2021年7月19日~23日(アメリカ現地時間)に、今年度はオンラインでの開催となった世界最大級のゲーム開発者カンファレンスイベント"ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス 2021"(以下、"GDC 2021")。

 2021年7月22日(日本時間では23日)には、『バイオハザード ヴィレッジ』のカンファレンス“'Resident Evil Village': Our Approach to Game Design, Art Direction, and Graphics”が行われた。

 このカンファレンスは、本作のゲームデザイン、アートディレクション、そしてプレイステーション5のレイトレーシング・テクノロジーについて、深く掘り下げたものとなっている。

『バイオハザード ヴィレッジ』におけるゲームデザイン

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 最初に登壇したのは、『バイオハザード ヴィレッジ』(以下『ヴィレッジ』)のディレクター・佐藤盛正氏。

 本作は2017年発売『バイオハザード7 レジデント イービル』(以下『バイオ7』)の続編だ。『バイオ7』はシリーズを再起動し、サバイバルホラーのルーツに立ち返った作品として高い評価を得た。

 本作での佐藤氏にとってのゴールは『バイオ7』を基礎としてその上にゲームを構築することで『バイオ7』の楽しさを広く体験できるようにすることだったという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 ホラーゲームのプレイヤーを増やすのは、言うのは簡単だが、実現するのは難しい。とくに、未購入者が『バイオ7』を買わなかったもっとも多い理由が「怖すぎる」と感じたことだったので、その続編をどうすべきかは、開発チームにとってかなりの難問だった。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 そうした意見も理解できると佐藤氏。とはいえ、ホラー要素を取り除いてフランチャイズの固定ファンを失望させるのは避けたかった。

 『バイオ7』の魅力を保持したまま、どのようにより多くの人にプレイしてもらうか。これが『ヴィレッジ』最大の課題だった。そしてこれは『バイオハザード』シリーズの長年の課題でもあったのだ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 そこでスケールアップすることに焦点を当てるアプローチを決断した。より幅広いコンテンツを提供しながら『バイオ7』のコアの体験を保持することで、より多くの人の共感を得られると考えた。映画『エイリアン』と『エイリアン2』の関係が、続編とはどうあるべきかを考える上でのよい例となった。

 1作目の『エイリアン』は、小さな宇宙船ノストロモ号で単一のクリーチャーによって引き起こされる恐怖を描いている。一方の続編『エイリアン2』は惑星コロニーを舞台に何百ものエイリアンとそのリーダーであるエイリアン・クイーンが登場。サバイバルホラー要素を維持しつつ、エンターテイメント要素を高めたことでさらなる幅広い支持を得たと言える。

 つぎに、ゲームの設定に取り組んだ。『バイオ7』はベイカー家の住居のみで展開するが、不気味なお化け屋敷の雰囲気を保ちつつ『バイオ7』の体験をスケールアップするには、より規模の大きなロケーションが必要だった。『ヴィレッジ』は正にこれを実行する機会を与えてくれた。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 『バイオ7』のようなフォトリアルなグラフィックを使って巨大な村を描くには、読み込みの問題があった。しかしプレイステーション5のスピーディーなSSD(ソリッドステートドライブ)なら処理できるだろうと考えた。

 多くの人が体験したいと思うのは、どんな『ヴィレッジ』だろうか? 佐藤氏がゴールとしたのは美しくも恐ろしい場所だった。視覚的魅力があり、しかも恐怖を感じる設定を提供すれば、純粋なホラーファンだけでなく、幅広いプレイヤー層を取り込めるのではないかと考えたという。

 しかし、美しさと恐さは簡単には両立しなかった。どのような工夫をすれば、プレイヤーは真に没入感を感じるのか? この答えを出すには、細かく調整されたビジュアルデザインを必要とした。これについては、アートディレクターの高野友憲氏がこの後に改めて解説してくれた。

 『ヴィレッジ』の設定は決まったが、つぎの問題はどのようにスケールアップするかということだった。単純にコンテンツとプレイ時間を増やすことは、ホラーゲームの適切なアプローチではないと考えた。

 どれだけコンテンツを増やしても、同じことを何度も体験するのでは緊張感が失われてしまう。なぜなら人は分からないものに恐怖を感じるからだ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 それを念頭に、『ヴィレッジ』のゲームデザインは感情に焦点を当てることにした。ゲームの各エリアは異なる感情に基づいて設定されており、プレイヤーがそれぞれのエリアでこれらの異なる感情を喚起させられるのを望んだ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 佐藤氏はこの概念を“ホラーテーマパーク”と呼ぶようになった。テーマパークにはジェットコースターやお化け屋敷といったさまざまなアトラクションがあり、訪問者は1日にして多彩なものを体験できる。『ヴィレッジ』のプレイヤーにも、これと同様に多彩な体験をしてほしいと思った。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎに佐藤氏は、『ヴィレッジ』にあるキャッスル・エリアを例に取って説明した。このエリアは、全体が官能性とエロティシズムをテーマにしている。このふたつのテーマを念頭に貴女と魔女を登場させる派手な設定を想像した。

 このふたりの女性によって閉じ込められ、苦しめられるというシチュエーションが重要となる。エリア内全体がそのコアな感情につながるように城をデザインした。下の画像は最終バージョンの1シーンだが、プレイヤーに何を感じてほしかったか、説明するには最適だという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 このような感情の概念はゲームの設定以外のところにも影響を及ぼしている。感情はゲーム進行とプロット展開の基礎になっている。多くのゲームではシナリオ、あるいはゲーム自体によって進行していく。シナリオ主導の進行では、プレイヤーは主人公を通してゲームを体験する。プレイヤーの明確な目標が、主人公の状況で指し示され、ゲームが進む。

 一方、ゲーム主導の進行ではゲーム自体が設定した障害を克服することで進行し、プレイヤーはその報酬を受け取る、というパターンをくり返す。

 どちらにも短所と長所があり、『ヴィレッジ』では使われていない。感情に根付いたゲームのコンセプトには合わないと思ったからである。『ヴィレッジ』では感情が、ゲームの進行を示すようにしたかった。

 プロット考案中は、プレイヤーがさまざまな感情を経験することをもっとも重要視した。手の込んだストーリーの代わりに、つねに紆余曲折のあるストーリーを提供することでプレイヤーの想像を覆そうとしたという。このためには、典型的ゲームデザイン・ルールのいくつかを壊す必要があった。これは、プレイヤーが本当に期待していることは“予期せぬこと”なのだということを意味していた。この考えが、ゲーム進行を主導するものになった。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 『バイオ7』のフィードバックで教えられたのは、プレイヤーは異なる感情を味わい続ければ、ゲームに引き込まれ続けるということだった。『ヴィレッジ』ではプロットが たとえ非現実的、無意味に思えたとしても、プレイヤーの感情が動かされることを優先した。

 『ヴィレッジ』は父が娘を救うために戦うストーリーだ。親子の愛は多くの人が共感できる、普遍的な感情であり、この感情主導のプロットの最前線に置かれている。

 つぎに佐藤氏は、ゲームの進行を促進するために感情を使うことで生み出せるパワーについての逸話を紹介した。『ヴィレッジ』のゲームを進めるためには、プレイヤーは4つの主要なアイテムを集めなくてはならない。開発中、これらのアイテムは神秘的なレリーフだった。しかし、プレイテスターたちは、レリーフを集めることに乗り気ではなかった。

 そこでイーサンの娘に強いつながりをもつアイテムに変更したところ、すぐにプレイテスターのフィードバックが改善した。多くのテスターはゴールが明確になったと感じたのだとか。これこそまさに、感情がゲームを主導する根拠を示している。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 感情主導のストーリーを作る際は、シュルレアリズムを受け入れることも大事だ。プレイヤーが自然に感じることを優先してわずかな“可笑しさ”もすべて取り除いてしまっては、予測可能なプロットになってしまう。ときには佐藤氏自身がシーンを演じてみたこともあった。プレイヤーがどんな気持ちになるのかを理解しながらゲームを作ることができるからだ。

 ここまで、感情を扱うゲームをどのようにデザインしたのかについて話してきた佐藤氏。最後に、何がゲームを『バイオハザード』足らしめるのかについて触れたいという。

 『バイオハザード』の特徴を10人に聞けば10種類の答えが返ってくるだろう。ゾンビ、ウイルス、科学、そしてクリスとレオンのようなヒーローの存在だという人も多いと思う。ディレクターとして佐藤氏は、ゲームの開発期間を通してこの答えを出そうとした。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 4年間開発を続けた結果、納得のできる答えが出たという。佐藤氏にとっては、“恐怖を克服すること”がそのゲームを『バイオハザード』だと感じさせるものだった。恐ろしい環境の中でクリーチャーに遭遇し、動けないような恐怖の後、プレイヤーは的を倒し、勝利するために独自の戦略を捻り出す。

 プレイヤーが乗り越えなければならない対象はシリーズによって変化するかもしれないが、“達成”とそれにともなう“救済”の感覚がバイオハザードの中心にはある。そもそもこれほど多くの人がこのシリーズを愛する理由はここにあるのでは? 『ヴィレッジ』を開発するにあたり、佐藤氏が感情的なアプローチに取り組んだ理由もここにあったという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 『バイオハザード ヴィレッジ』は恐怖に苛まれるサバイバルホラー体験である。このゲームをプレイするすべての人が、極限状態を死ぬ覚悟で切り抜けようとする絶望感を、感じてくれたらうれしいと佐藤氏は締めくくった。

『バイオハザード ヴィレッジ』のアートディレクション

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 続いて登壇したのは、『バイオハザード ヴィレッジ』でアートディレクターを務めた高野友憲氏。

 高野氏はまず、『ヴィレッジ』のグラフィックを作り上げた優秀なスタッフに感謝したいと述べた。また、世界中の素晴らしいパートナー企業のサポートのおかげで、高品質の資産生成を達成できたことにも感謝しているとした。

 高野氏が語ったのは、ビジュアル・コンセプトの開発中に発生した問題と、その解決策について。最初にプレゼン中にはカプコン独自の表現が含まれていることを断りつつ、本題に入っていった。

『バイオハザード ヴィレッジ』のビジュアル・コンセプト

  • 美しくも恐ろしいヴィレッジを作る
  • 雪の中のヴィレッジ
  • 目標は1000万本販売
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 これらを達成するための戦略は以下の通り(『バイオ7』のアプローチを変え、より多くのプレイヤーがゲームを楽しむことができるようにしたい)。

  • (1)キャラクターと設定の数を増やす(幅を広げる)
  • (2)ホラー、ゴアな描写を減らす
  • (3)グラフィックスを改善(イマージョンを強化)

 今回のセッションはこのうち、(1)と(3)にフォーカスした話だ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 下記のスライドの通り、『バイオ7』の登場人物はNPCとエネミーを含め全部で15人だった。そのつぎのスライドと比較すると分かるが、『ヴィレッジ』ではさらに多種多様なキャラクターが登場する。また、『バイオ7』の舞台となったのはひとつの家だったが、これに比べ『ヴィレッジ』は、よりたくさんのロケーションがある。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 ビジュアルデザインを行う上で留意していることはつぎの通り。

  • 視覚的にユニークである(プレイヤーに楽しんでほしい。アーティストには想像的で革新的なデザインを求めた。
  • プレイヤーに恐怖心を抱かせる(デザインだけでなく抑圧的な照明を使うなど、視覚的に恐ろしい環境を作り出し、不気味な世界感を生み出す描写を使う)
  • グラフィックスを披露する(前もってどこでやるかを決めておく。私の部門のゴールはプレイヤーがひと目でこのゲームが高品質であると認識すること。最後までグラフィックスに優先順位を付けるのは重要)
  • ゲームデザインの視点(エネミー、パズル、チャレンジなどプレイヤーが直面する困難をゲームがもっともよく伝わる形で視覚的に見せる方法を模索する)
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 開発者としてゴールは理解しているわけだが、最終的なゴールはゲームをよく見せる、クールに見せる、あるいは怖く見せることだけではない。各ステージ、エネミーごとにプレイヤーへの必要なシグナルを提供する必要がある。

 まず高野氏たちは、美しくも恐ろしい『ヴィレッジ』を完成させるというゴールを達成するため、クリエイティブで絵画のようなグラフィックスを目指した。しかし、こうしたユニークなビジュアルは、プレイヤーの没入感を妨げてしまったという。そこでグラフィックスを改善するためのポイントを3つ掲げた。

 まずはダイナミック・レンダリング。ゲームはインタラクティブなのでリアルタイム・レンダリングが必要だ。レンダリング・チームの助けを借り、レイトレーシングを使用して説得力のあるグラフィックスを作ることができた。リアリスティックでないデザインや奇妙で不気味なレイアウトでリアルさを出したのだ。

 ふたつ目に『バイオ7』以上に詳細にこだわること。これはPS5とその4Kレンダリング機能のおかげで達成可能になったという。

 3つ目はグラフィックスのリッチなバランスが見える照明。新たに開発されたハードウェアのおかげで、ニュートラルカラー(白や黒、グレーなどの無彩色)にフォーカスした照明レイアウトを使用し、グラフィックスのリッチなバランスを見せることができた。

 ホラーゲームでは通常、プレイヤーを怖がらせるためのグラフィックスを重視する。つまりビジュアルは暗い照明にフォーカスすることが多い。だがヴィレッジではよりリッチなグラフィックスを求めたため、ミッドレンジ(中程度)の照明にフォーカスした。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 結果は下のスライドのようになった。この画像では少々分かりづらいが、この時点で貯水池、工場、城などゲームのすべてのロケーションを見ることができる。現在、ゲーム業界ではフォトリアルなグラフィックが人気だが、高野氏たちはアーティスティックな方向を選んだ。これによってユニークな世界が生まれたが、それでもまだ没入感は課題として残った。

 城のホールを見てみよう。『ヴィレッジ』に比べレイトレーシングの効果がより明確にわかる。また工場内ではチームの努力のおかげでPS4でも見栄えのよいグラフィックスを実現することができた。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 高野氏たちは、問題と解決策について考えた。ゲーム開発者は急激に進化するハードウエア機能に適応しながら仕事を進めるが、ここにはいくつかの問題があった。RE ENGINEチームとPS5の機能のおかげで以下のようなグラフィカルな進歩を達成することができた。

 レイトレーシングによりGI(グローバル・イルミネーション。CGにおける照明に関する技術のこと)の精度を上げることができた。アンビエント・オクルージョン(光が遮られている状態を計算する方法)の精度を大幅に改善した。リフレクションの質が向上した。

 また、高速SSDのおかげでゲーム内の高解像度アセットをテクスチャストリーミングなしに表示できるようになった。

 ゲームのスクリーンショットを用いたスライドを使って、これらに関する詳しい解説を行った高野氏。GIの精度が上がると光の源を正しく反映する。つまり露出が増え、影が柔らかくなる。城レベルの廊下をレイトレイシーングありとなしで比較すると、二つぎ的な反射の影が柔らかくなり、白い円内はより明るいことがわかる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 バランスの強度を無限光からゼロにした。PS4の下位互換性によりライトプローブを使用したが、これは以前使ったことがある。『ヴィレッジ』では軽いデータは自動的に移動しなかったため、別途開発コストがかかったが、トーンマッピングを含めデータを別に管理することに。

 しかしゲーム内イベントでは各ゾーンでトーンマッピング値を再利用すると計算し、これは効果的だった。カットシーンとゲーム内イベントは別々に自動露出をカットアウトし、タイムラインを使用して継承設定を管理した。PS5ベースのデータについては将来下位互換性が考えられるので、社内での課題を提示している。

 リフレクションの質は改善されたが、ゲームがFPSであることに付随する問題が浮上した。イーサンのモデルには、頭部がなかったのだ。しかし、レイトレーシングはすべての面とフレームに反射するため、頭のないイーサンのリフレクションを見せ続けた。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 結果、リフレクションの生じるキャラクターに対しては、リフレクション能力とスタンダード・レンダリングパスをオフにした。

 加えて、湖や川など明るいオフジェクトは、レイトレーシングと反射する表面により処理負荷が重くなった。調査を行った結果、アルファテストのアセットはほとんどこれに当てはまることがわかった。そこでこれらのオブジェクトについてはレイトレーシングをオフにした。

 下の画像のスライドはレイトレーシングがオンの状態。カプコンのRE RE ENGINE内では、この環境に36個のライトがあり、直接照明に使う。これをエフェクトライティングと組み合わせると、絶妙な輝きが生まれる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 高速SSDにより高解像度のアセットをテクスチャストリーミングなしに表示できるようになった。これにより、4Kスクリーンで起動した際も、グラフィックスとディテールが素晴らしいものに。

 『ヴィレッジ』ではレイヤーシェーダを使用すると、vRayテクスチャは効率的にアセットに反映され、さらに高解像度のグラフィックスを表示することができた。しかし、このレイヤーシェーダはレイトレーシングをサポートしていなかった。このサポートが必要だったので、色を獲得する際のルールを作り、ベースアセットでレイヤーシェーダをサポートしたという。長いローディング時間を短縮することができ、プレイヤーも満足していると思うとのこと。

 一方で、たとえばイーサンが意識を失う場面では、ロードが早くなったことで不自然に早く意識を取り戻すことになり、彼がもっと自然に目覚めるよう時間を調整する必要が生じたという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 4K/HDRレンダリング:HDR機能を実現するには、デグラデーションを大きく上げる必要があった。そこで最初から少し明るいシーンを作ることにした。もちろん、レイトレーシングを使わないパーツもあり、トーンマッピング値を調整する必要も生じた。

 最後にマルチプラットフォーム対応について。このゲームは最初から複数のプラットフォーム向けに開発していたので、全ての開発環境でアート・アセットとリソースは共有しなければならなかった。そしてプラットフォームごとにこれらを処理するのは大変な作業だった。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 データ管理だけでなく背景、効果、下位互換性リソースは全てのプラットフォームで機能する必要があったので、ポストエフェクトのために根本的に手を加える方法を選んだ。社内のエンジンは問題なくデータに対処できたが、開発コストについて慎重に検討しなければならなかったという。

 結論としては、開発中に多くの課題を抱えたが、ほとんどに対処することができたのはおもにPS5のおかげだったと、締めくくった。

リアルタイム・レイトレーシングの実装アプローチ(パート1)

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎに登壇したのは三嶋 仁氏。RE ENGINE・レンダリングチームのリードエンジニアである彼は、レイトレーシングに関する基礎的な考えかたについて説明した。

 カプコンの社内で開発されたゲームエンジンであるRE Engineは、これまでさまざまなタイトルに使用されてきた。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 レイトレーシングの実装は第9世代コンソールにおいて傑出した機能のひとつとなっており、ほとんどのグラフィック・プログラマーは試してみたいと思っているはずだ。『デビル メイ クライ 5』のアセットを使ってレイトレーシングの実験をした際も、レイトレーシングは素晴らしいビジュアルを生み出した。

 これらを用い、グローバルイルミネーションとリフレクションによって、目標とする美しくも恐ろしいゲームを作ることにしたという。

 エンジンチームはレイトレーシング実装に当たり、まずふたつの原則を決定した。第一に、アートのパイプラインに影響を与えないことだ。レイトレーシングを導入するのであれば、現在の機能から自動的に置き換わるものでなければいけない。

 最小限の修正で既存資産を活用できるようにすることは重要だった。レイトレーシングのパフォーマンスがうまくいかなかったときの状況など、特定のマテリアルをレイトレーシングから除外することは可能か? メッシュ、またはマテリアルの調整の必要性を最小限に抑えることを目指した。

 第二の原則は、シンプルな機能から複雑な機能へ段階的に進めることだ。レイトレーシング・マテリアルシェーダの場合、Uberシェーダの再現に範囲を限定し、希望するゲームの外観を達成するために必要な部分だけ使用することにした。

 また、ハードウェアによってはレイトレーシング中のアルファテストは実現可能ではないと考え、『デビル メイ クライ 5』のときはアルファテストを行わなかった。しかし『バイオハザード ヴィレッジ』では有効とした。

 RE ENGINEはレイトレーシングAPIをレイとインターセクターに使用する。しかし、三嶋氏たちはシェーディングを自分たちで実装することにした。これはロンチに近かったが第9世代のすべてのハードウェアで、安定したレイトレーシングを保証するためのものだったという。

 DXRなどの複雑な機能がスムーズに動くかどうかという懸念はあった。PCではグラフィックドライバーのアップデートで継続的なパフォーマンスの向上が期待できるが、コンソールは通常、独自のランタイムでコードされたネイティブ・シェーダコードを使う。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 三嶋氏たちは不測の事態に備えて、各マシンでの互換性を確保するため、インライン・レイトレーシングを使用することにした。インライン・レイトレーシングの1つの欠点は、複数のシェーダ機能を使えないことだ。これはネガティブな意味に聞こえるかもしれないが、実際には最適化から曖昧さを除外する意味で有効だ。すべてがインラインになることは、さらなる最適化のための機会を提供する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 これでレイキャスティングができるはずだ。つぎはマテリアルについて。レイトレーシング・マテリアルとして、左のシェーダは右のようになる(下の画像参照)。RE ENGINEはほかの多くのゲームエンジン同様、シェーダーグラフをマテリアル・シェーダの作成に使う。対応する関係で、多くのプリセット、また命名規則からテクスチャ変数とシェーダ変数が使われる。アプリケーション・チーム特有のものもあり、特別な処理が必要となる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 対応する関係は右に見えるようにJSONファイルで定義づけられる。エンジンチームはベースファイルを作成し、タイトルチームのシェーダーアーティストが必要な設定を追加する。この方法でバインドすることで、このイメージのような結果が得られる。

 左側はレストライザー、そして右はレイトレーシングの結果だ。シンプルな素材構成のおかげで背景の建物は完璧なバインディングを持っている。そして手前のテーブルに血がないのはレイトレーシングでサポートされていないため。一見したところすべて同じように見える。ここでレイトレーシング・マテリアルのサポートをしていく。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

つぎに加速構造を見てみる。レイトレーシングは、加速構造と呼ばれる特別なデータ構造が必要だ。メッシュなどについては、最下位レベルの加速構造(BLAS)が必要だという。スタティック・メッシュはBLASのインスタンスとして再利用できる。既存のメッシュと同じように扱うことができる。これは環境と小道具に多用される。

 ダイナミック・メッシュでは、ユニークBLASがオブジェクトごとに作られる必要がある。変換後のロケーション・バッファと加速構造(AS)のためのメモリも必要だ。ASは修理またはダイナミック・メッシュの変換とともにビルドが必要で、GPUはその処理の時間を必要とする。これはメッシュのスキニングに使われる。

 これに基づき、さらにダイナミック・メッシュがレイトレーシングで使われると、メモリとGPUプロセシングを消費する。この理由からダイナミック・メッシュには、特別な措置が必要だ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 まずシンプルな問題から片付けよう。ゲーム内のアクティブなスキニングジョイントの番号を確認した際に、おもしろい発見があった。ドアのようなものではスキニングメッシュの多くはひとつのジョイントしか持っていない。従って、それらをオートメーションでスタティック・メッシュに置き換えることによってBLASを作成するためのメモリとGPUの処理時間を減らすことができる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎに、より複雑なメッシュに移る。オブジェクトが破壊されたときのスキニング・メッシュを見てみよう。スキニング・メッシュはAABBのリセットによるリフィットで通常は十分な結果が得られる。オブジェクトの破壊ではどうかというと、カプコンでは、通常スキニング・メッシュを使って破壊を再現する。

 三嶋氏は、リフィットだけを使った破壊時の映像を流した。アンビエントオクルージョン計算と、RTX 2070Sでレイトレーシングを実行したテストシーンでは、時間の経過とともに処理が重くなっていくのがわかる。リフィットを単独で使用するとBLASの質が低下し、レイトレーシングのパフォーマンスも低下するのだという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 これをどう修正すべきか? 最初は固定フレーミング・インターバルでビルドしたが、ゲームプレイ中のフレームレートを不安定にした。ここから代替方法を検討することになった。

 オブジェクトの破壊が重くなる理由を考えてみる。リフィットするとBLASの質が劣化するのは分かっている。簡単な例を見てみよう。AからDまでのボックスがある。ここからバイナリーツリーを作る。AとBはオレンジ色のボックス、CとDが青色のボックスを作る。そしてオレンジとブルーのボックスから赤色のボックスができる。各カラーのボックスは可能な限り小さい領域にする。

 つぎに破壊やアニメーションが原因でBとCの場所が入れ替わってしまったとする。これによってオレンジ色のボックスのサイズは前の赤色のボックスと同じになり、青色のボックスも同様の大きさになる。そして新しい赤色のボックスは前と同じサイズだ。兄弟ノードを増やすためにAABBエリアにリフィットを使うと、レイトレーシング時間も長くなる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 このエリア情報は一般にサーフェスエリア・ヒューリスティックと呼ばれるコスト関数を表現するために使用できる。コスト関数が小さければ小さいほどBVHはより実行可能になると考えられている。しかし現在のAPIはコスト関数を取得する方法がない。

 結果的に三嶋氏たちはCPU上でGPU BLASを大まかに再現することで、より安定したBLAS評価手法を作成できると思った。このためにAABBのスキニング・メッシュのバウンディングボックスの中間点の計算を再利用し、評価目的でBVHを構築した。

 バウンディングボックスは各ジョイントのAABBグループから変換されたスキニングトリックスで作られている。左の画像はキャラクターメッシュの最後のAABBを示している。

 下記スライドの中央の画像は身体の全ての関節のAABBグループ、また右の画像は頭部関節のAABBグループを示す。これらのBVHをAABBグループから構築することでリニアBVHが使われる。これで評価に使用するBVHの構築を終了した。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎにBVHが作られたときに計算されたビルドSAHが必要である。またリフィットがつぎのフレーム以降から使われたときに計算されたリフィットSAHが必要。これらをスコア計算に使用する。デフォルトの閾値は1.25である。スコアが5から10以上の連続フレームで閾値を超えた場合、BLASは修正が必要と判断される。またBVHとBLASは再度作られる。スコアが閾値の8倍を超えた場合、ビルドが強制される。これは傷や切り傷など切り替えの瞬間に発生する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 結果を見てみよう。下記スライドの左の動画はリフィットのみ、右は上記のメソッドを使ったもの。右ではGPUの処理時間が増加し始め、ビルドが起こり、安定したフレームレートを提供するためのパフォーマンスが続いている。このメソッドは同じスケールでは使えないが、実用的なアプローチとして可能性を示していると考えられる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 ほかにはどんな問題が残っているか。GPU主動のアニメーションを作るときはCPUを使ったBVH SAH計算は実行できない。こうした場合には従来のアニメーションが動いているときにエンドフレームごとにビルドする方法を使う。

 よりゲームに適したBVHが必要である。ゲーム中のGPUと同時にBLASがアップデートし、レイトレーシングが実行されるとビルディング重すぎると問題が発生する。CPU BVHの場合でも、シェイプコントロールのガバニング・バリューはBLASビルディングのヒントになる。

 最後に、コンソール特有の最適化について話す。ハードウェア構成が固定されたコンソールでは、資産変換段階でBLASを作成し、ストリーミングでロードすることができる。ロード時間は非常に早い。

 このシーンでは、完全にBLASを廃棄したのち、再度ロードする時間はPS5では72ミリ秒だ。60fpsでは、わずか4フレームでロードが完了する。この高速ローディングによりGPUでのBLAS作成時間が削除され、安定したゲーム内のフレームレートが得られる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

リアルタイム・レイトレーシングの実装アプローチ(パート2)

 最後に登壇したのは、レンダリングのリードエンジニアであるGong Yixiong(キョウ・エキユウ)氏。彼はレイトレーシングにおけるシェーディングや、RE ENGINEのノイズ除去について語った。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 キョウ氏の議題は3つあった。まずはシェーディングにおけるノイズ除去を実装するためのロジック。コンソールにおけるパフォーマンスコストについて。最後にRE ENGINEによって解決したこと、これから解決が期待されること。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 キョウ氏はまず、レイトレーシングのオンとオフの違いをスライドで比較して見せた。レイトレーシングはオクルージョン(手前の物体が後ろの物体を隠すこと)を大幅に向上させ、照明全体をバランスよく自然に見せるということを、改めて示した。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 レイトレーシングの実装に関する理論は、4つのパスに分けることができるという。これらを準備パス、トレーシングパス、累積パス、フィルタリングパスと呼んでいるそうだ。ここでは、フィルタを使用したノイズ除去について紹介する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 まず準備パスでは、3つの概念が重要になるという。

 ひとつ目のリニアデプス・バッファでは、デプスについて3つの調整を行った。スクリーンスペースデプスからリニアデプスに変換。ステンシルマスクを使ってデプスバリューのないピクセルに対処。デプスバッファの解像度をRT解像度にダウンサンプルする。これはバッファがダウンサンプルされていないとオレンジのレイがジオメトリの最後に来て自己交差の原因となるためだ。もうひとつの利点は、ダウンサンプルされたバッファは、より早くアクセスできることにある。

 ふたつ目のジオメトリーノーマルでは、アーティストはジオメトリにはないモデルのディテールを突き詰めるために法線マップを使う。フィルタリングに必要なのはエッジ情報だ。ジオメトリ法線を生成するためにDDXとDDYの直積を使う。チェッカーボード・レンダリングを使う場合は、なくなったピクセルの再構築を確認する必要がある。

 3つ目の累積モーションベクターでは、カメラがわずかに動いたとき、一部のピクセルはJitteringによって拒否されてしまうため、これを回避するために累積モーションを使う。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 ノンデプス・ピクセル(深度以外のピクセル)については、まずステンシルマスクでフラグを立てる。フラグが付いていればノーマルの拒否履歴を参照すればよい。フラグがなければ法線と通常時の拒否履歴を参照する。これはデプスを正確に投影することができないときに役立つ。したがって2Dモーションベクトルを使用する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 累積モーション・バッファについては、FPSゲームの場合、キャラクターがアイドル状態(操作しておらず、動いていない状態)でもカメラはわずかに動いている。Temporal AAからJitteringしてピクセル拒否されることもある。このバッファの目的は小さなチラつきを防ぐことだ。

 解決策はこうだ。まず、累積モーションが範囲内であれば、それをムーブメントとして意図してはいなかった。従って、この範囲で拒否ロジックのあるヒストリーは実行されない。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 デプス法線はモーションの下にあるので、ジオメトリ・ディスオクルージョンを計算できる。

  • View dependent light 視角に依存するライト
  • View independent light 視角に依存しないライト

 この利点はトレースをする前にジオメトリ・ディスオクルージョンだけで、view independent Light(要するにDiffuse / Shadowなど)のhistoryが分かってくる。そのhistoryに応じて、飛ばされるレイを決められる。
 スペキュラのようなview dependent lightがトレースパスの後に修正する必要がある。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 トレーシングパスでは、以下のロジックを実行する。

フロー

  • レイ・ディレクション生成
  • レイ・ディレクションの整理
  • レイをトレース
  • レイをシェード

アウトプット

  • レイ・ディレクション(スペキュラ32ビット)
  • イラディアンス(ディフューズ64ビット、スペキュラ32ビット)
  • AO(ディフューズ16ビット)
『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎにキョウ氏は、レイ・ディレクションについての説明に移る。ブルーノイズ(2019年のHeiz博士の論文参照)を使い、BRDF/NDFテールを約10%切り取った。データは球座標系で保存し、32bitに収まった。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 レイソーティングは、SIEベンジャミン・コードを参照。メモリの連続性を考慮して(memory coalescing)、タイルベースの並べ替えを使用。トランクサイズはおよそ128 x 64とした。これを規制、正規化して整数に変換した。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 レイトレーシングには、ハイブリッド・アプローチを使っている。つまり間接光のみをトレースして、最終段階で直接光と合わせる。アルファテストはトレーシングを通じてかなりコストがかかり、2020年のHolger博士の考えに従って、アルファテスト範囲はアルファ値0または1以外の値だけ縮まった。

 コンソールでのディフューズ解像度は480 x 540。スペキュラ解像度はその倍になる。スペキュラ・ラフネスをカットして、カットされた場合は球面調和関数に記録されたディフューズのドメイン方向によってフェイクスペキュラを作り、それを使っている。アウトプットは三角形のポジションだった。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 レイシェーディングでは、ひとつのディレクショナル・ライトと32のパンクチュアル・ライト、そしてイメージベース・ライトとエミッシブ・ライトをサポート。『デビル メイ クライ 5』では8つのライトの重要なサンプリングを行ったが、これは『ヴィレッジ』では足りないことが分かった。

 『ヴィレッジ』では、アーティストがたくさんの照明が設置されていて、たとえば蝋燭はあらゆる場所に置かれている。パフォーマンスの問題も考慮する必要があったため、照明の重要度を修正し、32個のもっとも重要な照明を挙げた。

 ここではBRDFのD Termを計算。ルックアップテーブルからコンポジットパス上でGとFタームがチェックされる。アウトプットはディフューズの場合、球面調和とAO情報にデータを変換した。スペキュラはイラディアンスとレイディレクションを後のモーション計算に使用する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 インポータンス・サンプリングは、PDFはイラディアンスとBRDF、オクルージョンをベースにしている。シャドウマップからオクルージョンを取得。ボトルネックがあるのでレジスターを使って、シャドウマップから得られる結果を再利用した。

 今後の改善としては、ライトカリングBVHを使う準備をしているという。このBVHは一回ライトカリングをして、カリングされていなかったライトだけシャドウマップからオクルージョン情報をサンプリングする。もうひとつの方法はNvidiaのリザーバサンプリングである。これは限られたオクルージョンサンプリングで、TemporalとSpatialのサンプリングの結果も使い、より正確なPDFを見積もる手法だ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 トレース後、累積パスを空間的および時間的に分けて蓄積する。

 この考えかたはいくつか飛ばされたレイ、全部隣接のpixelに飛ばされて、そのまま隣接の結果を使っても大丈夫な仮説に基づいている。そうすると、1個のレイを飛ばして、隣接の31個のデータを集めば、32個のレイを飛ばすことと大体同じ結果が得られる。偏差の問題かというと、レイは隣接の場所に到達できるかどうかであり、到達できない場合の偏差をできるだけ回避する必要がある。

 Word Space Samplingの意味は隣接の定義がworld spaceでの隣接しなければならない。screen spaceの隣接は実際シーンの関係ないところになるのはありがちの話だ。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 時間的蓄積では、とくにスペキュラー反射の場合、いくつかの点を注意する必要がある。再投影の結果が遅くなる可能性があるのでネイバーカラークリッピングが必要となった。

 スペキュラモーションも考慮する必要がある。『デビル メイ クライ 5』の実装では、バーチャルポジションを使用するキャラクターの場合、鏡に映ったキャラクターのアニメのモーションがないため、間違えたTemporalの蓄積をRejectするため、キャラなどアニメーション元から反射先のmotionを作る必要がある。

 なお、アウトプット・フォーマットはトレーシングパスと同じである。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 続いては、ヒストリー拒否(History Rejection)の実装について。ターゲットデプスを再投影のデプスと比較して、その差が閾値より小さければ受け入れ、モーションベクトルを計算する。2Dモーションベクトルにはデプス情報がないので正しく再投影できないことがある。従ってGバッファ上で3Dモーションベクトルを保存したほうがよいのだとか。

 ノーマル拒否の場合は、ドット(現在のノーマル、前のノーマルベクトル)が閾値より小さければ受け入れる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 最後にフィルタリングパスについて。

 フィルタリングの前に、ピクセルを重いフィルタリングが必要なものと、軽いフィルタリングの2つのグループに分ける。ノイズフィルタリングにはウェーブレットフィルタリングとバイラテラルフィルタリングというふたつのメソッドを使う。

 ふたつの違いは、前者では反復が必要で、くり返しのたびに半径フィルターが拡大されるが、計算は変わらない。そのためピクセルの一部はスキップされる。これらのピクセルはAトラス(穴)と呼ばれる。後者では反復は必要ない。Gong氏たちのアプローチではデプス・コンサーバティブ・ガウス・フィルターを使うという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 フィルタリングのワークキューは、ウェーブレットフィルタリングの反復はパフォーマンスコストがかかりすぎるので、ヒストリーに応じてマスクを生成し、その後ヒストリーの少ないピクセルを取り、重いフィルターを実行した。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 このふたつのメソッドの結果を見てみよう。両方のフィルターで同じ半径を使用している。ウェーブレットフィルタリングの結果ははるかに安定している。一方バイラテラルフィルターの結果はより高頻度の詳細が含まれている。

 実装に関しては、ヒストリーが16フレーム未満の場合、ウェーブレットフィルタリングで2~5回ピクセルをフィルタリングしている。16フレームを超えた場合、Bilateral filterを1回実行した。Edge Avoid Functionは基本SVGFだが、パラメータの値が状況によって変更されているという。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 その後、コンポジションパスが存在する。ここで間接光をマージし、間接レイトレーシングの結果と、Probeベイクの結果との一致制を維持するため、これらのパラメータにアーティスト用のコントローラーを設定した。解像度のアップスケーリングについては、バイリニアフィルターを使用。バイキュービックフィルターは質を向上されるオプションとして機能する。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 つぎのふたつのスライドは、PS5でのパフォーマンスコスト。3ミリ秒を費やしてシェーディング、蓄積、ノイズ除去を行った。一方、BVHをトレースするために1.7ミリ秒を費やした。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 前のスライドと比較するとトレーシングコストは3.7ミリ秒。ごく少数のレイをトレースしているので、そのスピードの改善はこれからの課題となる。

『バイオハザード ヴィレッジ』は“感情”主導型のホラーテーマパーク。PS5の“レイトレーシング”に関する技術的なノウハウも【GDC 2021】

 今後の改善については、Holger博士の2020年のアルファテストを減らした(三嶋氏がすでに実装)。また、BVHライトカリングは、シャドウマップのフェッチコストを削減するために実装可能であると考えられている。

 また、マップがAuto Exposureによって変更された場合、時間的累積は過度な露出、あるいは露出不足になる場合があるので、実行する前に対処することが必要と語り、カンファレンスを締めくくった。

※画像は配信をキャプチャーしたものです。

GDC 2021関連記事はこちら