仮称)の開発者に聞く。敗れた鬼が復讐を誓う『桃太郎』の世界観はこう広がった【BitSummit THE 8th BIT】
葉山氏が好む色調は原色系ではなく、トーンを落としたデザインとのこと。「復讐というテーマにはマッチしているのではないでしょうか」(葉山氏)。

  さて、葉山氏が“集英社ゲームクリエイターズCAMP”に参加することになった経緯は、のちに“集英社ゲームクリエイターズCAMP”に参加することになる方と別件で仕事をしていて、集英社がインディーゲームを後押しする活動をしていると聞き、『ONI』のアートワークなどを見せたら、気に入ってもらえたとのこと。

 山本氏がプロデューサーを担当することになった経緯は、そもそも葉山氏が、山本氏が主催したクリエイターオーディション“PlayStation C.A.M.P!”の合格者で、「ずっとRPGを作っていて、アクションゲームのノウハウがなく、山本さんにプロデューサーになってもらいたいということでお願いしたんです」(葉山氏)という。葉山氏が『ONI』の相談をしたのは、山本氏が集英社の取り組みを知る前で、のちのち山本氏に“集英社ゲームクリエイターズCAMP”のアドバイザーの話が来て、話がつながったという。縁というか、運命というべきか……。

 プロジェクト自体にも物語性を感じさせる『ONI』は、2022年リリースを目指して開発中。プラットフォームはまだ決まっていないという。

『ONI』(仮称)の開発者に聞く。敗れた鬼が復讐を誓う『桃太郎』の世界観はこう広がった【BitSummit THE 8th BIT】
葉山賢英氏(左)と山本正美氏(右)。
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