ある日の夜、アパートの一室に男(あなた)が帰ってくる。バスルームから出てきた妻がにこやかに出迎え、幸せなひとときが始まる……はずだった。しかしその数分後、部屋に押しかけた刑事を名乗る男が口論の末にあなたを絞め殺し、物語はもう一度、あなたがドアを開けて部屋の中に帰ってきた所から始まる。

 海外インディーパブリッシャーAnnapurna Interactiveの新作『Twelve Minutes』は、そんな12分間の出来事に秘められた謎を解いていくタイムループ型のアドベンチャーゲームだ。

 今回製品版をひと足先にプレイしたので、話の根幹へのネタバレを避けつつその内容をご紹介しよう(ゲームの構造については言及しないとどうしようもないので許して欲しい)。なお製品版は2021年8月20日にXbox Series X|S/Xbox OneおよびPCで配信予定で、日本語字幕に対応。Xbox Game Passにも含まれる。

限定された時間、限定された場所、限定された選択肢から新たな可能性を引き出す

 さて本作、ゲームの作りとしては、見下ろし型視点のポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲームだ。ただし、できることはそう多くない。部屋の中の移動や、ドアを開けたり閉めたり落ちてるものを拾ったりといった特定のモノへの干渉、そして妻や刑事との会話の選択といった程度。

 ほっとくとやがてやってきた刑事によってゲームオーバー(リセット)に持ち込まれるし、玄関から別の場所にとっとと逃げるというのも通用しない。プレイヤーからすると状況的にほぼ密室同然+タイムリミットつきという制限の中で、限られた選択肢を駆使し、運命を変える手がかりを探っていくことになる。

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部屋はリビング以外にバスルーム(上)、ベッドルーム(左上)、あとはクローゼットくらい。
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干渉できるポイントの中には視点が変わるものも。

 そんな中で武器になるのは、タイムループでの過去の経験だ。ある時は絞め殺されたり、別の時は殴り倒されたり、あるいは妻が先に危害を受けることもあったり、なかなかヘビーな体験が続くことになるかと思うが、グッとこらえて観察しよう。

 というのも、試行錯誤してやってみたいことを絞り込めばスピーディーに行動できるのはもちろん、プレイヤーが新たな情報を得ると会話の選択肢が増えることもあるし、見落としていた利用可能なアイテムに気がつくことだってあるし、ある条件下で何が起こるか知っていれば、先回りして罠的なことを仕掛けたり、複数の条件を組み合わせたよりディープな結果に至ることもできるかもしれない。

 なので、ちょっとした会話に含まれていた情報や、“こういう状況だと妻/刑事はこういう行動/反応をする”といった知識が、次のループで別の可能性を切り開く手がかりになりうるのだ。

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あんまり話が通じなさそうな相手とはいえ、問答無用でボコられる前にそもそもどういうことなのか一回聞いといてもいいだろう。
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あるはずのものがなかったりすると、結構細かくセリフで反応してくれる。すまんな妻よ、キミのグラスは僕が持ってるんだ。これが何かの役に立つのかわからないけど。

 というわけで本作は基本的に、“Aルートで新たな手がかりを得てBルートに進めるようにし、BルートでさらにCルートに行くためのギミックを見つけて……”といったような、可能性の間をあっちこっち行き来しながら話の深層(そして物語全体の真相)に近付いていくアドベンチャーゲームとなっている。

 脱出ゲーム的・パズルゲーム的な“1プレイですべてを解決する正解となる行動”が存在するようなゲームではないので、積極的にいろいろ試してみるのを推奨。詰まった時は思い切って違うことをやってみるのもいいかもしれない。

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手に入れたモノは、画面上部のインベントリーから取り出して使える。ヤツが来る前にキッチンの包丁を手に入れておいて、目をそらしているスキに取り出して拘束を解けばいいのでは?

演じるのはハリウッドのトップスターだらけ。っていうかウィレム・デフォーが怖い

 ちなみに、ちょっとしたリアクションや会話が重要な作品だけに声の演技に力が入っていて、声優にハリウッドのトップスターたちを起用しているのも本作のポイント(親会社がハリウッドの映画会社なのが活かされてると思う)。

 主人公である男を演じるのは、『X-MEN』シリーズのプロフェッサーX役などで知られるジェームズ・マカヴォイ。『スター・ウォーズ』続三部作のレイ役で一躍トップスターに躍り出たデイジー・リドリーが相手役を務め、甘い夫婦生活のやり取りから極限状態の緊迫感あるシーンまで演じ分けている。

 そして刑事役には、『スパイダーマン』旧三部作のグリーン・ゴブリン役など“エキセントリックな怖いヒト”をやらせたら天下一品のウィレム・デフォー。もうコレ以上ない配役で、有無を言わせず問答無用で他人の生活に踏み込んできて破壊していく不条理な恐怖を体現してくれる。

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ヤツが来るタイミングでドアののぞき穴を覗いてみたら、本当にいた。姿はボヤケてるけどウィレム・デフォーの迫真の演技なので怖い。

万人向けではないが磨かれたユニークさを持つ作品

 本作を開発したのは、元ロックスター・ゲームス所属で、その後パズルアドベンチャーの『The Witness』にアーティストとして参加した経験もあるポルトガル出身のルイス・アントニオ氏。本格的にゲームデザインやディレクションを手掛けたのはこのゲームが初となる。

 だから……と言うべきか、波長が合わないとやや難しいゲームになっているのも事実。ちょっとしたセリフのヒントなどはあるものの、それに気が付かなかったり思い違いをしているとにっちもさっちも行かずに単に死&リセットを繰り返すハメになるし、やや意地悪な仕掛けが仕込まれている部分もあったりする。個人的には好きだが、いろんな意味で評価が分かれても驚かない作品だ。

 でも“ほぼワンルーム&12分間で進行するタイムループもの”というコンセプトのユニークさは間違いなくあるし、思わずあっけにとられる展開なども用意されている。気になる人はプレイ動画なども見ず、ぜひまっさらの状態でトライしてみて欲しい。