2021年7月19日~24日(現地時間)に、世界最大級のゲーム開発者のカンファレンス“GDC 2021”が開催中(※GDC:ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。

 2021年7月19日(日本時間は20日)に、スクウェア・エニックスによるカンファレンス“Animation Summit: From Design: Full Procedural Animations for Mechs”が披露された。本記事ではその模様をリポートしていく。

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登壇したのは、スクウェア・エニックスのAIエンジニアのおふたり

多彩なロボットパーツを実現するために

 今回は発表された自動モーション生成システムの目的は、胴体や腕、足などの機体カスタマイズが可能なロボットゲームにおいて、さまざまなパーツのアニメーションを包括的に実現するために作られたもの。

 これまでのカスタマイズ型ロボットゲームでは、ロボットのデザインを限定することで、アニメーションの仕組みとカスタマイズ要素を両立していたのだという。従来のアニメーションシステムは、たとえば歩くモーション、銃を構えるモーション、などが“アセット”としてあらかじめ決められており、それを再生することでロボットたちの動きとなる。

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 しかしそれだと、関節の構造が違う、そもそも関節の数が違うなど、そういった場合に対応できないのが大きなデメリットとなる。ゆえに、パーツのデザインを限定せざるを得なかった、というのが従来の開発方法だったわけだ。

 なお、これまでにもモーション自動生成システム(プロシージャルアニメーション)は存在する。たとえば、地面の地形に合わせて足が曲がる、段差に片足を乗り上げる、といった要素は、モーション自動生成システムによるもの。細かな部分ではあるが、さまざまなゲームで見られるシーンだろう。しかし、従来のものはアセットがあるからできるシステムであって、関節の違いなどの問題は解決できていないのである。

 そこで考え付いたのがアニメーション側が3Dモデルに合わせる、つまりロボットパーツに合わせてアニメーションが生成される“MULS(Multi Unit Link System。通称:マルス)”というシステムだ。

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 “形が動きを作る”という言葉をスローガンに開発しているMULSは、モデルの関節構造を見て、アニメーションを自動生成する。そのため、アニメーションのアセットを必要とせず、かつ多彩なロボットモデルに適応でき、さらに地形にも対応可能なのが魅力。

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技術デモ映像も公開された。
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ヴァ……ロボットが歩行し
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ターゲットに銃を構え、発射
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さらに右のターゲットにも狙いを付け、射撃。これらすべてのモーションが自動生成されているというわけだ。
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煙幕のようなものを発射しても……
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正確に狙いを付けていた
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さらにはミサイルを発射するシーンも

 また、関節からモーションを生成しているため、3Dモデルの中に骨(ポーン)を仕込むような作業を必要としないのも魅力なのだという(ただ、今回のセッションで披露した技術デモは、披露用に一部骨付けなどをしているとのこと)。

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多関節対応などの今後の課題も

 続いてはMULSの具体的な技術の解説がおこなわれた。本記事では、技術者向けというよりゲームファンに向けて、内容をかいつまんで解説。

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 “歩き”(ウォーク)アニメーションの生成では、両足の着地地点と足が一致するようにモーションを自動生成。さらに、ロボットの足先も、さまざまな関節に対応している。たとえば3股に分かれた足なども可能ということだ。これにより、人間のような足はもちろんのこと、逆関節、多関節など、さまざまな足パーツでも歩行アニメーションが自動生成できるという。

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歩行の技術デモ映像も公開。
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どんな関節の足だろうと……
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しっかりと歩行していた。

 腕を曲げて銃を敵に向ける“エイム”モーション。これまでの技術の中で、アセットがない状態から自動生成で敵に銃を向けるというアルゴリズムがなかったので、そこからの開発に着手したという。敵に銃を向ける際に、肩と手を曲げて銃で狙いを付ける、といったアニメーションを自動生成できるようにしたそうだ。

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 なお、肩には可動範囲の指定があり、一定のところまでしか回らないようにしている。そこで問題が発生し、自動判断で時計回りに肩を回してくれれば問題なく狙いが付くのだが、プログラムが“反時計回りのほうが狙いやすい”などと判断した場合、うまくアニメーションをしてくれなかったとのこと。そこで、あからじめポーズのデータベースをおおまかに設定しておくことで、その問題を解決したそうだ。

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射撃のデモ映像。
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左……
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右……と、正確かつ的確なモーションでターゲットを撃ち抜いていた

 ほかにも自動アニメーション生成の要素はあるが、今回のGDCではここまでが語られた。これらについては成功しているが、課題も残っているそうで、たとえば自動生成によってメモリやCPUなどを多く使っているため、負荷が現状は高いとのこと。

 また、姿勢を選択できない問題があり、回転角度範囲が広いパーツの場合、思いもよらぬ姿勢になってしまう場合もあるのだとか。さらに、エイムモーションでの銃の傾きについてはまだ制御できてないようで、たとえば銃を横向きにして構えてしまうこともあるそうだ。

 さらに、現状は2本足のパーツなどといった人型パーツのみが対応しているが、4つ足などの多脚足。さらには関節が肩くらいしかない固定された腕など、人型以外のロボットパーツにも対応していくとのこと。

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機体を見て“期待”しちゃう

 総括すると、“ゲームプログラムから考えて、ロボットのデザインする”のではなく“ロボットのデザインからモーションをゲーム側が自動で合わせる”のが、今回発表されたMULSの魅力だろう。そのため、もしゲームに実装されれば、ロボットカスタマイズの柔軟性や、デザインのバリエーションが今後広がりそうだ。

 いやしかし、技術デモとして披露された今回の映像・スライドだが、スクウェア・エニックスの『フロントミッション』シリーズを非常に彷彿とさせる。よく見ればスライドの背景は『フロントミッション』シリーズに登場するフロスト、ブリザイアシリーズの設計図だったりするわけだし、モデルはどう見ても……!

 こうなるとゲームファンとしては「『フロントミッション』シリーズの新作か!?」となってしまうところだが、あくまでこれは技術的な開発用デモ。とはいえ、“カスタマイズ系ロボットゲーム用のシステムをスクウェア・エニックスが開発している”というのは事実なわけで。近いうちにそういったニュースが飛び込んでくる日も、もしかしたら近いのかもしれない。

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※画像は配信をキャプチャーしたものです。

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